農薬による事故や被害の発生件数
農林水産省は厚生労働省と連携して農薬事故や被害の実態を調査しています。平成29年度の調査結果と過去5年の事故件数の推移と合わせたものを参照してみましょう。人への事故
平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | ||
死亡 | 散布中 | 0(0) | 0(0) | 1(1) | 0(0) | 0(0) |
誤用 | 4(4) | 5(5) | 6(6) | 0(0) | 1(1) | |
小計 | 4(4) | 5(5) | 7(7) | 0(0) | 1(1) | |
中毒 | 散布中 | 11(12) | 11(22) | 10(33) | 9(13) | 10(22) |
誤用 | 13(18) | 13(13) | 12(25) | 10(10) | 10(15) | |
小計 | 24(30) | 24(35) | 22(58) | 19(23) | 20(37) | |
合計 | 28(34) | 29(40) | 28(65)※ | 19(23) | 21(38) |
※平成27年度は死亡と中毒の件数に重複があり。
出典:「農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況(平成25~29年度)」(農林水産省)
死亡件数は徐々に減ってきてはいますが、中毒件数はそれほど減少していないため、事故や被害を防止するための安全対策や適正使用の徹底が継続して必要であることがわかります。
農作物、家畜などや蜜蜂(ミツバチ)の被害
平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | |
農作物 | 10 | 11 | 9 | 4 | 3 |
家畜 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
蚕 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
魚類 | 5 | 2 | 3 | 7 | 13 |
計 | 15 | 13 | 12 | 11 | 16 |
平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | |
蜜蜂 | ー | ー | ー | 30※ | 33※ |
※被害の原因が農薬以外の可能性が高いと考えられると判断したものを除く件数。
出典:「農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況(平成25~29年度)」(農林水産省)
平成25~29年度の5年間で家畜や蚕への被害はなく、農作物の被害件数も減少してきていますが、逆に魚類への被害件数が増えてきていることから、農薬使用時の周辺環境への配慮に欠けているのがみてとれます。
農薬事故は何が原因で起きる?
農薬事故と一口にいっても、原因や状況によって被害となる対象が人や農作物、魚類と異なります。それぞれどのような原因で事故が発生しているのかをみていきましょう。人が対象となる事故や被害
農薬による事故や被害の中で、一番多いのは人が対象となる場合です。その中で最も多く発生しているのは、農薬の保管や管理を怠ったことなどによる誤飲や誤食です。また、マスクや装備、防除器具の整備が不十分だったために作業者が農薬を浴びてしまったり、農薬散布の周知や飛散防止対策が不十分だったため周辺の住民が農薬を浴びてしまったりといった被害が発生しています。
実際に起きた例
誤飲・誤食
・農薬をペットボトルなどに移し替えていたため、第三者が誤って飲んでしまった。
・認知症の方が農薬を飲料と間違えて飲んでしまった。
防除器具の故障
・散布中に防除器具のホースが外れ、両目に散布液を浴びてしまった。
農薬散布の飛散防止対策が不十分
・桜に散布された農薬が飛散し、通行者が浴びてしまった。
農作物が対象となる被害
農薬の飛散防止対策が不十分だったため隣接する畑や水田などの農作物へ飛散し、農薬を浴びた農作物が委縮・変色・枯死するなど生育に悪影響が起きるという事故が発生しています。実際に起きた例
農薬の飛散防止対策が不十分
・遊歩道の除草のため除草剤を散布したところ、隣接する水田へ飛散し水稲が変色してしまった。
魚類が対象となる被害
不要な農薬を河川や池などに廃棄したことが原因で起きています。実際に起きた例
農薬の処理が不適切
・不要となった農薬を水路に廃棄したことで、魚類が突然死んでしまった。
蜜蜂が対象となる被害
周辺への通知が不十分だったため、飛散した農薬が原因で発生しています。実際に起きた例
周辺への飛散防止対策や散布情報の通知が不適切
・周辺で散布されていた農薬にさらされて、蜜蜂が死んでしまった。
農薬による事故や被害を防ぐために確認すべきこと
農薬は農作物の病気や害虫の防除に効果がある一方で、適切に使用しないと商品となる農作物に薬害が出るだけでなく、環境や人体にも悪影響を与えてしまいます。 まずは消費者と農業従事者の安全や、周辺環境の保全のために、また農薬取締法に違反しないための散布前の確認事項について把握しましょう。▼農薬使用前の安全確認のことならこちらをご覧ください。
農薬事故を引き起こさないために
農薬による事故や被害が起こる原因を踏まえたうえで、人への事故、農作物や魚類などへの被害を与えないための最終確認を行いましょう。1. 農薬散布情報の通知はしましたか?
住宅地などの周りで農薬を使用する際は、散布の時間帯に配慮します。事前に連絡したり、立て看板で農薬散布中を知らせたりして、散布者以外が散布している場所に立ち入らないような対策を行いましょう。2. 飛散防止や防除方法について検討しましたか?
住宅地などの周りで農薬を使用する場合は、飛散しにくい薬剤や散布方法、物理的防除など農薬以外の防除方法も検討し、農薬が飛散しないような対策をしっかりと行いましょう。▼物理的防除や化学農薬を使用しない防除対策のことならこちらをご覧ください。
3. 防護器具を着用しましたか?
農薬の調整や散布、後片付けなど農薬を取り扱う際は、農薬用マスクや保護メガネといった防護器具を必ず着用しましょう。▼農薬散布時のマスクのことならこちらをご覧ください。
4. 使用前後の防護器具や散布器具の点検や整備をしましたか?
農薬の調整を正しく行い、散布や後片付けなどの際に防護器具や散布器具の不具合で農薬を浴びないよう、使用前後に点検や整備も徹底しましょう。▼農薬の調整方法のことならこちらをご覧ください。
5. 散布後は正しい処理をしましたか?
農薬や希釈した液、散布後に残った薬剤などをペットボトル、ガラス瓶などの飲料品の空容器に移し替えることは避けましょう。誤用や誤飲を引き起こす恐れがあります。また、農薬の洗浄液や残った薬剤が池や河川などに流れ込まないようにし、不要な農薬は廃棄物処理業者に依頼するなどして適正に処理しましょう。
▼農薬散布後の処理のことならこちらをご覧ください。
農薬を正しく使用し、農薬事故を防ごう!
農薬に関わる事故や被害の件数は、少しずつ減ってはいるものの、未だ無くならないのが現状です。農薬による事故や被害を防ぐためには、どのようなことが原因で起きているのかを知って、農薬を使う際に注意すべき点をその都度確認し、事故や被害が起きないように適切に使用しなければなりません。農薬を適切に扱うということは自分の身を守るだけではなく、被害の対象となりやすい小さな子どもや認知症の家族、周辺住民、農作物、環境などへの配慮にもつながるのです。