本記事では、播種(はしゅ)期から幼苗期に多発するタネバエの生態や被害の特徴、防除対策について紹介します。
タネバエとは
タネバエ(学名:Delia platuna)とは、双翅目(ハエ目)ハナバエ科に属するハエの一種で、日本全土に生息しています。タネバエのほかにタマネギバエ(学名:Delia antiqua)などが農業害虫として知られています。タネバエの生態
タネバエの生態について説明します。発育適温
発育適温は15〜20℃。30℃以上でふ化や蛹化(ようか)、幼虫の発育などが低下します。生息場所
成虫は地上で羽化し、未熟堆肥や鶏ふんなど腐敗臭のする水分を多く含んだ土壌の表層に集まりやすい傾向があります。一方、卵から蛹(さなぎ)の間は土中に生息しています。▼堆肥や鶏ふんのことならこちらをご覧ください。
発生時期と回数
1年に5~6回発生。特に春と秋に発生が多く、盛夏には一時的に密度が減少します。休眠
北日本では蛹で越冬するのに対し、関東以南では各態で越冬します。タネバエの成長
各成長ステージの特徴について紹介します。卵
卵は地際の茎葉部や土壌の表層に産みつけられ、5〜6日程度でふ化します。若齢幼虫
幼虫は白色〜乳白色で、うじ虫の形をしています。発育適温下での幼虫の期間は10〜14日程度。成熟した幼虫は6mmくらいになります。蛹
老齢幼虫になると食害していた作物から離れ、土中で直径4~5mmの褐色の蛹になります。蛹の期間は発育適温下で7〜14日ほどです。成虫
5〜6mmほどの大きさで、褐色〜暗褐色の色をしていますが個体差があります。雌と雄が交尾し、雌が卵を産んで新しい子孫を増やします(有性生殖)。有機物が腐った臭いのするものに引き寄せられ、土壌の表層や作物の地際部などに卵を産みつけます。1雌当たりの産卵数は500~1,000粒ほどで、春と秋には特に産卵数が多くなります。このとき土壌の水分が多いほど、産卵の数は多くなる傾向があります。
タネバエの被害の特徴
タネバエの被害を受けやすい作物と、食害によって作物に与える被害の症状を紹介します。タネバエが好む植物
ダイコンやカブ、キャベツなどのアブラナ科作物のほか、ダイズやアズキ、インゲンマメなどの豆類、ネギ類、ウリ類、トウモロコシやホウレンソウなど、さまざまな作物を食害します。▼ダイコンやキャベツ、エダマメ、ホウレンソウの害虫のことならこちらをご覧ください。
被害による症状
タネバエの幼虫による食害の様子を説明します。被害箇所
吸水して膨らんだ作物の種子や根の部分、幼苗の地際部分を食害します。被害の症状
芽が出る前の種子が加害された場合は、発芽不能となってそのまま地中で腐敗、定植後の苗は萎(しお)れて萎縮・枯死してしまいます。タネバエに有効な3つの対策
タネバエの幼虫は、土中に生息して被害をもたらすため、地上部の生育不良などの症状が現れるまで、被害を把握することは難しく、防除・対策については、基本的に予防を行うことが主となります。特に成虫の活動が盛んな5~6月は、ハウス内への侵入を防ぐ防虫ネット(1mm以下)の使用など予防対策が必要です。1. 有機質肥料投入のタイミング
タネバエの成虫は、鶏ふんや油粕などの有機質肥料や、未熟な堆肥に引き寄せられる習性があります。そのため、播種直前の有機質堆肥の施用は避け、20日〜1カ月以上前に土壌にすき込むようにしましょう。▼油粕や有機質肥料のことならこちらをご覧ください。
2. 適切な土壌水分
湿った土壌では成虫の産卵数も増加するので、適切な土壌の水分を保つことが重要です。▼適切な土壌水分の土づくりのことならこちらをご覧ください。
3. 農薬(殺虫剤)
タネバエの発生が多い時期や前年に被害を受けた圃場では、播種前に土壌表面に散布したり混和したりします。▼殺虫剤のことならこちらをご覧ください。
▼農薬使用前の確認のことならこちらをご覧ください。
タネバエから作物を守るために
近年農業において、海外産の化学肥料に偏った施肥管理と、労働⼒不⾜による堆肥投入量の減少などによって、国内の農耕地の地⼒が低下したり、⼟壌養分のバランスが悪化したりしています。また、SDGsのような環境保全型の農業が求められている中、化学肥料を削減した有機質堆肥の利用が求められていますが、この有機物を好むタネバエは、幼虫が土中に生息し、作物の幼苗期に致命的な被害を与える厄介な農業害虫です。タネバエの発生を抑えるためにも、適切な時期に有機質堆肥を投入して未然に被害を防ぎましょう。※SDGs(Sustainable Development Goals)とは、国際的に掲げられたより良い社会の実現を目指す17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標。