じつは「輪紋病」と名前がつく病気でも、植物によって感染する菌の種類が異なります。本記事では「トマト輪紋病」「リンゴ・ナシの輪紋病」の予防と早期発見、防除について紹介します。
トマト輪紋病の主な症状と発生しやすい条件
菌名 | Alternaria solani |
分類 | 糸状菌 |
発生時期 | 7〜9月 |
発生適温 | 28~30℃ |
トマト輪紋病の主な症状
葉に褐色の小斑点ができると次第に拡大し、円形または不正円形の病斑となり、その中に同心輪紋が生じます。また多湿状態のときには、表面にビロード状のカビが生えます。葉以外にも、茎や葉柄(ようへい)、果実、果梗(かこう)に発病する場合もあります。
※葉柄とは葉の一部で、茎・枝につながる柄(え)のような所のこと。
※果梗とは葉から果実までの枝の部分のこと。
トマト輪紋病は土壌伝染性病害
トマト輪紋病の病原菌は、被害植物の残渣(ざんさ)や、土中で越冬することによって伝染源となります。その病原菌が飛散するとトマトの茎葉に感染し、発病した病斑状に分生子がつくられて、ほかの葉や植物体に伝染していきます。種子表面に付着すると種子伝染にもつながります。
※残渣とは枯れた植物や落ち葉のこと。
トマト輪紋病が発生しやすい条件
トマト輪紋病が発生しやすい環境や土壌について説明します。発生時期
発生時期は7~9月で真夏でも発生します。ハウス栽培では年中発生がみられます。気温
発病適温は28〜30℃。高温を好みます。乾燥
土壌が乾燥して、水切れを起こすような条件で発生しやすくなります。肥料不足
生育後期で肥料不足を起こすと、発生が助長されます。トマト輪紋病に感染するトマト以外の作物
ナス、トウガラシ、ジャガイモなどナス科植物にも感染します。▼トマト・ミニトマトやナス、ジャガイモの病気のことならこちらをご覧ください。
トマト輪紋病に有効な防除方法
トマト輪紋病に有効な防除は圃場(ほじょう)の管理で行う方法(耕種的防除方法)と農薬(殺菌剤)の使用で行います。※圃場とは、田や畑のような農作物を育てる場所のことです。
トマト輪紋病を発症させない管理方法
トマト輪紋病の防除する管理方法について説明します。1. 植物残渣の処理
前作の枯れた終えた植物にトマト輪紋病が感染している可能性があります。残渣は圃場外に持ち出して処理しましょう。2. 無病種子
トマト輪紋病は種子の表面について伝染することから、自家採種の種子はなるべく使用せず、種子更新を行いましょう。3. 育苗トレイ、ポットなど資材の消毒
前作で使用した育苗トレイ、ポットなど資材に病原菌が付着して伝染する可能性があるため、資材の使用後、使用前は消毒することをおすすめします。4. 保水性の良い圃場づくり
水切れを起こすと、トマト輪紋病に感染しやすくなります。水持ちを良くするには腐植などの土壌改良材を投入するほか、敷きワラやマルチで土壌表面を覆うと効果があります。▼土壌改良のことならこちらをご覧ください。
▼マルチのことならこちらをご覧ください。
5. 肥料切れに注意
生育後半に肥料切れを起こさないように注意します。適量の元肥と、追肥の時期を逃さないようにします。施肥量を決める際は土壌分析をすることがおすすめです。
▼土壌分析のことならこちらをご覧ください。
トマト輪紋病の防除に効果的な農薬(殺菌剤)
農薬(殺菌剤)を使用してより効果的にトマト輪紋病を防除しましょう。薬剤散布の効果は高いので、発病前から定期的に散布してください。※農薬使用の際は必ず作物登録、使用方法をラベルで確認してください。地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守り施用してください。
▼殺菌剤のことならこちらをご覧ください。
▼病気対策に欠かせない農薬散布のタイミングや、選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
保護殺菌剤で菌の感染を予防
作物の汚れが少ない
▼農薬を安全に使用するためにまずはこちらをご覧ください。
▼希釈方法や散布後の処理方法などそのほかの農薬のことなら農薬まとめをご覧ください。
リンゴ・ナシ輪紋病の主な症状と発生しやすい条件
菌名 | Botryosphaeria berengeriana |
分類 | 糸状菌 |
発生時期 | 6〜8月 |
発生適温 | 25~30℃ |
リンゴ・ナシ輪紋病の主な症状
主に枝や果実に病斑を作ります。果実では収穫期のころに茶〜黒褐色の同心輪紋状の病斑ができ、軟化腐敗します。また、枝に発病して特徴的なイボ病斑をつくることから別名「イボ皮病」ともいわれます。
同じ病原菌がニホンナシ、セイヨウナシ、 リンゴにも感染し、ナシやリンゴの間で交互に感染することもあります。
病原菌は降雨で飛散
幹や枝に形成されたイボ皮病斑が伝染源となります。病斑の表面に柄胞子(へいほうし)を形成し、柄胞子は5〜10月までの長期間飛散し、6月下旬〜8月下旬にかけてピークに達し、降雨に伴って飛散量が多くなります。果実では菌糸の形で潜伏し、収穫の成熟期ごろになると発病します。
※柄胞子とは柄子殻と呼ばれる殻から出る胞子のこと
リンゴ・ナシ輪紋病が発生しやすい条件
トマト輪紋病は乾燥条件で発生しますが、リンゴ・ナシ輪紋病は降雨による感染の広がりに注意が必要です。発生時期
6〜8月。長雨の時期には病気が発生しやすくなります。気温
25~30℃降雨
飛散は降雨に伴って起こり乾燥条件下では飛散しません。リンゴ・ナシ輪紋病に有効な防除方法
リンゴ・ナシ輪紋病に有効な防除方法について説明します。※農薬使用の際は必ず作物登録、使用方法をラベルで確認してください。地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守り施用してください。
1. イボ病斑と周囲の樹皮の削り取り
伝染源となるイボ病斑は周辺の樹皮と一緒に削り取ります。イボ病斑が多発している若い枝は枝ごと切り落とします。2. 早期の袋掛け
病原菌が果実の表面に付着しないように、袋掛けは胞子飛散が多くなる前の6月中旬までに終わらせます。3. 5〜7月の農薬散布
5〜7月に果実に最も感染が多くなる時期です。果実をはじめ新梢や主枝部にも十分に薬剤(殺菌剤)がかかるように散布しましょう。梅雨時期と重なりますが、散布間隔があかないように晴れ間に定期的に散布することをおすすめします。
予防散布にはコレ!保護殺菌剤
多発が予想される場合に
輪紋病対策に何より大事なのは予防と早期発見
輪紋病は葉や果実に同心円状の病斑を作り、商品価値を著しく低下させてしまう病気です。早めの予防・発見で圃場でのまん延を防ぎましょう。トマト輪紋病は、種子や資材からも伝染するので播種時には注意が必要です。また、リンゴ・ナシ輪紋病は、枝のイボ状病斑から伝染するので、発生する前に病斑の切除、および果実の防除を心がけましょう。