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病気になった野菜を食べても人間の体は大丈夫なのでしょうか?そもそも植物に発生している病気は人間にうつることがあるのでしょうか?
せっかく育てた野菜が病気に!?
育てている野菜に白っぽいカビが生えている、斑点が出ている、やわらかくなって黒く腐っているのだとしたら病気に感染しているかもしれません。病気の症状
家庭菜園で発生する3つの代表的な病気の症状について紹介します。1. カビ
ふわふわした綿毛のようなカビが生える粉をまいたように葉が白くなる
2. 斑点
葉に茶色や黄色、黒色の斑点果実や花蕾にも茶色や黄色、黒色の斑点
葉の斑点が拡大したり、斑点が破れやすくなったりする
3. 腐り
果実や花蕾、根など部分的、または全体的にやわらかくなって茶色〜黒色に腐る異臭を放つ
収穫後の保存中に変色して腐敗する
調子が悪い原因は病気だけとは限らない!
曇天が続いたことから起こる日照不足、雨や台風などの荒天、肥料や水の過不足などが要因で引き起こす生理障害でも野菜は元気を無くてしまいます。また、ヨトウムシ類やアオムシ類、コナガといった害虫の被害でも生育が悪くなります。
▼害虫のまとめ
病気にかかった野菜を食べると人間も病気になるの?
野菜に病気を引き起こすのは植物の病原菌で、その種類にはカビ(糸状菌)やウイルス、細菌などがあります。▼植物の病原菌について詳しくはこちらをご覧ください。
植物病原菌≠ヒト病原菌
植物に病気を引き起こす病原菌は植物にのみ寄生します。人間が病原菌に感染する仕組みとは全く異なるので、例えばうどんこ病にかかったキュウリを食べても、人間がうどんこ病を発症することはありません。つまり病気になった野菜を食べても、人間に病気がうつる心配はありません。
病気になった植物を口に入れる際に注意すべき3つの悪影響
病気になった野菜を食べても、人間に病気がうつってしまう心配はないのですが、病気に感染した野菜が人間にとって有害な物質をつくっている場合があります。植物が病気にかかると病原菌の侵入を阻止したり、感染の拡がりを抑えたりするためにさまざまな反応を起こします。野菜を食べたときに感じる苦味や辛み成分も野菜の防御反応の一種です。なかには植物の体内で抗菌性物質「ファイトアレキシン」とよばれるものを生産する場合や、人間にとってのアレルギーの原因となる物質を増やすこともあります。そのほかにも野菜に生えてしまったカビが毒性をもつこともあります。
1. ファイトアレキシン
植物の中には、侵入してきた病原菌に対抗して、植物体内で抗菌性物質「ファイトアレキシン」をつくるものがあります。このファイトアレキシンの働きには、病原菌が植物体内で菌糸を伸ばして感染を拡げることを阻止したり、病原菌に対する植物自身の抵抗力を高めたりする効果があリます。しかし、植物の病原菌に対して有効なファイトアレキシンが、人間にとっては有害な場合があります。※研究途上で発見されていないファイトアレキシンも数多くあります。
有害なファイトアレキシン
サツマイモが黒斑病という腐敗性の病気に感染すると、哺乳類の肝臓に対して毒性を持つ「イポメアマロン」や、肺に毒性があり呼吸困難などの呼吸器症状を引き起こす「イポメアノール」というファイトアレキシンを生成します。腐敗したサツマイモを家畜の飼料にして、下痢や中毒死を引き起こした事例もあるため、家畜の餌として与えることも危険です。参考:農研機構 「傷害サツマイモ中毒」
▼黒斑病のことならこちらをご覧ください。
人間の体に良いファイトアレキシン・ブドウやピーナッツに含まれるファイトアレキシン「レスベラトロール」には、強い抗酸化力や、肌弾力を向上させるとしてサプリメントの原料などに使用されています。ワインにも多く含まれている成分です。
・大根をすりおろしたときの辛み成分である「アリルイソチオシアネート」は、ダイコンが病害虫に加害されたときに出すファイトアレキシンで、抗菌作用があるため口内炎などの炎症に効くといわれています。
2. アレルギー物質
病気に感染した植物がつくるタンパク質の中に、アレルギーを引き起こすものがあることがわかってきました。リンゴやナシ、モモ、セロリ、ニンジンなど多くの果物や野菜でアレルギーの原因となるタンパク質がつくられていることが明らかになっています。口腔アレルギー・ラテックス(ゴム)フルーツアレルギー
健康志向の高まりから有機栽培で農薬不使用の野菜の販売が増えました。しかし、病害虫のストレスを受けた野菜ではアレルゲン性が高まる事実も報告され、近年新しいタイプのアレルギー患者増加の原因の一つと考えられています。
参考:J-STAGE 「食品アレルギーを誘発する植物起源アレルゲン」小川 正 氏
3. カビ毒「マイコトキシン」
栽培中の野菜や貯蔵中に生えたカビが産生する「マイコトキシン」が人間に対して毒性をもち害を与えることがあります。このカビ毒「マイコトキシン」は熱に強く、通常の加熱調理で分解することはできません。参照:いろいろなかび毒(農林水産省)
ミカンにつくカビ
ミカンを貯蔵している際に皮に生えるカビは青カビといわれ、人間に害が無い種類のものが多いですが、中にはマイコトキシンを産生するものがあります。皮をむいて食べれば大丈夫と思われている人も多いですが、一見カビがないように見えても、ミカンの内部まで深く菌糸を伸ばしています。カビが生えたミカンは捨て、手についてしまったカビの粉(カビの胞子)は洗い流し、口に入れないようにしましょう。餅のカビも要注意!
カビが生えた餅の表面だけ削り取っても、内部にまで菌が進行している可能性があります。カビが生えた餅も食べずに捨てるのが無難です。
重大な発がん性を持つカビ「アフラトキシン」
トウモロコシやナッツ類、イネなどの穀物の栽培や貯蔵中にカビが生える場合がありますが、そのカビに毒性があることがあります。中でも毒性の強いかび毒「アフラトキシンB1」は、天然物の中で最も発がん性が高い物質ともいわれており、人間が大量に摂取すると急性肝障害に、少量でも長期間摂取した場合は慢性毒性を引き起こします。
インドやケニアでは、トウモロコシに発生した「アフラトキシン」が原因で、死者を伴う大量中毒が発生しています。日本でも2011年に生産された米が「アフラトキシンB1」によって汚染された事例があります。
食品で問題になる「アフラトキシン」
アフラトキシンは少なくとも13種類に分かれ、その中で食品での含有が問題となるのはアフラトキシン B1、 B2、G1、G2、M1、M2の6種類です。日本ではB1、B2、G1、G2の4種類が「総アフラトキシン」と定義され、全ての食品について検査で規定の総量(総アフラトキシンとして10μg/kg)を超えないように食品衛生法により義務付けされています。
赤カビ病の毒「デオキシニバレノール(DON)」
栽培中の麦類(小麦及び大麦)が長雨にあたると、赤かび病が発生することで病原菌も産生され、かび毒「デオキシニバレノール(DON)」による汚染が起こることがあります。人や家畜で食欲減退や嘔吐、胃腸炎、下痢など消化器系への症状や、免疫機能の抑制、発がん性を有するとの報告もあります。DON濃度暫定基準値以上の流通制限
収穫物(玄麦)のデオキシニバレノール(DON)濃度の暫定基準値(1.1ppm)を上回るものは、流通することができないようになっています。
家庭菜園でよく発生する病気別「この野菜食べられる?」
かび毒については農林水産省によってカビ汚染防止のための管理ガイドラインなどが作成されており、生産者の意識改革を行っています。家庭菜園でよく出る病気
ここでは家庭菜園でよく発生する病気別に、食べられるのか?食べない方が良いのか?についての素朴な疑問にお答えします。さび病
【症状】
ネギやニラ、タマネギなどの葉に赤褐色の病斑ができている、病斑が粉っぽいなど
【答え】
病気が出ている部分は食べない、病気が発生していない部分は食べてもOK
「葉先に少しだけ病気が出ている」など病気の初発の場合は、病気の部分を大きく切り取って食べましょう。タマネギやニンニクの葉の部分が病気になっていても、土の中の可食部には病気が発生しないので食べても問題はありませんが、葉の病気のために生育が悪く傷んでしまっている場合は食べるのを止めましょう。
※アレルギー体質の方はご注意ください。
▼さび病について詳しくはこちらをご覧ください。
うどんこ病
【症状】
キュウリやトマト、イチゴ、ピーマン、ナスなど多くの野菜の葉や茎、果実に白い粉が発生
【答え】
病気が出ている部分は食べない、病気が発生していない部分は食べてもOK
※アレルギー体質の方はご注意ください。
▼うどんこ病について詳しくはこちらをご覧ください。
斑点細菌病
【症状】
キュウリなどウリ科の作物やトマト、レタスの葉や果実に黄色~褐色の斑点をつくり、やがて枯れる
【答え】
病気が出ている部分は食べない、病気が発生していない部分は食べてもOK
※アレルギー体質の方はご注意ください。
▼斑点細菌病について詳しくはこちらをご覧ください。
軟腐病
【症状】
ハクサイやジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどの、地際に近い部分が腐り、異臭を放つ
【答え】
食べないのが無難
▼軟腐病について詳しくはこちらをご覧ください。
農薬は本当に悪者?
一般的に農薬を使用していない野菜は健康に良いというイメージがありますが、ここまで読んでいただいた方には、野菜が病気になってしまうことで発生する毒性にお気付きかと思います。農薬は作物ごとに散布回数や濃度が細かく定められているので、野菜を毎日食べても人間の体に害を与えることはありません。無農薬で病気のない野菜を作ることが難しい場合は、農薬の助けを借りることも食品の安全のためには大事な選択肢の一つではないでしょうか。
▼病気を防除する農薬(殺菌剤)のことならこちらをご覧ください。
▼有機栽培でも使用できる生物農薬のことならこちらをご覧ください。
病気になった野菜は注意して食べましょう
病気になった野菜を食べることで、人間に病気がうつることはありません。しかし、植物が病原菌に対抗してつくった物質が、人間にとって害になることがあります。葉に病気が出ているトマトやナスなどの果菜類は食べることも可能ですが、可食部分に明らかにカビが生えている野菜や、腐ったものなどは、やはり食べないようにすることが安全です。また、野菜が病気にならないように、家庭菜園でも農薬をうまく使いながら、安全安心の栽培を行いましょう。【AGRI PICKチャンネル】
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野菜を育てるときのお困りごとや、失敗を防ぐワンポイントアドバイス付きの「AGRI PICKチャンネル」も合わせてご覧ください!