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村全体で取り組む霜害対策 「フロストバスター」で果樹の被害はどう変わった?


霜の道に当たる土地柄、2年に一度は大きな霜害被害を受けている長野県の下條村。農家1軒ごとの問題ではなく、村全体で取り組む必要があるのではないか―そんな声があがるなか、防霜資材「フロストバスター」の実証試験の話を受け、2019年に10軒の農家で試験を行いました。実際に使った農家さんと村長さんにその結果や今後の取り組みを伺いました。

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下條村石碑

撮影:藤原 恵里
長野県の南に位置する下伊那郡下條村。南アルプスを望む美しい眺望が魅力の村に約3,800人が暮らしています。
実質公債比率が全国1位(2014年)、合計特殊出生率2.03人(2014年)という実績から「奇跡の村」とも呼ばれ、全国各地から多くの自治体が視察にくるほどの注目を浴びる村です。

下條村の農業

即売所の商品
撮影:藤原 恵里
標高332~828mにある下條村では、冷涼な気候と昼夜の寒暖差を活かしたそばや辛味大根、りんご、市田柿などの果樹の栽培が盛んで、農業はこの村の主要産業です。それだけに、農作物に大きな被害を与える「霜害」は深刻な問題となっています。

村全体で防霜資材「フロストバスター」の実証試験にチャレンジ

そんななか、防霜資材「フロストバスター」の実証試験の話が、2018年に設立された日本食農連携機構の中部支部から下條村にもちかけられました。そこで、霜害に悩んでいた農家と村役場が連携して試してみることになったのです。

「フロストバスター」は、関西大学発のベンチャー企業KUREi(カレイ)とアサヒクオリティーアンドイノベーションズが共同で開発した防霜資材。原料となっているのは、アサヒクオリティーアンドイノベーションズのグループ会社アサヒ飲料のコーヒードリンクの製造途中に出たコーヒー粕です。霜の降りる前に農作物に噴霧することで、霜の被害を防ぎます。

防霜対策エキスの「フロストバスター」の効果のしくみはこちら。

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下條村のこれまでの霜害状況

下條村は標高が高いうえに傾斜もあり、霜の道(※)に当たる場所も多数。そのため昔から霜害被害も少なくありませんでした。
※霜の道とは、霜の被害を受けやすい場所。冷気が流れていく道筋に沿って霜が降りやすい性質があります。

約2年に1度は大きな被害が

下條村
撮影:藤原 恵里
霜による大きな被害が出るのは毎年ではありませんが、近年被害の出る年が増えつつあります。2019年は5月ごろに何度か降霜があり、下條村全体で約360万円の被害が出ました。

冬の寒さ、昼夜の寒暖差は果樹にメリットもあるものの、降霜と降雹(こうひょう)は頭の痛い問題です。
農業の後継者が減りつつある昨今、農業従事者の負担や被害額を減らすことは喫緊の課題となっています。

下條村の霜害被害額

2019年は33回の霜注意報が出た下條村。たった30分の霜でも農作物へのダメージは大きく、畑によっては3割くらいの被害を出したところもあったそうです。
下條村の果樹の被害はこれだけ出ています。
2019年2018年2017年2016年2013年
被害面積(ha)3.00.835.0
被害額(千円)3,6001,70046,000
データ提供:下條村役場

実証試験の実施農家【かおちゃん農園】

串原博一さん
撮影:藤原 恵里
かおちゃん農園は梨と市田柿を育てる農家さん。オーナーの串原博一さんはJAみなみ信州梨部会の副部会長をされていたこともあり、
自分の圃場のことだけでなく、村全体の農家のことも考えていて、村役場にも「村としても対策を講じてほしい」と直談判したのだそう。そんな折り、村役場から「フロストバスター」の実証試験の話を受けたのです。

今までの霜対策は?

防霜ファンを設置

防霜ファン
撮影:藤原 恵里
梨と柿の畑の総面積は約2.2ha。11基の防霜ファンを設置していますが、「防霜ファンから5m離れた場所には効果がない」と串原さん。ランニングコストも月に8~10万円程度と負担大。冷気が強いときには、冷たい空気をかくはんすることにもなり、逆効果になることもあるのだとか。
2019年の降霜では、いろいろ対策を講じてきたにもかかわらず梨の幸水に約2~3割の被害が出てしまいました。

霜予想が出たときは燃焼法で

燃焼法
提供:串原 博一
霜が間違いなく出るというときには火を燃やして暖めています。150カ所で火を燃やすのは大変な重労働で、燃料費も1回で1~2万円かかり、負担が大きい対策でした。

そのほかにも薬をまくなど、試してみた対策はありましたが「これは効く」と実感できたものがなかったそう。

「フロストバスター」の効果は?

フロストバスターを使った枝
「フロストバスター」を使った幸水の枝
提供:串原 博一
ほかの防霜資材を使った枝
ほかの防霜資材を使った幸水の枝
提供:串原 博一
「フロストバスター」の実証試験の話を聞いたとき、串原さんは半信半疑だったといいます。「とりあえず1~2回試してみれば結果は出るだろうから、やるだけはやってみよう」というくらいの気持ちでした。しかし同じ樹の違う枝で、エキスをまいたところとまかなかったところに明らかな違いが出てきたのです。
さらに、地域の農家が集まっての着花点検のとき、ほかの農家と比べても明らかに被害の大きさが違っていたこともわかりました。

「フロストバスター」を使った枝

着花したりんごの花
提供:串原 博一
エキスをまいた枝はきれいに花が咲きそろいました。霜のあと降雹もあったのですが、霜の被害を避けられた枝は果実を摘果で選べたので傷が少ない物が残せました。

「フロストバスター」未使用で被害が出た枝

霜被害にあった花
提供:串原 博一
「フロストバスター」を使わなかった枝は着花率が低く、枯れてしまったものも。霜と雹のダブル被害を受けたものは果実にサビや変形、くぼみの傷が多かったそうです。

今後も「フロストバスター」に期待!

結果をおさめた写真
提供:串原 博一
「フロストバスター」の費用対効果は「間違いなくあると思った」と串原さん。
実証実験の結果を写真に残し、それをもとにJAや村役場、ほかの農家にも「フロストバスター」のよさを伝えています。できるだけ農園にも招いてその効果を感じてもらうようにしているのだそう。

今後も串原さんは「フロストバスター」を積極的に使い、地域の農家に広めていきたいと意気込みを語ってくれました。

効果を出すためには

串原さんによると、エキスをまくのは霜の降りる前日午後1~3時(8~10℃以下にならないタイミング)がベスト。噴霧の時間が遅かった場合、効果が出ない可能性があるとのこと。

2ha余りの圃場すべてにエキスをまくのは2日がかり、合計8時間ほどかかります。前日の霜予報を聞いてからではすべての樹にまくのは間に合いません。そのため「フロストバスター」には定着性も期待しているとの意見も。

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実証試験の実施農家【カネシゲ農園】

古田康尋さん
撮影:藤原 恵里
カネシゲ農園は標高750mの風光明媚なところにある農園です。約6.2haという広大な圃場で柿、りんご、桃、梨を育てています。オーナーの古田康尋さんはカネシゲ農園の3代目。祖父の代から受け継いできた農園を大切にしながら、自家製のシードルやジュースも製造・販売しています。
農業者が組織したグループ「新鮮組」の仲間同士で情報共有し、「フロストバスター」の実証試験に参加しました。

今までの霜対策は?

カネシゲ農園のりんご
撮影:藤原 恵里
カネシゲ農園は傾斜地にあり、霜のたまりやすい場所があります。それでも、今までは家の周りに設置した防霜ファンだけでカバーしきれていたといいます。
ところが近年遅霜がひどくなってきていて、2019年には梨が約8~9割も被害にあってしまいました。従来は、何かの作物に被害が出たとしてもほかの作物の収穫で収入は補填できていましたが、こんなことが続くなら栽培品目を見直さなければならないのでは、ということも考えていたのだそう。

梨の被害が4~5割程度に

カネシゲ農園
撮影:藤原 恵里
カネシゲ農園では、梨の数枝にのみエキスをまいてみました。同じ樹での結果を見るためです。
霜の被害の大きかった梨でしたが、「フロストバスター」をまいた樹は被害が4~5割程度に抑えられ、効果を十分に感じられました。
新鮮組のほかの農家は効果が出たところと出なかったところがあったそうですが、よく聞くとその結果の違いはエキスをまくタイミングにあったようだということです。
「フロストバスター」の効果はあると言っていいのではないか、と古田さんは力強く話していました。

今後の霜対策は?

カネシゲ農園のように広い圃場では、エキスを全体にまくのは難しい話。そのため、「フロストバスター」は特に霜のたまりやすいところに限定して使っていきたいということでした。

下條村としての今後の対策

金田憲治さん
撮影:藤原 恵里
村役場にも農家さんから、霜対策を考えてほしいという声は届いているといいます。
今回の実証実験の結果を受けての考えなどを、下條村村長金田憲治さんにうかがいました。

下條村の農業の状況

下條村役場
撮影:藤原 恵里
下條村はかつて養蚕が盛んな土地でしたが、化学繊維の発展で果樹中心に変わってきました。果樹を育てるようになったのは江戸時代からという歴史があります。
ただ、専業農家はかなり減って兼業農家のほうが多い現状があり、さらにどこの農家も後継者不足に悩まされています。
その状況を変えるために、現在、下條村では「下條ブランド」の農産物を増やしていこうという動きも出ています。

農産物の品質均一化が課題

新そば
撮影:藤原 恵里
霜などの被害は事前の予想ができないため、農産物の収穫がすべて終わらないとその年の生産量も把握できません。
下條村ではふるさと納税の返礼品にも果樹を採用しているため、果樹を含めた農産物の安定した収穫は大切です。
個々の農家に対しては、果樹共済の加入をすすめて何かあった場合の補填対応はしていますが、必要なのは農家としても村全体としても安定した収入。そのため、実際に起きてしまってからの対応よりも予防に力を入れていきたいと村として考えているところです。

「フロストバスター」の効果に期待!

道の駅
撮影:藤原 恵里
「フロストバスター」の実証試験の話がきたときに、金田村長は「チャレンジしてみなければどうにもならない。製品が出るまで待つよりも、チャンスがあるなら試してみたい」と思い、農家に話を持ちかけました。
幸い、協力してくれる農家もあり村全体で実証試験を行ったのは10軒。かおちゃん農園、カネシゲ農園のように成果を出した農家もあり、今後への期待は大きいようです。試験データがもっと集まり、効果がはっきりしたら、村としても補助をすることも考えていけるだろう、と金田村長は語ってくれました。

「フロストバスター」の試験販売情報をチェック

防霜資材フロストバスター
撮影:AGRI PICK編集部
「フロストバスター」は、2020年から長野県を中心に、試験販売を行っています。りんごなどバラ科の花芽のほか、茶などの霜害対策に効果が期待できるエキスです。
詳細をチェックして問い合わせてみてください!

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適用植物

・バラ科植物:リンゴ、梨、ビワ、桃、プルーンなど
・カキノキ科植物:柿

使用方法

凍害、霜害が予想される月の1カ月前から使用。霜が予想される前日の散布が推奨されています。展着剤の使用有無は自由です。

取材協力

かおちゃん農園(長野県)

市田柿
撮影:藤原 恵里
かおちゃん農園では、減農薬の梨と市田柿を生産、販売しています。梨の品種は、幸水、豊水、南水、秋月、新高など。JAに卸すほか、個人での直接販売も行っています。
口コミを大切にして、おいしいと言ってくれる人たちに販売しているとのこと。

カネシゲ農園(長野県)

シードル
撮影:藤原 恵里
天気のいい日は南アルプスを望み、村全体を見渡せる立地の農園です。柿、りんご、桃、梨を生産しており、2018年に徳島で行われた「オーガニックエコフェスタ2018」では、りんご部門で最優秀賞受賞。自家製のシードル、ジュースが注目されています。
りんご狩りも人気。
カネシゲ農園:https://www.kaneshige.jp/

下條村

撮影:藤原 恵里
2019年に誕生から130年を迎えた下條村。さらにさかのぼれば観応初年ごろ(1350年)、初代下條伊豆守頼氏がこの地に城を構えたときから連綿と続く歴史を誇ります。
昭和半ばから過疎化が進み人口もピーク時の約40%減少しましたが、平成に入ってから村役場を再編。住民の力を借りながら公共事業を実施して健全財政化と子育て支援を図りました。
その結果、実質公債比率は全国1位(2014年)、合計特殊出生率は2.03人(2014年)を達成。この実績から「奇跡の村」とも呼ばれ、全国各地から多くの自治体が視察にくるほどの注目を浴びています。移住者も少しずつ増えつつあります。
金田村長のもとへは農家さんも直接要望を届け、村役場のスタッフはどこに行っても住民に声をかけられるようなあたたかさにあふれる村です。
下條村:https://www.vill-shimojo.jp/

お問い合わせ

販売者:アサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社

アサヒクオリティーアンドイノベーションズロゴ

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<取材>小林 由弥

Sponsored by アサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社

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