ライター たかはしひろみ 千葉大学園芸学部で造園を学び、卒業後は住宅メーカーの外構部門で設計・施工管理を担当。現在は自宅の庭をコツコツ改造しながら、庭づくりや花の育て方などの記事を執筆している。大好きなクスノキをなんとかして寒い地方で育てられないか、模索中。…続きを読む
出典:写真AC
赤や黄、オレンジなど、美しい色に紅葉する木はたくさんありますが、その中でも特に鮮やかに赤く色づき、印象的なのがイロハモミジを代表とするモミジの仲間です。イロハモミジは日本に自生している木で、古くから庭木や盆栽などに使われ、広く親しまれてきました。イロハモミジの葉や花、実の特徴や剪定(せんてい)の仕方などの育て方、葉が美しく赤くなる理由など詳しく紹介します!
イロハモミジの基本情報と葉や花、実の特徴 出典:Pixabay
日本を含めたアジアに自生するイロハモミジは、
春に芽吹き、秋に紅葉して葉を落とす落葉樹 です。耐寒性や耐暑性に優れ、日本の気候風土に適した木なので、とても育てやすく庭木にぴったりです。
イロハモミジの基本情報 英語名/学名 Japanese maple/Acer palmatum 別名 タカオカエデ、イロハカエデ、タカオモミジ、チョウセンヤマモミジ 科・属 ムクロジ科・カエデ属 特性・形態 落葉性高木 樹高 5~15m 原産地 日本、東アジア USDA zone 6a~9b 耐寒性 強い 耐暑性 強い 耐陰性 強い
USDA zone とは United States Department of Agriculture Plant Hardiness Zone(米国農務省 植物の耐寒性地帯)の略。米国農務省 が開発した、寒さの段階を13のレベルに分け、植物の耐寒性レベルを数値とマップで明瞭化した指標です。造園やガーデニングをするうえで、植物がどの地域で、どれくらいの寒さまで耐えられるのかを確認するために使います。日本では気象庁の観測データを元に、都道府県市町村ごとにレベル分けされています。※指標は、植物を屋外で育てたときの目安。 参考:Japan Plant Hardiness Zone
イロハモミジの葉や花、実の特徴 出典:写真AC
葉にある深い切れ込みを「イロハニホヘト…」と数えたことが、名前の由来といわれるイロハモミジ。その名の通り、
5~7裂に分かれた手のひらのような形の葉が特徴 です。新芽の展開とともに4~5月に咲く花は、直径5mmほどの大きさで、暗赤色の花弁から白いおしべが飛び出しています。翼果とよばれる実は、水平に開いた2枚の羽をもつプロペラ形で、ピンク、淡い赤~茶色に変化し、11月下旬に熟します。
イロハモミジの生長速度と樹高 出典:Pixabay
イロハモミジの生長速度は速く、自生しているものや地植えのものは15mを超える大木になることもあります。
盆栽や鉢植えで育てると、剪定などでサイズ調整もしやすくコンパクトに育てることができます。 イロハモミジの花言葉 出典:写真AC
イロハモミジに個別の花言葉はありませんが、
カエデ類全般の花言葉は「大切な思い出」「美しい変化」「遠慮」 です。「美しい変化」という花言葉は、カエデ類が美しく紅葉する様子に由来しています。
イロハモミジの苗木の販売価格 出典:写真AC
イロハモミジの苗木の値段は、大きさや樹形によって違いますが、樹高30cmほどの小さな苗木だと、300円程度の比較的安価で手に入れることができます。
一般的には単幹よりも株立ちのほうが高価 で、樹高が1mくらいで単幹だと1,000円程度、株立ちは2,500~3,000円くらい、ある程度幹が太くしっかりとした樹形のものだと、樹高1.2mくらいで10,000~12,000円が目安です。
苗が大きければ大きいほど、根付くまでに時間がかかったり、植え付けの作業がたいへんになったりします。80cmくらいの大きさのものが、植えやすいのでおすすめ です!
おすすめ!単幹のイロハモミジの苗木 おすすめ!株立ちのイロハモミジの苗木 イロハモミジの鑑賞、植え付けや剪定などの手入れの時期 出典:Pixabay
イロハモミジは春に芽吹き、秋に紅葉して葉を落とす落葉樹なので、植え替えや植え付け、施肥、剪定などの手入れは、11月下旬~3月の休眠期に行います。
イロハモミジの鑑賞や剪定などの手入れの時期 イラスト:AGRI PICK編集部
開花期:4〜5月 結実期:7~9月 鑑賞期(紅葉):10〜11月 植え替え、植え付け:12~3月 肥料:12〜1月(庭植え)12~2月、6月(鉢植え) 剪定:11月下旬〜2月上旬 イロハモミジの葉や紅葉、花など鑑賞期 出典:写真AC
イロハモミジは4~5月に新芽を出し、それと共に小さな赤い花を咲かせます。
新芽は明るい黄緑色ですが、夏には濃い緑色になり、10~11月に真っ赤に紅葉 します。
植え付けは12~3月の休眠期に 出典:写真AC
イロハモミジの植え付けや植え替えは、落葉して新芽が吹くまでの間、12~3月の休眠期に行います。この間でも、
極端に気温が低い日や雪が降っている日など、天候が悪い時は避ける ようにしましょう。
寒冷地では厳冬期の1~2月を避けて、11月下旬や2月下旬~3月に行うのがおすすめ。 寒い日の作業はイロハモミジに負担がかかるので、上手く根付かないことがありますよ。
イロハモミジの剪定は11月下旬〜2月上旬に 出典:Pixabay
イロハモミジの剪定は、落葉して木が休眠している11月下旬~2月上旬に行うのが基本ですが、この間でも氷点下になる時期や雪が降るような時期の剪定は避けましょう。
寒冷地では年内に終わらせると、樹勢に影響を及ぼしにくい です。
イロハモミジは、ほかの落葉樹に比べて早く休眠から目覚め、水を吸い上げ始めます。水を吸い上げているときに剪定すると、切り口から水を吹いたり、樹皮がはがれやすくなったりするので、剪定は2月上旬までに終わらせましょう。
イロハモミジの3つの魅力|単幹も株立ちもあり、シンボルツリーや庭木にぴったり! 出典:Pixabay
新緑や紅葉など、季節に応じた変化があるイロハモミジは、住まいの象徴や記念にもなるシンボルツリーや庭木にぴったり。単幹も株立ち樹形もあり、どちらもやわらかな自然樹形が美しいのが魅力的です。
イロハモミジの魅力1|さまざまな変化で季節感を楽しめる 出典:Pixabay
イロハモミジの一番の見どころはやはり、10~11月にかけて木全体が深紅に染まる紅葉。また、紅葉が始まったころの緑色と赤色のグラデーションも美しく見応えがあります。4~5月に咲く小さな赤い花は明るい緑色の新緑によく映えて、とてもかわいらしい印象。落葉したあとも、灰褐色の滑らかな幹や細やかな枝ぶりを楽しめます。
イロハモミジの魅力2|単幹樹形も株立ち樹形も楽しめる 出典:写真AC
イロハモミジというと、1本の太い幹が地面から伸びた「単幹樹形」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、細い幹が根元から複数出た「株立ち樹形」もあります。
単幹のものはどっしりとした重厚感があるので存在感がある庭木に、株立ちのものは軽やかでナチュラルな雰囲気になる ので、庭のイメージや好みに応じて選ぶことができます。
イロハモミジの魅力3|自然樹形が美しい 出典:写真AC
イロハモミジは、枝先に行けば行くほど、細くしなるような柔らかい枝が特徴的です。やわらかく情緒的な雰囲気の樹形は、和洋を問わず、ナチュラルで優しい庭を演出してくれます。
そのほかおすすめのシンボルツリーに関する記事はこちら 庭植えでも鉢植えでもOK!イロハモミジの育て方 出典:Pixabay
植えるのは日当たりのいいところに 出典:写真AC
イロハモミジは基本的には
日当たりのいい場所を好みますが、半日陰くらいまでOK です。逆に直射日光が常に照りつけるようなところや、西日が強く当たるところでは、焼けて葉が茶色くなったり枯れてしまったりすることがあります。
日当たりが悪過ぎると、きれいに紅葉しないことがあ るので注意しましょう。
水はけが良く、乾燥し過ぎないところに植えよう 出典:写真AC
イロハモミジの太い根は地中深くに伸びていきますが、細かい根は通気性の良いところを好むので、地表近くに広がっています。そのため、常に水がたまっているような水はけが悪いところに植えると、根腐れを起こして枯れやすくなります。また、乾燥し過ぎるところも苦手なので、保水性と通気性のあるところに植えましょう。
腐葉土や堆肥を混ぜ込むと、通気性や保水性がUPします。庭に植えるときには、大きめの穴を掘って埋め戻すときの土に腐葉土や堆肥を混ぜてあげましょう。鉢植えの場合は一般的な鉢植え用の土を使うか、赤玉土に3~4割の腐葉土を混ぜるといい ですよ。
腐葉土や堆肥の使い方など、土づくりに関する記事はこちら 肥料は年に1回、緩効性肥料を 出典:写真AC
肥料は年に1回、12〜1月に寒肥として緩効性肥料を与えてください。樹勢を回復して新芽や花芽の形成を促し、根もよく張るようになります。鉢植えの場合は、新芽が固まった6月ごろに追肥として緩効性肥料を与えてもいいですが、寒肥を十分に与えているときには不要です。
油かすや骨粉などの有機質の肥料がおすすめ。幹のすぐ近くではなく、枝先の直下に与えると効率よく吸収できます。
アブラムシやテッポウムシに注意! 出典:写真AC
イロハモミジはアブラムシがつきやすく、その排せつ物が発生要因になるすす病やうどん粉病にかかることがあります。
アブラムシが発生した段階で退治してしまえば、大きな問題になりにくいので、殺虫剤などを散布して早めに除去しましょう。 また、カミキリムシの幼虫、テッポウムシの被害にもあいやすく、木の周りにノコギリで切ったような木くずがあったら要注意。根元などに小さな穴があるので、針金などで穴を刺して専用の殺虫剤を注入しましょう。
3月にスミチオンなどの殺虫剤と、薬剤が枝や葉、害虫などにつきやすくなる展着剤を一緒に散布すると、テッポウムシの予防になります。
おすすめのテッポウムシ専用殺虫剤 園芸用キンチョールE
ゴマダラカミキリ、クワカミキリなどの幼虫を効果的に退治。専用ノズル付きで穴に直接噴射できます。 ・内容量:420ml
おすすめの殺虫剤 殺虫剤 スミチオン乳剤
アブラムシやアメリカシロヒトリ、カミキリムシの幼虫など、各種の害虫に効果のある家庭園芸の代表的な殺虫剤。 ・容量:100ml ・希釈倍率:50~2,000倍
おすすめの展着剤 展着剤 ダイン
薬剤と一緒に散布すると、散布薬剤が虫や葉につきやすくなります。 ・容量:100ml
アブラムシやうどんこ病、すす病に関する詳しい関連記事はこちら イロハモミジの剪定は年に1回!冬の休眠の時期に 出典:Pixabay
生長が比較的早いといわれているイロハモミジの剪定は、毎年1回、落葉して休眠している11月下旬〜2月上旬に行います。定期的な剪定をすることで、イロハモミジのやわらかい自然樹形を保つだけでなく、風通しも良くなり、病害虫の予防にもなりますよ。
イロハモミジは美しい自然樹形が魅力。ただし、剪定を怠って大きく生長してしまうと、小さくするためには太い枝を切ることになるので、樹形が乱れやすくなります。最低でも年に1回は剪定をして、やわらかい樹形をキープしてください!
剪定は不要な枝を切るだけでOK 出典:写真AC
自然樹形を活かすために、
イロハモミジの剪定は基本的には不要な枝を切るだけでOK です。大きくなり過ぎてしまったときには、少し太めの枝を元から透くようにすると、樹形を乱さずに全体を小さくできますよ。
太い枝を切ったり、長く切り戻したりする強剪定をするときは、樹勢に影響がでにくい穏やかな天候のときに行いましょう。太い枝を切ったときには癒合剤をお忘れなく!
不要な枝など剪定の基本に関する記事はこちら おすすめの癒合剤 殺菌癒合剤 トップジンMペースト
ペースト状なので塗りやすく、病原菌の侵入を効果的に防ぎます。 ・内容量:200g
美しい紅葉が魅力!イロハモミジが赤く発色する理由 出典:写真AC
イロハモミジの葉には、光合成を行う葉緑体を構成する緑色の色素クロロフィルと、カロテノイドという黄色の色素が含まれているため、黄緑色から緑色に見えます。秋から冬にかけて、日照時間が少なくなることや気温の低下に伴い、このクロロフィルが分解されて消失し、代わりに赤い色素のアントシアニンが形成されることで、イロハモミジの葉は黄色から深紅に変化します。
日中と夜との寒暖差が大きいほど、美しい紅葉になるといわれていますよ。
見分け方がわかる!イロハモミジとヤマモミジの違い 出典:Pixabay
イロハモミジと良く似たカエデの仲間に、ヤマモミジがあります。紅葉するとイロハモミジは真っ赤に、ヤマモミジはオレンジ色っぽいなど、見分け方のポイントはいくつかありますが、果実の形の違いもわかりやすいポイント。イロハモミジは写真のように羽の部分が水平になっていてT字形で、ヤマモミジはブーメランのように湾曲しています。
イロハモミジとヤマモミジの見分け方のポイント イロハモミジ ヤマモミジ 紅葉時の葉の色 真っ赤 だいだい色っぽい 新緑以降の枝先の色 赤味がある 黄緑色 葉の大きさ 小さめ イロハモミジより大きめ 果実の羽の形 水平でT字形 ブーメランのように湾曲 幹の色 緑色っぽい 灰褐色
イロハモミジを植えて季節感ある庭に 出典:Pixabay
イロハモミジは、新緑の明るい黄緑から紅葉の深紅まで、さまざまに変化する葉の色や美しく柔らかな樹形がとても魅力的な木です。イロハモミジを植えて、四季の変化を感じられる庭にしましょう!