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実践編では、若手就農者の悩みや課題に久松さんがアドバイスをします。
今回は、新規就農2年目で、京都府福知山市で万願寺とうがらし(万願寺甘とう)の系統出荷とサラダカボチャ(コリンキー)や小豆などを直販している2525農園の角田忠司さんに、久松さんがオンラインでアドバイスをしました。

プロフィール
株式会社 久松農園 代表 久松達央(ひさまつ たつおう)
1970年茨城県生まれ。1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索している。さらに、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)
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久松達央さんのジツロク農業論実践編2525農園 角田忠司さんの相談内容
2525農園の角田忠司さんは、新規就農2年目です。現在は、ハウス3棟(合計9a)で生産、JAを通じて市場出荷をしている万願寺とうがらしが売上のほとんどを占めています。万願寺とうがらしを露地で栽培した1年目の売上は380万円でしたが、2年目は32アーチのハウスを建設し、ハウス内で栽培しているため状態もよく、収量や品質も上がり、それに伴い売上も上がる見込みです。今回の相談者

プロフィール
2525農園 角田忠司(つのだ ただし)さん
徳島県出身。茨城県の水稲の農業法人で5年間勤務、京都府の野菜の生産法人で1年間研修を経て、京都府福知山市で新規就農。万願寺とうがらし(万願寺甘とう)の生産・出荷をメインに、サラダカボチャ(コリンキー)や小豆なども露地50aで生産する。販路は万願寺とうがらしは系統出荷、そのほかは産直ECや卸売など。
Webサイト:2525農園
角田さんは、地理的表示(GI)保護制度に登録され「万願寺甘とう」という名で万願寺とうがらしの系統出荷ができるグループに所属しています。栽培技術、品質、収量の向上を目指し、設備投資や雇用も視野にいれている角田さんですが、一抹の不安があるそうです。
・規模拡大をしたいが、一つの作目にしぼって投資や雇用をして不測の事態が起こったときのことを危惧している。
・市場出荷ができなくなるなどの万一の事態に備えて、販売面で自分のスキルを上げたり、人脈を広げたりする取り組みを今からするべきだと考えているが、具体的にどのようにすればいいのかわからない。
「今の販路が永続的なのか」という漠然とした不安と向き合う
角田さんは、経営規模を拡大し、雇用しながら経営をすること自体には大きな不安はないと話します。それは、同じ部会の中に、目指すべき経営をしている先輩たちがいて、アドバイスを受けながら実践していけば、望んでいる経営に近づいていけると考えているからです。それでは、角田さんが抱える不安はどのようなものでしょうか。
大きな構造の変化が起こった場合に、一生産者としてどの方向性に舵(かじ)を取るべきかなど考えなくてはいけないことは山ほどあります。久松さんは、角田さんだけでなく、すべての農業者が未来永劫(みらいえいごう)、形を変えずに今のままで経営し続けられることはないと話します。

市場出荷は王道!栽培でも流通でも学べることが多々ある
自分で販売することが苦手だと話す角田さんが万願寺とうがらしを選んだのは、「万願寺甘とう」がすでにブランドとして確立されていたこともあります。久松さんは、角田さんは王道を歩んでいると言います。そして、今はあちこちに手を出す段階ではなく、まずは王道を極めた方が近道ではないかと説明します。系統出荷の強み

また、部会の中から流通の仕組みを見て、学んでいくことはとても勉強になると説明します。
流通の特徴
市場流通の良さでもあり特徴でもあるのが量が集まるほど良いとされることです。万願寺とうがらしはグループとして一定量が集まるため、毎日トラックが動きます。この基本的な構造は、市場流通だけでなく、ほかの流通でもほかの作物でも変わりません。卸売業者などに販売する場合にもロットの話は必ず出てくるでしょう。

市場流通の仕組みについてはこちらから
系統出荷というチームスポーツの中で自分は何をするのか
久松さんは、系統出荷はチームスポーツ、消費者直販スタイルは一人でできるスポーツだと話します。優劣ではなく、自分がどちらが得意なのかを考えることも大切だと言います。


栽培技術の向上と、周りを観察して将来像のイメージをつかむことが大事
角田さんは、経営規模の拡大も視野に入れており、現在9aのハウスを30aまで増やしたいと考えています。今は一つの作目の栽培技術向上に全力を


一方で、万願寺とうがらしにしぼって設備投資をして規模拡大していき、何か起こったら、と尻込みしてしまうこともあると話します。




周りの生産者の設備を観察して、自動化のイメージをつかむ
現在、環境制御設備やモニタリング設備などは導入していません。久松さんは、規模を拡大していくにあたり、周りの万願寺とうがらし生産者がどのように自動化を推進しているのかを観察することも提案しました。

王道を極めつつ、不安を解消するためには
久松さんは、勉強のためにいろいろなことを試してみることはいいと言います。ただし、いくら小さくいろいろ作っても、角田さんが持つ不安の解消にはつながらないのではと指摘します。また、経営の主となる万願寺とうがらしに影響が出るほどに何かをやる段階ではないと説明します。万願寺とうがらしを異なる販路で単価を上げて販売してみることが一番合理的な練習方法ではありますが、それが難しい場合には、作物や栽培・販売の組み立て方なども考えることが大切です。
主品目以外を練習で作るにはどんな作物がいい?
既存の設備を利用できるもの

雇用した人でも管理できるもの

チャレンジや練習のときは片付けやすいように考える
久松農園では、絶対失敗できないものと、チャレンジするものに分けて考えているそうです。チャレンジするものについては、売れなくても諦められるものにし、諦めた段階で片付けがしやすいように設計していると話します。
規模拡大を想定した販売の練習を
万願寺とうがらしを中心に栽培・販売していきたいと考えている角田さんですが、不測の事態に備えて、販売の練習として産直ECなどの直販に取り組んでいます。しかし、久松さんは、規模拡大した後で変化が起こった場合、対処せざるを得ない金額は、今、角田さんが直販で販売している額と桁違いではないかと言います。さらに、栽培も販売もほかに手を出すほどに、効率も栽培技術を習得するスピードも下がると説明します。
もし販売の練習をしたいのならば…
一例として、ハウス内でピーマンを一列だけ作り、販売先をいろいろと当たってみるのも手です。その時に、ハウス一棟をピーマンにして販売するならどうなるのだろう、妥当な栽培や販売の量はどのあたりだろうと想定しながら、将来を見据えた練習を重ねてみましょう。
産直ECや直販についてはこちらから
オフシーズンの視察も不安解消につながる
久松さんは、不安の解消のために、万願寺とうがらしの端境期(3月に定植して、5〜12月まで収穫なので冬場が端境期)に、全国各地の園芸施設に見に行ってみることも提案します。
不安なまま続けていくしかない。でも仲間もたくさんいる
最後に、久松さんから角田さんへのメッセージです。























