農業者のための市場流通の基礎|卸売市場の現状や仕組み、役割、課題を解説

卸売市場を経由した市場流通には、どのようなイメージがありますか。古い流通?市場取引額は減少傾向?直販で利益を得る?そのイメージは、正しく市場流通を理解してのものでしょうか。 流通の基本から卸売市場の仕組み、関わる人、卸売市場の現状、市場流通のメリット・課題まで「市場流通の基礎」について説明します。


市場流通

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新規就農者は、消費者に直接販売をすることでより多くの利益を得たい、また直接お客さんとつながることでやりがいを見つけたいと直売所や産直系EC(electronic commerce=電子商取引、WEBプラットフォームビジネス)、直接契約など市場以外の流通に目が向く方も多いかもしれません。同時に、JAなどを経由した系統出荷などによる市場流通の仕組みについては、あまり理解されていないことがあります。農業を始めて販路について考える場合、まずは、市場流通の仕組みをしっかり理解しましょう。そのうえで、個々の販売戦略を立てることが大切です。

新規就農者だけではなく、市場に農産物を出荷している生産者や、直販(市場外流通)を目指している生産者にも役立つ「市場流通の基礎」とは?「食と農のもやもやゼミ09:今さら聞けない市場流通 前編」の資料とゼミの内容を元に主催者の許諾を得てまとめました。

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写真提供:食と農のもやもやゼミ
直販トップランナーである農業者たちが語る本音と直販の魅力は?
マルシェやECサイトを使った直販についてはこちらも参照。

流通の役割は、生産者と消費者のへだたりを埋めること

市場流通
出典:写真AC
そもそも、流通とは何でしょうか。
農業分野における流通とは、生産者と消費者の間に介在するもののことを指します。卸市場を経由する市場流通も、直販などといわれる市場外流通も、流通には、生産者と消費者をつなぐ、へだたりを埋める役割があります。具体的には以下のような機能です。

生産者と消費者をへだたりを埋める6つの要素とは

1. 人

国内における生産者の割合は人口の1%程度と少ないため、生産者と消費者が同一であることはほとんどありません。そのため、流通を介して生産物を売買することによって、その「人的なへだたり」を縮めることができます。

2. 空間

一概にはいえませんが、農産物の生産地は地方にあることが多く、大きな消費地は都市部に存在します。流通にはその「空間的なへだたり」を埋める役割があります。これは、生産物を地方から都市部へ輸送すること、または、果物狩りなど都市の人が地方へ赴くことで埋めることができます。

3. 時間

収穫された農産物は、すぐに消費されるだけではなく、必要に応じてその農産物を貯蔵し消費者が必要な時期に供給されています。流通は、年間を通じて農産物を消費者へ供給するために、「時間的なへだたり」を埋める役割もあります。

4. 情報

生産者と消費者の間には、それぞれが保有する情報やそれぞれの需要が異なる場合もあります。流通は、「情報的なへだたり」を埋める役割も果たします。

5. 数量

一般的に、国内の生産者は同一作物を生産する場合が多く、収穫適期にまとめて収穫・出荷します。しかし、いち消費者が大きなロットの同一の農産物を一度に購入することは考え難いです。そのため、流通は大量の農産物を少量分に分割して販売することで、「数量的なへだたり」を埋めています。

6. 価値

生産者が栽培しやすい規格(大きさ、色、形など)と、飲食店や小売店(その先には消費者)が求める規格が異なる場合もあります。流通は、生産者から供給されるさまざまな規格の農産物の中から、取引先ごとの需要に応じた規格を購入して販売することで、「価値的なへだたり」を埋めます。

卸売市場を経由する市場流通とは?

市場流通
作図:紀平真理子
次に、卸売市場を経由する「市場流通」について説明します。卸売市場にはプレイヤーも多く、仕組みも複雑です。また、世間から見えにくいため、その仕組みを知らない方も多いでしょう。卸売市場の役割や仕組みなどをみていきましょう。

卸売市場の5つの役割

中央卸売市場の場合、午後0時から午後3時に産地にある運送会社の集荷場所に集められた農産物を載せた運送便が出発します。午後9時ごろには卸売市場に到着し、翌日午前6時ごろから競売がはじまります。卸売市場には、多くの農産物が集まってきますが、役割はそれだけに留まりません。主な卸売市場の役割を5つ挙げます。

集荷|いつでも豊富な品揃えを実現する

卸売市場は、国内だけでなく国外からもさまざまな品目の農産物を集荷しています。そのため、どんな季節にも豊富な品揃えがあります。

分荷|顧客が必要な分量に小分けする

顧客(小売店、量販店、飲食店など)が必要する分量に応じて、迅速かつ効率的に必要な種類と量の農産物を仲卸業者や売買参加者へ販売します。いいかえると、顧客が必要な分だけ、小分けして売ることができる機能があります。

価格形成|需要と供給から価格が決まる

農産物の需要量と供給量を反映させて、価格を形成し、流通量のバランスを維持します。そのため、豊作年や不作年など供給量が変化することで、出荷価格が変動します。

決済|簡単で確実に生産者に支払う

卸売市場は、販売代金の清算や、生産者への支払いを確実で迅速に行っています。これは卸売市場の重要な役割の一つです。

情報|販売数や価格などの情報を提供する

卸売予定数量や販売価格などを公表し、需要と供給に関わる最新情報を収集・提供する機能もあります。

卸売市場の種類

卸売市場には、中央卸売市場と地方卸売市場の二種類があります。それぞれ管轄や規模、近年の傾向が異なります。

中央卸売市場

中央卸売市場は、農林水産大臣の認定を受けた市場です。全国40都市64市場で、近年は市場数にあまり増減はありません。

地方卸売市場

地方卸売市場は、都道府県知事の認定を受けた市場です。1,025市場ありますが、総取引金額は中央卸売市場と大差ありません。つまり、市場ごとの取引額としては中央卸売市場と比較して小さいです。

卸売市場に関わる人

卸売市場
出典:ぱくたそ
卸売市場に関わる人物も整理しましょう。市場流通では、「出荷者」が市場納品した品物を、卸売市場の中にいる「卸売業者」「仲卸業者」「売買参加者」などを経由して小売店やレストランなどに供給されています。

出荷者

出荷者とは、卸売市場に品物を出荷する人/組織です。生産者が生産した農産物をJAなどの出荷団体や産地仲買人を経由して出荷する場合もありますが、生産者が直接出荷することも可能です。

卸売業者

卸売業者は、出荷者から販売の委託を受けたり、買い付けたりした農産物を出荷者の代わりに販売します。その際に、委託手数料を出荷者から受け取ります。2020年6月に卸売市場法の改正が施行された後は、飲食店や小売店なども仲卸業者を通さず、直接卸業者から農産物を購入できるようになりました。

仲卸業者

仲卸業者は、卸業者などから購入した農産物に手数料を乗せて小売店やレストランなどに販売し、農産物の評価と分荷の機能をもっています。改正卸売市場法の施行後は、仲卸業者も卸業者を通さず、産地から直接農産物を購入できるようになります。また、今までは市場内に存在する商品しか取引ができませんでしたが、法改正後には市場を介した場合であっても、農産物は産地から小売店や飲食店に直接輸送できるようになりました。

売買参加者

売買参加者とは、卸売業者から品物を購入できる小売店などの業者です。


競り取引と相対取引

市場流通
作図:紀平真理子
卸売市場での売買方法も、「競り取引」と「相対取引」の二通りあります。

競り取引(競売)

競り取引は、買参権を持った青果店や仲卸業者が買参人として参加できます。基本的には、市場へ入荷した農産物を買参権を持った卸売会社が買参人に対してオークション形式で販売します。

相対取引

卸業者と買参人が、個別に交渉ができるのが相対取引です。卸売会社には、野菜や果物ごとに担当者がわけられていることが多く、担当者と買参人が個別に値段や数などを交渉して取引します。1999年に卸売市場法が改正されるまでは、競り以外の取引ができませんでしたが、改正以降は、大手スーパーマーケットなどの量販店が増え、確実に商品を陳列したいという要望もあるため、個別に交渉でき、ほぼ確実に入荷できる相対取引の割合が高くなってきています。

卸売市場経由の農産物って減っているの?

市場流通
提供:食と農のもやもやゼミ
国産の青果物に限っていうと、卸売市場経由の流通は減少しているものの、市場経由率はいまだ78.5%と大きな存在感を示します。一方で、外国産の加工用果物などは市場を介さず直接売買をしているケースも多いため、輸入品も含めた市場全体の市場経由率を見ると55.1%と、約半数です。

また、2018年の中央卸売市場の集荷先別の割合では、JA系統出荷団体が全国で58.7%と高い割合を示します。

つまり、卸売市場を経由する出荷は、減少傾向にあるものの、国産の農産物に限れば非常に大きく、日本の食を支えているといえます。

卸売市場が必要な理由は?

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出典:PIXTA
卸売市場では間に入る人が多い分、手数料がかかったり、消費者の手元に届くまでに時間がかかってしまったりという点が課題に挙がることがあります。しかし、高い市場経由率からみても、現状では卸売市場は必要不可欠です。では、卸売市場が必要な理由は何でしょうか。

取引にかかる事務コストの削減|取引総数最小化の原理

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作図:紀平真理子
取引総数最小化の原理とは、3つの産地と5つの小売店があった場合、卸売市場がないケースでは、産地3ヶ所×小売店5ヶ所で合計15回の取引をする必要があります。しかし、卸売市場を経由すると、産地3ヶ所から卸売市場に集荷する取引+卸売市場から小売店5ヶ所との取引で、合計の取引回数は8回で済みます。

つまり、取引条件などが異なると煩雑になる請求書の発行や入金確認などの事務コストを、市場を経由すると大幅に削減することができます。また生産者にとっては、市場を経由すると、出荷したら確実にかつ迅速に支払いがされるという安心感もあります。

ロスが少ない|不確実性プールの原則

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作図:紀平真理子
ある地域で合計200個のトマトの需要があった場合、例えば地域にある3つの小売店は、地域の需要200個を見越し売上予測を立てますが、来店するお客さんにできるだけ販売できるようそれぞれが多めの150個ずつ仕入れ、在庫します。そうすると合計で450個の在庫を抱えることになりますが、地域の需要は200個なので、結果として多くのロスが生じます。

しかし、卸売市場は需要を見ながら200個+αを保有します。そうなると、小売店も不足があれば市場に随時注文ができる安心感から売り上げ予測を立て、必要最小限の75個ずつを在庫にもつことができ、ロスも少なくなります。

物流費が安い|スケールメリットを活かした市場便

朝、産地で収穫された農産物を積載し、昼ごろに出発する「市場便」は、多くの農産物を一度に同じ目的地である卸売市場へ運ぶので、効率もよく価格も非常に安いです。市場便は、産直ECなどの物流費の10分1程度の物流費になることもあります。このように、市場を介すと物流費を抑えられることは、生産者にとっても消費者や小売店にとっても大きなメリットです。


卸売市場の課題は?

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卸売市場は、流通の役割のうち安い物流費で産地と都市部をつなぐ「空間的なへだたり」や、産地から出荷される同一で大量の農産物を分荷して必要な分だけ販売する「数量的なへだたり」を合理的に埋めています。

一方で、生産者は収穫した分だけ市場へ出荷できる「数量的なへだたり」を埋めるメリットを享受している反面、供給量に応じて価格が不安定だというデメリットもあります。また、今の市場流通は「情報的なへだたり」や「価値的なへだたり」は埋められているといえるのかという課題もあります。

消費者ニーズを反映している?

仲卸業者と小売店や飲食店の間の直接的な取引だけでなく、その間にさらに仲介業者が介入することもあります。そのため、仲卸業者は、基本的に注文の増減で需要を管理しています。この理由で、市場取引においては、消費者のニーズは伝言ゲーム的に伝わる構造になっており、数値などでは需要を把握しているものの、消費者ニーズを汲み上げて自ら需要を作るまでには至っていません。

現在は、この開きを埋める代替案として、産直ECやマルシェ、直売所などが台頭していると考えられています。

生産者が独自の価値をつけにくい?

卸売業者や仲卸業者が、産地を選び相対取引で高値をつける基準は、「品質と供給の安定性」が基本です。理由は、小売店などの需要に欠品なく答えることが重要だからです。そうなると、産地側としても規格と安定供給以外の差別化がしづらく、独自の価値がつけにくいという課題があります。

市場流通を理解したうえで、販路の戦略を練ろう

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流通は、生産者と消費者の間に存在するさまざまなへだたりを埋める役割を果たしています。卸売市場を経由した市場流通は、その役割に大きく貢献しています。しかし、市場流通に関わるプレイヤーが多いことや、その煩雑な仕組みなどから、消費者や新規就農者には市場流通に関する理解が難しく、間違ったイメージをもっている場合もあります。卸売市場を経由した出荷の仕組みから見えるメリットやデメリットを正しく理解したうえで、販路などの戦略を練りましょう。

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紀平 真理子
紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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