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株式会社久松農園 久松達央さんによる、豊かな農業者になるためのメッセージを伝える連載第3回。
第3回は、直販についてです。新規就農時に直販に憧れ、目指す人が多くいます。一見メリットがありそうな直販はいいことばかりなのでしょうか。中間マージンを取られず有利だからという理由で始めた場合に、落とし穴はないのでしょうか。
昨年10月に、久松さんが主催・司会進行をつとめたオンラインセミナー『若手農家のための本音クロストーク①農業は直販の時代?!トップランナーと語る「つくって売る」』が開催されました。セミナー中に、直販トップランナーである登壇者たちの口から飛び出した本音と直販の魅力を久松さんと振り返ります。
プロフィール
株式会社 久松農園 代表 久松達央(ひさまつ たつおう)
1970年茨城県生まれ。1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索している。さらに、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)
登壇者|直販トップランナー
北海道富良野市でメロンを中心に消費者への通販と園内の直売所で販売。年間売上約1億5,000万円。自社農産物だけでなく、約30軒の協力農家から仕入れた農産物も販売している。
長野県佐久穂町で、有機・多品目栽培。野菜セットを個人消費者へ直接販売しているほか、生活協同組合や小規模の小売店やネットショップなど約50軒に卸売も。
秋田県大潟村で、栽培期間中農薬不使用と減農薬で水稲栽培(15ヘクタール)。約10軒の協力農家が栽培する分もあわせて年間約4,000俵(240トン)の米を、約1,400名の個人消費者への直接販売のほか、生活協同組合などに卸売も。
「直販」はダイレクトにつながる。「友達に商売できるか?」
直販とは?
寺坂祐一さん
直接、お客さんから注文を取ってきて販売するものを「直販」だと考えています。個人的には、産直ECは委託販売で、インターネットショップに卸売をする場合と同じイメージで、直販ではないと考えています。
黒瀬友基さん
インターネットショップでも、自社のショッピングサイトを作って、販売する仕組みを自分で構築したものが「直販」だと考えています。
久松達央さん
消費者直販って「友達に商売できるか?」ということだと思っています。今でも、直販しているお客さんが野菜セットの定期便をやめるときは、「何か悪いことをしちゃったのかな」と傷つくんですよ。それくらい、消費者直販は、ダイレクトにお客さんとつながっている認識があります。僕は産直ECにも出していますが、そちらでは、自分のお客さんというより、もらっている仕事だという感覚で、痛みを感じにくいんです。
顧客数|消費者直販と卸売の割合は?
寺坂祐一さん
1年間で全国約1万3,000名のお客さんへお届けしています。販売方法は通販と園内の直売所のみで、消費者への直販100%です。
萩原紀行さん
野菜セットは1週間に100程度でしたが、コロナ禍で倍増しています。個人のお客さんへ配送する野菜セットは売上の15%程度です。生活協同組合や小さいショップ50軒にも卸売をしています。
黒瀬友基さん
個人のお客さんは年間で1,400名で、9割はリピーターです。個人客への直販が約半分、残り半分は生活協同組合やオイシックス・ラ・大地へ卸しています。
集客はどのように行なっている?
寺坂祐一さん
SNSやYouTubeを活用して、ファンづくりをしています。
萩原紀行さん
野菜セットは口コミが多いですね。ブレイクしないながらも、就農以来微増を続けています。
黒瀬友基さん
広告を出していないので、紹介やインターネットからコンスタントに月に10名程度新規のお客さんがいらっしゃいます。
接客はどうしてる?
寺坂祐一さん
いかにつながり続けられるか、いかにリレーションするか、ですね。直接的な接客は電話オペレーターを配置しています。
萩原紀行さん
野菜セットの定期便を購入してくださるお客さんが途中でやめると罪悪感がありました。個人のお客さんへの接客は妻に任せています。
黒瀬友基さん
名前を変えたタイミングで「ちょうどいい機会なのでやめます」といわれたことがあって辛かったですが、1,400名のお客さんと深い関係を維持するのは難しいので、仕方ないです。システマチックに集客をしていくことも必要です。
直販をするときに必要な知識とは?
直販だからこそ必要な投資
直販だからこそ必要な投資はありますか。
寺坂祐一さん
電話オペレーターを6名配置しています。
久松達央さん
これは、通販に特化している人の投資の仕方ですよね。
在庫管理やリスクも生産者側が負っているのでしょうか。
黒瀬友基さん
年間を通じて直販をするために、貯蔵設備をもっています。
久松達央さん
水稲農家が直販を考えるとき、市場出荷であれば基本的には収穫時にどかっと売り切れるので自社で在庫管理をしなくていいのですが、直販する場合には、年間を通して出荷する必要があるので、黒瀬さんのように当然貯蔵設備をもって、在庫管理をしなければいけません。
直販と卸売の両立は?
消費者直販と卸売をしている場合、優先順位などどのように出荷量のバランスを取るのでしょうか。
黒瀬友基さん
コロナ禍の巣ごもり需要で、卸先からの注文も増えました。あらかじめ計画していた数量は卸先に欠品なく出荷しました。その後は、個人のお客さんからの注文を優先することを卸先にも早めに伝えました。
久松達央さん
個人消費者への直販と卸売を並行する場合は、振り分けるバランスや卸先とのコミュニケーションも大事だと思います。
野菜セットと卸売の出荷量のバランスは。
久松達央さん
僕は、9割が個人への野菜セットの直販です。
萩原紀行さん
野菜セットは卸先とのバランスを考えながら種類を変えて詰めることができるので、ある意味では在庫の調整機能になるような気がします。でも、卸先も個人への配送もどちらも欠品を出せないし、この感覚はやっていくうちにおのずとわかってきます。
有機栽培だと、野菜セットで消費者への直販が基本なのでしょうか。
萩原紀行さん
有機はセットで売るしかないと思っていました(笑)でも、野菜セットの販売数は急には伸びないので、食べていくのが大変でした。
久松達央さん
僕も萩原さんと同じように、野菜セットしかないと思っていました(笑)
直販は経営に有利?
直販をしている理由は「おもしろいから」
直販は販売に有利だからやっているのでしょうか。
久松達央さん
僕の場合は、損得ではなく好きだからですね。
寺坂祐一さん
栽培して販売することは究極に難しいシミュレーションゲームです。非効率で手間がかかるけど、手間をかけたぶんだけお客さんに感動があります。でも、面白くて稼げることを証明したのに、誰もついてこないんですよ。
直販で成功するにはどうすればいいですか。
寺坂祐一さん
勝ち筋、負け筋を考えない!どんな世界を作っていくか、どんな幸せを描くかということを考えながら、実現するんだという気持ちがお客さまにつながって、最終的に売上につながります。
どんな人が直販を続けられると思いますか。
久松達央さん
続いている人は、やめるのはもったいないと考える人じゃないですか。なんだかんだ言いながら、楽しみが勝っているからやめていない。
黒瀬友基さん
やり抜ける人だと思います。
萩原紀行さん
わからないまま進む力をもった人ですね。
久松流極意|直販をはじめる前に考えること
1. 直販に必要なコストを洗い出そう
貯蔵設備など、直販だからこそ必要になる投資があります。その中でも、業務負担が非常に大きく、その他の販売方法と比べて多くの労力と販売管理などのシステムへの投資が必要です。直販を考えている場合は、一度必要なコストを洗い出しましょう。2. 損得ではなく、なぜ直販に取り組みたいか考えよう
直販は、手間がかかり非効率な販売方法のため「経営に有利だから」という損得勘定だけでは、なかなか続けられません。「なぜ直販をやりたいと思うのか」という自分の思いに向き合ってみましょう。もしゼロからのスタートなら、どのように販売する?
寺坂祐一さん
直販です。YouTube、LINE、TikTokなど時代に合わせたツールを使って、マニアックに日々感じていることを伝えまくります。
黒瀬友基さん
個人消費者への直販は、楽しいのでやります。これがなかったら農業自体をやっていませんね。それとあわせて、業務用や卸売でドンっと出すのもいいかもしれません。
萩原紀行さん
現在の営農地が遠隔で物流が十分に機能しておらず、新しいチャレンジをしても配送ができません。ゼロからはじめるなら、宅配便を巻き込んで出荷グループとして機能させるのもいいですね。
久松達央さん
農業はやりませんね(笑)