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産直ECは一般の通販サイトとは異なる仕組みやコンセプトがあります。産直ECを検討されている生産者や出品している人は、産直ECならではの仕組みを理解したうえで活用しましょう。
産直ECとは|生産者と消費者を直接つなぐWEBプラットフォーム
産直系ECは、プラットフォームを介して、生産者と消費者を直接つなぐサービスです。流通とは、上図のように生産者と消費者の間にあるもので、卸売業者を経由した市場流通の場合は、生産者から消費者との間に卸売業者や仲卸業者、小売店などが介在します。産直ECの場合は、生産者と消費者がプラットフォームを介して受発注、農産物の配送・受け取り、情報の交換などを直接行います。
産直ECのコンセプト
産直EC中でも、「産直」に主軸を置くサイトと「産直提携」に主軸を置くサイトがあります。まずは、産直ECのコンセプトを整理します。産直とは
産直とは、「産地直結取引」や「産地直送」、「産地直売」の略称です。1960年代後半に、生鮮食品を卸売市場などの流通を介さない「すきま」の流通として始まりました。基本的なコンセプトとして、産直とは「中間マージンの削減、また規格に制限なく販売して収入を増やしたい生産者」と、「お得においしいものを購入したい個人の消費者」が直接やりとりして、商品を購入するものです。産直提携とは
産直を考える場合、産直提携についても知っておく必要があります。産直提携とは、CSA(Customer Supported Agriculture:地域支援型農業)の元になる取り組みで、生産者と消費者が対等な立場で、一緒に自分たちの目指す食や農業を探究することが基盤にあります。例えば、消費者が希望した農産物を生産者が計画的に生産し、消費者側は不作などによるリスクも共に引き受けたうえで、それを全量買い取って生産者を支えます。これをふまえて、産直提携の基本的なコンセプトは、「消費者とのつながりを持ちたい・希望に応えたい生産者」と、「生産者を応援したい消費者」をつなぐものだといわれます。
ECとは
ECは、インターネット上で物やサービスの売買をすることを指します。CSAやマルシェをはじめ、オフラインでは生産者と消費者が直接つながる仕組みはかつてから存在しましたが、比較的大規模に、かつ地域を限定せずオンラインで生産者と消費者がつながることができる産直ECの仕組みを構築できたのは、近年のデジタル技術の普及や宅配サービスの進化などが大きな要因です。産直ECの基本的なフロー
まずは、生産者が産直ECのプラットフォームに出品をします。それを見た消費者は、プラットフォームを経由して商品を注文することができます。生産者は消費者からの注文を受けた後、農産物を生産者から消費者へ直接配送します。商品を受け取った消費者は、プラットフォームを経由して生産者にメッセージを送ったり、感想を投稿したりしてコミュニケーションを深めることができます。産直ECと通販サイトの違い
産直ECと通販サイトの大きな違いは、サイト内に販売用ページが設置されているかいないかです。いずれも商品は生産者から消費者へ直接発送されます。産直EC|商品を出品
産直ECは、お店を出さずに生産者が直接プラットフォームに商品を出します。特設ページを設けない分、通販サイトと比較すると集客が弱い反面、ホームページのようなページの構成やデザインなどにかかる初期投資や、インターネット店舗の運営費をおさえられるので、収益性は高いです。通販サイト|販売ページを設けて出店
通販サイトは、サイト内に生産者がお店(販売ページ)を構え、そこで商品を販売します。特設ページがあるため生産者ごとの特色が出しやすく、消費者にプロモーションがしやすいため集客に強いことが特徴です。しかし、出店するにあたりホームページの作成と同様にさまざまなコストがかかります。産直ECが埋めるへだたりは?
流通には、生産者と消費者をつないで、へだたりを埋める役割があります。生産者と消費者が同一でない場合の「人的へだたり」、栽培地と消費者が離れている「空間的へだたり」、収穫時期と消費時期が異なる「時間的へだたり」、生産者と消費者が持っている情報が異なる「情報的へだたり」、大量に農産物を栽培する生産者と少量が必要な消費者の「数量的へだたり」、栽培しやすい規格と消費者が求めるものが違う「価値的へだたり」があります。流通の役割についてはこちらをご覧ください。
産直ECは「情報的へだたり」と「価値的へだたり」を埋める役割
産直ECは、生産者と消費者が直接つながり、プラットフォーム上で情報交換ができるため、「情報的へだたり」を埋めることができます。具体的には、消費者が保有する農産物の調理法などの情報と、生産者が持つ農産物の特徴などの多種多様な情報を交換する機会が得られます。また、直接やりとりをすることで、「消費者が求めているもの」を明確化しやすく、生産者がそれを消費者に提供することで「価値的へだたり」を埋める役割にも貢献します。
市場流通との比較|「数量的へだたり」や「時間的へだたり」は埋めにくい
産直ECは、市場流通に比べて「数量的へだたり」を埋めにくい傾向にあります。特に、単一作物を栽培している生産者にとっては、梱包などの手間から一度にある程度の量を収穫して出荷したいと考えるものの、一度に多くの数量を求める消費者側はそこまで多くありません。さらに、在庫を管理する設備がある卸売市場とは異なり、冷蔵庫など設備を保有しない生産者は、収穫後すぐに出荷する必要があるため、「時間的へだたり」は埋めにくいです。
生産者視点での産直ECの役割と課題
生産者が産直ECに出品をすることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。また、取り組むことによって負担が増えてしまうことはあるのでしょうか。産直ECの役割と課題について、生産者が出品をして販路として産直ECを活用するという視点から説明します。産直ECの役割|フィードバック・リスクマネジメント
消費者からのフィードバックを得る機会を得られる
産直ECは、マス(不特定多数)向けの情報発信ではなく、消費者一人ひとりに直接語りかけることができるツールです。積極的に消費者とのコミュニケーションを取れば、商品についての説明もでき、消費者からフィードバックを得る機会もあります。また、消費者とのコミュニケーション自体が、生産者のモチベーションの向上につながる場合もあります。市場流通を基本としている生産者の中にも、自身の楽しみのために一部産直ECに出品する人もいるそうです。一方、消費者の需要の把握ができることは有益ですが、フィードバックに一喜一憂し、要望に応え続けてしまい農業経営の方針が右往左往してしまわないように気をつける必要があります。
販路の分散によるリスクマネジメント
販路の分散によるリスクマネジメントという視点でも、産直ECは注目されています。特に、災害や新型コロナウイルスによる感染拡大など、予期せぬ事態が起こったときに、常日ごろから消費者とつながっていると共助機能が働きやすい傾向にあります。直販の中では事務コストがかかりにくい
産直ECは、直販の中ではプラットフォーム側が受注管理や伝票の記載、振込手続きなどの事務を請け負うので、比較的、初期投資や事務コストがかかりにくいことが特徴です。産直ECの課題|コミュニケーションコスト・支払いのリアルタイム性
生産者はコミュニケーションにどこまで時間を割けるか?
産直ECは、生産者から消費者へ熱量の伝播(でんぱ)が起こらないと、農産物を買える通販サイトのようになってしまう可能性があります。消費者直販と比べてもプラットフォームを介すことで、生産者と消費者のお互いの顔が見えにくくなる傾向があるため、生産者側も販路としてではなく、お客さんの顔を見ようとする意識を持つことが大切です。ただし、農作業やほかの業務で忙しい中、どこまでお客さんとのコミュニケーションに時間を割けるか、もしくは割きたいかについて産直ECに取り組む前に一度考えてみましょう。
業務負担と支払いのリアルタイム性は?
産直ECは直販の中では比較的事務コストがかかりませんが、それでも市場流通なら不要な個別に梱包する手間や伝票の処理などの業務負担は増えます。また、お客さんからの商品代金の支払いについても振込確認などをする必要がないので、業務負担は減りますが、すぐに代金が支払われる市場流通よりは商品の販売から振込までにタイムラグが出てきます。
業務コストについてはこちらもご覧ください
会員数が増えることでのマッチングの難しさにどう対応する?
産直ECは、コロナ禍において軒並み会員数も出店者数も増加しています。しかし、会員の全体数が増えることで、よい関係を築く可能性がある生産者と消費者のマッチングが難しくなってしまいます。プラットフォーム側も工夫はしていますが、出品する生産者自身も、それぞれの特徴を明示して、積極的にお客さんとコミュニケーションをとることが大切です。ポケットマルシェに聞いた産直ECのこれまでとこれから
株式会社ポケットマルシェ PR部 部長の東樹詩織さんに、ポケットマルシェから見た産直ECについてお話を伺いました。教えてくれたのは
プロフィール
株式会社ポケットマルシェ PR部 部長 東樹 詩織
東京都出身。エンジニアやコンサルタントの経験を経て、2019年4月に1人目の広報としてポケットマルシェへ入社。
ポケマル設立の経緯|東日本大震災を機に食の価値を高める取り組みを開始
株式会社ポケットマルシェ 代表取締役社長 高橋博之氏は、2011年の東日本大震災後にボランティアとして被災地へ赴き生産者と交流する中で、食べものが作られた背景を知ることが食の価値を高めることに気づきました。さらに、都市部からのボランティアたちが、現地の人に助けられる場面も見たことで、生産者と消費者を直接つなぐことの意義を感じ、2013年に『東北食べる通信』という紙媒体で、サブスクリプションを開始し、生産者のストーリーとあわせてその生産者の食材を会員に発送していました。しかし、生産者が一度に発送できる数には限りがあるため、2016年9月に、より多くのつながりが持てる産直EC(ポケットマルシェ社内では産直SNSと呼んでいる)である株式会社ポケットマルシェを設立しました。ポケマルの特徴は?|つながるをメインに
株式会社ポケットマルシェがミッションとしてあげている「個と個をつなぐ」や、ビジョンとしてあげている「共助の社会を実現する」からわかるように、人と人との分断をつなぐことをコンセプトとして掲げています。それを実現する手段として「食」があると考えているため、直接消費者と生産者がやりとりできるコミュニティ機能とメッセージ機能など「つながる」サービスが充実しています。東樹詩織さん
プラットフォーム上でのやりとりは、テキストによるコミュニケーションなので、直接生産者と消費者が顔を合わせるマルシェなどと比べると、どうしても情報量は少なくなってしまいます。そのため、不定期ではありますが、消費者と生産者が直接顔を合わせられるリアルな場でのマルシェなども開催しています。
コロナ禍で会員数激増
2020年の2月末には、52,000名だった消費者の会員数が前年同月比で28万名まで増加しています。生産者の登録人数も、2,000名から4,800名へと増えています。これは、コロナ禍で、消費者が販路が縮小した生産者を「買って応援、食べて応援」という気運が高まったことや、外出が難しい消費者の要望を満たす商品を、ポケマル出品者が提供したことも一端にあります。東樹詩織さん
コロナ禍において外出が難しい中で、子どもと一緒に楽しめる食べもの作りキットや、食材の購入者にzoomを活用した調理ワークショップを提供するなど、出品者さんたちはとても工夫をされていました。
ポケットマルシェの課題は?
躍進を続ける株式会社ポケットマルシェですが、現時点ではどのような課題があるのでしょうか。一つの注文ごとに送料がかかる
消費者が注文するごとに配送料がかかってしまうため、異なる農家からそれぞれ商品を買うことのハードルが高くなってしまいます。また、はじめて購入する消費者は送料がかかることで二の足を踏んでしまうことも考えられます。東樹詩織さん
新幹線を活用した荷物輸送を利用して送料を下げるためにさまざまなトライアルをしています。また、購入ごとにかかる送料のハードルを下げる取り組みとして、複数の生産者の農産物をヤマト運輸さんの営業倉庫で食材を詰め合わせて梱包していただき配送する岩手、宮城、福島の東北三県を応援するアソート便も実施しています。
どこまでチェックできる?
複数の人がかかわる市場流通では、農産物の品質や使用資材などを外部からチェックする機能がありますが、消費者と生産者を直接つなぐ産直ECでは、信用がベースとなります。産直ECというプラットフォームとして、対応できる項目はどのようなところでしょうか。東樹詩織さん
景品表示法などの情報に関しては、出品後に全品チェックをしています。品質のチェックに関しては、プラットフォーム側では難しいのが実情ですが、購入者からの非公開の「良い」「普通」「悪い」の評価をもとに、購入者からの評価が一定以上で、実績のある生産者にバッチを付与して可視化しています。また、登録方法には審査があり、漁業権の写しやJAなどへの出荷明細を提出していただき、「生業(なりわい)として一次産業に従事しているか」という点でスクリーニングをしています。
削減できる業務コストは?
ポケットマルシェに出品した場合、消費者への直接販売時にかかる業務コストのうち、ポケットマルシェ側が負担する項目について話を伺いました。管理画面から受注管理ができる
消費者が、ポケットマルシェを介して注文をすると、生産者に通知が届きます。生産者は、管理画面から受注一覧をいつでも確認できるため、受注管理が容易にできます。また、出品、注文管理、入金確認、問い合わせ対応などすべての業務をスマートフォンのアプリ上で行えます。発送伝票の記入が不要
発送伝票に届け先を記載する手間も省けます。注文が入ると、ヤマト運輸が届け先が印字された伝票を持参して、集荷に来てくれることもメリットです。東樹詩織さん
ヤマト運輸さんのポケマル便を使うと、出荷作業が楽になり、配送料も最大で5割ほど安くなります。
請求書の発行が不要
手間がかかる生産者から消費者などへの請求書などの発行は不要です。お金の流れは、一旦、消費者からポケマルに支払われます。月末に締めて、翌々月の10日に販売手数料の15%を差し引き、生産者へ振り込まれます。産直ECは消費者とのコミュニケーションが必要!
直販に必要な初期投資や周辺業務の負担から、直接お客さんに販売したいけれどできていない生産者にとって、産直ECは取り組みやすい直販のうちの一つです。産直ECは、消費者と生産者をつないで農産物の売買をするプラットフォームではありますが、お取り寄せの通販サイトとはコンセプトが異なります。一度きりの購入で終わらず、消費者とつながり、定期的に購入してもらうためには、生産者側からも積極的なコミュニケーションが必要です。これを楽しいと思うのか、面倒だと思うかで、産直ECに出品するモチベーションやひいては販売の結果も変わってくるでしょう。