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久松達央さんのジツロク農業論【第4回】直販を目指す新規就農者に伝えたいこと|直販生産者が息切れする三つの非効率

久松農園 久松達央さんによる「新規就農者が、豊かな農業者になる」ためのメッセージ、第二弾は「直販」です。「前編:トップランナーと考える直販の魅力と本音」、「後編:直販生産者に訪れる三つの壁」に分けてお伝えします。


野菜セット

写真提供:久松達央
【新規就農者や、すでに営農しているもののつまずいてしまっている人へ】
株式会社久松農園 久松達央さんによる、豊かな農業者になるためのメッセージを伝える連載第4回。

第3回「トップランナーと考える直販の魅力と本音」では、直販トップランナーたちが信じる直販の魅力と現実を本音を紹介しました。

第4回も、直販についてです。直販は取り組みやすく、利益を得られやすいように見えます。しかし、実際には、直販は取り組みやすいゆえの限界点が存在し、三つの非効率との戦いを避けて通れません。簡単だからという理由ではなく、急勾配の坂道であることを認識したうえで取り組むことが大切です。新規就農時から一貫して消費者へ野菜セットを販売する「消費者直販」の形態をとっている久松さんに、直販について話を聞きました。
久松達央
写真提供:maru communicate 紀平真理子

プロフィール
株式会社 久松農園 代表 久松達央(ひさまつ たつおう)
1970年茨城県生まれ。1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索している。さらに、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)

直販という急勾配の坂道を登った

坂道を登る
出典:Pixabay
有機・多品目栽培で、野菜セットを消費者に直販してきた久松さんは、「新規就農時には、直販は取り組みやすく見えた」と話します。しかし、実際は「急勾配の坂道を登ってきた感覚」だといいます。それはどういうことなのでしょうか。

久松さんが野菜セットを直販している理由

久松さんは、なぜ「直販」を選択されたのでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
それしか知らなかったんです(笑)。一見取り組みやすそうに見えるんですよ。第3回記事で登場した長野県ののらくら農場 萩原紀行さん(有機栽培で50~60品目を栽培。野菜セット、生協、飲食店、50軒のショップなどで販売)の言葉である「有機はセットで売るしかないと思ってた」に象徴されますね。でも、僕らが始めた20年前と違って、2021年にはこの考えでは難しいです。

それはなぜですか。

久松達央さん
久松達央さん
やる人が増えれば、希少価値はなくなります。萩原さんも就農時に師匠から「僕と同じことをやってはダメだよ」と言われたそうです。僕らが始めた20年前だからこそ、この形になっただけです。

なぜ現在も直販を続けているのですか。

久松達央さん
久松達央さん
経営に有利だからではなく、好きだから続けています。商売のセオリーからすると直販は理にかなっていないということを僕も後から知りましたが、それでもお客さんと直接つながれる面白さがあります。



直販で一定以上の売上に到達することはできる?

商売の理にかなっていないとは、具体的にどういうことですか。

久松達央さん
久松達央さん
お客さんへの直接販売は、取り組みやすいのですが、経営効率がよくありません。また、一定以上の売上を上げにくいやり方です。僕は「直販は人間関係の換金でしかない」といっています。基本的には、直販は小商いのやり方ですね。

消費者直販の場合、売上規模に限界があるということですか。

久松達央さん
久松達央さん
そうですね。消費者直販で野菜セットの販売に取り組もうと考える場合には、まずはその売上の限界について認識しないといけません

久松流:直販が商売の理にかなっていない理由
1. 直販は知り合いに販売する延長線なので、急激にどんどん売上を拡大することが難しい。
2. 栽培と販売を両立させることは経営効率が悪い。両者を成り立たせるためには投資が必要だが、就農当初は経営を回してかつ十分な投資ができるまでに至らない場合が多い。


直販は見た目より急な登り坂

既存の市場流通と直販では、効率や投資についてどのような違いがありますか。

久松達央さん
久松達央さん
例えば、新規就農者が地域の部会に入ったり、共販出荷をしたりすれば、既存の販売の仕組みを利用できるので、比較的栽培技術の習得や投資へ注力できます。でも、直販だと自分だけのために投資をして、販売の仕組みを作らないといけません。新規就農時は、栽培に関するさまざまな設備や技術の習得という最初のハードルが高いのに、売り方も既存の流通を使えないとなると、急な坂道をよじ登って進んでいくことになります。だからといって直販をやめろとは思わないし、直販はいいとも思っていますが、見た目より急勾配であることを覚悟して始めないといけません。

久松さんも急な坂道を登ってきたのですか。

久松達央さん
久松達央さん
そうです。僕も取り組みやすいだろうと、これから訪れる坂道の勾配を考えず飛びついたのですが。なんとかよじ登った感覚ですね。

直販にかかる業務コストを忘れていない?

直販
作図:紀平真理子(久松達央さんの資料を参照して作成)
市場流通と市場外流通(直販など)を比較して、出荷団体手数料や卸売経費、仲卸経費を削減できるため、直販は生産者の利益が増えるといわれています。しかし、この試算には「業務コスト」が入っていないことを久松さんは指摘します。

直販には共販出荷にはない業務コストがかかる

一人で栽培と販売を両立させようと思うと、何が課題になるのでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
作って、売るということは二人分の仕事をするようなものです。一人で両立させようとすると、睡眠時間を削って長時間労働することが避けられなくなります。僕はすごく頑張って、一人で年間売上750万円までは到達しましたが、頑張ってできる限界はこのあたりでした。でも、当時は自分の心身に目を向けず、周りの人にもしわ寄せがいっていました。何より、今思うと仕事の質もよくなかったです。

直販で経営規模が大きくなると、なぜ限界が訪れるのでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
直販は、そもそも効率がよくないです。最初は栽培の片手間で受発注などのバックオフィス業務ができたとしても、出荷量の増加に伴って、業務負担量が増えていきます。うちの場合は、FAXで受注をしていたときは、貴重な労働力のかなりの割合をその業務に充てていました。一人だと頑張ればいいやと思ってしまいますが、人を雇うようになり人件費がかかっていることが見えてしまって、「とてもじゃないけど、アナログではやっていられないな」と思いました。

そこで、業務システムに投資をしたのですね。

久松達央さん
久松達央さん
そうです。1時間あたりの負担を減らすために、業務部分に関してデジタル化やバックオフィス業務の自動化に投資し、そこにかかる人手を減らしました。その当時の売上規模からすると大きな負担でしたが、業務負担の効率化を進めない限り、販売以外に労働力を充てられず、「ずっと売上が上がらないか、長時間労働を繰り返すしかないんだ」と先が見えなくなってしまったので、賭けに出て先に業務部分を整えました。

「直販は儲かる」は誤解

JAなど共販出荷だと業務システムへの投資は不要ですか。

久松達央さん
久松達央さん
BtoB(企業間取引)というのは、取引件数も少なく、販売先にすでに仕組みが構築されているので、生産者側の業務負担は少ないと思います。

そうなると、共販出荷の生産者は栽培への投資に注力できるということですか。

久松達央さん
久松達央さん
そうだと思います。共販出荷や契約栽培は栽培と販売を分けるやり方です。あらためて歴史を振り返ると、もともと生産者自身が自家用に作っていた農産物を売り歩いていたといいます。販売量の増加に伴い、栽培と販売を分けるようになりました。この分業によって、効率化が進み、全体として流通がまわるようになりました。

栽培と販売を両立させる直販は、昔のスタイルだということですね。

久松達央さん
久松達央さん
そうです、作って売るという直販のやり方は、歴史を逆行するようなものです。直販は、基本的には効率化に反するものなので、直販が儲かると思っている人がいるとすれば、それは誤解だと思います



野菜セットの直販には、多品目栽培がいいの?

野菜セット
写真提供:久松達央
直販を考えている場合には、その栽培品目の構成にも目を向けなければいけません。お客さんにとって魅力的なラインナップであるかという点はもちろんのこと、その戦略は経営上成り立つのかなど多角的な視点を持つことが肝心です。野菜セットの直販を考えている場合、多品目栽培は効率的な選択なのでしょうか。

栽培品目の構成についての考え方

栽培品目の構成とは何でしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
例えば、直売所などできちんと売上をあげている人は、芋類など収穫後に貯蔵ができ、すぐに売り切る必要のない「土もの類」と、鮮度が大切で、収穫してから短い時間でお客さんの元に届くという直販ならではの魅力でお客さんをひきつける「葉物類」の栽培する品目のバランスを考えていますね。

品目構成のコツはあるのでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
コツではなく、自分がどうしたいかですね。飲食ビジネスの考え方で「FD比率(下記参照)」というものがあります。この考え方を元に、飲食店はそれぞれ食べもの中心か、ドリンク中心かを考えながら店舗づくりやメニュー構成を考えていきますよね。野菜セットなども、商品としての魅力だけではなく、どの品目なら経営として成り立つか考なくてはいけないという点では同じです。子安大輔さんの著書『「お通し」はなぜ必ず出るのか?』(新潮新書)を読んで、飲食ビジネスと野菜セットの照らし合わせるとおもしろいですよ。

FD比率とは、売上高に占めるFood(食べもの)とDrink(ドリンク)の比率
フードに対して飲み物の価格が高い居酒屋では、手間がかからないアルコール類をいかに飲んでもらうか考えます。その分、食べものにはこだわることができます。一方で、定食屋は、基本的にはフードだけで勝負をするので、薄利多売か客単価を極端にあげて収益を確保します。


多品目栽培も非効率?

消費者直販の場合は、多品目が適しているのですか。

久松達央さん
久松達央さん
野菜のような日々の食卓に欠かせないものの場合は、多品目の方が商売はしやすいですね。トマトやイチゴのように単品でも成立するものはいいですが、小松菜だけの直売となると、直販というより直売所のアイテムの一つになりますよね。そうなると、ほかの人との協力が必要で、卸売に近い感じですね。

多品目や野菜セットも非効率なのでは。

久松達央さん
久松達央さん
そう、多品目栽培は投資や技術習得の対象を絞りきれないので非効率なやり方です。さらに、僕らのように多品目で栽培して、ひとつの農場からお客さんへ野菜セットを届けるやり方は、とても不合理です。例えば、いろいろな人が栽培したものを集めて、お客さんが満足する品揃えを約束している小売店のやり方は、大変効率的です。

単品目で直販というケースは難しいのでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
うーん、なかなか急な坂道ですよね。第3回で登場した寺坂農園株式会社の寺坂祐一さんは、メロンでファンを作って、3kgとか5kg単位でニンジンやジャガイモも販売しています。でも、これはメロンありきで、「メロンがおいしい寺坂さんが販売するニンジンだから購入しよう」で成り立っているということを勘違いしてはいけないですよね。

久松流極意|直販に取り組む生産者が息切れする三つの非効率

久松達央さん
写真提供:紀平真理子
これまで述べてきたとおり、直販を始めるには、栽培だけでなく販売にも同時に取り組まなければなりません。また、野菜セットなどを消費者へ直送する場合には栽培品目も広い範囲におよびます。そのため、すべての業務において対象が絞りきれず、経営にさまざまな制約が出てきます。

直販に取り組む生産者が急な勾配の坂道を登る途中で、息切れするポイントはみんな同じだと久松さんはいいます。「直販に取り組む生産者が息切れする三つの非効率」として解説していただきました。

第一の非効率:作るものが多過ぎて、技術の習熟が遅い

新規就農時には、栽培技術や管理技術を習得することが大切です。しかし、直販で多品目栽培の場合、品目が多いゆえに対象が絞りきれず、栽培技術が身につくまでに時間がかかる傾向があります。

第二の非効率:販売できる量には限界がある

その人の努力の有無に関わらず、販売を委譲せず自分で販売するという方法には、販売できる量に限界があります。また、基本的には知り合いに販売する延長である直販では、急激に売上を伸ばすためには長い時間を要します。新規就農者の場合は、軌道に乗るまで資金力や体力がもつのかという点にも留意が必要です。

第三の非効率:投資ができない

一人で栽培と販売を両立できる範囲には限界があります。直販の場合、栽培への投資だけでなく業務管理システムなどへの投資も必要ですが、資金不足で十分に投資ができず、非効率な経営を継続してしまいがちです。

直販に取り組む場合には、三つの非効率が存在することを心に留めておきましょう。そして、非効率であってもなお直販したいのかについて、改めて考えてみましょう。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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