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【農福連携事例】京丸園はユニバーサル農業で、経営基盤を強くし、関わる人みんなを笑顔に!


近年は広く知られている「農福連携」ですが、静岡県浜松市の京丸園株式会社は、以前より障害者雇用を実践してきました。農福連携の中でも、京丸園が掲げる「ユニバーサル農業」の本質とは、一体何でしょうか。また、GAPとユニバーサル農業の相乗関係や、京丸園の今後の展望についてもお話を伺いました。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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京丸園

写真提供:maru communicate  紀平真理子
静岡県浜松市南区に位置する京丸園株式会社では、水耕栽培により通常よりサイズの小さい「姫ねぎ」「姫みつば」「姫ちんげん」のほか、水稲 、野菜類も栽培しています。1996年より障がい者の雇用や受け入れを行っており、農福連携の中でも、農業が発展することを主眼においた「ユニバーサル農業」を実践しています。その取り組みが評価され、令和元年度(第58回)農林水産祭天皇杯を受賞しました。鈴木厚志さん、鈴木緑さんに伺ったユニバーサル農業の本質とは?

ユニバーサル農業とは

京丸園
写真提供:maru communicate 紀平真理子
農福連携の中の「ユニバーサル農業」とは、「ユニバーサル=普遍的な、全体の」という意味があるように、障がい者などを含むすべての多様な人々が従事できる農業です。静岡県浜松市では、2005年に浜松市農業水産課が所管の「ユニバーサル農業研究会」が発足し、市内で農業者と福祉施設を結ぶさまざまな連携が生まれています。

京丸園株式会社は、農業に主眼を置いたユニバーサル農業を実践しています。京丸園のユニバーサル農業とは、障がいを持った人と一緒に働くことで農業経営や農作業の課題を洗い出し、改善をし続けることで農業経営を発展させていく取り組みです。また、多様な担い手の育成にも活かすことができます。

京丸園株式会社の概要

京丸園
写真提供:maru communicate 紀平真理子
京丸園株式会社は、1996年より障がい者自立支援センターと連携し、雇用および研修生の受け入れを開始しました。2019年には第48回日本農業賞大賞、令和元年度(第58回)農林水産祭天皇杯を受賞しています。

会社名:京丸園株式会社
所在地:静岡県浜松市
経営理念:笑顔創造
屋号継承:2004年
圃場面積、栽培品目:130a(水耕栽培)、100a(水稲)、50a(野菜類)
売上高:4億円
流通:JAとぴあ浜松経由で市場流通
雇用人数:100名中障がい者25名(2020年現在)


話を聞いたのは|鈴木厚志さん、鈴木緑さん

京丸園
写真提供:maru communicate 紀平真理子

鈴木厚志さん:代表取締役、NPO法人しずおかユニバーサル園芸ネットワーク事務局長
鈴木緑さん:総務取締役、栄養士、初級園芸福祉士


京丸園の目指す農業経営

京丸園
写真提供:maru communicate 紀平真理子
京丸園が何を目指しているのか?と問われたら、「農業経営が良くなること」しか考えていないという鈴木厚志さん。今は、他の企業や福祉の力を借りながら経営体力をつけているところで、農業が強くなれば、いろいろな課題を解決して地域に貢献できるようになると考えています。
鈴木厚志さん
鈴木厚志さん
企業との連携も視野に入れています。企業との連携によって食べる人や、働く人によいだけではなく、農地保全や、ここで農業を続ける意味も出てきます。もちろん関わる企業もよくなるので、みんながよくなるってこういうことだと思います。工夫して稼いで利益を循環させるというのがビジネスの基本だと思っています。

京丸園が実践するユニバーサル農業は働くみんながスキルアップ

京丸園
写真提供:maru communicate 紀平真理子
京丸園のユニバーサル農業では、農家が抱えている多くの仕事を、一緒に働く人たちに手伝ってもらうことも農業経営を発展させるポイントだと考えられています。

工夫と改善で障がいを持った人にもできる作業へ

農家は、営業も生産も雑用もすべて一人で抱え込んでいる場合が多く見られます。鈴木さんは、その仕事をほかの人に任せていくことが、農業経営を発展させる構図だと考えています。今まで専門家にしかできないとされていた業務も、経営者の工夫次第で障がいを持った人が担当できることがわかってきました。
鈴木厚志さん
鈴木厚志さん
技術が必要な種まきがいい例で、僕は社員に何年か教えてその作業を移管しました。その次に社員がパート従業員に教えていたのですが、ここまでは時間をかけて経験と勘で伝えることができました。でも、パート従業員が障がいを持った人たちに教えようとすると、そうはうまくいかないんです。そこで、機械を開発し、組み合わせることで、誰でもできるように改善しました。


障がい者に作業を手伝ってもらうことで、社員やパート従業員たちが、よりスキルを要する仕事ができるようになりました。その結果、みんなの時給も上がっていくという仕組みです。
鈴木 緑さん
鈴木 緑さん
一緒に働くみんながスキルアップして、より高度な仕事をしないと、障がいを持った人たちの居場所がなくなってしまうので、みんなで成長をしていこうというのが私たちが考えるユニバーサル農業です。ですので、うちでは従業員同士が揉めたことはありません。


現在は、障がいを持った人が100名中25人(25%)ですが、これを今後は40%まで持っていこうと考えています。経営スタイルとしては、会社が成長するために、健常者が会社を引っ張っていき、障がい者に支えてもらうイメージです。

スキルアップのための機械化

機械化に関しても、一般的には機械化=人員削減や省力化といったイメージが持たれがちですが、京丸園の場合は、作業を担当する障がい者が使いやすい「スキルアップのための機械化」と捉え、障がいを持った人を主体にしてデザイン、開発した機械を導入しています。これこそ、まさしくユニバーサル農業の考え方です。

作業を細分化する

京丸園
写真提供:maru communicate 紀平真理子
作業の細分化もユニバーサル農業には欠かせない視点です。現在、種まきや掃除などの業務について「誰が」「どれくらい」作業したかを洗い出し、ユニバーサル農業を導入する前後で比較しています。さらに、「種まき」の中の作業内容を「計測」「洗浄」「播種」のように細かく区切って見ていくと、難しいと思われていた作業内容も、社長以外のスタッフに任せられることがわかってきました。社長から社員、パート従業員、障がい者へと担当者が移行していき、工夫次第で誰でもできるようになったのです。
鈴木 緑さん
鈴木 緑さん
何が起こったかというと、社長の現場仕事がなくなっていました(笑)

京丸園にとってユニバーサル農業は、農業経営の発展が前提

京丸園
写真提供:maru communicate 紀平真理子
農福連携というと、福祉事業のように捉えられがちですが、京丸園のユニバーサル農業は、あくまでも「農業経営の発展」が前提です。京丸園は「福祉事業者」ではなく、農業で利益を得る「アグリビジネス」を柱に農福連携を実践しています。その理由は、福祉と連携することで農業の経営課題が見えてきて、「農業が変わる」きっかけになると考えているからです。また、自分一人で仕事しているといずれ業務の限界が訪れます。それを解消するために、細かい仕事を障がいを持った人たちにお願いして、農園全体を底上げしていきます。
鈴木厚志さん
鈴木厚志さん
農業経営が発展することで、障がいを持った人の活躍の場が増える構図がユニバーサル農業で、それを目指しています。

鈴木 緑さん
鈴木 緑さん
今ある経営の中で、「この部分を障がいを持つ方にお願いしよう」という考え方です。そして、問題が起こったら何をすればいいのかをみんなで考えて改善していきます。



GAP×ユニバーサル農業は相乗効果

JGAP
写真提供:maru communicate 紀平真理子
先日、浜松市で開催された新規就農者向けセミナーで、鈴木厚志さんは「GAPはユニバーサル農業と相性がいい」と発言されました。それは一体どういうことでしょうか。

GAPの本来の目的は?

GAPの本来の目的は、「農産物の安全を確保し、より良い農業経営を実践する取り組み」です。鈴木さんは、販売への優位性ではなく本来の目的である「より良い農業経営」のために、農家はGAPに取り組むべきだと考えています。
鈴木厚志さん
鈴木厚志さん
「よりよい農業経営を目指そうよ!」というところがスタートラインです。認証を目的とすると、ハードルが上がってしまいます。GAPの項目が大事で、認証の有無に関わらず取り組むことが重要です。だって、やればやるほど良くなりますよ。



GAPに取り組むとユニバーサル農業に近づく

鈴木さんは、働く人にとって働く場所が安全なことが重要だと考えています。たとえ家族経営だとしても、アルバイトを一人でも雇用すれば、従業員に対する責任は発生します。京丸園は、障がい者雇用を20年近く前から実施していたこともあり、「障がいを持つ人に怪我をさせてはいけない」という思いで、工程管理のマニュアル作りを続けてきましたが、これがGAPの考え方と合っていました。そのため、大きく変更を要する点はなく、京丸園は2013年にJGAP認証を取得しました。

つまり、ユニバーサル農業に取り組むとGAPに近づき、GAPに取り組むとユニバーサル農業に近づいていくそうです。そして、最終的に行き着く先は同じです。
鈴木厚志さん
鈴木厚志さん
GAPは、自分たちでルールを作って、その基準を守りなさいというものですが、自分たちだけだとルールは作れても、遵守が難しいのが実情です。GAPでは第三者機関の視点が入るところがいいですね。ユニバーサル農業では、福祉がその役割を担っていますよ。



今後の展望は、企業や地域とのさらなる連携の強化

京丸園
写真提供:maru communicate 紀平真理子
京丸園の今後の展望は、企業と組んで、見える範囲の田畑を何らかの形で耕して利益を循環させていくことです。現在は、CTCひなり株式会社(伊藤忠テクノソリューションズ株式会社の特例子会社)と提携していますが、さらに数社の企業と組んで、一緒に地域の課題を解決していきたいと話します。

ソーシャルファームやSDGsとの連動

近年、ソーシャルファーム(Social firm)が広く知られています。ソーシャルファームの基本的な考え方は、「企業活動によって社会の課題を解決していく」というもので、この視点はユニバーサル農業そのものです。また、ソーシャルファームの考え方は、SDGsともリンクしているといいます。

農業をものさしに、SDGsを具体化する

しかし、SDGsという言葉は知られていても、抽象的であることから企業側も理解しがたいという課題があります。鈴木さんは、SDGsも農業をベースに考えると具体化されて、わかりやすいのではないかと感じています。
たとえば、静岡県浜松市では、稲作経営は規模が小さく採算が合わない状況です。そこで、「お米を企業に買い取ってもらう代わりに、企業の障がい者雇用や心の病に悩む人などオフィスで働けない人を農園で受け入れできますよ」といったらどうでしょうか。農産物を現金化するのではなく、エコマネー※の循環として企業と連携ができれば、農産物の価値を多くの方々に知っていただけるチャンスになると考えています。
※地域における環境、福祉、文化の創造を旗印に、コミュニティのネットワークを活用した従来の貨幣経済とは異なった人間性豊かなマネー
鈴木 緑さん
鈴木 緑さん
連携をするときに、取り組み内容が具体的でないと、抽象的でピンとこないと思います。具体化すれば、わかりやすいしブレないのではないでしょうか。障害者手帳を交付すると同時に、その人の道筋を作ってあげないといけないと思っています。自立を支援する企業が増えてくると変わると思いますよ。

「笑顔創造」の関係を目指し続ける

京丸園
写真提供:京丸園株式会社
京丸園は、多くの人を巻き込みながら農業経営を行い発展し続けています。関わる人たちは、福祉施設や障がい者だけでなく、企業や市町村、高齢者も含めた従業員など多様な人たちです。そして、彼らと長期間にわたって関係を築いています。当然、関わる人が多ければ多いほど意見の相違は起こりますが、そのときには、経営理念である「笑顔創造」にのっとって、関わる人すべてに目の前で笑ってもらえる関係を目指します。そのためには「何をすればよいのか?」を常に話し合うスタイルが、京丸園に関わる人たちを虜にする理由でしょう。

農福連携についてはこちらもチェック





 

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