農福連携とは
農福連携とは?農業を通した社会参画を目指して
農福連携とは、障害者などが農業分野で働くことで社会参画をしていく取り組みのことです。全国各地の自治体、企業、NPOなどがさまざまな形で運営をしています。
農福連携の対象者は、多くの場合、主に障害者と考えられていますが、高齢者や生活困窮者、引きこもりの人など、個人として自立した生活を営むことに困難を抱えている人々を幅広く対象とすることができる取り組みです。
農福連携のはじまり
農福連携という言葉が広く使われるようになる以前から、農業と福祉の連携は行われていました。農福連携の先駆けとして知られているのは、指定障害者施設「こころみ学園」の取り組みです。1958年ごろから、特別支援学級の元教員が障害を持つ生徒たちの働く場所を作るために、開墾してぶどうを植えました。その後、1969年に「こころみ学園」がスタートし、現在では、学園と同じ敷地内のココ・ファーム・ワイナリーで多くの障害者が作業を行い、品質の高いワインを出荷しています。そのほかにも、病気の人や障害者対する心身のケアやレクリエーション、就労訓練を目的とした園芸療法や農作業体験は、さまざまな現場で行われてきました。その中で、一つの大きな転機は2006年に障害者自立支援法が施行され、障害者の自立支援や地域移行を促す動きが出てきたことです。メディアでも「農福連携」という言葉が取り上げられるようになり、2015年に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太方針)には「障害者等の活躍に向けた農業分野も含めた就労・定着支援」という言葉が盛り込まれました。
「一億総活躍社会」の実現を目指す政府は、2019年に省庁横断の会議として「農福連携等推進会議」を設置し、「農福連携等推進ビジョン」を取りまとめました。
農福連携のメリットとデメリットを考える
障害者と農家の双方にあるメリット
農福連携のメリットは障害者自身と農家の双方にあります。農業や農村には、人に癒しを与える力があり、障害者は農の仕事をすることによって癒されたり、リハビリテーションにつながったりすることがあります。また、農業には種まきから収穫、さらには加工や販売までさまざまな作業があります。専門的な技術の必要なものから、簡単なことを繰り返し行うものまで、作業の種類が幅広くあるため、それぞれの体力や特性に応じた仕事をすることができると考えられています。障害者が社会に出ることで地域との交流が生まれ、雇用されれば生活が安定したり、自立への道筋をつけることができます。一方、高齢化や後継者不足が課題となる農家にとって、障害者は貴重な担い手になります。また、障害者の存在が職場の雰囲気を和やかにしたり、障害者を雇用することで見直した作業方法が思わぬ生産性の向上につながることもあります。
デメリットも。安定した雇用の確保、安全への配慮や適切な指導の必要性
同じようにデメリットについても考えてみましょう。農業は屋外での作業が多く、天候や季節に左右されるという特徴があります。年間を通して安定した雇用形態がとられればよいのですが、天候によって急に仕事がなくなったり、繁忙期だけの雇用だと、仕事をするリズムや技術の習得が難しくなります。そのため、ハウス栽培や水耕栽培を利用したり、六次産業化を進めることで、年間を通して障害者の雇用を維持できるように努めている農家もあります。また、農業には農機具など使い方を誤ると危険な道具や機械があり、雇用する人は、安全に気を配る必要があります。ただこれはどんな人を雇用しても必要なことです。一歩進んで、どんな人でも安全に作業ができるユニバーサルデザインの思想で仕事場を見直してみる機会にしてみてはどうでしょうか。作業方法についても、誰でもわかるように具体的な指導をする必要があります。「きれいにしておいて」というような抽象的な指示ではなく、「3回拭いてください」というような具体的な指示が求められます。こうしたことを重ねていくうちに、作業がシステム化されて精度やスピードが上がった例もあります。
ユニバーサル農業に取り組む京丸園の事例インタビューはこちら
農福連携の取り組み方
情報を集める
農林水産省ウェブサイトには、「農福連携の推進」というページがあり、さまざまな情報を提供しています。掲載されている「はじめよう!農福連携スタートアップマニュアル」には、求人の出し方や障害福祉サービス事業所との契約の仕方などについても、ていねいに解説されています。農業体験や実習の受け入れ
農家側は障害者を雇用する意義は感じていても、実際に受け入れることができるのか不安を感じる場合もあるでしょう。まずは農業体験や職場実習などの形で、障害者と接してみてはどうでしょうか。受け入れを検討している場合は、近隣の特別支援学校高等部の進路指導担当や教育委員会にたずねてみましょう。時間をかけてお互いの理解を深めてから、ゆっくり取り組みを進めれば、不安も少なくなります。特別支援学校を通じて入社希望者を受け入れている森の環の例
障害福祉サービス事業所と請負契約を結ぶ方式
1年を通じて仕事がない場合や、直接雇用することに不安を感じる場合には、障害福祉サービス事業所と農家が請負契約を結び、仕事を依頼する方式があります。この場合には、障害者が障害福祉サービス事業所の支援スタッフと一緒に農作業を行うことが多いので、障害者との触れ合い方を確認することができます。複数の就労継続支援事業所に農作業を委託する笠間農園の例
障害者を雇用する方式。求人はどうする?
障害者に任せられる仕事が通年あり、受け入れる準備が十分に整えば、直接雇用する方式をとることも考えられます。障害者を初めて雇用する際には、ハローワークの専門窓口に相談に行きましょう。ハローワークでは、求人の申込みを受け付けるほか、雇用管理についての助言や、各種助成金の案内を行っています。助成金などの経営上のメリットは活用しましょう。7人の障がい者を直接雇用するこまつな菊ちゃんハウス
農福連携に関する補助金
農福連携の取り組みをするにあたり、受けられる補助金などを確認しておきましょう。農山漁村振興交付金(農林水産省)
農福連携に取り組む農業法人や福祉サービス事業者等に対する支援のための交付金。ソフト対策とハード対策があり、原則として併せて行うものとされています。ソフト対策は研修、視察、マニュアル作成などが対象になり、計画に基づいて3年間事業を実施します。助成は最初の2年間で上限150万円です。ハード対策はトイレや休憩所などの施設の設置を対象にしたもので、助成期間は最大2年間、助成額は条件によって上限200万円から2,500万円まであります。いずれも目標年度までに障害者などが5名以上増加することが求められます。
2015年から実施されており、2021年度分については、2021年2月26日から3月12日まで公募が行われました。問い合わせは、管轄の農政局へ。
農林水産省「農福連携の推進」
障害者トライアル雇用助成金(厚生労働省)
障害者などを試験的に雇用する事業主を対象とした助成金。精神障害者を雇用する場合、一人につき、月額最大8万円を3カ月、月額最大4万円を3カ月(最長6カ月間)が助成され、精神障害者以外の障害者を雇用する場合には、月額最大4万円(最長3カ月間)が助成されます。週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とする短時間トライアルコースは、一人につき月額最大4万円(最長12カ月間)が助成されます。問い合わせは、管轄のハローワークへ。
厚生労働省「障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース」
農福連携の事例
農福連携の取り組みには、就労継続支援事業所の施設外就労として作業委託する形や直接雇用、生産者が就労継続支援事業所を設立するケースなど、さまざまな事例があります。経営形態や作型、作目、販路により取組方はさまざま
経営形態のほか、作目、販売先などによっても取組方は異なります。こちらの記事では、ごきげんファーム(茨城県つくば市)、京丸園株式会社(静岡県浜松市)、株式会社グリーンマッシュ(静岡県浜松市)、こまつな菊ちゃんハウス(富山県射水市)、株式会社森の環(富山県高岡市)、株式会社笠間農園(石川県内灘町)の6つの例を取り上げています。
農林水産省公表「農福連携事例集」
農林水産省ウェブサイトでは、全国の農福連携の取組について、9ブロックの地域に分類して掲載しています。多くの取り組みについて、かなり細かく書かれているので、地域や運営主体などにより、目指すスタイルのものをピックアップして参考にするのがおすすめです。農林水産省「農福連携の取組実践事例集(全体版)」
農林水産省広報誌「aff」
農林水産省が発行している広報誌「aff」の2019年2月号は農福連携の特集。7つの団体の取り組みのほか、農福連携により生み出された商品の紹介もしています。ウェブ上で閲覧できます。農林水産省「『aff』2019年2月号」