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【農福連携事例】農家が始めた福祉事業。10年経過し見えてきた課題に向き合い、柔軟に対応していく

農家が福祉事業所を立ち上げて、農福連携を行っている事例を紹介します。静岡県浜松市の株式会社 グリーンマッシュは、10年前に就労継続支援A型事業所を立ち上げました。また、昨年B型事業所も開設しました。農福連携をとりまく環境が変化する中、農作業を中心に生産活動をするグリーンマッシュが、現在感じている課題や工夫、今後の展望について話を聞きました。


グリーンマッシュ

撮影:紀平真理子
農業と福祉のマッチングにより、それぞれを刺激しあい、よい相乗効果を生み出すことが期待できる「農福連携」には、さまざまな事例があります。

農家の長男の岩崎幸彦さんは、10年前に就労継続支援A型事業所を立ち上げ、自農場で、福祉の力を借りながら、農業を続けてきました。農業と福祉を取り巻く環境が変化する中で、見つかった課題や解決のための工夫、今後の展望などについて聞きました。

農福連携についてはこちら

農福連携のさまざまな形|農業と福祉の組み合わせは?

農福連携
撮影:紀平真理子
農福連携とは、障がい者などが農業分野で活躍しながら、自信や生きがいを持って社会参画を実現する取り組みです。農業と福祉の組み合わせには、さまざまな形があります。

農業視点での農福連携

農業法人や農業経営体が障がい者の施設外労働を受け入れ、農作業を委託する

農業法人や農業経営体が、直接障がい者を雇用せず、地域にある就労継続支援事業所(A型、B型)などと連携して、農作業を委託し、事業所の利用者である障がい者の施設外労働を受け入れる事例が数多くあります。いわゆる一般的に生産者がイメージする農福連携です。

農業法人や農業経営体が障がい者を直接雇用する

農業法人や農業経営体が、農業の現場で働きたい障がい者を直接雇用する方法です。生産者が特定非営利活動法人(NPO法人)や、就労継続支援事業所(A型、B型)などを開設する例もあります。

障がい福祉サービス事業所視点での農福連携

農業者から農作業を請け負う

就労継続支援事業所(A型、B型)などが、人材を必要としている地域の生産者と連携し、農作業を受託し、事業所の利用者である障がい者の施設外労働として作業を請け負う方法です。

福祉施設が自ら農業生産に参入する

農業に限らず、さまざまな生産活動をしている障がい福祉サービス事業所の就労継続支援事業所などが、自ら農地を確保して活動の一つとして農業を行う形態です。

そのほか、民間企業の特例子会社が障がい者を雇用して農業参入するなども

民間企業が、障がい者の雇用促進や、安定を図るために設立する会社を特例子会社といいます。特例子会社は、雇用者を親会社における障害者の雇用率に算定することができる特徴もあります。自ら農業生産を行ったり、農作業の請負をしたりするなど農業分野に進出する特例子会社も数多くあり、農福連携の一つの形になっています。

参考:はじめよう!農福連携スタートアップマニュアル|農林水産省、厚生労働省
平成30年度食料・農業・農村白書(特集3 広がりを見せる農福連携)|農林水産省
企業による農業分野での障害者の働く場づくりの意義と課題(農福連携に取り組む企業に関する研究成果報告)|農林水産政策研究所(企画広報室長 兼 首席制作研究調整官 吉田行郷)

農家が福祉事業をはじめた理由|福祉と農業の融合に可能性を感じた

農福連携事例
撮影:紀平真理子
今回お話を聞いた静岡県浜松市の株式会社グリーンマッシュは、生産者が就労継続支援事業所を立ち上げる形態で、福祉事業所として自農場の農業を主とした生産活動を行っています。自らの農場の中で農福連携し、福祉の力を借りながら農業を主に活動している点で、農福連携を考える生産者や福祉事業所にも大変参考になるでしょう。

話を聞いた人

グリーンマッシュ
撮影:紀平真理子

岩崎幸彦さんプロフィール
株式会社 グリーンマッシュ(障がい福祉サービス就労継続支援A・B多機能型)代表取締役社長・アグリ事業部責任者
所在地:静岡県浜松市
栽培品目:特別栽培でチンゲンサイ、空心菜、パクチー(いずれもハウス)、モリンガ(露地)
経営面積:35a(ハウス)、30a(露地、ただし使用しない場合もある)
従業員数:職員7名、利用者(障がい者)16名
販売:チンゲンサイ(農協と仲卸業者へ販売)、空心菜とパクチー(農協)、モリンガ(加工後にモリンガの生産加工販売会社へ)

なぜ農家が福祉サービス事業所の就労継続支援A型事業所を立ち上げたのか?

もともと養豚農家の後継者だった岩崎さんですが、20代のときに家を飛び出し40代前半まで会社勤めをしていました。その後、チンゲンサイに作目転向した実家に戻ったものの将来性を心配して新たな可能性を探っていました。そんな折、福祉と農業の融合に可能性を感じ、就労継続支援A型事業所を立ち上げました。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
農家の長男である私が会社を作って障がい者福祉をやりはじめ、10年経ちます。福祉の知識も経験もなかったのですが、当時出会った就労継続支援A型事業所を経営する人のところへ見学に行ったところ、障がいを持った人たちがしっかりと働いているのを実際に目にして、これならやれるのかな?やっちゃえ!と勢いで始めました。勉強していたらできなかったかもしれません。

就労継続支援A型事業所とは
通常の事業所での雇用が困難であり、雇用契約による就労が可能な人と雇用契約を締結して、就労や生産活動の機会を提供する。就労に必要な知識や能力の向上のために訓練を実施するなど、必要な支援も行う。
※グリーンマッシュの場合は、農作業を生産活動とする。

福祉サービスを開始した当時は、シイタケ栽培をしていましたが、3年で断念し、両親が栽培していたチンゲンサイに切り替えていきました。現在は、就労継続支援A型事業所の利用者が、チンゲンサイ、空心菜、パクチー、モリンガすべての作目の栽培をしています。

昨年から就労継続支援B型事業所も

障がい者福祉
撮影:紀平真理子
令和2年1月には正式に指定を受け、就労継続支援B型事業所も立ち上げました。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
A型をはじめた10年前と比べて、事業所数が増えるに従い、サービス提供のための要件が年々厳しくなっています。そのような経緯もあり、B型にも取り組むことに決めました。B型は雇用契約がなく、求人募集ができないので、通常は見学会などを開き、実際に農場を見てもらいながら利用者を募りますが、コロナ禍で難しい状況なので、利用者が集まらず苦労しています。

就労継続支援B型事業所とは
通常の事業所での雇用が困難であり、雇用契約による就労が困難な人に、就労や生産活動の機会を提供する。就労に必要な知識や能力の向上のために訓練を実施するなど、必要な支援も行う。
※グリーンマッシュの場合、ポップコーンの製造で生産活動をしている。


どの農作業工程を障がい者に任せている?職員の役割は?

農福連携事例
撮影:紀平真理子
ハウス内での土耕チンゲンサイ、パクチー、空心菜の栽培と、露地でのモリンガ栽培をしているグリーンマッシュですが、どの工程を事業所の利用者である障がい者に任せているのでしょうか。また、健常者である職員の役割をどのように考えているのでしょうか。

障がい者に任せていることはトラクターでの作業以外全部

岩崎さんは、基本的にはトラクターを使う作業以外のすべてを任せていると話します。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
現状トラクターは操作できる人がいないので、職員がやっています。それ以外は指示を出せば、時間はかかりますが、全てできます。農薬散布も紙に書いて、できる人に任せていますが、しっかり安全にやってくれています。

職員の役割はサポートであって農作業ではない

あわせて7名いる職員の役割は、夏場の熱中症対策や、作業環境を整え利用者が働きやすいようにサポートすることだと岩崎さんは話します。障がい福祉サービス事業所の職員は、一緒になって農作業をしてしまい、障がい者ができないところに手を出してしまいがちです。そのようにならない秘けつは何かあるのでしょうか。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
当初から、「A型には雇用契約がある、つまり必然的に給料が発生しているので、しっかり仕事をしてね」「福祉事業所のサービスを受ける利用者でもあるけれど、雇用契約を締結した労働者でもあるから、結果を出して会社に貢献してね」ということは日々口にしていました。ただ「頑張りました」ではだめで、出荷に必要な量をクリアしていくことも必要。15時に障がいがある人たちが帰宅したあとで、職員が残りの作業をやるのも「違うでしょ」と言い続けてきたので、それが定着したのでしょうか。

10年間走り続けたからこそ感じている今の課題と工夫

障がい者農業
撮影:紀平真理子
グリーンマッシュは、福祉の力を借りながら農業をはじめて10年が経過しています。その間に、農福連携という概念が広まり、また制度の後押しもあり、就労継続支援A型施設、B型施設も増加し、全国各地で農福連携の事例が見られます。10年間走り続けた岩崎さんが、現在課題に感じている点と、工夫している点を聞きました。

課題は生産性の低さ

障がいを持った人たちは、時間をかけて、指示をきちんと出せば、しっかり仕事をしてくれると話します。一方、スピードや生産効率については、どうしても下がってしまうと言います。市場出荷を主としているグリーンマッシュにとって、葉物野菜の価格が伸び悩む中、生産性を上げることは重要な課題です。そのため、岩崎さんは改善策を模索し続けています。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
収穫、選別、出荷と手作業が中心のハウスでの葉物栽培は、作業的にも予算的にもすべてに機械を導入することはできないので、難しさを感じています。現状で取り組んでいるのは、能力や特性が異なる障がい者をそれぞれに見合った作業グループへ配置しています。

一人ひとりの特性を生かせるところに配置する方法
収穫、選別、両方難しい場合には残さ拾いと3つのグループに分けて、見合ったところに配置する。できるところに配置することで、効率が上がる。定期的に面談を行ったり、日々の職員とのコミュニケーションから希望や適性を拾い上げる。


農作業による体への負担も

グリーンマッシュでは、雇用期間が最も長い障がいを持った人は、8年間ほど農作業をしています。そうなると徐々に、膝や腰に痛みを感じる人が出てきていると言います。現在は土耕栽培のため、しゃがみながらの作業ですが、作目を変えて立ったまま作業できる環境に変えることも検討していると岩崎さんは話します。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
体の使い方や道具の扱い方も上手ではない人が多いです。道具はうまく使えば力はいりませんが、全力で力任せに作業してしまうのですぐに疲れちゃうんです。このあたりも課題ですね。

利用者である障がい者に事業所が選ばれる時代へ

はじめた10年前は、就労継続支援A型事業所は多くなかったので、あまり苦労なく人が集まったそうですが、近年の事業所の増加により、利用者を集めることが難しくなってきていると話します。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
事業所は、利用者から選ばれる時代になりました。仕事ができる場所を提供するだけでは選ばれないので、居心地のよいきれいな施設作りもしなければいけません。

新たな挑戦|次の10年を走り続けるために

浜松モリンガ
撮影:紀平真理子
さまざまな課題がある中でも、岩崎さんは走り続けます。昨年よりはじめたモリンガ栽培や、利用者から職員へステップアップさせる形態の検討など新たな挑戦を続けます。


健康食品モリンガの栽培と加工に挑戦

浜松モリンガ
撮影:紀平真理子
昨年より岩崎さんが新たに挑戦しているのが、モリンガの栽培と加工です。モリンガとは、北インドが原産のワサビ科の植物で、栄養素の種類や含有量が高く、加工して健康食品などに使用されることが多いそうです。日本でも、沖縄や九州で栽培されています。定植後1カ月程度で収穫でき、枝をせん定ばさみで切って収穫します。その後、作業所内で枝と葉を分ける作業も生じます。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
加工するまでにさまざまな工程がありますが、比較的誰でも簡単にできる作業なので合っているように思います。葉物野菜の単価が下がり厳しい状況の中で、新たに加工して新たな製品づくりにも取り組みたいと考えていたところに、モリンガの生産加工販売をしている静岡県浜松市のオキメモさんから話をいただいたので挑戦中です。

モリンガ栽培と福祉がマッチする点
・高度な作業ではない
・定植時期も収穫時期も限定的ではないので、天候や人員に合わせて作業スケジュールを決められる
・防除はなし(厚生労働省管轄の健康食品のため、化学合成農薬の使用不可)、追肥も1、2回ですむため、定植後は水やり程度の作業でよい
・健康食品という付加価値が付けられる


利用者から職員へステップアップ

グリーンマッシュの利用者は、毎日5時間の農作業をしています。その中で、本人にやる気があり、かつ能力が見合っている利用者が、現在8時間労働にチャレンジしています。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
農作業をしっかり覚え、本人もやる気満々なので、職員に登用することも考えています。今後もお互いに考えがマッチすれば、自社で雇用し、職員へステップアップさせていくことも一つだと思っています。

次の10年を見据えてさらに経営へ注力できる環境づくり

10年間福祉の形で農業をやってきた岩崎さんが、今、これを選んでよかったと思うところは、自分が農作業をしなくていい点だと話します。もちろん、毎朝指示を出し、様子を見ながら要所のサポートはしますが、基本的な作業は利用者たちに任せることができていると言います。
岩崎幸彦さん
岩崎幸彦さん
彼らに農業の面では頼りっぱなしです。なので、私は、本来の社長業にさらにしっかり取り組み、もっとしっかりとした経営をしていきたいです。10年間続けてきましたが、利用者さんたちと職員に現場を運営してもらって、僕が次のステップを考えないと、次の10年はできないだろうし、いつまでもこのままというわけにはいきません。次にやりたいことを実現させていくのが、経営者だと思っています。

農業と福祉の連携が増えることで見えてきた課題に向き合う

農福連携事例静岡
撮影:紀平真理子
岩崎さんは、経営の意識を持って福祉と共に農業を10年間続けてきました。農福連携が認知され、事例が増えるにしたがって、さまざまな課題も見えてきたと言います。また、事業所が増えたことにより、利用する障がい者や職員不足も課題となっています。そのような環境で、岩崎さんが次の10年を見据えて立てる戦略から目が離せません。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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