GAPとは
GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、食品や労働の安全性や環境保全、人権保護への取り組みを通して、農業における持続可能性を確保しながら、よい農業を実践するための「生産工程管理」の取り組みを指します。倉庫内の備品・農薬類の管理や日々の生産履歴の記録、労働環境の見直しを行うことで、農産物の品質の向上や経営の改善・効率化につながるといいます。
GAPに取り組むだけでもよりよい農業の実践になりますが、その次のステップとして、第三者の審査を受けGAP認証を取得することによって、さまざまなメリットが得られます。ここでは、農家がGAP認証を取得するための手順や種類、必要な費用についてご紹介します。
GAP認証取得のメリット
GAP認証を取得することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。1. 同業他社との差別化が図れる
GAPに取り組むことで農産物への信頼性が高まるとともに、認証を取得すると第三者による客観的な評価が加わります。例えば同じ作物を生産している農家AとBがあったとき、GAP認証を取得したAはBとの違いを「GAP認証」という形で示せるようになるのです。2. 販路拡大の可能性
GAP認証済みの食品を多く取り扱う大手スーパーや高価格路線の小売店など、これまでになかった取引先に農産物を卸せるようになる可能性が高まります。国内のスーパーに加え、海外への輸出時にもGAP認証の取得を求められるケースが増えています。東京オリンピック・パラリンピックでも食材の納入基準としてGAP認証が求められています。3. 農場の意識と行動の改革で経営改善にも役立つ
GAP認証を取得するためには、さまざまな要件をクリアしていく必要があります。生産管理の見直しを通して、異物混入や作業中の事故を防ぐなどのメリットがあるほか、無駄なコストを削減するなどして経営の改善につなげていくことができます。GAP認証取得の手順
主なGAP認証には、JGAP、ASIAGAP、GLOBALG.A.P.の3種類があります。取得するGAP認証の種類は、自社の経営方針または取引先の求めるものによって決定します。それぞれの取得方法について見ていきましょう。JGAP、ASIAGAP認証のために「農場用 管理点と適合基準」を入手し確認する
はじめに、JGAP・ASIAGAPの「農場用 管理点と適合基準」を見て、すでに適合している点と適合していない点を把握し、理解します。農場用 管理点と適合基準は以下のリンクより入手できます。JGAP 農場用 管理点と適合基準|一般財団法人日本GAP協会
ASIAGAP 農場用 管理点と適合基準|一般財団法人日本GAP協会
団体で認証を取得したい場合には、団体で共有しているルールを確認し、団体事務局と各農場の役割分担を明確化してから、GAPの適合基準に則った団体・農場管理マニュアルを作成します。
適合基準をもとにして、帳票をそろえて運営の記録を行う
適合基準を理解したら、自農場がGAPの基準を満たすように、独自の手順を作成して運営し、記録を残していきます。これは最低でも認証を受ける3カ月前から始めます。審査に合格するために、次の5つのステップを繰り返し、農場をGAPの基準に近づけていきましょう。
個別認証~個人(一経営体)でJGAP/ASIAGAPに取り組む場合の手順の一例
1. 組織図を作成して、農場内の各部門に責任者を置き責任を分担する2. 農場内のリスク・環境保全・食品安全に関するリスクを評価し、対策を取る
3. 労働の安全・環境保全・食品安全への対策をはじめ農場独自のルールを策定し、生産計画を立て記録するための記帳台帳を作成する
4. 農場内の整理整頓を行い、作成したルールを従業員含め農場で働く人員に周知させる
5. 生産活動を記録して、定期的に点検を行い改善点を洗い出し、改善していく
団体認証でJGAP/ASIAGAPに取り組む場合の手順の一例
団体で取得する場合は、共有しているルールを確認し、管理点と適合基準について団体事務局や農場それぞれが担うべき管理点を決定し、次の手順を構築して運営します。1. 団体・農場管理マニュアルの配布して周知徹底を行う
2. 内部監査員・内部監査補佐役の選定、チェックリストの作成を行うなど、内部監査計画と準備を進める
3. 内部監査の実施
4. 内部監査指摘項目の是正
5. 是正の確認
審査に申し込み審査してもらう
前述の1~5のステップがGAP認証基準に適合した段階で認証機関に審査を申し込みます。JGAP・ASIAGAPの審査の認証機関は次のリンクからご確認ください。
認証機関一覧|一般財団法人日本GAP協会
GLOBALG.A.P.認証の取得について
GLOBALG.A.P.の認定取得も、まずは認証基準を確認することから始めます。次のリンクから確認してください。GLOBALG.A.P.基準文書日本語版|GAP普及推進機構/GLOBALG.A.P.協議会
これらの資料を見てもよくわからない、わかりづらい場合には、研修会に参加する、GAPの指導員に直接不明点を聞くなどしてみましょう。
(参照)民間団体による第三者認証を備えたGAP認証取得時に、コンサルティングが可能な指導員について:
GAP指導員|農水省
GAP認証取得にかかる費用は
GAP認証にかかる費用は次の通りです。JGAP、ASIAGAPの認証取得にかかる費用
JGAP、ASIAGAPの審査会社は2020年3月時点で全6社。審査費用は約10万円、これに加え、審査員の旅費がかかります。GLOBALG.A.P.の認証取得にかかる費用
GLOBALG.A.P.の審査会社(日本人の審査員がいる会社)は、2020年3月時点で全4社。審査費用の約25~55万円に加え、審査員の旅費がかかります。GAP認証を取得して今後の経営に役立てよう
JGAP、ASIAGAP、GLOBALG.A.P.それぞれの認証を取得するためには、GAPの適合基準を理解したうえでルール作りや生産の記録、生産管理の改善などを行い、審査会社の審査を受ける必要があります。認証までにかかる期間は最低でも3カ月以上、費用は10万円以上かかります。手間と時間、それに費用をかけて認証を取得しなければなりませんが、認証取得後は販路拡大など、売上の向上につながるメリットが得られます。
今後の経営改善にも役立つGAP、持続可能な農業経営への取り組みを考えているのなら、認証取得に向けて行動してみてはいかがでしょうか。