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6次産業化事例インタビュー|直販とフルーツパーラーどちらも大ヒット!和歌山の観音山フルーツガーデン


農業の6次産業化とは、自家栽培した農作物を加工して販売するビジネスモデル。6次産業化に踏み切り継続している事例をご紹介します。和歌山県紀の川市にある有限会社柑香園 観音山フルーツガーデンの代表取締役会長・児玉典男さんに、6次産業化の成功の秘訣を伺いました。

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高橋 みゆき

北海道在住のフリーライター。北海道の畑作農家に生まれ、高校卒業後に農業協同組合に入組。JAでは貯金共済課の共済係として、窓口にて主に組合員の生命保険・損害保険の取り扱いをしていました。退組後、2013年まで酪農業に従事。現在はスマート農業に興味津々。テクノロジーを活用した農業についてお伝えしていければと思います。…続きを読む

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観音山フルーツガーデンの店頭に並ぶ加工品

撮影:AGRI PICK編集部
和歌山県紀の川市にある有限会社柑香園 観音山フルーツガーデンは、インターネット黎明期から自社の商品や加工品をネット販売してきた6次産業のトップランナーです。明治時代からミカンの栽培を始め、昭和初期から海外への輸出を行うなど常に先進的な取り組みをしてきた同社が、どのようにして成功を収めたのか伺いました。

インタビューイー:児玉典男(ふみお)さん
農業生産法人 有限会社柑香園(観音山フルーツガーデン)代表取締役会長、1991(明治44)年創業の柑橘農家の5代目。約25年前よりインターネットによる直販に取り組み、現在の顧客数は30万件以上。2018年4月からはフルーツパーラーをオープン。フランチャイズ化し、2020年8月時点で4店舗を展開。フルーツパーラーは今後も拡大の予定。

観音山フルーツガーデン本店
和歌山県紀の川市粉河3186-126
TEL
フリーダイヤル:0120-593-262
固定電話:0736-74-3331
営業時間:10~17時(年末年始休業)

代々革新的な取り組みをしてきた和歌山の柑橘農家

有限会社柑香園 代表取締役会長 児玉典男さん
撮影:AGRI PICK編集部
ーー約25年前からインターネットで農園の商品を販売しているとのことですが、当時、農家が自らネット販売を手掛けるというのはかなり珍しかったのではないでしょうか。
児玉さん
児玉さん
1911年に初代がミカン畑を始めてから私で5代目になりますが、当農場は代々ビジネス的に農業を展開してきた背景があります。昭和元年から個人出荷を始めて、翌年からは付近のミカンを購入し、国内だけでなく国外への輸出も行っていたそうです。

私どもの地域の特色として、温暖な気候が功を奏して「通年高品質なフルーツを提供できる」という点があります。紀の川市はミカンや梅の印象が強い和歌山にあって、イチジクの生産量も全国1位なんですね。本当にさまざまな種類のフルーツがあるんです。

私がインターネット黎明期からネット販売に取り組んできたのも、この地域の強みを生かせると考えたからです。自社農園だけでは難しかったでしょうが、周辺の農家と協力してこれまでにない販売方法を確立できました。



地域の「もったいない」資源を活用して6次産業化

有限会社柑香園の商品
撮影:AGRI PICK編集部
--フルーツを加工して販売しようと思ったきっかけは何だったのでしょう。
児玉さん
児玉さん
農業経営の拡大を考えた時に、法人化して家族内だけでなく外部からも人を受け入れて、通年雇用する体制が必要です。加工品を作って販売することで、農閑期にも仕事が生まれるようになると思いました。6次産業化で1年を通して安定的な売り上げを得られるようになれば、雇用も安定しますよね。

また、当農園や地元の他の農家さんが本来捨ててしまう果物を当社で加工品にする、ということも行っています。加工品の製造・販売で、自分たちだけでなく、同じ地域の農家さんにも喜んでもらえるような体制を作りました。


--加工品はどのような商品から作り始めたのですか?
児玉さん
児玉さん
2008年ごろに柑橘をジュースにしたのが始まりです。ジュースは一番取り掛かりやすい分野で、自分で調達した原料をほかのジュース工場に加工してもらう形で始めました。瓶詰は、専門の会社にお願いして。

6次産業化の際に、ネックになるのが加工の機械や施設の調達だと思います。自分で搾汁機を導入して、施設を作ってとなると多額の資金が必要になりますよね。各地域に加工場はあると思いますが、季節によって使われていない機械もあります。そういった施設に掛け合って、使用していない期間で加工してもらえないかと打診して、コストダウンも実現できました。

2018年にオープンしたフルーツパーラーが大人気に

フルーツパーラー 観音山フルーツガーデン
撮影:AGRI PICK編集部
--6次産業化でジュースやゼリーなどさまざまな商品を開発・販売しながら、2018年には観音山フルーツパーラーをオープンされていますよね。なぜフルーツパーラーを始めたのですか?
児玉さん
児玉さん
味は同じでも店頭では販売できないものや、熟しすぎてしまって出荷には向かないようなフルーツを周辺の農家さんからも購入して、うまく加工して販売していけたらいいなあと。完熟したフルーツは発送には向きませんが、糖度が高く現地では食べごろです。このお店なら、一番食べごろのおいしいフルーツを存分に味わってもらえます。

そうして、1階を直売所にした観音山フルーツパーラーがオープンしました。
高速道路のインターチェンジからも近く、道路も広いので、観光の大型バスも本店に立ち寄ってくれます。一度来ると、気に入って何度も来てくださるリピーターも少なくありません。
おかげさまで、現在は和歌山県内だけでなく京都や神戸など4店舗にまで拡大しています。今後は全国に展開していく予定です。


--観音山フルーツパーラーを起点として、和歌山のフルーツが全国の多くの消費者に届いていきそうですね。フルーツパーラーはなぜここまで人気が出たとお考えですか?


児玉さん
児玉さん
地場産のフルーツをふんだんに使い、ストーリー性にもこだわったパフェはお客様にも好評です。季節ごとに旬のメニューに切り替えるなど、提供方法も工夫しています。
また本店1階にある直売所のフルーツも、産地だからと安売りすることなく、高品質のフルーツであることに誇りをもって販売しています。


--ネット販売、6次産業化、フルーツパーラーと農業をどのようにビジネスにしていくのかという部分を追求されているように感じます。その理由は何なのでしょう?
児玉さん
児玉さん
一般的に、農家は生産したら出荷して終わりという形ですけれど、6次産業化によって生産、加工、流通・販売とサプライチェーンの末端までかかわることができます。独自のサプライチェーンを構築すれば、仲介業者がなくても自分で販売できるようになりますよね。

私はどうも人の真似をするのが好きではなくて、インターネットによる販売も全国の農家に先駆けて始めていますし、好奇心に正直に、「興味のあること、面白そうなことをやってみる」精神で進んできたら今のようになったという感じです。


「農家は作物の生産で生計を立てる」という一般的な概念を打ち破り、独自の路線で事業の規模を拡大してきた児玉さん。農作物に新たな価値と販路を生み出し、自農園だけでなく、近隣の農家にも好影響を与えています。

6次産業化では農家としての目線はもちろん、ビジネスとしての視点も必要だということを教えてくださいました。

観音山フルーツガーデンでは農業インターンの受け入れも。

6次産業化後、事業の拡大にともない現れる課題

観音山フルーツパーラーのパフェ
撮影:AGRI PICK編集部
--自社の商品の認知度向上に向けてどのような宣伝を行っているのでしょうか?
児玉さん
児玉さん
本店には県外からのお客様が多くいらっしゃいます。これはSNS運用などの効果だと思うのですが、ホームページの制作やSNS運用など、ネットを使った販売促進は息子と私が主に行っています。写真も自分たちで撮ったものです。
これらすべて、他人に任せてしまうこともできますが、心を込めて販売するのなら自分の手でやるべきだと私は考えています。

ホームページやECサイトも、自分で運営するからこそ見えてる部分もあるでしょう。ただ、商品ラベルの制作などどうしてもプロの手が必要になる部分はプロに委託することもあります。


--6次産業化は経営拡大に向けて多くの農家が取り組んでいますが、うまくいかないことも多いようです。児玉さんは、農業を成功に導くために必要なことは何だとお考えですか?
児玉さん
児玉さん
これまで、農家は家族経営の個人事業主なのが一般的でした。しかし、これからはどうでしょうか。農業者の高齢化や後継者不足によって、耕作放棄地も増えています。家族の誰かが体調を崩して、もう農業をできないからと農地を手放す例も見てきました。それにともない、1戸あたりの作付面積がどんどんと増えていくと考えられます。

今後は、個人・家族単位の経営から法人化・組織化して人材を雇用することも視野に入れておいたほうがいいでしょう。ここで個人の農業者にとってハードルとなるのが「経営という概念のインストール」と「外部からの人材を本当の意味で受け入れる体制の構築」です。


--ビジネスとして経営していくという意識が必要になっていくということですね。
児玉さん
児玉さん
個人事業主から法人になるだけでも大きく変わりますよね。人を雇用すると社会保険がかかります。会計や税務に関しても、専門家を頼らずに自分で行うのは難しいでしょう。さまざまな専門家と連携して経営していく必要があります。

また、自分と異なる価値観を積極的に学ぼうとする姿勢も大切だと考えています。できるだけ多くの人に会い、自分の知らない情報を引き出し取り込んでいく。こういう風にして得た縁はまたどこかでつながりますよね。私は、会う人はすべて将来のお客様になるかもしれないという気持ちでお話を伺うようにしているんです。



児玉さんから、6次産業化を目指す農業者へのアドバイス

児玉典男さん
撮影:AGRI PICK編集部
--これから6次産業化に取り組む農家に必要なものは何だとお考えですか?
児玉さん
児玉さん
自分たちが作る、一番ノーマルなもので生計を立てるような売り方を構築するのが成功への道ではないかと思います。うちであれば、それはミカンでした。ミカンにどうやって付加価値をつけて、利益を出すのか、それを考えた結果が今です。

果樹は植えてから5~20年ほど収穫できます。例えば、今すごく高く販売されている果物があったとして、それを今植えても5年後には価格が下がっていて、まったく儲からないこともあります。「今が作り時」と、同時期にたくさんの農家が同じ作物を作るようになると、それらが販売できるころには競合だらけ、供給過多もあいまって価格が暴落してしまいますよね。

他業種と同様に、マーケティングリサーチをしっかりと行うことは大切です。私どもと同じ果樹栽培を行っているのなら特に、流行に流されるような作物づくりは失敗のもとだと思います。これから6次産業化して、雇用して事業を拡大していくことを考えているのなら、経営の視点と同時に人材の育成や定着についても考え、行動する必要があると考えています。

6次産業化の成功事例からの学び

観音山からの景色
撮影:AGRI PICK編集部
自社農園での柑橘類の栽培から加工、販売、フルーツパーラーまで、さまざまな取り組みで事業を拡大し成功を収めている有限会社柑香園(観音山フルーツガーデン)。流行に流されず、農園の軸となる農産物に付加価値をつけ、安定的に販売できる仕組みづくりが大切だと児玉さんはいいます。

経営、人材の確保・育成、加工・販売体制の構築など、6次産業化に向けてやらなければならないことはたくさんありますが、まずは自農園の魅力や強みを可視化し、商品の軸となる作物を選定してみましょう。


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