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農福連携の事例|形態や作型、作目、販路が異なる6つの取り組みを紹介


農業と福祉のマッチングにより、相乗効果が期待できる農福連携にはさまざまな事例があります。就労継続支援事業所の施設外就労として作業委託する形や直接雇用、生産者が就労継続支援事業所を設立するケースなど。作目、販売先、経営形態も異なる6事例を紹介します。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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農福連携事例

撮影:紀平真理子
農業と福祉のマッチングにより、それぞれを刺激しあい、相乗効果を生み出すことが期待できる「農福連携」にはさまざまな事例があります。農福連携の形態は、就労継続支援事業所の施設外就労として農作業を委託、障がい者の直接雇用、生産者が就労継続支援事業所を設立、ユニバーサル農業への取り組みなどさまざまです。栽培する作目や販売先、経営形態、経営規模も異なるさまざまな農福連携事例は参考になるでしょう。

農福連携についてはこちら

ごきげんファーム|就労継続支援B型事業所で有機栽培×消費者直販

ごきげんファーム
写真提供:ごきげんファーム
茨城県つくば市にあるごきげんファームは、就労継続支援B型事業所で多品目有機栽培で野菜をつくり、消費者直販をしています。野菜の生産、販売からはじめたごきげんファームですが、農業を通じて障がいのある人たちが楽しく暮らせる地域づくりを目指し、お米の生産、平飼いでの養鶏をはじめ、グループホームの運営や発達障がいの子どものデイサービスなど多角的に事業に取り組んでいます。

効率的な作業を組む

精神障がいの利用者が半分以上を占めるごきげんファームでは、作業の平準化やマニュアル化が難しい栽培、販売方法と福祉を組み合わせながら野菜の品質を保持し作業の効率化を図るために、適性や特性にあわせた配置よりも、やり方を工夫し、道具を活用することで、作業時間を短縮し、効率化を図っています。また、できるだけ判断の回数を減らして、何をすればいいのか明確にしています。

たとえば、袋詰めをするときの机の高さや、導線や袋の出し方などのやり方を工夫すると、障がいの有無にかかわらず負担なく、効率が上がることがわかりました。

スタッフの求人の出し方にも工夫

事業所を経営するためには、障がいのある人たちをサポートするスタッフの雇用や育成も大切です。スタッフの求人については、自分が何を担当するのかわかる求人タイトルにするなどの工夫をしています。

求人タイトルのつけかた(例)
いい例:養鶏場で障がいのある人たちと一緒に鶏のお世話をする仕事です
悪い例:ごきげんファーム上郷での仕事です

持続可能な組織であるために、組織づくりへの注力や、事業のさらなる多角化、農産物については新たな販路を開拓するなどにも取り組んでいます。

ごきげんファームについて詳しくはこちら


京丸園|作業を細分化。多様な人が従事できるユニバーサル農業

京丸園
写真提供:京丸園
農福連携の中の「ユニバーサル農業」とは、「ユニバーサル=普遍的な、全体の」という意味があるように、障がい者などを含むすべての多様な人々が従事できる農業です。

静岡県浜松市でユニバーサル農業を実践している京丸園株式会社は、障がいを持った人と一緒に働くことで農業経営や農作業の課題を洗い出し、改善をし続けることで農業経営も発展させています。また、ユニバーサル農業のコンセプトは多様な担い手の育成にも活かすこともできます。

スキルアップのための機械化

一般的には「機械化=人員削減や省力化」といったイメージが持たれがちですが、京丸園の場合は、作業を担当する障がい者が使いやすい「スキルアップのための機械化」と捉え、障がい者を主体にしてデザイン、開発した機械を導入しています。

作業の細分化

種まきや掃除などの業務について「誰が」「どれくらい」作業したかを洗い出します。さらにひとつの作業を細分化していきます。たとえば「種まき」の中の作業内容を「計測」「洗浄」「播種(はしゅ)」のように細かく区切って見ていくと、難しいと思われていた作業内容も、社長以外のスタッフや障がい者に任せられるようになりました。

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グリーンマッシュ|就労継続支援事業所を設立から見えた課題と解決案

グリーンマッシュ
撮影:紀平真理子
静岡県浜松市の株式会社 グリーンマッシュは、生産者が就労継続支援A型事業所を立ち上げる形態で、福祉事業所として自農場の農業を主とした生産活動を行っています。さらに、令和2年1月には正式に指定を受け、就労継続支援B型事業所を設立し、ポップコーンの製造で生産活動をしています。

グループ分けと付加価値を付けやすい作目で現状打破に挑戦

市場出荷を主としているグリーンマッシュにとって、葉物野菜の価格が伸び悩む中、生産性を上げることは重要な課題です。

利益を得られる仕組みづくりのために、「収穫」、「選別」、両方難しい場合には「残さ拾い」の3つのグループに分けて、適したところに配属して、作業スピードをあげています。また、付加価値をつけやすい健康食品のモリンガ栽培にも挑戦しています。

障がい者の体への負担軽減が課題

雇用期間が最も長い障がいを持った人は、8年間ほど農作業をしており、徐々に、膝や腰に痛みを感じる人が出てきていると言います。現在は土耕栽培のためしゃがみながらの作業ですが、作目を変えて立ったまま作業できる環境に変えることも検討しています。

利用者から職員へのステップアップも検討

近年、就労継続支援事業所の増加により、利用者を集めることが難しくなってきているそうです。グリーンマッシュでは、やる気がありかつ能力が見合っている利用者が、現在8時間労働にチャレンジしています。将来的には職員としてのステップアップも検討中です。

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こまつな菊ちゃんハウス|7人の障がい者を直接雇用し戦力になるよう育成

農福連携ホウレンソウ
撮影:紀平真理子
富山県射水市のこまつな菊ちゃんハウスは、コマツナ栽培を中心に、ホウレンソウ、ナシ、大カブなどさまざまな作目を栽培しています。2010年から障がい者を直接雇用し、現在では20人の従業員のうち7人が障がい者(身体障がい2人、知的障がい2人、精神障がい3人)です。障がいの有無だけでなく、性別も年齢も関係なくそれぞれに合った仕事を任せています。

助成金も活用して雇用できるよう育成

ハローワークや障害者就業・生活支援センターなどからの紹介で農園にきた人の中から、チャレンジトレーニングという短期(約1週間〜1カ月)の実習期間に実際の仕事を経験してもらいます。障害者トライアル雇用助成金や特定求職者雇用開発助成金を臨機応変に活用しながら、その間に農園での仕事ができるように育成しています。

一つの作業に対してメイン担当者とサブ担当者を作る

こまつな菊ちゃんハウスでは、1年〜1年半かけて人材育成をし、ローテーションを組みさまざまな作業を経験してもらいます。その中で様子を見ながら、少しずつ適性がありそうな仕事を試して、経験を積んでいきます。

中には、どうしても気持ちにムラが出てしまう人もいます。その人にも仕事を任せ、何かあったときでも滞りなく作業し戦力になってもらうためにそれぞれの作業にメイン担当者とサブ担当者を作り、最低でも2人が作業できるようにしています。

就労継続支援事業所を立ち上げるという選択肢を考えたこともありましたが、今は直接雇用をして障がい者だけでなく、農園で働く人たちにとっても働きやすい場所であり続けるために注力しています。

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森の環|人手が必要な労働集約型シイタケ栽培で障がい者も活躍

農福連携事例
撮影:紀平真理子
富山県高岡市の株式会社 森の環は、1967年に創業し、シイタケの菌床製造販売を主にしていた前身の会社から2015年に経営譲渡を受け、菌床の販売からキノコ栽培・販売に移行しました。シイタケをはじめとしたキノコ栽培は、数々の作業工程がありますが、軽作業や単純作業が多く、障がい者、外国人技能実習生、高齢者などいろいろな人に幅広く活躍してもらえる作目です。

現在では5人の障がい者(知的障がい4人、精神障がい1人)が正社員として直接雇用されており、栽培に2人、梱包(こんぽう)に2人、菌床生産に1人が配属されています。

特別支援学校を通じて紹介され入社希望者を受け入れる

採用は特別支援学校を通じて紹介されます。複数の特別支援学校などから1〜3年生が就労体験として頻繁に森の環に体験に訪れます。その中で、入社を希望する人がいる場合は受け入れています。

担当業務は力仕事から袋詰め作業まで

障がい者が担当する仕事は適性によってそれぞれ異なります。菌床生産にいる人は力仕事をする人や、出荷用の段ボールづくりや袋詰め作業を担当している人もいます。作業量の指定はなく、基本的には8:00〜17:00(休憩1時間)の間にその人ができる量の作業をしています。

障がい者や外国人実習生などさまざまな人が働いている職場環境は、従業員にとってもいい刺激や影響を与えています。

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笠間農園|施設外就労として農作業を依頼し規模拡大

笠間農園
撮影:紀平真理子
石川県内灘町の株式会社笠間農園は、コマツナとホウレンソウの栽培を主軸にさまざまな作目を栽培しています。2017年から、複数の就労継続支援事業所とつきあいながら施設外就労として農作業を委託する形態で農福連携に取り組んでいます。

作業を分解し出来高制で仕事を依頼

笠間農園は、年間を通して工程を細かく分解した農作業の一部を複数の就労継続支援事業所に委託しています。

コマツナの収穫はケースごとに単価をつける

コマツナの収穫作業の場合、2つの就労継続支援事業所に周年で委託し、作業の単価は時給ではなく笠間農園の従業員が1時間でできる作業量をもとに出来高制で作業単価を決めています。そうすることで、福祉事業所にその日に完了してもらいたい作業量とその価格を明瞭に伝えることができます。

雑草の密度に応じて畝ごとに除草作業の単価を決める

畝の雑草の密集度に応じて従業員の作業スピードと時給などから、畝ごとの単価を決めます。就労継続支援事業所ごとに、それぞれ作業に来る人数が異なるので、チームの大きさや作業の経験日数などを踏まえて依頼する畝を決定していきます。

福祉の力を借りて規模拡大

農福連携をはじめてから、エダマメの出荷量が増え、タマネギ苗の作付面積の拡大が可能になりました。

エダマメの選別作業を委託し出荷量が増加

収穫したエダマメのさやをA品、B品、それ以外に選別するという細かい作業を2018年度より事業所に委託しています。2事業所は笠間農園内で選別し、4事業所は朝に受け取り、それぞれが事業所内で作業したものを夕方に笠間農園に納品しています。農福連携前の2017年と比較し2021年は出荷量を7倍に増やすことができました。

タマネギ苗の作付面積拡大

家庭菜園用のタマネギ苗は、収穫したものを50本ずつ結束し、一度に何百も納品するような細かくスピードを要する作業です。その作業の9割ほどを、就労継続支援事業所に委託しています。ハウス3棟から始まり、昨年は5棟、2021年には8棟分まで増やすことができました。

笠間農園について詳しくはこちら


農福連携に取り組む前には、作業内容や形態、依頼方法を検討しよう

農福連携事例
撮影:紀平真理子
農福連携にはさまざまな取り組み方があります。農福連携に取り組む前には、形態だけでなく作業を依頼する作業内容や作業の依頼方法、農場側が準備することなどに留意したうえで、取り組み方を検討しましょう。

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