目次
茨城県つくば市にあるごきげんファームは、10年前に就労継続支援B型事業所を立ち上げ、自園内で障がいを持つ人たちと共に、年間で40〜45品目の野菜を栽培し、直接消費者へ野菜セットなどで販売をしています。
多品目、有機・無農薬(栽培期間中化学肥料、化学合成農薬不使用)、直販の組み合わせは、作業の平準化やマニュアル化が難しいので、福祉との相性は決してよいとはいえません。その中でどのように野菜の品質を保持し、作業の効率化を図っているのでしょうか。また、農業と福祉に関連するさまざまな事業を展開し続けるごきげんファームが目指しているもの、たどってきた道、これからについての思いも聞きました。
農福連携に関する基本情報はこちら
話を聞いた人
ごきげんファーム(NPO法人つくばアグリチャレンジ)代表理事 伊藤文弥さん
1988年生まれ。政治家を目指していた筑波大学2年生のときに、五十嵐立青つくば市長(当時市議)のもとでインターンシップを行い、発達障がいなどについてリサーチ。3年生から農業現場での研修、障がい者自立支援組織での勤務を経て、大学卒業後に起業。
ごきげんファーム(就労継続支援B型事業所)
所在地:茨城県つくば市
開所:2011年
活動内容:8haで多品目野菜(40〜45品目、100品種以上)、養鶏(卵)、米、竹製品や加工品生産、コミュニティ農園運営、障がいのある人たちの就労支援、グループホーム運営、発達障がい児支援のためのデイサービス運営、相談支援事業など
雇用者・利用者:100名以上の利用者(障がい者)が所属し、1日に農業活動を行う利用者は70〜80名、社員35名(農業中心は5名)、パート従業員30名
農産物の販売先:野菜セットの販売、一つの直売所を介して全国へ販売もしている
WEBサイト:ごきげんファーム
つくば市議のもとでのインターンシップをきっかけに起業へ
学生時代に政治家、将来的には総理大臣になりたいと考えていた伊藤さんは、大学2年生の冬にインターンシップに参加しました。つくば市議(現つくば市長の五十嵐立青さん)のもとで、当時まだ認知度が低かった発達障がいについてリサーチをしました。発達障がいについて学んだことで、この問題によってつらい思いをしている友人の顔が何人か思い浮かび、今まで他人ごとだと思っていた社会課題を初めて自分ごとだと思えたそうです。目指すものは、障がいのある人たちが地域で「ごきげん」に暮らしていけること
ごきげんファームは、農業を通じて障がいのある人たちが楽しく暮らせる地域づくりを目指しています。具体的にはどのようなことでしょうか。どのような障がいに向けたか取り組みか?という視点が重要
伊藤さんは、農福連携を考えるときに、どのような障がいに向けた取り組みなのかという視点が大事だと言います。障がいが軽度の場合は、給料が高く稼げる仕事が大事だと考えている人も多いそうですが、重度の場合には介助も必要なので就職が難しいのが現状です。障がいの有無で分けられている社会が混ざり合うために
現状では障がいがある人とない人は生きる世界が分けられていて、接することなく暮らしています。伊藤さんは、障がいの有無にかかわらず、働く、遊ぶ、暮らすことを地域の中で実現できること、また、障がいの有無で分けられている社会が少しずつ混ざり合っていくことが、地域全体にとってもいいことだと信じています。多品目有機×直販と福祉の相性は?
ごきげんファームでは、年間40〜45品目の野菜を障がい者が栽培プロセスに関わりながら、栽培期間中化学合成農薬、化学肥料不使用で栽培しています。また、袋づめ、出荷作業も自分たちで行い、野菜セットを中心に消費者へ直接販売しています。これらのやり方と福祉との相性はどうなのでしょうか。マニュアル化できない栽培・販売方法は福祉と相性がいいとは言えない
伊藤さんは、これらの栽培・販売方法は決して福祉と相性がいい組み合わせではないと言います。有機×直販は販売戦略でもありミッション達成に一役買う
それでもごきげんファームが多品目有機栽培をし続けている理由は何でしょうか。性別や世代を問わず、定期的、継続的に購入するものは野菜やお米です。特に定期的な購入につながりやすい野菜をきっかけに、ときには顧客に農場に足を運んでもらい、障がいがある人と一緒に楽しんでもらうことに大きな意味があると伊藤さんは言います。ごきげんファームは、お客さんにも体験などを通じて栽培のプロセスに参加してほしいと考えています。それがごきげんファームの野菜の販売戦略でもあり、NPO法人のミッションである「障がいのある人がごきげんに暮らせる地域をつくる」ことを達成するために必要だと考えています。そして、伊藤さんは農業と福祉はどちらが手段でどちらが目的ではなく、表裏一体だと言います。
プロ以上の品質を目指すために現場で取り組んでいること
複雑でマニュアル化が困難な栽培、販売方法を採用し、そのプロセスに障がいがある人たちの関わっているごきげんファームですが、野菜の品質も作業性の向上もあきらめずに工夫を続けています。適性に合わせるより、効率的な作業を組むことが大事
伊藤さんは、ごきげんファームでの農作業をスタートしてから2年間は、どのようにしたら障がいのある人たちが仕事をしやすいか考え続けました。女性が働きやすいという視点を持つことも、障がいのある人が働きやすい環境をつくることに役立つと言います。
このような経験から、精神障がいの利用者が半分以上を占めるごきげんファームでは、適性や特性にあわせた配置よりも、やり方を工夫し、道具を活用することで、作業時間を短縮し、効率化を図っています。
判断の回数を減らせば、作業効率も変わらない
特に精神の障がいがある人たちの仕事が遅くなってしまう原因は、判断することに時間を要するためで、作業時間自体は健常者とあまり変わらないと言います。どのように組織が変化した?|農福連携はチームづくりも重要
野菜の生産、販売からはじめたごきげんファームですが、現在はお米の生産、平飼いでの養鶏をはじめ、グループホームの運営や発達障がいの子どものデイサービスなど多角的に事業に取り組んでいます。障がいのある人とスタッフがチームで作業をするので、雇用や人材育成も大切です。スタッフが大量離職した年は、組織側にも原因があった
離職者が少ないごきげんファームですが、スタッフのうち特に社員が大量に退職した年が2回あると話します。伊藤さんは当時を振り返り、以下のように分析します。2年目:開所したばかりで、残業もあり、給料も安くて昇給しないなど組織として体をなしていなかった。
7年目:伊藤さんの目が届き、一人の社員に任せる範囲も、野菜生産のせまい1拠点で改善を重ね、離職者も減り安定した状態が続いていた。しかし、7年目あたりに事業を多角化し、任せる仕事の範囲も増えたので、新たなストレスが生じたのではないか。
ひと工夫で求人応募数は増える
社員やアルバイトの採用の募集についても、かなりの数の応募があるそうです。求人タイトルのつけかた(例)
いい例:養鶏場で障がいのある人たちと一緒に鶏のお世話をする仕事です
悪い例:ごきげんファーム上郷での仕事です
今後のごきげんファームは?|農業や食を核にした事業の展開を進める
これまで農業や食を中心に事業の多角化をはかってきたごきげんファームですが、まだまだこれからもやりたいことはたくさんあると伊藤さんは熱く語ります。発達障がいの子ども支援のデイサービス拡大
現在、発達障がいの子どもを支援するためのデイサービスを運営していますが、拠点を増やすことも考えています。さらにスクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーとしても活動する伊藤さんは、発達障がいの子どもと相性がいい農業をデイサービスで組み合わせたいと構想を練っています。都内の飲食店への販売も拡大
ごきげんファームでは、野菜セットの定期便の8割以上を直接配送ができる範囲の顧客に販売しています。それに加えて、現在は週に1回東京都内の飲食店にも出荷しています。来年には、お弁当を作る施設も開設予定で、今後もさまざまな取り組みを展開していく予定です。