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今回お話を聞いた富山県射水市のこまつな菊ちゃんハウスは、コマツナ栽培を中心に、ホウレンソウ、ナシ、大カブなどさまざまな作目を栽培しています。2010年から障がい者を直接雇用しており、現在では20人の従業員のうち7人が障がい者です。直接雇用する場合の採用プロセスや人材育成、適性を見極める方法などについて話を聞きました。
農福連携とは
お話を聞いた人
菊岡進さんプロフィール
こまつな菊ちゃんハウス 代表
前職は自動車関連業。半年間のコマツナ栽培の研修を経て、2005年に53歳で新規就農。ハウス11棟を自分で建設しコマツナ栽培を開始。初年度からパート従業員を雇用している。
坂口いづみさんプロフィール
こまつな菊ちゃんハウス 業務責任者
非農家出身。高校時代に障がい者と農業をするテレビ番組を見て感銘を受ける。大学は農学部に進学。卒業後は新潟県で農業に従事。実家がある富山県の障害者就業・生活支援センターでの臨時雇用中に菊岡さんと出会い、2012年にこまつな菊ちゃんハウスに就職。
こまつな菊ちゃんハウス
所在地:富山県射水市
栽培作目:コマツナ、ホウレンソウ(いずれもハウス)、大カブ、サトイモ、カボチャなど(いずれも露地)、ナシ
経営面積:ハウス36棟(65a)、梨園(40a)、露地(約40a)
従業員数:20名(パート従業員含)うち障がい者7名
販売:コマツナ(90%が地元市場、10%が直売所、給食、漬物加工)、ホウレンソウ(市場と直売所)、ナシ(ほぼ直販)、大カブ(ほぼ加工業者の契約栽培)
第三者農業経営継承について
障がい者を直接雇用をしたのは就業体験の受け入れがきっかけ
菊岡さんが障がい者の直接雇用を始めたのは、2010年に高岡障害者就業・生活支援センターから「障害者チャレンジトレーニング事業(短期の就業体験)」の依頼を受け、精神障がいの男性を1週間引き受けたことがきっかけです。1週間の就業体験の中で、「この人に仕事を教えればしっかりできるようになるのでは」と感じ受け入れ期間を延長しました。そして、十分に戦力になってくれるだろうと確信が持てたので直接雇用に至りました。こまつな菊ちゃんハウスでは、従業員20人のうち男性が7人、女性が13人で、健常者の男性は1人のみです。農業は力仕事も多く男性の力も必要ですが、射水市では企業が多く、農業に人が集まりにくいということもあり「障がい者の人たちに支えられている」と言います。
採用プロセス|給与が支払えるようになるまで育成する
障がい者を直接雇用するときはどのように採用しているのでしょうか。こまつな菊ちゃんハウスの採用プロセスを教えてもらいました。ハローワークや障害者就業・生活支援センターからの紹介
ハローワークや障害者就業・生活支援センターなどからの紹介で農園にやってきた人の中から「この人なら農場で戦力になってくれそうかな」と思うと、チャレンジトレーニングという短期(約1週間〜1カ月)の実習期間に実際の仕事を経験してもらいます。障害者トライアル雇用助成金や特定求職者雇用開発助成金を臨機応変に活用しながら、その間に農園での仕事ができるように育成します。障害者トライアル雇用助成金
障害者トライアル雇用とは、継続雇用する労働者として雇用することを目的に、一定期間を定めて雇用することです。期間は身体、知的障がい者は原則3カ月、精神障がい者は原則6カ月です。特定求職者雇用開発助成金
ハローワークなどの紹介で障がい者を雇用した場合に助成を受けられる制度です。「特定就職困難者コース」「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」などがあります。参考:厚生労働省「障害者を雇い入れたい場合などの助成」
チャレンジ期間中に育成する
実習を通じて、助成がなくなっても給与がしっかり支払えるように育成しますが、中には途中で自らリタイアする人や、どうしても仕事が覚えられずお断りする場合もあると言います。チャレンジ期間中にお互いの相性を確認しながら、しっかりと戦力になってもらえるよう育成します。それぞれの適性に合わせた仕事を見極め、任せる
身体障がい2人、知的障がい2人、精神障がい3人の合計7人を雇用するこまつな菊ちゃんハウスでは、それぞれに合った作業を任せています。どのような仕事を任せるか?
こまつな菊ちゃんハウスでは、障がい者もパート従業員とほぼ同じ仕事をしています。スピードスプレーヤやトラクターで作業する人、ハウス内のは種、施肥、耕うん作業を1人でする人もいます。農薬の散布も希釈倍率を出しておけば、自ら的確に散布をしてくれると言います。■障がい者が担当する主な作業
障がいの種類 | 性別 | 主な業務 |
身体 | 男性 | ナシの栽培管理など |
身体 | 女性 | コマツナの袋詰めなど(短時間勤務) |
知的 | 男性 | コマツナの袋詰め、収穫作業の補佐、防除など |
知的 | 男性 | コマツナの袋詰め、収穫作業の補佐など |
精神 | 男性 | は種前の準備作業、は種など |
精神 | 男性 | コマツナの袋詰め、収穫作業の補佐、は種前準備作業など |
精神 | 男性 | は種前準備作業、収穫作業の補佐など |
どのように適性を見るか?
こまつな菊ちゃんハウスでは、1年〜1年半かけて人材育成をしています。繁忙期は袋詰め作業が多いですが、余裕があるときはローテーションを組みさまざまな作業を経験してもらいます。その中で様子を見ながら、「この人はこの仕事ができそうだな」と思えば、少しずつ適性がありそうな仕事を試して、経験を積んでもらいます。メイン担当者とサブ担当者を作る
中には、どうしても気持ちにムラが出てしまう人もいます。その人にも仕事を任せ、戦力になってもらうためにそれぞれの作業にメイン担当者とサブ担当者を作り、最低でも2人が作業できるようにしています。そうすれば、何かあったときでも滞りなく作業ができます。就業時間や時給などの条件は同じ
こまつな菊ちゃんハウスの就業時間は、基本的には8:00〜15:30です。15:00まで収穫などの作業をし30分で後片付けをします。ただし、繁忙期はもう少し長く働いてもらうなど無理のない程度にお願いします。また、気分のムラや体調不良などで急な欠勤や早退をすることもあり得ます。それぞれの状況と作業の進捗状況をみながら臨機応変に対応しています。
性別も障がいも関係なくできることは何でもやる
10年近く障がい者を直接雇用しているこまつな菊ちゃんハウスですが、雇用をしたことで農園に起こった変化はあるのでしょうか。農業と福祉が長く良好に関係を続けていくためには
菊岡さんと坂口さんは、障がい者の直接雇用を通じて、農業と福祉が長くよい関係を続けていくために必要なことについて日々試行錯誤しています。お二人の思いを聞きました。障がい者を直接雇用をしている理由
農福連携には、直接雇用のほかに就労継続支援事業所を設立し、福祉事業所の作業として農業をする方法もあります。菊岡さんと坂口さんはほかの農福連携の形態も検討したことはあるのでしょうか。就労継続支援事業所の形態で農福連携に取り組む事例
障がいの有無でなくみんなが働きやすい場所を作っていく
菊岡さんも坂口さんも、雇用している人たちに対し終始「障がいの有無をまったく意識していない」と話します。農福連携は人材派遣ではない
農福連携が広がる中、菊岡さんは農業と福祉がお互いに勉強し歩み寄っていなかいといけないと言います。ひとつの農園に多様性がつまっている
直接雇用は大変なのではないか、農業側が思いだけで雇用しているのではないかという想像を覆すように、菊岡さんも坂口さんも終始「障がい者だということを意識しない、全員同じ」だと話していました。こまつな菊ちゃんハウスでは、障がいの有無だけでなく、性別も年齢も関係なくそれぞれに合った仕事を任されみんなが冗談を言い合いながら生き生きと働いている姿が印象的でした。農福連携の関連記事