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【農福連携事例】シイタケ栽培を通じて循環の中で一人ひとりがつながることを大事にしている株式会社 森の環


障がい者を直接雇用して農福連携を行なっている事例を紹介します。富山県高岡市でシイタケやキノコ類を栽培、販売する株式会社森の環では、5人の障がい者を直接雇用しています。採用プロセスや任せている仕事内容の事例紹介。森の環が取り組んでいる環境負荷低減の仕組みづくりと農福連携の相性もいい?

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Avatar photo ライター
紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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シイタケ農福連携

撮影:紀平真理子
農業と福祉のマッチングにより、それぞれを刺激しあい、相乗効果を生み出すことが期待できる「農福連携」にはさまざまな事例があります。

今回お話を聞いた富山県高岡市の株式会社 森の環は、1967年に創業し、シイタケの菌床製造販売を主にしていた前身の会社から2015年に経営譲渡を受け、菌床の販売からキノコ販売に移行しました。シイタケだけでなくキクラゲ、ハナビラタケの栽培も開始し、現在の形があります。以前より障がい者を直接雇用していましたが、経営継承後も1人雇用し、現在では5人の障がい者が正社員として栽培や梱包(こんぽう)に携わっています。

代表取締役社長の春日勝芳さんに障がい者を直接雇用する場合の採用プロセスや人材育成、森の環が取り組んでいる多様性のある職場環境の構築、環境負荷低減と農福連携の相性についても話を聞きました。

農福連携についてはこちら

話を聞いた人

春日勝芳
撮影:紀平真理子

株式会社 森の環 会社概要
代表取締役社長:春日 勝芳
所在地:富山県高岡市
栽培作目:菌床シイタケ、キクラゲ、ハナビラタケ(施設)
生産量:シイタケ(862トン)、キクラゲ(96トン)、ハナビラタケ(24トン)/2021年3月期
売上高:約7億5,000万円(2021年3月期)
従業員数:135名(パート従業員含)
販売:量販店(仲卸)および各生協ほか

シイタケ栽培の作業工程|シンプルな軽作業が多い

シイタケ栽培
撮影:紀平真理子
シイタケをはじめとしたキノコ栽培は、数々の作業工程がありますが、軽作業や単純作業が多いことが特徴です。そのため、障がい者、外国人技能実習生、高齢者などいろいろな人に幅広く活躍してもらえる作目だと言います。森の環では、従業員のうち約70人が栽培、約40人が選別・梱包、約15人が菌床生産を担当しています。


森の環のキノコ栽培の流れ
1. 主に富山県西部の広葉樹(間伐材)チップ・おが粉やフスマ・米ぬかなどを混ぜ培地を作る
2. 培地を袋(直方体)に小分けし、蒸気で加熱殺菌後、種菌(キノコ)を植え付け密封する
3. 培養室に入れ1週間ほどすると、菌糸体が広がり培地が茶色から白色へ変化する
4. 一定期間培養すると、再び茶色に戻り、キノコ発生の準備が整った「熟成した菌床」が完成する
5. 密封された菌床を袋から取り出し、発生室(栽培ハウス)に移すと数日で発芽する
6. 品種によっては、キノコ同士がぶつからないように1培地につき20個程度になるよう摘果する
7. 生育スピードが速いため、適期に丁寧かつ的確に収穫する
8. 目視で品質を確認し、自動選果機などでピロー・トレー包装する
9. 箱につめて出荷する

森の環では、人工ホダ木として毎日4,000〜5,000菌床を新たに作り培養しています。シイタケ菌床の培養期間は110日で、日数をかけてゆっくり育てます。菌床の培養開始日からの日数によって必要な照度、二酸化炭素、温度、湿度が異なります。すべての菌床に最適な環境に合わせるのは難しいですが、可能な限り培養のムラを減らしながら丁寧に育成しています。

菌床が完成してよいタイミングが訪れたら、「畑」である施設に運び込みます。取材時に訪問した栽培工場「あしつきの森」では、16部屋に分けてキノコ栽培がされていました。シイタケは80日間かけて3回収穫します。自然環境を再現するため、収穫が一通り終わるたびに菌床を浸水させる作業もあります。一連の作業は機械化も難しく、すべての作業を一つずつ丁寧に手作業で行っています。
春日勝芳さん
春日勝芳さん
3カ所の栽培工場である「森」は全部で41部屋あり、1日に2〜2.5トンのシイタケが収穫できます。品種ごとに1つの菌床から100個近く芽が出て摘果作業が大変なものや、20〜30個で手間が少ないものの収量の安定性を欠くものなどの特徴があります。一長一短なので、日々試行錯誤しながらよりよい選択をしています。

労働集約型農業は人手が必要|障がい者直接雇用で労働力を確保

農福連携事例
撮影:紀平真理子
現在、5人の障がい者(知的4人、精神1人)が正社員として直接雇用されており、栽培に2人、梱包に2人、菌床生産に1人が配属されています。経営継承前から障がい者を雇用しており、20年近く勤務している人もいます。

採用は特別支援学校経由

採用は特別支援学校を通じて紹介されます。複数の特別支援学校などから1〜3年生が就労体験として頻繁に森の環に体験に訪れます。その中で、入社を希望する人がいる場合は受け入れるといった採用の流れです。

障がい者雇用について、厚生労働省では一定規模以上の企業は障害者雇用率制度に則って一定割合以上の障がい者を雇用する義務を課す障害者雇用率制度を定めています。

障害者雇用率制度とは
従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。(障害者雇用促進法43条第1項)民間企業の法定雇用率は2.3%です。(参考:厚生労働省|「事業主の方へ|障害者雇用のルール」


仕事内容と育成方法

森の環
撮影:紀平真理子
障がい者が担当する仕事は適性によってそれぞれ異なります。菌床生産にいる人は力仕事で能力を発揮しています。栽培のすべての工程を知っていて、責任感を持って作業に取り組んでいる人もいます。出荷用の段ボールづくりや袋詰め作業を担当している人もいます。作業量の指定はなく、基本的には8:00〜17:00(休憩1時間)の間にその人ができる量の作業をしています。
春日勝芳さん
春日勝芳さん
以前は乾燥シイタケのイシヅキを折る作業だけをしていた人に段ボール作りや袋詰めに挑戦してもらったら、十分にできることがわかりました。基本的には障がいの有無は関係なく、できることを決めつけないようにしています。人手が十分で、時間が確保できるときには新しいことにもチャレンジしてもらうようにしています。仕事仲間の従業員たちがどのように彼らの能力を引き出したらよいのかをしっかり見て、面倒をみてくれています。

通勤手段の確認

障がい者を雇用する場合、基本的には自分で通勤してもらうため、どのような手段で通勤するのか確認する必要があります。特に都市部以外では、自動車の運転可否についても考慮が必要です。森の環では、2人が自家用車を運転して通勤、1人は母親の送迎、2人が自転車で通勤しています。
春日勝芳さん
春日勝芳さん
自動車を自分で運転できないなどの制約がある中でも、責任感を持って雨の日でも自転車で毎日通っている人、雪の日にはタクシーを使ってでもきちんと出勤する人がいます。その姿に従業員みんなが勇気をもらっています。これも障がい者を雇用していることで社内に生じるいい影響だと考えています。

春日さんは、障がい者の従業員たちが大きな声でしっかりと挨拶をすることにも感銘を受けました。彼らの姿勢や振る舞いは、ほかの従業員たちのいい刺激にもなっているのではないかと言います。このような具体的な1人ひとりの姿勢がよい職場環境を作っていきます。

障がい者だけでなく外国人技能実習生や高齢者も活躍

森の環のパート従業員の平均年齢は現在61歳です。複数の70代後半の人も活躍しています。キノコ栽培は、労働集約型で軽作業、単純作業なゆえにどんな人にも作業をしてもらえます。一方で、多くの人手も必要ですが人が集まり難いことも現状です。2016年以降は中国、ベトナムやインドネシア(入国待ち)から外国人技能実習生にも頼っていると言います。
春日勝芳さん
春日勝芳さん
今は、高齢者、外国人技能実習生、障がい者などさまざまな人が働いています。職場に多様性があることは、とてもいいのではないかと思っています。

障がいの有無に関係なくできることを実践し環境負荷の低減へ

森の環
撮影:紀平真理子
多様性のある職場づくりは、会社のコンセプトにも合致しています。2015年に社名を変更するときに、「自然と共生」というコンセプトをベースに「循環の中で一人ひとりがつながる」という思いを込めて「森の環(もりのわ)」としました。その根底にあるのは、一人ひとりが世界の一員であるという認識と責任のもと、できることを少しずつしていくことだと言います。環境負荷の低減はもちろんのこと、「障がいの有無や年齢、国籍に関係なく誰もが社会の一員。それぞれができることを少しずつ実践していこう」というメッセージも含まれています。

パッケージ変更でゴミ削減と作業の省力化

花弁茸
撮影:紀平真理子
「自然との共生」をコンセプトに事業を考える中で、プラスチックをどのように活用するか、フードロスの削減にどのように貢献するかを考えるようになりました。春日さんは、トレイをやめて袋に変えればゴミを減らせると考えました。シイタケは、ほとんどの場合トレイに入って販売されていますが、トレイなしで袋のみでの販売を試みました。また、鮮度保持フィルムを使えば食べられる期間が3〜5日ほど延ばせ、フードロス削減への取り組みにもつながります。さらに、家庭で保存するときにも、リパックは不要で袋の口を止めればいいので、ゴミが減らせます。

環境負荷を低減するだけなく、トレイを使用しないとパック詰めするときの手間も減らせて省力化も図れるので、働く人たちにとってもメリットは大きくなります。メリットばかりなのですが、スーパーマーケットでの販売に壁がありました。
春日勝芳さん
春日勝芳さん
ようやく最近富山県のスーパーマーケットでは、トレイなしの商品を販売してもらえるようになりました。新しい取り組みには壁を感じることもありますが、それでも新しい価値を創造し続けます。

使用済み菌床の活用

年間で120万菌床を使ってキノコ栽培をするので、使用済みの菌床の活用も課題です。現在は外部業者によって山の中で寝かせたあとで土壌改良材に活用している事例がありますが、今後は肥料や家畜の敷床としての活用も考えます。シイタケの菌床については、110日間の培養と80日間の栽培で硬くなっており、乾かせばしっかり燃えるのでペレットへ加工して再利用することも検討しています。

福祉施設に菌床を分ける農福連携も

本来、シイタケは1つの菌床から4〜5回収穫できます、森の環では完成した菌床からシイタケを3回収穫し、その後は地域の福祉施設に菌床を運び、その菌床を活用してもらい福祉施設内で利用者たちが農業活動としてシイタケを収穫し、地域の産直コーナーで販売するという取り組みもしています。障がい者の直接雇用以外にも、このような形でも福祉とつながりを持っています。

そのほか森の環の環境負荷低減のための設備投資
・5,000平米の元繊維工場をリノベーションして活用
・高機密・高断熱材の導入
・太陽光発電パネルの設置で一部の電力を代替
・地下水熱利用ヒートポンプ設備を導入し、1次エネルギー消費量やCO2排出量を削減

春日さんは、環境負荷低減への取り組みと障がい者雇用を含めた職場の多様性はいい組み合わせだと言います。環境負荷低減のために導入した機械や資材、新しい提案の中には省力化につながるものも多くあります。作業をより簡略化できるようになるとさまざまな人に助けてもらえる職場環境を作れます。
春日勝芳さん
春日勝芳さん
環境を例に挙げると、基本的に人間としてゴミを捨てないようにすることが一番大事だと考えています。その次にゴミが落ちていたら拾うこと、さらに捨てている人に「捨ててはいけないよ」と言えることが大事です。さまざまな背景や特技を持つ人たちがいる職場だからこそ、こういうことに一人ひとりが気づき、何でも言える風通しのよい職場づくりをしていきたいです。

さまざまな人が活躍する職場を作るためには経営力も必要

シイタケ栽培
撮影:紀平真理子
取材時に目にしたシイタケ栽培と選別や梱包作業は、細かくてスピードを要する作業が多く、無駄のない動きで作業をしている従業員たちの様子が印象的でした。一方、高齢者や障がい者は座ってできる作業や比較的自分のペースで作業ができる仕事を担当していました。

一つの会社の中にさまざまな人がいて、異なる働き方をしてもらう環境を構築するためには、受け入れる側がしっかりとした経営力を持つことが不可欠でしょう。農福連携によって、さまざまな人に手伝ってもらうためにも作業をよりわかりやすく、無駄を省く取り組みを実践することも大切です。

農福連携によって規模拡大を実現する笠間農園の事例


農福連携事例について詳しくはこちら

農福連携

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