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年商1.6億円のメロン農家 寺坂祐一さんに聞く「新規就農者が直販を始めるために必要なこと」

農産物の直販は、自分が作った農産物を直接消費者に届けられることはもちろん、農家が自由に価格決定できる点が魅力です。直販で年間約1億6千万円を売り上げる寺坂農園の寺坂祐一さんに、新規参入者が直販を始めるために必要なことを聞きました。


寺坂農園_寺坂社長

撮影:小林麻衣子
「農業を始めるなら直販をやりたい!」と考えている新規就農者も多いのではないでしょうか。消費者と直接取引する直販は、自分が作った農産物を直接消費者に届けられることはもちろん、農家が自由に価格決定できる点が魅力です。今回はメロンと野菜の直販で年間約1億6,000万円を売り上げる寺坂農園株式会社の代表取締役・寺坂祐一さんに、新規参入者が直販を始めるために必要なことをお聞きしました。

お話を聞いた人

寺坂さん_トリミング
撮影:小林麻衣子

寺坂祐一さん プロフィール
寺坂農園株式会社/メロン農家株式会社代表取締役。18歳のときに、売上600万円、借金1,400万円という「超赤字農家」を継ぐ。就農後に始めたメロン栽培で直販を始め、徐々に売上を伸ばす。31歳のときにダイレクトマーケティングに出会い、8年間で売上4倍、年商1億円を突破する。2021年現在、3.3haでメロンやアスパラガス、トウモロコシ、ミニトマトなどを栽培。年商1億6,000万円、ピーク時は約40人を雇用する。北海道のインターネット販売農家としてはトップクラス。FacebookTwitterInstagramLINEYouTubeブログなどを活用し日々情報発信を続けている。

栽培技術があるのは当たり前!未経験なら研修はどこで受けるべき?

寺坂さん_マイクロキュウリ
撮影:小林麻衣子
ーー新規就農者が直販を始めようと思った場合、まず必要なものはなんでしょうか。
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
まずは栽培技術ですね。品質が伴わなかったらだめなので。直販をやりたいと決めているなら、直販農家のもとで研修を受けるのが一番です。研修先の農家で教えてもらって、あとは実践あるのみですね。

研修先は大都市近郊の直販農家がおすすめ

ーー研修先はどのように選ぶべきだと考えていますか?
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
北海道なら札幌市周辺とか、大都市近郊を探すのがいいですね。地方に行けば行くほど、系統出荷や産地流通を担う新規就農者を求めているところが多い。就農を希望している地域の直販が盛んなところ、つまり大都市周辺。そこの一点狙いだと思いますよ。


ーー地方では直販は難しいのですか?
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
私は農業を継いだので、田舎で直販を始めました。でも、向かい風がすごかったね。その代わりライバルや競合はない。「都市周辺じゃなくても直販はやれる」っていうことを証明してみたんですけど、かなり大変でした。もちろん農産物を作るのに徹して生産農家をやりたいなら、地方の産地に行って作りに徹するというのも全然OKだと思いますよ。

【ポイント】研修先の探し方
インターネットで直販農家を探して、研修生を募集しているところに問い合わせをするのがおすすめ。また各都道府県の就農相談窓口で聞いてみると、直販農家を教えてもらえることもあります。


農業研修についてはこちらをチェック


直販に向いているのは「ごちそう」になる農産物!?

寺坂農園_ミニトマト
撮影:小林麻衣子
ーー寺坂さんはメロンの直販で成功されています。どんな作物を「経営の柱」としたらいいのでしょうか?
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
農産物は「日常消費の野菜」と「ごちそう」の2つに分けられると思うんです。例えば「タマネギで直販をやりたいんです」と言われても、誰が買うんでしょうか?「直販でタマネギが10個届いたけど、どうやって食べようかな」と消費者が困ってしまうでしょ。タマネギは、スーパー行って料理の材料として買う「日常消費の野菜」です。それがトマトやメロン、スイカ、果樹あたりから「ごちそう」になるんです。それってわざわざ買いに行きたいし、お取り寄せしたいもの。だから果物や果樹は直販で売りやすい。

野菜で直販をするなら「食の提案」を

ーー野菜の直販は難しいということでしょうか?
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
野菜でやる場合は、野菜セットで「食の提案」をする。これしか方法はありません。寺坂農園では雪下キャベツにジャガイモやタマネギを組み合わせた野菜セットを「雪下キャベツのポトフセット」として販売しています。「こうやって食べてくださいね」という提案をしていかないとだめですね。だからこそ野菜の直販の難易度は高いです。


ーー栽培品目だけでなく品種へのこだわりはありますか?
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
おいしさを決める要因は、まずは品種だと思っています。それと産地、気候風土、それから技術です。どれだけ技術があっても、うまくない品種を作ったらうまくないんだから。今、寺坂農園で栽培しているメロンは赤肉の「クインシー719」と青肉の「クレセント」です。この品種にたどり着くまで4年はかかりましたね。「こういうメロンが作りたかったんだよ!」っていうおいしさがあった。甘くておいしくて、後味がさわやか。雑味やえぐみがない。あと、コクがあるのが理想です。直販は自由に作る品種を選べるのが強みだよね。それがオンリーワンになるんです。

農業のトップランナーが考える直販の魅力と本音とは?


6次産業化は経営の土台ができ上がってから

ミニトマト「ほれまる」
撮影:小林麻衣子
ーー農産物の生産から加工、販売までを手がける6次産業化をしたいと考えている人もいると思います。直販農家が参入するさいに気を付けるべき点はありますか?


寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
生産と直販で利益がしっかり出て、経営の土台ができ上がってから6次産業化はやるべき。これは絶対ですね。6次産業化はレッドオーシャンなので利益を出すのが難しいですよ。利益1,000万円なんかとっくに超えていて「そろそろ税金対策をしないと」というレベルで農業経営が安定しないと手をつけたらだめだと思います。


ーー個人農家の参入は難しいということでしょうか。
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
いや、どの程度の売上や利益でうまくいくという話ではなくて、事業コンセプトやビジネスのビジョンにかかってくると思うんですよ。タマネギで直販をするのは厳しいと話しましたが、例えばタマネギでスープやドレッシングを作ってる人がいたとして、その味が人から売ってほしいとお願いされるほど評判だったとします。「もっとおいしいものを作りたいから、品種にだわったタマネギを栽培して、生産から商品開発まで全部やりたい」という6次産業化は成功すると思います。新規就農して、小さなプレハブの加工場を作れば始められますから。小さく産んで大きく育てるなら可能だと思います。


ーービジネスの「ビジョン」とは具体的にどんなことでしょうか?
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
お客様をどう喜ばせたいか、何をしたらお客様が喜ぶか。それを考えることです。生活する、ご飯食べる、営農を継続する。「手段」としての6次産業化はまずうまくいかない。うちもそれで入って失敗したんだけど(笑)。加工場作って冬の雇用を生もうとしたんです。でも実際作ってみたら一番忙しいのは繁忙期の7月だった(笑)。そこで諦めないで商品をどんどんブラッシュアップしました。今は結構売れるようになってきたんですよ。「冬の雇用を生む」は、ただの農家側のエゴだったんですね。そこにお客様がいない。だからうまくいかない。そういう失敗経験があります。

6次産業化についてはこちらをチェック


直販を始めるときに覚悟しておくべきコストは「時間」

時間のイメージ
出典:写真AC
ーー直販を始めるにあたって必要なコストを教えてください。
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
資金的にはさほどコストはかかりません。必要なのは時間ですね。時間と労力が取られます。農園の存在を知ってもらうためにも、ブログやSNSに毎日投稿しないことには始まりません。私は毎日2時間くらい時間を割いています。そして直販を始めたら受発注の事務作業が結構負担になる。ウェブサイトを開設するのも安いですし。農園が大きくなってきたら販売管理システムに投資したり、人も雇用したりしないといけませんが。やる気になれば最初はスマホ1台で直販はできますよ。

農家のためのSNS活用法とは?


直販を始める新規就農者に伝えたいこと

寺坂農園
撮影:小林麻衣子
ーー新規就農者に「これだけは意識してほしいこと」はありますか?
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
農業をやりたいって気持ちは、私たち先輩農家としても嬉しい。ただ、農業をやって生産物を育てて、お客様に喜んでもらって、食に貢献して、やっと売り上げになるってことを忘れないで欲しい。やりたいことやっていればうまくいくんじゃないんです。その先の先、相手が喜んだ分だけ売り上げになり、上手に経営したら利益になる。要は、食べたときにお客様が「ありがとう」と言うか?なんです。でも、ありがとうで満足したらだめ。「ありがとう」から「感動」「感謝」そして「感激」までさせるとリピートにつながる。リピートでファンになる。そこまでの農産物や加工食品を作れるかを考えてほしいです。


ーー今年の秋からオンラインスクール「農業を始めたい人の学校」を農業コンサルタントの潮田武彦さんと高津佐和宏さんとともに立ち上げられましたね。
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
今年の1月あたりから「Clubhouse(クラブハウス:アメリカ発の音声SNS)」が流行りましたよね。そこで友達の農業コンサルタントさん2人と農業トークをしてみたんですよ。農業関係のテーマを決めてClubhouseをしたら、毎週30〜40人集まったんです。そしたら、新規就農しようとしてる人や、就農したばかりの人が困ってるんです。「誰に相談したらいいか?」「どうしたらいいか?」って。だから本気で農業を始めたい人や始めた人に、私達の知識や経験をしっかり提供できる仕組み作っていこうと、8月ぐらいから話し合いを進めて、オンライン学校を作ることになりました。


ーー農業経営のかたわら、オンラインスクールを始められた理由はなんでしょうか?
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
私が若かったころ、地域では毎年のように自殺する人や夜逃げをする農家がいました。今も講演などで全国をまわっていると、新規就農した人が資金繰りに困って農業を辞めていく話を聞きます。僕自身、後を継いだときに親が農家をやっていなかったので、誰も相談できる人がいませんでした。農業技術を教えてくれる人もいなかった。そこでいろんな先輩に教えてもらったんですが、それって何を信じたらいいか混乱するでしょ。だから、30年前の自分と同じような人たちのために、困ったときに相談できる場所を作りたいと思ったんです。


ーー自分が苦労されたことを繰り返してほしくない、ということでしょうか。
寺坂祐一さん
寺坂祐一さん
国は新規就農者を増やしたいと言っていますが、新規参入した農家の平均所得は109万円(「新規就農者の就農実態に関する調査結果」)です。時給にしたら最低賃金以下ですよ。わたしもそんな時代が長かった。だからこの現実から目を背けないでビジョンプランニングをしっかりやって欲しいんです。すでに就農をしていて「このままでは経営が立ち行かない」と悩んでいる人には、規模拡大もいいけれど「直販比率を高めて利益率高める」という考え方もあることを知って欲しい。農業で楽しく稼いで、日々笑顔で家族仲良く生活できる状態になるのを応援させてほしいんです。

直販を始めるなら
直販を始めたからといってすぐに農産物が売れるわけではなく、消費者が喜んで初めて利益につながります。そのため、いきなり全量を直販にするのではなく、系統出荷から徐々に直販比率を高めていく方法もあります。もし直販で悩んだのなら身近に相談できる人を探しておくとよいでしょう。


 直販で新規就農するなら、確かな栽培技術と明確なビジョンを

田んぼと光
出典:写真AC
新規就農者が直販を始めるには、何はともあれ栽培技術を身につけなければなりません。また直販に適した、研修先、就農場所、栽培品目の選定が必要です。まずは、自分が「どんな農業をしていきたいか?」そのビジョンをはっきりさせることから始めましょう。

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北海道在住のライター。農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して移住。現在は農家見習い兼ライターとして活動中。

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