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久松達央さんのジツロク農業論【第13回】顧客とつきあうコツ!直販農家が泣きながら回すPDCA


久松農園 久松達央さんによる「新規就農者が、豊かな農業者になる」ためのメッセージ。第13回は、お客さんとの距離が近く、お客さんの意見を栽培に反映しやすい直販生産者が、顧客とつきあうコツについて解説!久松さんは泣きながらPDCAを回しているそうですが、それは一体どういうことでしょうか?

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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久松農園イベント

写真提供:久松達央
【新規就農者や、すでに営農しているもののつまずいてしまっている人へ】
株式会社久松農園 久松達央さんによる、豊かな農業者になるためのメッセージを伝える連載。

久松農園は、1カ月に1,000以上の野菜セットを直接顧客へ発送しています。定期便の購入者に対しては、毎週、隔週、毎月などそれぞれの頻度で野菜セットを送り、農園から野菜の情報を伝えたり、時には顧客からフィードバックを得る形で、顧客と関わっています。消費者への直販は、業者を介さず生産者と顧客が直接つながっているため、顧客からの喜びの声などのうれしいフィードバックを受けやすい販売方法です。同時に、顧客からの意見やクレームも入りやすい仕組みです。

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今回は、消費者直販における「顧客とのつきあい方」について、顧客との関係が近いからこそ生産者側が留意すべきことについて、久松さんに解説してもらいました。

久松達央
写真提供:紀平真理子

プロフィール
株式会社 久松農園 代表 久松達央(ひさまつ たつおう)
1970年茨城県生まれ。1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索している。さらに、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)

自分か顧客か?|こだわりと世間の声の接点にビジネスがある

消費者直販顧客
撮影:紀平真理子
マーケティングの考え方をもとに、その時代の顧客に求められているものをリサーチし、世間の声に沿ってものづくりをする方法があります。久松さんは、マーケティング思考を参考にすることは大切だとしながらも、生産者自身が作りたい、顧客へ提供したいと思えるものを作らないと、農業をしている理由を見失ってしまうのではないかと問います。

久松さんは「マーケティング戦略」で流行に合わせることは得意ではない

久松さんは、就農時から今のように「好きなもの、やりたいこと」を貫くスタイルだったのでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
農業をはじめたときは、特に意識もせずに自分が好きなものを作ることが当然だと思っていました。でも、いざやってみると、うまくいかないことも多々ありました。マーケティング的なことを考えた時期もありますよ。

お客さんに求められて、流行のものを作って売っていたということでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
そうです。あまり好きではないけれども、流行っているという理由だけで作って売っていたことがあります。でも、途中でお客さんにそれをほめられても、僕はうれしくないことに気づいちゃったんです。

今は、お客さんの要望に合わせて野菜を作っていないのでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
そんなことはありません。マーケティング的な考え方や手法にも学ぶことは多いので、ある程度は考えます。ただ、優れた営業パーソンは個人的に好きかどうかに関わらず上手に販売ができるかもしれませんが、僕はそれができるタイプではないんです。自分が好きじゃないものは売れないんですよね。

何をほめられたいのか

久松農園のズッキーニ
写真提供:久松達央

そのほかに流行に合わせない理由は何かありますか。

久松達央さん
久松達央さん
適応できる能力をほめてほしいのではなく、自分がいいと思ったものをお客さんにもいいと思ってもらいたいからというのも大きいです。

お客さんが望むものを作って喜んでほしいというよりも、久松さんがいいと思うものを共有したいという意味ですか。

久松達央さん
久松達央さん
そうですね。「僕はこの野菜をいいと思うけど、いいよね?」というスタンスです。特に消費者へ直販をしている場合には、本当にいいと思えるもの、おいしいと思うものを作って、自分が良いことをしているんだと思えないと、次第に「あれ?何のために農業をしているんだっけ?」という壁にぶち当たってしまうと思うんです。

自分と顧客の接点にしかビジネスはない

はじめたばかりの生産者の中には、本当にやりたいことや作りたいものがあるものの、収入につながらなさそうという理由で、まずは顧客に人気で売りやすいなどの収入につながる品目や品種を選ぼうと考える人も多くいます。久松さんはこれをどのように考えているのでしょうか。

はじめは売れるものを作って、あとからこだわりを追求するのはいかがでしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
ミュージシャンがレコード会社から「こだわりも大事だけれども、まずは売れて、それからやりたいことをやりなさい」と言われて実践した場合、はじめに支持してくれる顧客は、流行に合わせたものを好きな人ですよね。売れてからこだわり方向へ転換しても、その人たちはついてきてくれるのでしょうか。しかも、売れることに注力しているうちに、作り手側のクリエイティビティは失われてしまいます。

こだわりが大事ということですね。

久松達央さん
久松達央さん
そうです。とはいえ、ある程度は世間の声に耳を傾けないと独りよがりになってしまいます。自分がいいと思っているものと、顧客がいいと思っているものの接点にしかビジネスはないんです。聴衆がいないとライブが成立しないように、食べてくれるお客さんがいなければ直販も成立しません。また、こだわり職人側と、企業側の気持ちでせめぎあうことも大事だと思っています。

それはどういう意味でしょうか。

久松達央さん
久松達央さん
こだわっておいしいものを作りたいと同時に、そうは言っても所詮(しょせん)野菜だという覚悟も持ち合わせています。かつて、うちのニンジンやトマトを練り込んだ生パスタを製麺所に委託して作っていたのですが、そこの社長に「うますぎるものを作るともうからないぞ。繰り返し食べられるものは無個性だよ」と言われたことがあります。この感性もとても大事。これが雇用も創出して大きくなれる企業だと思うし、リスペクトもしています。この2つの視点を行き来しながら、考え方も含めて自分がいいと思えるものをお客さんに食べてもらいたいですね。

クレームにどう対応する?|涙でPDCAを回し続ける

久松農園トマト
写真提供:久松達央
生産者から直接農産物が届くという非日常の体験に、心を躍らせて楽しみに待つ消費者も多くいます。その期待の大きさは、消費者直販の野菜セットをおいしいと感じさせる理由の一つになるのですが、その分がっかりしたときにはクレームが発生しやすいともいえます。久松さんは、クレームをどのように捉え、どのように対処しているのでしょうか。

クレームにぐらつかなくなったのは?

久松さんは、顧客からの意見やクレームに対して「ごもっとも」と思うこともあれば、「この良さがわからないのか」と思うこともあると話します。就農当初は動揺していたお客さんからのクレームに左右されなくなり、今では意見のすべてを農園の方針に反映させることはないと言います。

就農当初と今とでは、クレームに対する考え方や対処法は変わりましたか。


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