目次
耕作放棄地とは|1年以上作物が栽培されておらず、今後も耕作される予定のない土地
耕作放棄地の定義
耕作放棄地とは、「以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する意思のない土地」のことです。この定義は農林水産省が行っている「農林業センサス」という統計において定められています。農林水産省では、「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」も行っており、その中には「荒廃農地」という用語が定義されています。荒廃農地も耕作されずに荒廃して、通常の農作業では作物の栽培が難しくなっている農地のことですが、耕作放棄地が農家などの自己申告により主観ベースで把握されているのに対し、荒廃農地は調査員による調査によって把握されています。
また、農地法で使われている用語に「遊休農地」というものがあります。遊休農地は、耕作されていなかったり、または農業上の利用の程度が周辺の地域における農地の利用の程度に比べて著しく劣っている農地とされています。「耕作放棄地」や「荒廃農地」に比べると定義の範囲が広く、農地として少しだけ利用されている土地なども含みます。
似たような言葉ではありますが、耕作放棄地については、「再び耕作する意思のない」という言葉があるように今後耕作されるか否かという点に判断のポイントが置かれています。
各用語のまとめ
用語 | 定義 | 備考 |
耕作放棄地 | 以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する意思のない土地 | 農林業センサス (主観ベース) |
荒廃農地 | 現に耕作に供されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地 | 荒廃農地の発生・解消状況に関する調査 (客観ベース) |
遊休農地 | 現に耕作されておらず、かつ、引き続き耕作されないと見込まれる農地(農地法第32条第1項第1号) またはその農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣っている農地(農地法第32条第1項第2号) | 農地法 |
耕作放棄地の面積の推移
耕作放棄地の面積は1985年以降増加の一途をたどり、2015年には約42万ヘクタールに上っています。なお、荒廃農地は2019年に28.4万ヘクタールとなっています。耕作放棄地の発生原因
耕作放棄地が発生する原因は多岐にわたり、また複数の問題が重なっていることもあります。原因を社会経済的な要因とほ場の条件などの要因に分けて考えてみましょう。社会経済的な要因
穀物輸入量の増加、米の生産調整
日本で耕作放棄の問題が注目されるようになったのは、1960年代。このころ、米以外の穀物輸入が急増したことや養蚕が衰退したことにより、畑や桑園の耕作放棄が発生するようになりました。1971年からは米の生産調整が導入されるようになり、水田の休耕が目立つようになりました。減反政策についてはこちら
農業の担い手不足、高齢化
また、農業の担い手不足、高齢化も耕作放棄地の原因の一つです。農産物の価格の低迷などにより所得が不安定になると、農家を継ぐ人が減っていきます。そのため、世代交代のタイミングで耕作されない農地が増えることになります。このように相続で農地を所有した非農家による耕作放棄地の問題は深刻です。農地の相続問題についてはこちら
ほ場の条件などの要因
都市化
都市近郊では土地を資産として活用する意識から、農地を宅地や駐車場などに転用することを見据えて、耕作を放棄するケースがあります。ほ場面積、交通、道路などの条件
中山間地域では、ほ場面積が小さかったり、交通や道路の条件が悪いことが耕作放棄の原因としてあげられます。生活自体に不便を感じる場合には転居してしまうケースもあり、所有者が身近にいなくなった農地は荒れ果ててしまいます。自然災害
地震や土砂災害などによる自然災害によって、農業従事者が転居するなど、耕作できなくなることがあります。鳥獣害
サルやイノシシ、シカによる農作物被害や農業施設の破損は、特に高齢の農業者にとって耕作意欲を失わせる原因となります。耕作放棄地が増えることで里山が荒れると、野生動物が農地へ侵入してくることが増え、さらなる耕作放棄を生むという悪循環も指摘されています。耕作放棄地が引き起こす問題
耕作放棄地がどのような問題を引き起こすのか、5つの観点から見ていきましょう。1. 用排水路やため池などの機能不全
耕作放棄地が発生すると、その周りの畦畔(けいはん)や用排水路も管理されなくなることがあります。管理されないことが機能不全につながり、大量の雨が降ったときに以前のように排水できず、冠水や地滑りを引き起こすことがあります。また、地域で共同で管理するため池なども、人手不足のために修繕などをすることができないと、決壊の恐れが出てきます。2. 病害虫の発生や鳥獣害被害の増加
耕作放棄地では雑草が繁殖し人も入らないため、病害虫が発生します。また、鳥獣の活動範囲も広がり、放置しておくと近隣の田畑に迷惑をかけてしまいます。3. 不法投棄による環境の悪化
雑草が生い茂り、人の姿も見えない場所では不法投棄をされやすくなります。一度、不法投棄をされてしまうと、次々とごみを持ち込まれてしまうケースもあり、治安や景観の悪化のほか、農地に戻すことが一層難しくなります。4. 耕作に関する知識の喪失
耕作放棄されて時間が経つにしたがって、地域住民の関心も薄れていきます。その土地で何が栽培されていたかということも忘れ去られ、その土地の持つ特徴や、適した栽培品目などの貴重な栽培知識が継承されなくなってしまいます。5. 境界や所有者の不明
耕作放棄地を地域住民が活用したいと思っても、相手の特定が困難だったり、土地の境界線が不明になるなど、手続きが難しくなるケースがあります。耕作放棄地の税金はどうなる?
耕作放棄地について、国はさまざまな対策を行っていますが、その一つに農地法に基づいて2017年度から行われている遊休農地への課税の強化があります。これは、農業委員会が、農地所有者に対し農地中間管理機構(農地バンク)と協議すべきことを勧告した農業振興地域内の遊休農地に対して、通常の農地の固定資産税の評価額の1.8倍を課税するというものです。遊休農地状態が解消されるか、農地中間管理機構が借り入れるなどした場合には、課税の強化は解除されます。耕作放棄地の発生を防ぐための対策
農地を貸すには、借りるには?
農地を耕作放棄地にすることなく、使いたい人が借りるには、どのような方法があるのでしょうか。国は2014年に農地中間管理機構 (農地バンク)を全都道府県に設置しました。農地バンクは「信頼できる農地の中間的受け皿」で、農地を貸したい人は、農地バンクに農地を貸し、農地を借りたい人は農地バンクから農地を借りることができます。中間に農地バンクが入ることで、貸す人は安心して農地を貸すことができ、借りる人はニーズに合わせたまとまった農地を借りることができます。
農地バンクの活用方法
農地の購入についてはこちら
耕作放棄地の雑草対策|草刈りをなるべく避けるには
所有する農地を耕作できない場合、畑が耕作できる状態を維持し、近隣に迷惑をかけないために、雑草対策が重要になります。雑草が生い茂った状態では害虫が発生するとともに、雑草が土壌の栄養分を使ってしまうので、畑の地力が失われてしまうためです。防草シートの利用
雑草対策の有効な一つの手段に、防草シートの利用があります。初期費用はかかりますが、防草シートを敷いてしまえば、草刈りの手間はなくなります。耐久性や遮光率などが商品によって違うので、よく商品を比較検討して購入しましょう。防草シートについてはこちら
グランドカバープランツを植える
グランドカバープランツは、地面を覆うように生える植物のことで、植えると雑草対策になります。ネモフィラなど花の美しいものを植えると景観保全にも役立ちます。グランドカバープランツについてはこちら
耕作放棄地の再生方法を考える|地域ぐるみで補助金を活用
耕作放棄地を増やさないためには、地域ぐるみでその再生に取り組むことが有効です。農林水産省のウェブサイトでは、荒廃農地解消の優良事例を紹介しています。農林水産省「荒廃農地解消の優良事例集~荒廃農地再生の取組~」
この事例集を見ていくと、優良事例の多くが地域ぐるみで行政の支援策を活用して、農地を再生していることがわかります。例えば、山形県白鷹町では、「耕作放棄地再生利用緊急対策交付金」などを活用し、荒廃農地を再生して醸造用ブドウの栽培し地域の活性化につなげました。また、福岡県福津市では、「多面的機能支払交付金」を活用し、再生した農地で新規就農者がブロッコリーの栽培を始めています。その取り組みが近隣の農地の所有者に影響を与え、地域の荒廃農地発生防止につながっているそうです。
このような取り組みは地域の農業を活性化するほか、六次産業化や移住の促進など町おこしの推進にもつながります。
貴重な農地を有効活用するために
日本の国土は山が多く、農地に向いている土地が限られています。農家の高齢化に伴う世代交代が進むにつれて、耕作放棄地が増えていくのは、その地域で暮らす人や農業を営む人に決していい影響を与えるものではありません。限りある農地を有効活用するためにも、耕作されない農地には、早めの対策が求められます。相続などで農地を所有することになったときには、一人で抱え込まず、役所や農業委員会に相談することで解決策が見つかることがあります。近隣の人たちとも声を掛け合えば、農地が地域の資源として大切に守られるのではないでしょうか。