そもそも減反政策とは?
「減反」とは、作付け面積を減らすことです。減反の「反」は面積の単位で、一反は約10アール。一般的に減反政策とは、米の生産調整のことを意味します。1971年から本格的に始まり、2018年までの40年以上絶え間なく行われた点で、日本の減反政策は世界的に見ても類を見ない長期間続いた政策といえます。2018年度からは行政による生産調整が廃止され、産地自ら需要に応じた生産に取り組むよう政策が転換されました。これがいわゆる「減反廃止」です。減反政策の歴史|いつから、なぜ始まった?
米余りで本格的な減反政策を開始
日本人の主食である米の安定供給は第1次世界大戦中からの課題でした。1942年に成立した食糧管理法で、国による厳格な全量管理を基本に、戦中戦後の食糧難に対応していました。ところが、1960年代に入ると米の消費量がピークを迎えたのに対し、生産量は1967年から3年連続で1,400万トンを超える豊作となるなど、大幅な供給過剰が課題に。政府が抱える米の在庫量も増大したため、1971年から本格的に生産調整を開始しました。
当初、生産調整の推進のために国が行った手法が、生産調整に非協力な県や地域へのペナルティーを課すことでした。具体的には、生産調整未達成の市町村により多くの転作面積を配分するほか、転作作物への奨励金を加算しないなどの厳しい措置でした。しかし、日本人の食卓の欧米化や人口減により米の消費量は減少し、米価は依然として低いままでした。
参考:農林水産省「米政策改革の取組―米価の下落とその対応―」
「猫の目農政」と呼ばれた平成の米政策
1995年に食糧管理法を廃止し、新たに「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(食糧法)」が制定。それまでの国による全量管理から民間主導の仕組みへと大きく移行しました。一方、米の消費は減少し続け、生産調整の取り組みへの閉塞感も募っていきました。そこで、2004年から米政策改革を実施。需要に応じた生産数量目標(米を作る面積)を配分する方向に転換しました。2009年に民主党が政権を奪取すると、日本の農政史上初となる米への補助金「戸別所得補償」を掲げ、10アールあたり15,000円の交付金が支給されました。しかし、2012年に自民党政権が復帰すると、2014年1月末の施政方針演説で当時の安倍晋三首相が「いわゆる減反を廃止する」と宣言。このようにめまぐるしく転換した平成の農政は「猫の目農政」とも呼ばれました。
減反廃止の理由
政策の変遷を背景に、政府が減反廃止に踏み切った理由は以下のとおりです。・高齢化により生産者が減少し、減反政策を廃止しても米の大増産は起きないため
・農業の「成長産業化」を掲げる政策と相反するため
「減反廃止」で何が変わった?
減反廃止というと、大きな変化があるように聞こえますが、米の生産調整の手法を見直し、民間主導の生産調整に移行したというのが実際です。変更があったのは大きく分けて以下の2点です。・生産数量目標配分の廃止
・米の直接支払交付金の廃止
生産数量目標配分の廃止
これまでは行政によって生産数量目標(米を作る面積)が決められていましたが、2018年産以降は、産地や農家が自主的に判断し、需要に見合った米を生産することになりました。しかし、米はたくさんの農家が作っているため、個人では適正な生産量の判断が難しい場合もあります。そこで生産数量目標に代わる、「生産の目安」を行政や農業団体でつくる農業再生協議会が設定。それをもとに農家への情報提供がおこなわれるようになりました。農家は自由な経営判断ができるように
生産数量目標配分が廃止されたことで、農家は自由に経営判断をし、作付け面積を決めることができます。もちろん、好きなだけ米を作ってよいというわけではなく、需給バランスを見極めながら生産することが前提です。こうした経営判断ができるようになることで、米生産のコストダウンや経営感覚の優れた経営者の育成にもつながると考えられます。米の直接支払交付金の廃止
これまで10アールあたり15,000円支払われていた「米の直接支払交付金」(旧・戸別所得補償制度)を廃止。飼料用米、麦、大豆などへの転作で支払われる「水田活用の直接支払交付金」と農業の多面的機能の維持・発揮のための地域活動や営農活動に対して支援する「日本型直接支払交付制度」が創設されました。米の直接支払交付金は、農業者の手取りになっていましたが、その一方で、米農家の経営発展への道を閉ざしてしまっていることや、それに伴う農地集積の遅れ、他の作物を生産する農業者との不公平感などの課題がありました。そこで、米の直接支払交付金を廃止し、転作作物への転換を促すほか、農地維持への交付金を拡充することで、生産調整を促すことをねらいとしています。参考:農林水産省「米政策改革について」
これからの日本の米作りはどうなるのか
主食用米の需要量は一貫して減り続け、近年は人口減少などを背景に年10万トン程度に減少幅が拡大しています。さら2020年においては、新型コロナウイルス感染症の影響などにより、中食・外食事業者向けの販売数量が減少し、民間在庫も増えている状況です。こうした中、水田において、麦、大豆、米粉用米、飼料用米や、収益性の高い野菜や果樹などへの転換を進めていくことが重要です。米の輸出はまだ発展途上
縮小する国内市場を背景に、農林水産省では米の輸出に力を入れています。2017年に「コメ海外市場拡大戦略プロジェクト」を立ち上げ、日本産米の海外市場を開拓。2019年のコメ・コメ加工品の輸出量は3万4,851トン、商業用の米の輸出量は1万7,381トンと、過去5年間で約4倍に増加しています。しかし主食用米の生産量約726万トン(2019年産)と比べても、輸出量は生産量の1パーセントにも満たないため、未だ発展途上といえます。参考:農林水産省「令和元年度 食料・農業・農村白書 全文」