目次
専門家にインタビュー
教えてくれたのは
AGRI法律会計事務所の本木賢太郎先生。弁護士、税理士、公認会計士であり、農地問題のスペシャリストです。本木賢太郎先生プロフィール
2002年から大手監査法人で企業向けコンサルティング業務に従事。農地問題に取り組むために2014年に独立してAGRI法律会計事務所を開設。
弁護士、税理士、公認会計士、社会保険労務士。
農地の案件に取り組んだきっかけは?
問題を解決できる人が少ない中、農地を活用する手助けをしたい
本木賢太郎先生
父も母も農家の出身で、農地の問題に触れる機会が多かったというのが一つの理由です。近所の栗畑や田んぼがなくなってマンションになってしまったり、考えることも多かったです。弁護士が農地の相続問題を解決しようとすると、必ず税の問題にぶつかります。一方、税理士で農地についての法律に詳しい人は少ない。そのような中で、農地をきちんと活用していく手助けをしたいと思いました。
農地について、どのような相談がありますか?
相続のほか、企業や農業法人からの相談も
本木賢太郎先生
相続の相談は継続的にあります。最近では、農業に参入したい企業や、規模を拡大したい農業法人から農地の借り方や組織作りについてアドバイスを求められることもあります。
農地を相続したときは、どうしたらよいでしょうか?
生前に相談しておくのがベスト
本木賢太郎先生
相続人が農業を継ぐかどうかによります。農業を継ぐ場合には相続税納税猶予制度を活用して相続税の納税猶予を受けることができます。農業を継がない場合、相続後は相続税を払うために、農地を売るケースが多いです。そのため、生前に専門家に相談をしておいた方が、相続した人の選択肢も増えます。例えば、生前に意欲的な農業者への農地の貸付けを行ったり、納税資金に充てるための準備を行ったりすることで、相続した農地の減少を抑制して資産を守ることもできるかもしれません。
都市部と地方で状況は異なる
また、本木先生は、都市部と地方では、事情が異なると指摘します。本木賢太郎先生
都市部では、事業者もいるし農地の売却は比較的簡単です。また、都市農地貸借法が制定されて、都市部の農地が貸しやすくなっているので、自分で農業ができなくても貸すことができるでしょう。
一方、地方では、いい農地はすぐに借り手が見つかるのですが、あまり条件が良くない農地は、借り手が見つからないという問題があります。その場合には、農業経営者が変わらない形で、市民農園的に趣味として農業をしている人に貸すのが一つの方法です。利用者はその場所で農業を勉強するようなイメージですね。例えば、自分で育てた野菜で料理を出したいレストランのオーナーが利用するという例があります。
一方、地方では、いい農地はすぐに借り手が見つかるのですが、あまり条件が良くない農地は、借り手が見つからないという問題があります。その場合には、農業経営者が変わらない形で、市民農園的に趣味として農業をしている人に貸すのが一つの方法です。利用者はその場所で農業を勉強するようなイメージですね。例えば、自分で育てた野菜で料理を出したいレストランのオーナーが利用するという例があります。
農地を相続、でも農業しないという選択
農地を相続する人が遠方に住んでいたり、サラリーマンなど別の仕事を持っていたりすると、農業をしないという選択をすることがあるでしょう。農地は宅地などとは異なり、勝手に売買や賃貸することができません。そのため、農地を相続することにデメリットを感じたり、農地はいらないと思ったりすることもあるのではないでしょうか。農地を相続した場合の具体的な手順や、気になる疑問についてまとめました。
相続の開始と手続きの期限
相続は、死亡によって開始します。相続放棄をする場合には、相続開始を知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。また、相続税は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に納めなければなりません。兄弟など、自分のほかにも相続人がいる場合には、遺産分割協議を速やかに完了しておく必要があります。
農地だけ相続放棄できる?
相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになるため、農地だけを相続放棄し、ほかの財産を相続することはできません。また、相続財産の一部を使用したり処分したりした場合にも、相続を承認したとみなされ、農地の相続放棄はできなくなるので、注意が必要です。農地を相続したら、登記と農業委員会への届け出が必要
農地を相続したら、登記をする必要があります。登記の手続きは法務局に申請します。また、農業委員会にも届け出をする必要があります。農業委員会は市町村役場の中にある行政委員会です。農業委員会では、相続した人の意志に応じて、手入れができない場合の農地の管理についての相談や、借り手を探すなどのサポートをします。届け出をしない場合には10万円以下の過料を科されることがあります。農林水産省のウェブサイトには、農業委員会に届け出をするときの様式が掲載されています。
農林水産省ウェブサイト「農地の売買・貸借・相続に関する制度について」
農地にしておく方が固定資産税は安い?
農地の固定資産税は、宅地に比べて低額となります。農地として登記していても、実際には別の目的として利用していた場合には、その現況に応じて固定資産税が課税されるので、農地は適切に管理する必要があります。固定資産税は、1月1日時点の所有者が納税義務者となります。そのため、農地を人に貸していても、土地の所有者が税金を納めなければなりません。
農地を宅地や駐車場に転用できる?
農地を転用するためには、農業委員会の許可が必要です。手続きは、農業委員会に許可申請書と法定添付書類などを添えて提出します。農業委員会の許可が得られると、申請者に許可書が交付されます。許可を受けないで農地の転用を行った場合、3年以下の懲役又は300万円(法人の場合1億円)以下の罰金という罰則があります。許可を得るためには、申請自体が妥当かどうかを判断する一般基準と、農地の立地基準の両方を満たす必要があります。
一般基準には、申請者に必要な資力や信用があるか、確実に農地が転用されるか、転用により土砂の流出などの災害を発生させないかなどの要件があります。
立地基準は、その土地がどんな地域であるかによって、転用の可否を判断するものです。考え方としては、農業に適している地域であればあるほど、転用が認められないという仕組みになっています。例えば、市町村が農業振興地域整備計画で「農用地区域」と設定している地域は転用は不許可になります。一方、市街地の区域内や市街地化の傾向が著しい区域では、転用は原則許可されます。そのため、相続した農地がどんな地域にあるかを把握することが重要です。
なお、農林水産省地方農政局では、農地転用制度についての相談窓口を設置しています。
農林水産省ウェブサイト「農地転用許可制度について」
農地の相続、どこに相談したらいい?
役所や農協に相談すると、農地問題に詳しい専門家を教えてもらえることも
本木賢太郎先生
相談先として身近なのは、税理士、司法書士です。ただ、税金については税理士、土地の登記については司法書士の仕事なので、両方に相談しなくてはならないケースも出てくるでしょう。役所の窓口や農協などに相談すると農地の問題に詳しい専門家を紹介してもらえることがあると思うので、最初に訪ねてみてはいかがでしょうか。