農地バンクとは
農地バンク、または農地集積バンクの正式名称は、「農地中間管理機構」。その名前のとおり、農地を貸したい人から農地を借り受け、農地を必要とする人に転貸する公的機関です。各都道府県に一つ設置され、必要に応じて担い手が耕作しやすいよう農地の条件整備なども行います。農林水産省「農地中間管理機構」
設置の背景は高齢化と耕作放棄地の問題
農地バンクが全国に設置されたのは2014年。背景には農業者の高齢化と耕作放棄地の問題があります。農業者の年齢は、60歳以上が全体の4分の3を占め、40歳代以下は1割のみと、非常にアンバランスな年齢構成です。参考:農林水産省2020年農林業センサス結果の概要(確定値)
さらに、国内の耕作放棄地は約42万haと、過去20年で倍増しています。
参考:農林水産省荒廃農地の現状と対策について
高齢化によって今後さらなる耕作放棄地の増加が予想されるため、農業の担い手となる人へ農地を集め、有効活用していく必要があります。そこで、2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」で、日本の農業が 10 年後(2023年)に目指す姿として次の点が示されました。
・担い手が利用する農地面積を全農地の8割(現状5割)に拡大
・新規就農し定着する農業者を倍増し40代以下の農業従事者を40万人(現状20万人)に拡大
・法人経営体を5万法人(2010年現在1 万2,511法人)に拡大
首相官邸「これまでの成長戦略について」日本再興戦略(2013年)
耕作放棄地が引き起こす問題についてはこちら
農地は簡単に貸し借りできない?
そもそも農地を貸し借りするには、農業委員会の許可を得ることが「農地法」によって定められています。農地法による手続きの場合、農地の所有者と借り受け希望者が契約を結び、いくつかの要件を満たすことで農業委員会の許可を得て農地を貸したり借りたりすることができます。一方、農地バンクでは、「農地中間管理事業の推進に関する法律(農地バンク法)」を根拠に、農地の所有者と借り受け希望者の間に農地バンクが入り、3者で契約を行います。
農地バンク活用の仕方|農地を貸したいとき
「後継者がいないので、農地を貸し出したい」「耕作面積を減らしたい」など、農地バンクを利用して農地を貸し出す場合、貸し手はどのような手続きをしなければならないのでしょうか。農地を貸すときの流れ
農地を貸す場合、農地がある自治体や農業委員会などを通じて、まずは農地バンクに登録します。その後、農地バンクが借り手とマッチングを行い、条件が合う借り手が見つかった場合に、初めて農地を貸し出すことができます。<農地貸し出しの流れ>
1. 貸し手は、自治体や農業委員会などを通じて貸付希望の申し込みをする
2. 登録可能な農地か調査が行われる
3. 貸付希望農地として登録
4. 借り受け希望者を農地バンクが公募する
5. 希望者がいた場合、農地バンクがマッチング
6. マッチングが成立した場合は、農地バンクが農地を借り受け、借り受け希望者に転貸する
農地を貸す人のメリット
個人で借り手を探す手間がかからないうえ、公的な機関が仲介するため安心して農地を貸すことができます。また賃料を確実に回収でき、貸し出した農地がそのまま放置される心配もありません。さらに、契約期間終了後は、返還か再度貸付か決めることができるので、「貸し出したまま農地が返還されない」という心配もありません。また、一定の要件を満たせば、貸し付けた農地の固定資産税が一定期間軽減されるほか、農地を貸し付けた人や地域に機構集積協力金が交付されるメリットもあります。
農地を貸すときのデメリットは?失敗しないために注意したい点
一方で注意したい点もあります。一度貸し出した農地は、原則10年以上貸し出すことになります。また、条件不利地などで借受け希望者が見つからないなど、農地中間管理事業を活用できないこともあります。農地バンクに登録したからといって、必ず借り手が見つかるわけではありません。借り手が見つかるまでは、自身で農地を管理する必要があります。また、都道府県によって異なりますが、貸し手と借り手両方に農地バンクの手数料が発生します。農地を相続した際の手続きなどはこちらを参照。
農地バンク活用の仕方|農地を借りたいとき
「新規就農したい」「農地の規模を拡大をしたい」など、農地を新たに借りたい場合はどのようにすればよいのでしょうか。農地を借りるときの流れ
農地を探す
農地を借りるといっても、まずは希望する地域で借りられる農地があるのか、情報収集をしなければなりません。そこで活用したいのが「全国農地ナビ」です。全国農地ナビは、市町村や農業委員会が管理している農地を委託契約して探せるようにしたウェブサイトです。農地バンクによる農地集積・集約化を進めるために整備されたウェブサイトで、農地情報を電子化・地図化して公開しています。
ただし、全ての市町村の情報を網羅しているわけではないうえ、最新の情報が更新されていない可能性もあります。まずは農地を借りようとしている自治体か農業委員会などに相談するとよいでしょう。
農地を借りる
希望する農地が見つかったら、農地バンクの借受希望者の募集に応募します。農地の貸し出しは公募になるため、直接貸し手と交渉することはありません。また、公募の結果は農地バンクのウェブサイトで公表されます。マッチングした場合、初めて農地を借りることができます。農地を借りる人のメリット
農地バンクを通して農地を借りることで、地域との橋渡しをしてもらえるほか、まとまった農地として借り受けすることが可能になります。たとえば農地の地主が複数いる場合でも、契約は農地バンクと交わすだけなので、賃借料の支払いなどの事務作業が軽減されます。また、農地を少なくとも10年間以上安定して借りることができます。農地を借りるときのデメリットは?失敗しないために注意したい点
農地を借りられるかどうかは公募によって決まるため、応募する人が複数いた場合は落選することもあります。また、農地バンクに登録されている農地以外にも、地域で貸し出している農地があるかもしれません。自治体や農業委員会、農協などを通じて積極的に情報収集するとよいでしょう。注意点としては、都道府県によって異なりますが、借り手にも農地バンクの手数料が発生します。農地バンク法の改正|制度の見直しと今後の課題
農地バンクを創設した2014年以降、担い手への農地集約は少しずつ上昇し、2019年度の全耕地面積に占める担い手の使用面積のシェアは57.1%です。政府が掲げる2023年までに目標とする80%をめざすには、農地の集積をより進めなければなりません。また、関係団体の連携不足や事務手続きが複雑などの課題が指摘されてきました。そこで2019年に農地バンク法が改正され、農地中間管理事業の見直しが行われました。
<主な見直し点>
・「人・農地プラン」の実質化
・農地バンクの手続きを簡素化
・中山間地域の機構集積協力金の要件を大幅に緩和
・新規就農者に対する無利子融資の償還期限を12年以内から17年以内に延長
出典:農林水産省「農地バンクが変わります」
制度を理解し、農地バンクを活用しよう
農地の貸し手と借り手をつなぐ農地バンク。農地バンク法の改正を経て、制度の課題も少しずつ改善されているといえるでしょう。農家は、仕組みを理解したうえで農地バンクを上手に活用していくことが必要です。農林水産省のページでは全国各地の農地中間管理事業の優良事例集も公開されています。参考にしてみてはいかがでしょうか。