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光を利用した害虫防除!イチゴ農家武下さんのUVB電球活用方法とは

福岡県で「楽農ファームたけした」を営む武下浩紹(たけしたひろつぐ)氏。これまで様々な困難を乗り越え、劇的な経営改善を実現させた農家として、注目されています。本記事では、武下氏の農業生産効率化の一端を担う紫外線UVBを用いた病害虫防除に着目し、その有効性をインタビュー形式でご紹介します。


イチゴ1
近年、IPMの一端として、光を用いた農作物の病害虫防除「光防除」が注目を集めています。「光防除」は極端な農薬利用や作業者の過度な負担が必要ない、持続可能な農業生産につながる新たな可能性の一つです。中でも紫外線UVBを用いた病害虫防除は、その有効性が認められ実用化が急激に進み、今後の普及が期待されています。福岡県にある楽農ファームたけしたは、病害虫で苦労した経験からUVBを導入し見事に防除を成功させ、生産性を劇的に上げた農家さんです。今回はUVBによる防除の説明と合わせて、武下さんにインタビューすることができました。ここではインタビュー内容を通してUVBを用いた光防除の実用性・有効性をご紹介します。
※IPM(Integrated Pest Management)とは、農作物に対する有害生物の制御において総合的に病害虫防除・雑草管理を行うこと。

イチゴを守るUVB(紫外線)電球とは

UVBランプ イチゴはうどんこ病やハダニの発生など、その生産において防除対策が必須となる作物の一つです。この病害虫防除に紫外線(UVB)照射が大きな効果を発揮することが分かっています。農薬のように薬剤抵抗性発達の懸念がなく、品質向上も期待できることから、さらなる普及が期待されています。ここでは実際の応用事例を紹介する前に、そもそもUVBとは何か、なぜ病害虫を防除できるのか、農業生産における投資効果はどうなのか、についてご説明します。

▼光防除のことならこちらをご覧ください。

▼薬剤抵抗性のことならこちらをご覧ください。

UVBとは

太陽光スペクトラム
出典:flickr (Photo by byr7)
紫外線(UV)は太陽光中に含まれる400nm以下の波長の光のことを言います。その中でも、波長の長さによってUVA(315400nm)、UVB(280315nm)、UVC(280nm以下)に分類されます。太陽中に含まれるUVCは、その波長が短く、高エネルギーですがオゾン層によって吸収されるため地上には届きません。一方、中波長以上の波長の長さを持つUVについては、UVAとUVBの一部が地上に降り注ぐことがわかっています。特に中波長の紫外線UVBは高いエネルギーにより、人間活動に対して、殺菌作用・ビタミン生成効果などのメリットと日焼け・DNA損傷の原因などのデメリットを持っています。

UVBで病害虫を防除

UVBが、特にイチゴの病害虫を防除することが明らかになってきています。

UVBで、うどんこ病からイチゴを守る

UVBの殺菌作用によって、直接うどんこ病菌の発生・拡大を防げることが分かっています。また植物体にUVBが照射されることで、植物体が本来持つ病害虫への抵抗力をアップさせることが知られています。
▼UVBによるうどんこ病防除のことならこちらをご覧ください。

UVBでハダニからイチゴを守る

UVB照射がハダニを直接殺したり、その発生を抑えたりすることがわかっています。ハダニは普段は葉の裏側に存在するので、上からUVBを照射するだけではハダニまで届かず、防除効果が現れないことがあります。そのような場合には、反射材を利用したり、天敵生物を放飼したり、とほかの防除法などとうまく併用して被害を抑えることができます。

▼UVBによるハダニ防除のことならこちらをご覧ください。

夜間照射が有効

ハダニやうどんこ病菌を含む生物には、「光回復効果」という現象が存在します。光回復効果とは、UVBなどの目に見えない紫外線によるダメージを、可視光のエネルギーを利用して回復することをいいます。
近年の研究では、紫外線を照射されたハダニ個体がすべて死ぬような場合でも、紫外線の後に可視光を照射することで、ほぼ全ての個体が生き返るという研究結果も得られています。このようなダメージの回復を防ぐために、自然の可視光が存在しない夜の時間帯でのUVB照射がおすすめです。
▼夜間のUVB照射のことならこちらをご覧ください。

UVB防除の費用対効果

UVB設置イチゴハウス その高い防除効果が明らかとなってきているUVBですが、実際の農業現場で利用する上では、導入のための初期費用が高いことが最も大きなハードルとなります。
ですが、一旦導入すれば農薬の使用量が大幅に減少し、収量が大きくUPすることが見込まれます。これについては、実際に経営収支のモデルが立てられて検証されており、UVBによる農業所得の増加で導入に係る初期費用は初年度で回収可能であることが示されています。

参考:紫外線照射を基幹としたイチゴの病害虫防除マニュアル(農研機構)


UVB効果について、イチゴ農家さんにインタビューしました

楽農ファームたけした様2
UVB導入に至るまでの苦労や利用による効果など、武下さんからお話を伺うことができました。

武下浩紹(たけした ひろつぐ)
株式会社楽農ファームたけした代表取締役。産直農家として、「イチゴで感動を届けたい」という想いを胸に、おいしいイチゴを作るために日々研究・奮闘している。
ブログ「苺一愛(いちごいちえ)」にてそのイチゴ愛を発信中。


UVBの導入に至るまでの経緯

初期導入費用が高いことがハードルになりがちなUVB防除ですが、導入を決めるきっかけなどはあったのでしょうか?
イチゴにうどんこ病が発生すると、ハウス内のイチゴの大半がやられてしまうんです。特に去年などは金額にして、およそ1,000万円の損失を出してしまっています。イチゴの果実にカビがついてしまっているので収穫しては、捨てることの繰り返しでした。せっかく労力をかけて収穫しても、それらをまた労力をかけて捨ててしまうことになり、非生産的な仕事がどんどん増えていくような状況でとてもつらかったです。
そこでUVB導入を考えました。初期導入費用が大きかったのですが、うどんこ病による損失金額に比べるとマシだと思いました。うどんこ病で1,000万円の損失がこの先、毎年続いてしまうリスクを考えると安いと感じたんです。これを導入してうどんこ病が少しでも軽減できるのであれば導入する価値があると思って導入に踏み切りました。

UVBの導入によるうどんこ病への効果

実際に導入して、うどんこ病に対する効果はいかがでしたか?
8月、夏場から導入して手ごたえを感じました。たしかにうどんこ病に効果があるんですが、それだけじゃなく植物の抵抗力を上げてあらゆるカビに対して強くなっているような印象を受けました。苗のハウスだったので小規模で比較対象がなく、UVBによる効果がどれほどのものなのか、見極めきれなかったんです。でも11~12月などのシーズンにかけて全く発生しなかったので、その効果を実感しました(早いときでは11月ごろからうどんこ病は発生する)。シーズンを通じて、収穫に至るまで誰もうどんこ病が発生した果実を見つけられなかったんです。

UVBの導入による費用対効果

うどんこ病やカビがハウス内にまんえんすると、ほんとに手がつけられません。それこそ3日に一回殺菌剤をまくか、撤去するかになってしまう。でも撤去しても結局は「いたちごっこ」です。目に見えない空気中の胞子が必ず残っており、転移を繰り返してしまうんです。その対策が本当に大変だったんですが、それに比べるとUVBの効果は絶大ではるかに快適です。かかる労力が全然違うので、労力をお金に換算したら、かなり大きなコストダウンになります。従業員一人分の人件費以上、効率化してますよ。その分、ほかのことに集中できるので、摘果作業などの品質を向上するための前向きな作業を行うことができます。

ハダニへの効果

ハダニの被害に対する効果はいかがでしたか?
UVBのハダニに対する防除効果も確認するために、10月ごろにいつも放飼している天敵類を放飼せずにUVBランプのみの効果を検証してみました。するとハダニは出たんですが、いつもとは違ってピンポイントで部分的に発生しているだけでした。そこでさらに天敵のカブリダニを放飼してみたところ、被害が大きくなることはなく落ち着いた状況を作ることができています。
天敵カブリダニもUVBでやられないかな、と少し疑問だったんですが、ハダニが発生しているのだからカブリダニも大丈夫だろうと思い、そのまま放飼しました。UVBと天敵ダニを合わせて使ってからハダニが大きく被害を広げるようなことはないです。
ハダニは毎年苦労するんです。毎年、天敵ダニを導入するんですが、今回UVB照射だけの状態でも発生は少ないなと感じました。ただ、うちの場合は、それだけでは抑えきれなかったので天敵ダニを合わせて使って防除しています。

UVB導入で日々の不安が解消された

UVBを導入してほかに良かったことはありますか?
UVBで防除がうまくいくと、未来に希望がもてるんですよ。例えば、3月の時点でうどんこ病がハウス内にまんえんしていると、4月、5月はどうなるんだろう…と不安にさいなまれてしまうんです。農業を続けていく上で、この不安と恐れが大きいんです。
ハウス内のうどんこ病の胞子はなかなか取り除けません。ハウスをあけて換気しようとすると、カビの胞子が舞い上がって拡散してしまいます。一方、ハウスをあけなければ、中でモヤモヤしてしまう。手の打ちようがなくとてつもない不安があったんですが、このUVBランプを照らし続けることでもう悩まなくてよくなる。これだけで全然気分が違います。



生産への効果は絶大!UVB導入による品質や売上について

UVBランプ
防除効果に加えて、イチゴの品質への効果や売上への貢献についても、伺いました。

品質への効果は絶大

国の害虫防除プログラムでは、UVBの効果として品質向上の可能性についても着目されています。武下さんのイチゴでは品質への効果は確認できましたか?
これはUVBの効果なのかどうか確かめられてないのですが、過去最高に葉肉が厚くて果実があまいんです。光合成の能力も上がってるんじゃないかと感じています。UVBランプの仕様書には品質についてなにも記載されていませんでしたが、結果として過去最高収量となっているしイチゴの状態は非常に良くて、うどんこ病も発生しない。それによってUVB導入の初期費用は1年で回収し、農業収入を増やすことができました。生産への効果は絶大ですね。
また、仕様書にはうどんこ病・ハダニへの防除効果しか記載がなかったのですが、電照としての効果もあるんじゃないかと思ってます。11月中旬ぐらいから、UVB夜間電照を始めたんですが、株がいつも以上に伸び過ぎるんです。普段から日中の電照時間は短めに設定してるんですが、あまりにも伸びるので、通常の電照を切りました。結果的に1月中旬ごろまで、日中の電照時間はゼロです。UVBが普段利用している電照としての効果も発揮して、生育を促したんだと思います。

玉の大きさ、花のつき具合にも効果が

イチゴ2 果実や花の様子はいかがでしょう?
UVB照射の有無で大きさを比較したわけではないので、わかりませんが、玉の大きさは去年と比べると明らかに大きいです。これがUVBの効果だとしたら、本当にすごいことだと思います。去年よりもワンサイズ分大きくなってます。
花の付き具合も花がついている枝が大きいので、ひょろひょろしておらず、しっかりとしたものがついています。花数が多くても、果実はしっかりした大玉になるのでとても栄養状態がいいんだと思います。
UVB照射の効果で葉が分厚くて強い、花も強く、果実も肥大するようになっているのであれば、うどんこ病やハダニの防除だけでなく生育促進効果についても、きっと研究の価値があるんじゃないかって思います。

売上にも効果が

UVBによる防除がまだまだ普及していない理由の一つに、投資効果がどれほどのものか、売上にどれほど貢献するのかが、わかりにくいことがあると思います。武下さんの農園ではUVB防除の売上への効果はいかがですか??
今年は、販売プロセスの構築など、様々なチャレンジがあったので単純にUVBの効果だけで売上の話をするのは難しいんですが、収穫量を見るとUVBによって明らかに多くなっています。もちろんロスの量も減ったし、葉肉・葉の質がとても良いことから品質・収量も向上していると思ってます。収穫量は前年比の2~3割増しで忙しく働く日々です。これで、もしもうどんこ病が発生していれば、その対応に労力を取られるんですが、それがないので前向きな作業に集中して取り組めています。特に単価は下がらないので、収穫量UPによって売上も増えてきています

農家が幸せに暮らしていけるような仕組みづくりを

今後の夢や展望など、お聞かせください。
最新の技術を導入しながらやりたいし、いろんなメーカーの方々が農業・食糧生産に興味を持ってほしいと思います。これからはやっぱりコラボレーションが大事だと思います。販売においても生産においても環境の変化があまりにも激しいので、農家が農家同士だけで努力しあっててもなかなか対応できないんです。だからこそチーム作りって大事だと思います。
メーカーの皆さんと組んで最新の技術を応用しながら、農家が本当に幸せに暮らしていけるような仕組みづくりをしていきたいです。やっぱり自分が一番幸せになりたいので、そのためにも同じ業界の仲間でいろんな人とシェアしながら技術を効果的に使えるようにしていきたい。学者さんが良い技術を開発しても現場で使えなければ意味がないので、研究者の皆さんの学科と農家の実地の連携を深めていきながら、業界の発展に貢献したいと思っています。今回パナソニック株式会社さんとUVBランプを通じて人間関係ができたことは、将来に向けての財産になると思います。そういう風に組むことの大切さを感じられる農家を自分も応援したいと思います。

▼竹下さんのインタビュー動画はこちらからご覧いただけます。

イチゴ栽培に適した防除法、UVBに今後も期待!

UVB防除関係者2
今回は実際にUVBランプを用いて防除を成功させた事例をインタビュー形式でご紹介しました。この成功事例からもうかがえる通り、紫外線UVBは高い防除効果を持ち、薬剤抵抗性の発達のように感受性が変化することもないため、ハダニとうどんこ病の防除には最適です。さらに品質向上や生育促進の効果も期待できることから、イチゴ栽培にはとても適した防除法だといえます。
一方、その存在や効果などがまだまだ知られておらず、普及していない現状があります。昨今では、農業におけるIPMの推進、GAP、SDGsへの貢献が求められています。無駄な労力やコストを削減できる紫外線防除は、この観点においてもとても重要な技術であり、今後の日本の農業において、さらに普及・導入が期待されます。
※GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において食品安全、環境保全、労働安全などの持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことです。
▼農作物の安全・GAP(農業生産工程管理)のことならこちらをご覧ください。

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村田 康允

大阪府茨木市出身。大学院農学研究科で農業害虫を扱った研究に取り組み、博士号を取得。国際学会・ワークショップや応用研究プロジェクトなどに積極的に参加。 幼少期から持つ生物への興味とこれまでの経験を活かして、栽培・農薬・害虫などの記事編集を担当。 好きなことは音楽で遊ぶこと。

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