本記事では近年のIPM志向によって、農薬に頼らないうどんこ病の対策として、注目を浴びている「紫外線」を用いた防除法について紹介します。
※IPM(Integrated Pest Management)とは、総合的に病害虫や雑草管理を行うことです。
うどんこ病の症状・特徴
うどんこ病は作物だけでなく、雑草や花きなど多くの植物に発生する病気です。農作物においては、果実など収穫部位に被害が出ると収量に直接影響するため大きな損害となります。うどんこ病の症状
このうどんこ病に感染すると、どのような症状が現れるのか説明します。葉の被害症状
はじめは葉に白い斑点が見え始め、徐々に大きくなり、うどん粉を振りかけたように白くなってしまいます。被害が進むと株全体に広がっていきます。※さらに症状が進むと奇形葉になることもあります。
果実の被害症状
葉と同様に白い斑点が見え始め、次第に果実全体に被害が及びます。うどんこ病の特徴
うどんこ病発生の原因や特徴について紹介します。多発時期
春と秋に発生しやすく、比較的乾燥した条件で多発します。発生適温
20~25℃風媒伝染菌
うどんこ病菌は風によって胞子が運ばれて伝染する「風媒伝染菌」です。寄生条件
白い粉が付着したような症状が類似しているため、ひとくくりに「うどんこ病」と呼ばれていますが、その病原菌には多くの種類があり、各病原菌は決まった種類の植物にのみ寄生します。しかもうどんこ病菌は「絶対寄生菌」なので、生育中の宿主植物からエネルギーを得ることで生きています。つまり、うどんこ病菌単独で生きてくことができないので、寄生している宿主植物(細胞)が死んでしまった際には、病原菌は休眠状態となります。
※絶対寄生菌とは、生きている宿主に寄生しないと増殖できない微生物のことです。
うどんこ病感染後の被害拡大
感染後の病原菌の胞子形成については、比較的冷涼な気候かつ高湿度条件下で促進されます。昼夜の寒暖差が大きい場合などでは発生、進行が促されやすいため注意が必要です。▼うどんこ病のことならこちらをご覧ください。
うどんこ病の4つの防除方法
ここでは従来よく用いられている4つのうどんこ病の防除対策について説明します。1. 雑草管理
うどんこ病には多くの種類があり、それぞれの病原菌が多様な植物で発生します。そのため、さまざまな種類が存在する雑草には、多くのうどんこ病の病原菌が繁殖して伝染源となる可能性があります。除草をしっかり行い、うどんこ病伝染のリスクを抑えましょう。▼除草に使用する除草剤のことならこちらをご覧ください。
2. 病害への抵抗性
一例として、水溶性の液体ケイ酸カリウムを与えることで、植物体自身の持つ病害に対する抵抗性が強くなることがわかっています。このほかにも作物の生育が健全であることで、植物体自身の持つ病害に対する抵抗性を強くすることが可能になります。
3. 環境整備
過繁茂などによって植物周りの湿度が高くなってしまうと感染後の被害を助長しまうので、感染した葉などは早めに除去して通気の良い環境を整えましょう。4. 農薬
うどんこ病は症状が同じでも、その病原菌にはさまざまな種類があり、作物ごとに適した農薬を用いる必要があります。また、同じ農薬をくり返し使用すると、薬剤耐性菌が出現することがあるので、異なる薬剤をローテーション散布しましょう。▼農薬の選び方・使い方のことならこちらをご覧ください。
▼ローテーション散布のことならこちらをご覧ください。
うどんこ病防除の問題点
これまでうどんこ病防除にさまざまな方法が用いられていますが、問題点がそれぞれあり、より効率的な代替案が求められています。適用の困難さ
高設栽培など近年の栽培方法の多様化によって、上記のような従来の方法での防除の適用が困難になってきています。※高設栽培とは、ハウス栽培でパイプなどでベンチを組み立て、80~120cm程度の比較的高い位置にそこに栽培床を設置した様式。主にイチゴを栽培する際に作られる。
薬剤抵抗性
同じ薬剤や、同様の作用性をもつ薬剤を繰り返して使用すると耐性菌が発達し、薬剤感受性が低下してしまいます。▼薬剤抵抗性の低下のことならこちらをご覧ください。
作物への影響
薬剤散布やくん煙処理では、作物そのものへの残留が懸念されており、品質に悪影響を与える可能性があります。▼農薬を安全に使用することならこちらをご覧ください。
うどんこ病防除に効果的な紫外線照射
ここではうどんこ病対策における問題点の解決のために、近年IPMの拡充において注目されている紫外線照射について紹介します。うどんこ病抑制のための紫外線照射実験
以前より紫外線や青色光などによるうどんこ病防除効果の存在が示唆されていましたが、ここ10年ほどで科学的な根拠を基にした実用化が進んでいます。紫外線とは?
400nmより短い波長の光のことでヒトの目には見えない波長です。地上に降り注ぐ紫外線の中では、280~315nmの中波長の紫外線UVBが最もエネルギーが高いといわれており、日焼け、ひどい場合だと皮膚がんの原因になることもあります。
紫外線照射によるうどんこ病抑制実験
うどんこ病の発生が大きな問題となるイチゴ栽培において、紫外線によるうどんこ病抑制効果を確認する実験が行われました。ハウス内で栽培されているイチゴの株に4つの試験区を用意し、うどんこ病が発症したイチゴ果実の数を比較しました。
【イチゴ栽培での4つの試験区】
①紫外線ランプを照射
②紫外線ランプを照射し、さらに株下に紫外線を反射する光反射シートを設置
③光反射シートのみを設置
④無処理
以上のことから、紫外線を照射することがうどんこ病の発生を抑制することがはっきり示されました。
参考:兵庫県立農林水産技術総合センター農業技術センター 研究成果
作物への紫外線照射の影響は?
病害虫を抑えられても、収量や品質に悪影響があっては防除技術として効率が良いとはいえません。紫外線照射による抵抗性強化実験
「紫外線を照射したイチゴの葉」と「照射しなかったイチゴの葉」をそれぞれ調べると、「紫外線を照射したイチゴの葉」は病害抵抗性に関する遺伝子が働き、抗菌物質が増えていることが分かりました。このことから、紫外線によってイチゴそのものが持つ病害に対する抵抗性、免疫機能などが強くなることも明らかになりました。
参考:神頭他(2011)
「紫外線(UV-B)照射によるイチゴうどんこ病の防除, 植物防疫 第65巻 第1号 p. 28–32.」
紫外線照射による作物の品質向上!
調査の結果、紫外線照射がある場合では、無処理の場合と比べてイチゴの収量に悪影響がないばかりでなく、糖度が高くなり、果色も濃くなる傾向が確認されました。参考:ひょうごの農林水産技術 ー 農業編 ー No. 210 2020(令和2年). 8.
紫外線照射への期待
栽培作物の種類や事例により異なりますが、紫外線を照射することによって、作物がもつ本来の力を引き出すものと考えられます。紫外線(UVB)の利用はうどんこ病に対して高い防除効果を持つのみでなく、品質向上の傾向まで見られることから、今後の導入拡大が期待されています。参考:農研機構「紫外光照射を基幹とした イチゴの病害虫防除マニュアル」
紫外線を活用したうどんこ病防除法の導入
導入の際に必要になる「紫外線(UVB)ランプ」や「光反射シート」、また紫外線を照射する際に注意すべき点について説明します。紫外線の導入
紫外線を用いたうどんこ病抑制に使用する紫外線(UVB)ランプと光反射シートを紹介します。紫外線(UVB)ランプ
基本的にハウス内の天井部分に設置して、作物に向かって上から紫外線(UVB)ランプを照射します。株とランプ間の距離などを調整することで照射量を最適化します。【紫外線(UVB)を人工的に照射する専用の電球型の蛍光灯】
UV-B電球形蛍光灯+反射傘:6セット入(1キット)
SPWFD24UB2PA・SPWFD24UB2PB
※紫外線(UVB)は国の研究機関の防除マニュアルで推奨されているものです。
光反射シート
上部からの紫外線照射のみでも防除効果は認められていますが、光反射シートなどを利用して葉の裏面からも紫外線を照射することで、うどんこ病の抑制効果がさらに大きくなることが明らかとなっています。そこで利用されているのが「タイベック」と呼ばれる防水・遮熱など、さまざまな用途に用いられるシートです。このシートは、紫外線(UVB)領域の光の反射率が高いという特徴があり、地表部に敷くことで反射光により葉裏にも効率よく紫外線(UVB)を照射することが可能となります。
これはもともと葉裏にいる害虫のハダニ類を抑制するために用いられていましたが、うどんこ病対策でも実用化が進んでいます。
基本的には施設栽培において、紫外線(UVB)ランプの光を反射させて用いられますが、露地栽培で太陽光に含まれる紫外光を反射させる応用可能性も考えられています。
▼ハダニ類のことならこちらをご覧ください。
▼紫外線(UVB)によるハダニ防除のことならこちらをご覧ください。
紫外線による葉焼け防止
うどんこ病の抑制効果が高い紫外線(UVB)ですが、その照射強度があまりにも強すぎると逆に葉焼けや裂皮果などの傷害が生じてしまいます。照射時間と照射量の調整
葉の一部が少し焼けるぐらいなら影響はありませんが、ひどい場合だと収量が減少してしまいます。特にランプと株の間の距離が取りにくい高設栽培や冬季などの気温の低い条件下で発生しやすいため、照射時間や照射量を調整するなどの工夫が必要となります。参考:農研機構「紫外光照射を基幹とした イチゴの病害虫防除マニュアル」