横浜から移住した鳥越靖基さんの営む農場「YASKI FARM」は、はてしなく広がる空と、阿蘇の外輪山を見渡せる山のてっぺんにある。「ここには感じられる大事なことがたくさんあるんですよ」と鳥越さんは語る。東京で音楽活動をしていた鳥越さんは、2012年に熊本県山都町に移住。農業経験ゼロから有機農業を学び、耕作放棄地を自分達で再開墾して畑を作った。『ユノガル』という曲名がつけられた畑はとても居心地がいい。ふかふかの柔らかな土のなかで有機ニンジンが育ち、農作業の合間にはこの畑で音楽が生まれるという。日本でも稀有な「有機JAS認証」を持つミュージシャンである鳥越さんは、「有機農業」と「音楽」と「地域」をつなぎ、山都町だからできる暮らしを大切にしている。
新規就農のきっかけは、東日本大震災
さっそく地理的条件や、自分たちのライフスタイル、持続可能な暮らしを実現できそうな場所をインターネットで探したところ、山都町がヒットしました。僕はすぐに野菜を作って仲間たちに届けたくて、2011年7月に熊本に来ました。ところが山都町で空き家が見つからない。隣の西原村から山都町に通って、農家さんのアルバイトをしながら家を探し、2012年4月に移住しました。
移住したけど畑がみつからない!
ようやく見つけた土地は、山のてっぺんにある耕作放棄地でした。しかも、農業ができないと言われていた場所でした。できないと言われたら、よけいにチャレンジしたくなりますよね。僕は手つかずの耕作放棄地を見て、ここならば自分たちが実現したい有機農業ができると思いました。有機農業をするならば、山のてっぺんからきれいな水をはぐくみたいという思いもありました。
自分達の手で荒れた耕作放棄地を再開墾
そして、自分達で荒れた耕作放棄地を再開墾することに。ユンボやチェンソーを使って、木を伐り、ひとつずつ畑ができるたびに曲の名前をつけました。今は約4ヘクタールの畑があります。僕たちの畑はセッション、有機野菜はメロディ、栽培しているニンジンは音符です。YASKI FARMはそれを奏でています。音楽の仕事も続けていて、畑でさまざまな曲を作ります。「有機野菜」と「音楽」と「地域」を仲間たちと奏でることが僕のテーマですね。YASKI FARMの原点となった「BLOF理論」
BLOF理論とは、本来持つ「土の力」を引き出すこと
この土地に降り積もった火山灰には、豊富な鉄やミネラルが含まれています。草を食べた動物の排泄物は肥料となり、生えてきた草は再び土に還っていく。春になると「野焼き」もします。眼の前に阿蘇の外輪山があって、ミネラルを含むマグマがあって、この土地ではぐくまれたきれいな水は、有明海まで流れて、蒸発して山に戻ってくる。すべてが調和して循環しています。山都町は有機農業に必要な条件がそろっていて、自然の恵みで暮らしていることを日々実感します。
BLOF理論なら、野菜が立派に育つ
僕たちは「機能性有機野菜」というミネラルやビタミンなどが豊富に含まれた栄養価の高い有機野菜を作っています。メインで作っているのは、ニンジンとピーマン。野菜が苦手な子どもたちにも、喜んで食べてもらいたいからです。ここは山のてっぺんなので、冬は気温がマイナス15度になることもあります。でも、この畑の土は固まらない。微生物が活発に動いて発熱しているので、土のなかは毛布のように暖かいんです。BLOF理論で土作りをしっかりすれば、寒冷地でも野菜は立派に育つし、寒ければ寒いほど甘いニンジンができます。「有機JAS認証」を持つ稀有な音楽バンド
有機野菜をもっと多くの人に届けたい
実際に有機野菜の販売をしてみたら、何万人にも届けることができるんですね。レコードならば、ミリオンセラーです。やっぱり食べものは、作っている人が自分の言葉で伝えることが大事です。僕は毎日やっていることをSNSで発信していたら、あちこちから問い合わせや注文をいただくようになりました。日本の耕作地で有機認証を受けているのは全体のたったの0.2%です。この土地が持つエネルギーとBLOF理論があれば、高品質の有機野菜を作ることができるので、もっと生産者の仲間を作って、より多くの人に栄養価の高い有機野菜を届けていきたいです。
熊本地震で実感した山都町の「自給力」
地域のなかに入って生きるには、信頼関係を築くまでかなり時間がかかります。集落と家族はとにかく大事ですね。今、暮らしている集落は11世帯で、集落のみなさんも消防団も家族のようなもの。ぼくも消防団として火事があれば消防車両を動かします。観光協会の理事や小学校や集落の世話役、祭りやイベントの打合せや飲み会の段取りなど、地域のなかで僕にできることは、できる限り楽しみながら引き受けています。
この町には、一緒に生きていきたい仲間がいる
僕は山都町で生まれたわけじゃないけど、ここにはふるさとの家族のような人たちがいます。いつも助け合える仲間がいる。だから、僕はここが好きです。最終的には「人」ですね。毎年8月のお盆には、農業文化遺産「通潤橋」の前で、私達の有機野菜を使ったフード、ジビエ、地元のお酒、音楽を楽しむ「呑みフェス」というイベントを実施しています。来てくれる人にも楽しんでもらえるし、主催者の僕たち地元メンバーが誰よりも楽しんでいます。
一緒に生きていきたいと思える仲間がいること。みんなとつながって暮らしていくことがすごく楽しい。僕は最初の頃、自給自足するには何でも自分で作らなきゃと思っていました。でも、仲間がいたら一人で全部作る必要がないことに気づきました。それぞれ違うものを作る仲間がいたら、何でもそろいますからね。
有機農業と共に奏でる山都町の未来
畑とキッチンが直結した楽しい交流拠点をつくりたい
これから実現したい夢は、畑のなかにオープンキッチンスタジオを作ることです。収穫した野菜を選んで、みんなで料理を作って食べたら楽しいですよね。シェフや地元のお母さんたちのレシピも用意して、作った料理を真空パックにして持ち帰ってもらう。また食べたくなったら、ここに来てもいいし、僕たちが食材を送ってもいい。また来てもらえる仕組みを作りたいです。この素晴らしいロケーションで、畑とキッチンが直結する。地元の人も来るし、旅する料理人みたいな人も来たり、いろんなジャンルの料理が楽しめる場所になればいいですね。山都町は旬の野菜や山菜もあるし、フルーツもあります。子どもたちは畑や川で遊べるし、農家さんのところに民泊してもいい。ここで音楽イベントやマルシェもできるし、夜は星がきれいです。みんなでいい音楽を聴きながら、自分たちが育てたお米で作ったビールを飲んで、子どもたちとダンスをして、みんなで楽しむ。すべてがつながると思うんですよ。僕が一番したいのはそういうことです。農家の雰囲気を生かしたラグジュアリーな宿もいつかできたらいいですね。
有機農業を始めたい人を応援したい!
うちの畑には遠方や海外からも人がいっぱい訪ねてきてくれます。いきなり移住というのはハードルが高いので、僕たちの畑が農業の豊かさや山都町の暮らしに触れてもらうきっかけになれたらいいですね。
<取材>Michiko Takasakiフリーランスインタビュアー&編集者 熊本出身、東京在住。スタートアップや地域活性ビジネスなどの分野を中心に、編集や企画プロデュース・インタビューなどの仕事をしています。自分らしく、人生のハンドルを握って生きている人に興味があります。
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