日本一の有機農業の町、山都町の農家は「わさもん」でクリエイティブ

「有機」「オーガニック」「無農薬」という言葉を良く耳にしますが、そもそも「有機野菜」とはどのようなものなのでしょうか。日本の有機農業の発祥の地であり、有機農業日本ーの熊本県山都町で、自然のリズムによりそいながら、生活する3名の有機農家にお話をうかがいました。


山都町の景色

提供:山都町役場
熊本県山都町は九州のほぼ中心に位置し、阿蘇の外輪山と九州山地に囲まれた”九州のへそ”にあたるエリアです。標高300〜900mの冷涼な気候と寒暖の差が大きい地域で、中山間地の特性を活かした農産物を生み出してきました。
あまり知られていませんが、日本の有機農業の発祥の地といわれ、「有機JASの認証」を取得した生産事業者数も日本でトップ。現在は45事業者が「有機農産物 認証登録事業者」として登録され、多くの生産者が有機栽培に取り組んでいます。

【有機農産物 認証登録事業者数】
順位 市区町村 登録者数
1位 山都町(熊本県) 45
2位 霧島市(鹿児島県) 33
3位 姶良市(鹿児島県) 29
4位 丹波市(兵庫県) 27
5位 北杜市(山梨県) 24
参考:アグリコネクト株式会社 有機農産物認証登録事業者数「市町村ランキング」
山あいの棚田で丹精こめて育てられたお米やお茶をはじめとして、約50品目の野菜が有機JASの認証を取得。化学農薬を使わないで、安心できる本物の食べものをみなさんの食卓にお届けしています。

山都町がはぐくむ「食」への想い

山都町の食
撮影:たかき あゆみ
40年以上にわたる山都町の有機農業の歴史を支えてきたのは、この土地にあるありのままの自然の恵みや、暮らしの営みをこよなく愛する「わさもん」で研究熱心な生産者たち。「わさもん」とは、熊本弁で新しいものが好きなチャレンジャーのことです。「子どもたちには、よか米ば食べさせてやらんといかんばい」。

私たちの体は食べものでできています。安心できるおいしいものを食べてもらいたい。山都町は保育園や小中学校の学校給食にも地元で有機栽培されたお米や野菜がメニューに登場するほど、「食」を大切にする風土があるのです。

そもそも、有機農業って?

有機農業とはどんなものなのでしょうか?

農林水産省に定められた法律によると、有機農業では、次の3つの基準をクリアしなければなりません。
1. 化学的に合成された肥料や農薬を使用しないこと
2. 遺伝子組み換え技術を利用しないこと
3. 環境に対する負荷をなるべく低減した農業生産の方法を用いること

有機 JAS(有機農産物)の認証を取得するには?

有機JAS(有機農産物)の認証を取得するには、
・圃場に周囲から使用を禁止されている資材が飛来したり、流入したりしないように必要な措置を講じていること
・種をまいたり、苗を植え付ける前に2年以上、圃場に化学的に合成された肥料や農薬を使用していないこと
などの条件を満たすよう、さらに厳しい基準が設けられています。農林水産省が定めた「有機 JAS 規格」の検査に合格しなければ、「有機」を冠につけた表示をすることはできないのです。そんな厳しい基準をクリアし、山都町で有機農業を営む生産者さんにお話をうかがいました。

有機農業についてもっと知りたい方は、こちらの記事もチェック!


僕たちの畑はすべてがつながっている【鳥越 靖基さん】

鳥越 靖基さん
撮影:たかき あゆみ

山都町の冬はマイナス15度、寒いほど野菜は甘い

僕たちの畑は、標高600mの山の上にあります。目の前に阿蘇の外輪山が広がって、夜は星空がものすごくきれいです。この畑は横浜から一緒に移住してきたバンドの仲間たちと、開墾して作りました。阿蘇のマグマの火山灰が降り積もっているので、鉄分やマンガンなど豊富なミネラルが含まれています。冬はニンジンをメインに作っています。一番寒い時期はマイナス15度ぐらいになりますが、野菜は寒ければ寒いほど、甘くなるんですよ。

土が本来持つ力を、最高の状態に整える

 人参
撮影:たかき あゆみ
畑の土に触ると、空気がたくさん含まれていて、毛布にくるまれているように柔らかくてふわふわなのがわかります。このなかでニンジンは呼吸をして生きています。土のなかにはたくさんの微生物が活発に動いていて、マイナス15度になってもこの畑の土は固まらなくてあたたかいんです。畑の雑草や動物の排泄物も堆肥にして、土に還します。毎年3月になると「野焼き」をして枯草を全部焼き払います。その灰が栄養となって、畑に新たな春が訪れる。すべてがつながって、ハーモニーを奏でているんです。

日本のなかで有機 JASの認証を持つ音楽バンドは、僕たちだけでしょうね。有機野菜の生命力が強いのは、空から太陽の光が降りそそぎ、土の中にもそれに匹敵するたくさんのエネルギーが蓄えられているからです。科学的な有機農法「BLOF理論」に基づき土の成分を科学的に分析し、必要なミネラルを補うことで、土が本来持っているパフォーマンスを最高の状態に整えるのが僕の仕事です。音楽でいえば、「土をチューニングする」ということですね。

子どもたちと野菜を仲良しにしたい

僕たちは「機能性有機野菜」という栄養価が高い野菜を作っていて、きちんと栄養価の分析データも取っています。この畑で作ったニンジンを食べたら、野菜嫌いな子どもたちも「甘いね」って喜んで食べてくれたんです。ニンジンやピーマンが苦手な子どもたちにもっと食べてもらえたらいいな。これからもより多くの方々に栄養価の高い有機野菜を届けていきたいです。

鳥越さんの移住体験談をもっと読む

「わさもん」精神で有機農業の先駆けに【村山 信一さん】

村山 信一さん
撮影:たかき あゆみ

「わさもん」だから挑戦した

私は有機農業を始めて40数年になります。それまでは、トマトやピーマンを作るときに農薬を使っていたのですが、体がしびれて体調に異変を感じました。ちょうど同じ頃に「第3回有機農業全国大会」(昭和52年)が山都町(旧矢部町)で開催されました。私は奈良のお医者さんの話に衝撃を受けたことがきっかけで有機農業を始めました。

農薬を使わないことは、「草むしり」との戦い

村山 信一さん2
撮影:たかき あゆみ
最初、地元では「あんたたちが農薬ば使わんけん、虫が田んぼに飛んでくる」「農薬が売れなくなる」との批判ばかり。なかなか農協や周囲の人たちに理解してもらえませんでした。でも、私は誰もやっていないからこそ、挑戦したいと思いました。有機栽培の知識もノウハウもないなかで、毎日が草むしりとの戦いでしたね。生協の人に応援に来てもらって草むしりをしても、1週間ですぐにまた元に戻ってしまうんです。

試行錯誤を重ねる日々

有機農業を始めて数年後、害虫が異常発生しました。農薬の影響を調べるために、試験的にうちの田んぼの半分に農薬を使い、もう半分は農薬を使わないで育てたところ、農薬をかけた田んぼのほうが虫の被害がひどかった。虫の天敵のクモが農薬でいなくなったからです。さらに地元の仲間と「有機農業研究会」を立ち上げて、合鴨農法やジャンボタニシで草を取り、農薬を使わず自然と調和する栽培方法を確立するために、試行錯誤を重ねました。当時のキャッチフレーズは「いい水を使って、いい水を流そう」です。

農薬がなかった時代の農業に戻っただけ

山の恵みも、人も食べものも、すべてをつないでいるのは「水」です。うちの田んぼは山の沢水を引いています。この沢水を使ってごはんを炊けば、とびきりおいしいんですよ。土作りには家畜の糞や草や米ぬかなど、自然にあるものをねかせてブレンドした堆肥を使っています。昔、農薬がなかった頃の農業に戻っただけです。昭和35年頃に農薬が使われ始める前まではそうだったわけですから。子どもたちにはぜひ、安心できるいいお米を食べてもらいたいですね。

食べものでこんなに自分が変わるんだ【岸 千恵さん】

岸 千恵さん
撮影:たかき あゆみ

科学的な有機農法「BLOF」理論との出会い

私は8年前にバンドの仲間たちと山都町に移住してきました。その直後に「BLOF」理論という科学的な有機農法の勉強会に参加し、野菜作りを始めました。女性の立場から見ると、「BLOF」理論の考え方や食べものを作ることは、すべてが自分の体とつながっているんですね。もともと私は貧血気味でしたが、山都町に移住してきて、ニンジンなど鉄分の多い野菜を食べたり、畑で農作業をして体を動かしたりするようになったので、血のめぐりがとても良くなりました。食べものでこんなに違うんだということを体感しました。子どもが小さい頃から安全で体に良いものを食べることは、本当に大切だと思います。

山都町の子どもたちは、有機野菜とともに育つ

岸 千恵さん2
撮影:たかき あゆみ
山都町は有機農業がさかんな町で、この畑の近くの保育園では、給食のほとんどを有機農産物で作っています。私たちの畑にも子どもたちが遊びに来てくれます。運動会では、野菜ができるまでの流れをお神輿で表現して、子どもたちが「堆肥」という言葉を使うんですよ。まさに生きた食育です。私は横浜出身で、子どもの頃は八百屋さんやスーパーで包装されて売られているものが野菜だと思っていました。だから、種をまく前の作業から野菜作りは始まっていることを知っている暮らしは豊かですね。

生命力あふれる野菜は、日持ちが違う!

野菜は時間をかけて土の栄養を吸収させて、光合成と土の力を活かしながら育てると、収穫したときのエネルギーがまったく違うんですよ。糖度が高くて、エネルギーがぎゅっと詰まっているので、収穫して土から離れても生命力がずっと続いているんですね。だから日持ちが違います。味も甘みが強くて、えぐみがないんです。私たちの畑でとれたニンジンをコールドプレスでジュースにすると本当に甘くておいしいですよ。

有機農業はクリエイティブな循環を生む

有機野菜
撮影:たかきあゆみ
有機野菜は、そのまま何もつけずに食べるのが一番おすすめです。例えばニンジンを料理する前に、ぜひ、そのまま一口かじってみてほしいのです。ぎゅっと甘みがつまっていて、土の香りがして、幸せな瞬間をおすそ分けしてもらったような気持ちになります。

「阿蘇の外輪山を眺めながら畑を耕すと、新しい曲のメロディが思い浮かぶ」という鳥越さん。「昔は農薬がなかった。昔の農業に戻っただけです」と語る村山さん。「じっくりと時間をかけて丁寧に育てた野菜は、エネルギーがまったく違う」と感じた岸さん。

山都町で有機農業に取り組む生産者のみなさんは、自然のリズムによりそいながら、命をはぐくむ食べものを日々、愛おしみながら育てています。山から豊富に湧き出る水も、阿蘇の火山灰が降り積もった土も、太陽の光も、人々の暮らしも、すべてが一つにつながり、幸せな循環を生み出しています。山都町の合鴨米や有機野菜を使ったサラダなど、生産者の想いに触れると食べる楽しみが広がります。

山都町の生産者さんの情報をもっと知りたい。という方はこちらをチェック!
■山の都のたからもの
https://yamato-kumamoto.com/


<取材>Michiko Takasakiフリーランスインタビュアー&編集者 熊本出身、東京在住。スタートアップや地域活性ビジネスなどの分野を中心に、編集や企画プロデュース・インタビューなどの仕事をしています。自分らしく、人生のハンドルを握って生きている人に興味があります。

Sponsored by 山都町

山都町についてもっと知りたい方はこちらの記事も!

関連する記事

このまとめが気に入ったら
「いいね!」をしよう

この記事のキーワード