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マイノリティと食。障がい者が働くオランダの飲食店事例も|おしゃれじゃない世界の農業見聞録【5通目】


農業・食コミュニケーター紀平真理子さんが、世界の農業関係者に聞いた話や、自身が見聞きしたりしたことをゆるく、時には鋭くお伝えする連載「おしゃれじゃない世界の農業見聞録」。今回は、紀平さん自身のオランダでの体験をもとに”マイノリティ”や食について考えます。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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アムステルダム多国籍

写真提供:紀平真理子
前回は、ガーナの農業と食について紹介しました。

今回はエッセイ風です。というのも、最近農福連携の取材記事を担当する機会をいただき、取材を通していろいろな人たちと知り合うことができ大変うれしく思っています。

先日、ごきげんファームさんから「障がいのあるなしで分けられた社会が混ざり合うには、普通に楽しい時間を過ごすこと」という言葉を聞き、私にそのような経験はあったかな?と記憶を呼び起こしてみました。今回は、オランダでの個人的な体験をもとに”マイノリティ”や食について考えます。

ごきげんファームの記事はこちら

オランダのケアファームの記事はこちら

聴覚障がいの人が運営するカフェ

聴覚障がい働く場所
写真提供:紀平真理子
ボランティアをしていた会社(下記『肉とマイケル(仮)』の会社です)に近いという理由だけでたまたまランチを食べに入ったカフェが、アムステルダム東部にある「Eetlokaal LT」(閉店)でした。そこでは、聴覚障がい者が調理から配膳まで行います。注文やお会計などは、ランチョンマット代わりの紙をガイダンスに手話でコミュニケーションを取ります。

これ、まったく問題なくスムーズに会話ができるのです。そもそもほかの言語で会話をする場合、身振り手振りしながら伝えるわけで、そこに大きな違和感はありません。店員さんとガイドを使いながら楽しい時間を共有できました。

手引書となる紙がある分、むしろいつもより楽かもしれません。聴覚障がい有無に関係なく、受け手側も私の下手なオランダ語で注文されるよりいいかも。ちなみに、オランダの手話は日本や中国、アメリカのものとも違いました。手話も共通言語ではないのですね。

オランダのボランティアについてはこちら


暗闇の中で食事をする

障がい者カフェ
出典:Pixabay
もう一つ、「Ctaste」という暗闇の中で食事をするレストランにも行ったことがあります。配膳をする店員は全員視覚障がい者です。

とにかく、時間が経ってもまったく見えない!ゼロ!の環境で約2時間ほど食事をするのですが、何を食べているのかまったくわかりません。肉か魚かすらわからなかったです。ナイフを使うのが怖くて、手で食べていたら、店員さんが笑いながら(正確には笑っているだろうと想像しながら)手渡してくれたことを思い出します。トイレに行くときも、手をつないで連れて行ってもらいました。一極集中的に手に関する記憶が残っています。

伊藤亜紗さんの『記憶する体』によると、見えない人の中には触覚や嗅覚の情報で構成される世界で生きている場合があるそうです。視覚的な記憶は、頭に思い浮かべて呼び起こすそうですが、触覚は全身に広がっていて「どこで感じたのか」という位置情報も含まれると書いてあって、このときの経験と合致するなと思いました。

記憶する体

著者:伊藤 亜紗
出版社:春秋社
発売年:2019年

置かれた環境によって「普通」の概念は変化する

オランダ高齢者支援
写真提供:紀平真理子(低所得の高齢者が多い地域にある自立支援組織De Hudsonhof)
「マジョリティ」と「マイノリティ」は、現在置かれている時代や場所の中での分類で、ほかの国行けば、私は言葉を話せない聞けない人になります。暗闇に行けば、介助してもらわないと歩くこともできません。

カフェでは、手話のためのガイドがなければ混乱していたと思います。暗闇レストランでは、あらかじめ明るいところにあるロッカーにすべての荷物を入れて、物をなくさないよう危なくないようにする工夫がされていたから、最小限のパニックですみました。このような小さな工夫や配慮がありがたかった、と私は思います。

異なる人が交わるためのアムステルダムの取り組み

ユダヤ料理
写真提供:紀平真理子(フィッシュケーキ)
そもそもオランダは「普通」の概念がぼんやりした国だとも感じます。特にアムステルダム市は、さまざまなマイノリティが点在している感じです。極端なことを言えば、何らかのマイノリティであることがマジョリティです。

2001年に同性婚が認められて以降、15,000人以上の同姓カップルが結婚しています(2020年)。また二世なども含めて移民の経歴を持つ人が24.2%(2020年/CBS)と多いことも特徴です。

移民の経歴を持つ人の中にはユダヤ人もおり、3万人弱が大きなコミュニティを形成しています。アムステルダム市にはユダヤ歴史博物館もあります。展示も素晴らしいですが、ミュージアムカフェも最高!オランダとユダヤ料理の​​フュージョンのタラのフィッシュケーキや洋梨のアーモンドケーキなどがとてもおいしかったことを鮮明に記憶しています。文化が溶け合うのは容易ではないですが、時間をかけて混じり合ってきたんだと推考しました。

何となく出会う場づくりとセキュリティのバランス

マイノリティが点在する社会を形成するために、アムステルダム市ではさまざまな工夫がされています。一例を挙げると、都市部にある公共スペースの作り方です。社会学者Lyn H. Loflandの「都市が人や機能を空間的に分離するならば、都市における分離は極めて小規模なものであるべきだ」との指摘を参照しているためか、特に移民が多い区画には小さな広場がたくさんあります。細分化された公共の場で、日常生活の中で多様な人と自然に出会いコミュニケーションが始まります。私もそこらへんにいる人とスナック菓子を交換したりしながら、何となく1時間以上も話し込んだあとに何となく別れることもありました。その会話の中で知見を広げられた経験もあります。

一方、セキュリティのために治安が思わしくない地域の公共スペースには警備員がおり、通りや広場に向けていくつかの監視カメラが設置されています。犯罪の抑止力という意味では必要不可欠ですが、「何となく出会う場」としては若干のプレッシャーも感じていました。

食につられて「何となく」の経験を積み重ねていく

ユダヤ料理
写真提供:紀平真理子(ユダヤ博物館で食べたケーキ)
個人的には「食」という興味関心で引き寄せられて向かった場所で普段は交わりにくい人たちと出会うと、記憶にも残り楽しい思い出になっているようです。意識は決して高くない私ですが、何となくいろいろな人と出会って話す場が点在していて、ちょっとしたおしゃべりや小さな経験をすることは楽しかったです。理想の社会はそれぞれありますが、声高に叫ぶのではなく肩ひじ張らずに”何となく”を積み重ねながら生きていきたいものです。

農福連携についてはこちらも


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おしゃれじゃない世界の農業見聞録

おしゃれじゃないサステナブル日記

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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