今回から、2回にわたって「農福連携」をキーワードにしてみます。
「農福連携」が気になって仕方がない。好きとか嫌いとかではなく、ただ何となく事あるごとに思い出してしまう存在なのです。私は福祉にとりわけ関心が高いわけではないのですが、なんで農福連携が気になるんだろう?と、農福連携との出会いから振り返ってみます。(注:農福連携は人や物ではありません)
育芽バッグを見に行ったら、そこはケアファームだった
はじめに農福連携に出会ったのは、オランダのNollesteeというケアファームでした。「ケアファーム」は、広義では農福連携だそうです。創始者のCor Joppe氏がケアファームとして育苗場をはじめた1996年は、まだ「ケアファーム」という言葉も存在しませんでした。実は、私は訪問するまで、そこがケアファームだと知らなかったのです!
なぜなら、 Cor Joppe氏はケアファームをはじめるまでは畑作の生産者で、現在は、ケアファームと並行してジャガイモの育芽バッグ(催芽用にプラスチックコンテナやスチールコンテナの代わりに使用するネット)の開発・販売もしています。私が訪問した理由は、まさにジャガイモの催芽について話を聞くためでした。意気揚々と農場に着くと、障がい者の方々が思いおもいに一生懸命に作業をしており、当時、農福連携のコンセプトを知らなかった私は驚いた記憶があります。
Nollesteeでは、1日に平均で12名の障がいを持った方と、2名のスーパーバイザーとボランティアで農作業をしていました。挿し木で増殖した育苗ポットは、個人のほか業者や公共の樹木用として販売しています。スーパーバイザーとプレイヤーたちという構図は、農福連携に限らずオランダらしい感じ。
ケアのためのプログラムにも参加したのですが、農福連携の前提となる情報がない状態だと理解できないことが多く、消化不良だったというのが本音です。どうやって作業しているの?収益は出ているの?など。
現在はNollehofという認知症、多発性硬化症、CVA(脳血管障害)、摂食障害などの人たちのデイケアサービスのプロジェクトも行っています。
オランダのケアファームについて
そこで、改めてオランダのケアファームについて調べてみました。ケアファームとは
オランダのケアファームは、農業と健康関連もしくは社会的・教育的サービスを組み合わせたものです。労働市場から遠く離れた「参加者(障がい者含む)」はニーズや能力に応じてさまざまな農業活動に関わり、農園側がケアやサポートサービスを提供します。オランダでは、家族経営の農園で行われる場合が多く、特にアムステルダム、ロッテルダム、ユトレヒトなどの都市周辺に多くあります。ケアファームのこれまで
1960〜1970年代よりオランダではケアファームが設立されるようになりました。Nollesteeはまさに先駆者です。当時は、資金調達や支援体制はありませんでした。2003年以降、資金調達の面からケアファームの経営がやりやすくなったそうですが、2015年からは、法律が導入され社会に参加して自立して生活するために支援を必要としている人々に自治体が適切な支援を提供できるようになった反面、ケアファーム(農園側)は、参加者が住むすべての自治体と契約をしなければならないという課題に直面しています。ケアファームの収入は
オランダのケアファームは、障がい者の日常生活を支援するプログラムを提供して報酬を得ています。その収入源は、公的な健康保険などからです。利用する障がい者へ給付される特別医療費保険から受け取るケースと、障がい者に給付された現金を利用者から直接受け取るケースがあります。おおよその平均収入は、ケアファームの総収入である年間2億5,000万ユーロという見積もりを、オランダのケアファーム数で割ると、農園あたりのケアサービスの平均収益は2018年で20万ユーロ(約2,500万円)程度とされています。これは単純計算なので、収入差は農園ごとで大きそうですね。
どストレートに受け取ることができた過去
訪問時にNollesteeがケアファームだと知らなかったことで、「ケアファームとは、こういうものなんだ」と自然に理解できました。思い出すのは参加者の笑顔や、「見て見て」と何度も言われたことです。取材前に入念に調べてしまう現在ではなかなかできない、未熟ゆえにどストレートにものごとを受け入れられたよい経験だったと思います。これが、現在の農福連携への興味につながる最初のできごとでした。参考: The Care Farming Sector in The Netherlands: A Reflection on Its Developments and Promising Innovations
Care Farms in the Netherlands: As Underexplored Example of Multifunctional Agriculture-Toward an Empirically Grounded, Organization-Theory-Based Typology
次回は日本で出会った農福連携、「ユニバーサル農業」という考え方。
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紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate