みどりの食料システム戦略|有機農業を100万haに拡大?2050年までにめざす持続可能な農業とは

農林水産省は2021年5月、2050年までに農業の生産性の向上と持続可能性の両立をめざす「みどりの食料システム戦略」を決定しました。なぜこのような戦略が発表されたのでしょうか?農業分野に注目して解説します。


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農林水産省は、2050年までに農業の生産性の向上と持続可能性の両立をめざす「みどりの食料システム戦略」を2021年5月に策定しました。有機農業の取り組み面積の割合を2050年までに100万haにするなどの目標が掲げられ、生産現場からは戸惑いの声も上がっています。なぜこのような戦略が発表されたのでしょうか?農業分野に注目して解説します。

みどりの食料システム戦略とは?2050年までのKPI

木
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みどりの食料システム戦略とは、2050年までに食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する政策です。2050年までにめざす姿として農業分野で掲げられている項目(KPI:重要業績評価指標)は以下の通りです。

・農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現
・低リスク農薬への転換、総合的な病害虫管理体系の確立・普及に加え、ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発により化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
・輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減
・耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大

農林水産業のCO2ゼロエミッション化とは、農林水産業における化学燃料起源のCO2排出をゼロとすることです。また、化学農薬の使用量半減や有機農業の取り組み面積の割合を25%に拡大するなど、かなり意欲的な目標が掲げられています。
農林水産省「みどりの食料システム戦略トップページ」

みどりの食料システム戦略の背景とは?

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みどりの食料システム戦略は、2020年10月に構想が示され、12月に戦略本部を設置。関係者との意見交換会などのとりまとめを経て翌年3月に素案がまとまりました。その後パブリックコメントを募り5月には策定するという異例のスピードで決まった政策であり、農業者にとってはまさに寝耳に水です。一体なぜこのような政策決定がされたのでしょうか。

環境問題をめぐる国際的な事情

みどりの食料システム戦略の背景には、EUやアメリカなどの国際的な情勢があります。欧州委員会は2021年5月に「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」を発表。また、アメリカでも同年2月に農務省が「農業イノベーションアジェンダ」を発表しました。これらは地球規模の気候変動に対応するべく、環境問題重視の政策を掲げています。

【Farm to Fork戦略】(一部抜粋)
・農薬の使用及びリスクの50%削減
・一人当たり食品廃棄物を50%削減
・肥料の使用を少なくとも20%削減
・家畜及び養殖に使用される抗菌剤販売の50%削減
・有機農業に利用される農地を少なくとも25%に到達

欧州委員会では上記の目標に加え、二国間貿易協定にサステナブル条項を入れるなど、国際交渉を通じてEUの食料システムを世界的な基準とすることを目指しています。数値目標をよく見てみると、日本のみどりの食料システム戦略とよく似ていることがわかります。

【農業イノベーションアジェンダ】(一部抜粋)
・2030年までに食品ロスと食品廃棄物を50%削減
・2050年までに土壌健全性と農業における炭素貯留を強化し、農業部門の現在のカーボンフットプリントを純減
・2050年までに水への栄養流出を30%削減

米国農務省は、2020年2月に上記のアジェンダを公表し、2050年までの農業生産量の40%増加と環境フットプリント(人類が地球環境に与えている「負荷」の大きさを測る指標のこと)50%削減の同時達成を目標に掲げました。こうした国際的な動向もふまえて、みどりの食料システム戦略が策定されたといえます。

SDGs達成に向けた「2050年カーボンニュートラル」

また、2020年10月に政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。カーボンニュートラルとは脱炭素社会をめざすこと。同年12月にはこの宣言に基づいた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されています。グリーン成長戦略の重要分野の一つとして農林水産業が位置づけられており、この成長戦略を反映したのがみどりの食料システム戦略です。

経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」

具体的な取り組み|AIやゲノム編集などの最新技術を活用

ビジネス
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では、農業の現場はどのように変わっていくのでしょうか。また農業者はこれからどのようなことに取り組んでいけばいいのでしょうか。「化学農薬の低減」「化学肥料の低減」「有機農業の拡大」の3点に絞った具体例を見ていきましょう。


化学農薬の低減(リスク換算)

化学農薬を低減するために、化学農薬に依存しない次世代総合的病害虫管理体系を確立するほか、リスクが低い新しい農薬の開発、ICTを活用した化学農薬の使用量の削減に取り組みます。

・病害虫への抵抗性を持つ品種の開発
・共生微生物や生物農薬などの生物学的防除
・バイオスティミュラントを活用した革新的作物保護技術の開発
・除草ロボットの活用
・ドローンを用いたピンポイント防除 など

バイオスティミュラントについてはこちら

化学肥料の低減

化学肥料の原料であるリン酸やカリウムは、現在ほぼ100%を外国産に頼っています。そのため災害によって原料供給が止まるなど有事に対応するべく、化学農薬の低減が求められています。具体的にはたい肥などの有機肥料の利用率を高めるほか、以下の項目が検討されています。

・土壌の成分や生育状態などから必要な箇所に必要なだけ施肥する「スマート施肥」の導入
・肥料利用効率のよいスーパー品種の育種
・AIなどを活用した土壌診断
・耕畜連携による環境負荷軽減技術の導入 など


有機農業の拡大

有機農業に取り組む農業者の拡大のため、有機農業の技術確立に加え、省力のための技術開発や次世代の有機農業の開発を目指します。具体的な内容は以下のとおりです。

・たい肥のペレット化
・緑肥などの有機物施肥による土づくり
・水田の水管理による雑草の抑制
・レーザー光による害虫防除技術の開発 など

さらに、農産物のゲノム情報や生育等に関するビッグデータを整備し、従来よりも効率的かつ迅速に育種することができる「スマート育種システム」を開発するほか、国産ゲノム編集技術やゲノム編集作物の開発も進展させることも掲げています。

有機農業についてはこちら

みどりの食料システム戦略の課題|目標実現への批判も

段ボールに入った野菜
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日本の有機農業の取り組み面積は2.37万ha(2018年)で、国内の耕地面積の約0.5%を占めます。これを2050年までに100万haにするには、単純計算で42倍にしなければならないということです。それは本当に可能なのでしょうか?国内外の有機農業に関連する研究を行う有機農業学会が3月に農林水産省に出した提言書では、つぎのような指摘があります。

「国が欧米並みの高い数値目標を掲げて有機農業の推進に取り組むことは喜ばしいことである。しかし、目標を実現するための政策手法にはさまざまな問題があり、大幅な見直しが必要だと思われる」
日本農業学会「農林水産省『みどりの食料システム戦略』中間とりまとめに対する学会提言」

提言書の中では、有機農業という言葉の再定義の必要性や担い手の育成と農地の確保についてなど7つの観点から指摘がされています。特に有機農業の担い手については、政策的支援が十分にないままであれば、取り組む人は限られるため、地域全体で有機農業に転換するための仕組みづくりが必要だといいます。

生産者と消費者で未来の農業の姿を描く

ドローン
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現段階では、政策の内容が示されただけで、実際にどのような枠組みで現場の農家が取り組むべきなのかは決まっていません。一見すると、ICTや先端技術の活用などは個人の農家にとってはまだまだ先のことのように思えるかもしれません。しかし、政策の実現に課題はあるものの、農業における環境問題への対応は待ったなしです。現場の生産者は、消費者の理解を得ながら未来の持続可能な農業の実現に向けて取り組んでいく必要がありそうです。

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小林麻衣子

北海道在住のライター。農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して移住。現在は農家見習い兼ライターとして活動中。

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