目次
有機農業とはどのような農業なのか、その他の農法との違い、そして有機農業のメリットとデメリットについて解説します。
有機農業の定義と有機JAS認証
有機農業とは環境への負荷をできるだけ抑え土づくりも考える生産方法
有機農業とは、化学肥料や農薬、遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本に、環境への負荷をできる限り抑えた農業の方法のことをいいます。有機農業を行う農業者は、自然の生態系の機能を生かし、環境の保全に気を配り農産物を栽培する必要があります。有機JAS認証を受けた農産物だけが「有機」と表示できる
また、「有機野菜」「有機〇〇」と表示できるのは、有機JAS認証を受けて有機JASマークを貼ったもののみです。化学肥料や農薬を使わない農産品でも、有機JAS認証を受けていないものは有機と表示できない点に注意しましょう。
慣行栽培と有機農業の違い
有機農業と特別栽培、無農薬、自然栽培・自然農法の違いは?
特別栽培は農薬・化学肥料の使用を抑えた栽培方法
特別栽培農産物は、節減対象農薬の使用回数および化学肥料の窒素成分量を慣行栽培の50%以下に抑えて栽培した農産物を指します。特別栽培農産物と表示できるのは、野菜・果実(加工品、きのこ、山野草等は対象外)または乾燥調製した穀類・豆類・茶などで、かつ不特定多数の消費者に販売されるもののみです。特別栽培農産物は、減農薬・減化学肥料表示はできません。減農薬・減化学肥料の表示は、削減の割合や対象が消費者にわかりづらいことから、表示禁止事項とされています。
「無農薬」は表示禁止事項
優良誤認と無農薬表示の実際
しかし消費者側から見ると、「土壌や圃場に残留農薬が一切ない」農産物と勘違いしやすい表示でもあります。
2002年に総務省が実施した「食品表示に関するアンケート調査」では、国際基準に準拠した厳しい条件をクリアしている有機表示よりも、無農薬表示のほうが優良であると誤認されているケースも少なくないことがわかりました。現在は、農薬を使用せずに栽培された農産物の場合、栽培期間中農薬不使用と言い換える必要があります。
自然栽培は自然の力を使う農法のこと
自然農法も農薬や肥料を使用しない農法
自然農法も自然栽培と同じく、肥料や農薬を使用しない農法ですが、自然農法には流派が複数あり、自然農法に取り組む農業者によってやり方や信念はさまざま。自然農法や自然栽培に共通する考え方に、むやみな施肥で作物を大きくしないというものがあります。作物は人間が育てるものではなく、育つものであるという考え方です。
自然農法も自然栽培とほぼ同じ理念をもつ農業手法ですが、自然栽培というとプロの農家が、自然農法は家庭菜園にて実施されていることが多いようです。
有機農業の現状・事情
有機農業の生産面積と農家数
2017年時点の推計では、有機農業の生産面積は2万3千ha、農家数は2010年時点で1万2千戸でした。これは日本全国の耕地面積のわずか0.5%、総農家数から見ても0.5%ととても少ない数値です。しかし、有機農業に取り組んでいる農家の平均年齢を見ると、半数が60歳未満と全体の農業者に比べて7歳ほど若いという特徴があります。また新規就農希望者の約3割が有機農業での就農を希望していることから、今後も少しずつ有機農業を行う農家が増えていくと考えられます。
参考:有機農業の推進について|農林水産省
有機野菜の販売価格は慣行栽培の約1.5倍になる場合も
同じ年の有機農産物の格付け実績を見ると、野菜が7割、米が1割とそのほとんどが野菜です。県別有機JAS圃場の面積は、北海道が全国の4分の1を占めてトップとなっており、鹿児島、熊本と続きます。
「有機農業が盛んな地域で、さまざまなノウハウを学びながら新規就農したい」なら、北海道、鹿児島、熊本の事例などを参考にしてみましょう。
有機農業のメリットとデメリットは
有機農業のメリット
有機農産物を生産するメリットはいくつかあります。まず、「有機農業の現状・事情」の項で述べた通り、「競合が少なく慣行栽培の農産物よりも価格が高い」のは大きなメリットといえるでしょう。しっかりと販路を築き上げれば、安定した収入を目指せるかもしれません。有機JAS認証を受けた農産物を使ってブランド化して、さらに6次化すれば、事業拡大・収益拡大も期待できます。
また、「SDGs(持続可能な開発目標)」に注目が集まる昨今、現在の利益だけでなく将来の地球環境にも貢献できる可能性のある有機農業は、サスティナブルで社会貢献度の高いビジネスとも考えられます。
有機農業のデメリット
有機農業のデメリットとして、まず考えられるのが「慣行栽培よりも手間がかかる」点です。いくら販売価格が高くとも、労力に見合わなくてはコスト高になってしまいます。また化学的に合成された肥料や農薬を使用しないため、生育は慣行栽培よりも比較的遅く、収量も少ない可能性があります。
大きな圃場で同じ作物を一度に作る慣行栽培とは違い、少量多品目栽培の農家も多く、さまざまな作物の栽培についての知識・ノウハウも求められます。
有機栽培のメリット | ・競合が少ない(有機栽培を行う農家が少ない) ・慣行栽培の農産物よりも販売価格が高い ・有機JAS認証を取得してブランド化し、販路を確保・拡大できる可能性 ・さらに6次化でオリジナリティを出し事業と収益の拡大を狙える ・持続可能なビジネスとして社会や地球環境に貢献できる |
有機栽培のデメリット | ・慣行栽培よりも栽培に手間がかかる ・慣行栽培よりも生育のスピードや収量が劣る可能性 ・少量多品目栽培ではさまざまな作物に対する栽培の知識やノウハウが必要 |