農福連携と相性のよい農園は?本当の意味での「連携」を見た|おしゃれじゃないサステナブル日記No.32

【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。 第32回は「農福連携と相性のよい農園は?本当の意味での『連携』を見た」。静岡県浜松市、京丸園株式会社が実践するユニバーサル農業とは?


ミニちんげん収穫作業

写真提供:京丸園株式会社
前回は、オランダの農福連携の事例を紹介しました。

今回は、農福連携@静岡県浜松市です。農福連携と再会したのは、オランダでの5年間の生活を終え、日本に帰国した後です。「紀平さんは、絶対行った方がいい!」と静岡県の某イチゴ農業経営者からおすすめ&ご紹介いただき京丸園株式会社を訪問しました。そこで出会ったのが、「ユニバーサル農業」という考え方です。ユニバーサルという言葉は、「一般的な」とか「すべての人々の」という意味を含んでおり、ユニバーサル農業を意訳すると「どんな人も携わることができる農業」だといえます。もちろん、農福連携も含まれています。

京丸園の記事はこちら


ユニバーサル農業の最初の印象

ミニちんげん定植
写真提供:京丸園株式会社(誰でも定植ができるよう改善)
オランダで訪問したケアファームは、少数のスーパーバイザーと障がいを持った方たちのチーム戦という印象が強かったので、京丸園さんを訪問したときに、チームでありながらも、障がい者一人ひとりが個人としてパート従業員と同じように(少なくとも、そう見えました)生き生きと仕事をしていることに驚がくしました。

他産業との連携で生じる齟齬(そご)=改善点

京丸園の代表取締役の鈴木厚志さんと総務取締役の緑さんからは、生産者が抱えている多くの仕事を一緒に働いている人たちに手伝ってもらうために、障がい者を主体にして作業工程をデザインしていくと教えてもらいました。さらに、もともと考え方や前提が異なる他産業の人たちと関わることで、どうしても意見の相違が生まれますが、それは農業の改善点だとも捉えています。農業と福祉が心の内をお互いが話し合うことで、改善を積み重ねていますが、鈴木さんは、それが農業経営を発展させるポイントでもあると言っていました。

連携って何だろう

お話を聞く中で、私が勝手に「農業」はいいもので、「福祉」も素晴らしいものだから、たとえ誰かにしわ寄せがいっていたとしても、農福連携は素晴らしくていいものだというイメージに縛られていたことに気づかされました

「連携」とは、お互いに連絡をとり、一緒にものごとを進めることです。農福連携をあまりにも「いいもの」として捉え過ぎると、農業側や福祉側がお互いに言いたいことを言えずに我慢してしまうことが起こってしまい、「連携」ではなくなってしまいます。

また、中身が伴っていなかったとしても、農業側がいいことをしているというアピールになってしまっても、農業と福祉は継続的によい関係を築けないのではないでしょうか。多少泥臭くても、どのように現実的な作業や経営に落とし込めばよいのかを考え続ける必要があると思います。

どんな農園が農福連携と相性がいいのだろう?

京丸園作業場
写真提供:京丸園株式会社(福祉側から指摘を受け、よい環境で作業ができる調整場を建設した結果、作業効率が上がった)
静岡県浜松市には「浜松市ユニバーサル農業研究会」というものがあり、農福連携に関するさまざまな情報提供や議論を続けています。先日もWebでの勉強会に参加させていただいたのですが、農園などを活用した障害者遠隔雇用サービスなどの新しい取り組みについても議論されていました。奥が深い!

この研究会での発表内容をふまえて、どんな農園がユニバーサル農業や農福連携と相性がいいのだろうかと私が勝手に考えました。ユニバーサル農業のコンセプトを見直すと、「障がいを持った人たちだけでなく、どんな人にも農業ができる仕組みをつくる」こと。そのためには、農園側の工夫も必要だよね、という考えに至ります。

作業工程が細分化できる作型

障がいをもった人たちが働きに来たときに、彼らが働きやすいように農園側は作業工程を細分化し、作業を依頼して、実際に不具合がわかれば改善を積み重ねていきます。そのためには、作業工程の一片であったとしても、作業を標準化や細分化しやすい作目や作型が向いているように思います。また、京丸園さんのように、障がい者を農業側が雇用をする場合には、周年で作業がある作型の方が取り組みやすいのかな、とも。

仕組みが整えられる経営状況

障がい者を受け入れたあとで、農園側は、改善点が見つかれば、福祉側が効率よく、気持ちよく働ける仕組みを整える必要があります。必要に応じて、資材や機械、設備投資も行います。そのため、経営改善を受け入れられ、必要があれば投資でき、急きょ人数が集まらないなど多少の人員の変動を受容できるようなある程度以上の経営規模をもち、ある程度以上の従業員数がいる経営体こそ農福連携に取り組むことでよい相乗効果が生まれるのではないかと思っています。

ちなみにこれは、「なんとなくOK」でまかり通ってきた農業の慣習の中で、不自然なものを福祉側が指摘してくれるともいえるので、農業側にとっても大切な「外からの目」になります。

単価を計算できる作業

浜松市ユニバーサル農業研究会での事例発表で、農福連携に取組む石川県の株式会社笠間農園さん(ハウス1.7ha、露地2haで、コマツナ、ホウレンソウ、枝豆、ニンジン)は、コマツナの収穫を特例子会社に委託するときの賃金を「時給833円のパートさんが1時間で6ケースできるので、福祉事業所に1ケースを140円でお願いしている」と話していました。

作業に単価をつけること、またこの感覚を持っている経営者でないと、農福連携は安く作業してくれるに留まってしまいそうです。作業単価を計算することは、経営体の規模を問わず比較的やりやすいので、作業の一工程のみを依頼する場合にも応用がききそうです。

ふわふわしたイメージとは違うけど…

姫ねぎ
出典:京丸園株式会社
農福連携がもつ、ふわふわした良さそうなイメージからほど遠い「作業の分解」「仕組みを整える」「作業単価」!

農業と福祉が継続的に連携を続けるためには、農業側がこれらの意識をもって福祉と連携していくことで、農業側は改善点を発見し、福祉側が気持ちよく取り組むことができ、本当の意味での連携ができるような気がします。

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おしゃれじゃないサステナブル日記

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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