オランダの施設園芸はサステナブル?【農業関係者に聞いてみた】おしゃれじゃないサステナブル日記No.27

【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。 第27回は「オランダの施設園芸はサステナブル?農業関係者に聞いてみた」。超効率的なオランダ農業の持続可能性について、筆者の身近な生産者たちの意見をもとに考察します。


オランダ施設園芸

写真提供:maru communicate 紀平真理子
前回の「オランダの施設園芸はサステナブル?【都市部の友人に聞いてみた】(No.26)」では、都市部に在住しているオランダの友人たちに話を聞いてみました。

今回は、農業関係者の友人たちにも「施設園芸はサステナブルか?」について意見を聞きました。

私と施設園芸

オランダのトマト
写真提供:maru communicate 紀平真理子
その前に、「私と施設園芸」という謎の話をしておきます。オランダの農業というと、施設園芸をイメージする方が多いと思いますし、「オランダに住んだことがある=施設園芸に詳しい」と思われがちです。オランダ在住時に私が農業に興味をもったきっかけは、うそ偽りなく「超効率的な施設園芸」です。でも、正直な話、オランダ農業を知っていく中で、個人的には施設園芸よりむしろ畑作や露地栽培に強く心をひかれたのは事実です。というか、ジャガイモ…(実は、私はジャガイモを目に入れても痛くないほど、ジャガイモが好きです)。

でもある意味、俯瞰(ふかん)の視点を持てるのは施設園芸ともいえます。ジャガイモには思いが強過ぎてしまって、あまり近づきたくないというか、知り過ぎたくないというか。

超主観ですが、施設園芸の中でも、好きなトピックは「天敵昆虫」「排液循環」「隔離培地」です。

天敵昆虫の話はこちらから


オランダの施設園芸はサステナブルスコアが高い

オランダ貯水
写真提供:maru communicate 紀平真理子
本題に戻して、農業関係者(施設園芸ではなく畜産)の友人にも「オランダの施設園芸ってサステナブルだと思う?」と意見を聞いてみました。

いい質問!高い生産性と精密農業によって、私はオランダの施設園芸業界のサステナブルに関するスコアはなかなかいいと思う。高い生産性はロス率の低さという観点から環境への負荷が少ないことと関連しているんだよ。最近、ワーヘニンゲン大学で、施設園芸を完全循環型(排液の再使用、たい肥などの使用、エネルギーの活用、生産プロセスで廃棄されるプラスチックごみの解決策)を実現するためのリサーチが始まったよ。これは今のホットトピック!

「あなたは日本の施設園芸をサステナブルだと思う?」
彼女からの切り返しの質問に、「いい質問!」と思いながらも、ちゃんと調べてから返信しようとする私は日本人だと痛感しています。

LCAや環境フットプリントなどの評価手法

オランダのパプリカ栽培
写真提供:maru communicate 紀平真理子
彼女のいう「スコア」とは、LCA(ライフサイクルアセスメント)とか、環境フットプリントというものを使って、一つのパーツではなく、全体のエネルギー収支を評価してサステナブルかどうかを評価する手法のことです。「環境にいい」といわれている資材であっても、製造時のエネルギー使用量が多いこともあります。そのため、全体的に見て評価するのですが、わけがわからなくなるうえにPOPではないので詳細は割愛します。

サステナブルって何だろう

オランダサステナブル
写真提供:maru communicate 紀平真理子
オランダで大学に通っていたときの、ホームステイ先の息子さん(施設園芸関係者)からの指摘も面白かったので、紹介します。

とても興味深い質問だけど、難しい質問でもあるよね。心に留めて置かないといけないのは「サステナブル」とはどういうことか?ということ。施設園芸は、信じられないほどの投入資材が少なくてすむけれど、一年中収穫するために施設内を暖かくしなければいけない。一方で、露地栽培だと気候を利用してよく育つけれど、窒素や化学合成農薬の投入量も植物が必要としている量より多いので、適正な使用量だとはいいがたいね。理想をいえば、オランダの手法を暖かい国で使用すれば、施設内を温める必要はないのでは。熱帯の作物の栽培は、寒い国ではなく育てやすい国で育てることかもしれないね。

SDGs視点だと施設園芸はサステナブル?

オランダトマト種類
写真提供:maru communicate 紀平真理子
上の友人のコメントを補足するような情報が施設園芸関係から送られてきました。ガラスハウスとビニールハウス/慣行栽培と有機栽培の組み合わせから、SDGs視点での持続可能性を評価した論文です。

環境だけでなく社会的側面も入れる

環境的な側面だけではなく「飢餓ゼロ」など社会的な側面を考慮したうえでのサステナビリティの評価について書かれていました。「収穫期の長さ、市場価格、収量、土地利用効率、水の使用量、排水による窒素の排出量、植物保護材の使用量、排水の再利用率、再生可能エネルギー使用率、エネルギー使用量、二酸化炭素排出量、廃棄物の発生量、富栄養化の可能性」などの指標で考えると、慣行栽培+ハイテクガラスハウスのスコアが最も高いそうです。

要するに、年間通して農産物の収穫が可能で、消費者が手頃な価格で購入でき、100kgのトマトを生産するための土地利用の効率から考えると、高い生産性と収量が実現できる慣行栽培のスコアが高く、環境負荷についても、ハイテクガラスハウスが低いようです。

ハイテク施設には環境配慮の設備が

排液の再循環システムを備えたハイテクハウスでは、窒素排出量が最も低く、再生可能エネルギーについても、オランダではほとんどの施設園芸で、天然ガスなどからコージェネレーション(熱電供給)を使って、熱や電力を供給しているため排出量も投入量も少ないという話です。

また、肥料に関しても「生産」段階から考えると、化成肥料(窒素)を1kg生産するために二酸化炭素が1〜10kgが排出されますが、堆肥(窒素)1kgを生産するために1〜850kg排出される場合があるそうです。堆肥はバラツキが大きいようですね。

詳細は「Towards delivering on the sustainable development goals in greenhouse production systems」という論文をどうぞ。うんうんとうなずくところも多いですが、一応つけ加えておくと、オランダの施設園芸関係者からの情報提供です。

次回は、土に戻ろうかな…

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おしゃれじゃないサステナブル日記

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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