露地での天敵昆虫利用にココロオドル|おしゃれじゃないサステナブル日記No.10

【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。第10回は「露地での天敵昆虫利用にココロオドル」
植物と昆虫の間では、人間が知り得ない、深い意味とロマンにあふれる世界に満ちあふれているようで…!?


天敵昆虫

写真提供:光畑雅宏(梨園に設置されたミヤコカブリダニ製品「スパイカルプラス」)
前回の「天敵昆虫との出会い」で、天敵昆虫について少し詳しくなり、親しみを覚えた方も多いのではないでしょうか。天敵昆虫は基本的に施設栽培(ビニールハウスやガラスハウスの中)で活用されていますが、近年露地栽培でも、新しい取り組みとして天敵昆虫を利用する方も少しずつ増えています。
前回と同様に、アリスタ ライフサイエンス株式会社の光畑雅宏さんにご提供いただいたネタを元に、露地での天敵昆虫利用に思いを寄せたいと思います。


天敵昆虫の利用はパズルの組み替え

天敵昆虫
写真提供:光畑雅宏(大型法人施設で天敵の状況説明)
天敵昆虫を多くの生産者に使用してもらうためには、メーカー側は野菜の場合は県の防除指針(化学合成農薬の利用指針)、果樹の場合は防除歴(化学合成農薬の使用歴)の中に記載されているさまざまな化学合成農薬のうち、天敵昆虫に置き換えられる箇所に組み込んでもらう必要があるそうです。イメージとしては、だるま落としです。化学合成農薬のピースを一つ抜き、そこに天敵昆虫のピースをはめ込む感じです。ただし、天敵昆虫のピースをはめ込んだ周りにある農薬がその虫に影響を与える種類の場合には、周辺の農薬も影響が出ないものに変更しなくてはならず、大変手間がかかる作業です。

露地での土着天敵の呼び寄せ方

ソルゴー
写真提供:アリスタ ライフサイエンス株式会社(ナス圃場の周辺に植えられたソルゴー)
露地栽培で天敵昆虫を活用するために、まずは土着天敵(圃場周辺にいる虫)を呼び寄せて活用する方法が考えられます。虫も人間と同じで、好きなところに寄っていきます。では、「虫が好きな天敵温存植物(インセクタリープランツ)と呼ばれるものを圃場に一緒に植えて、おびき寄せましょう」という塩梅です。

例えば、露地栽培のナスやオクラの圃場周辺に、ソルゴー(イネ科の一年草、緑肥や風除けとしても植えられます)を植栽すると、アブラムシ(ムギクビレアブラムシ、ムギヒゲナガアブラムシなど)がやってきますが、イネ科につくアブラムシはナスには寄生しません。そのアブラムシにつられて天敵となる寄生バチや、テントウムシなどがやってきます。彼らは、ナスに発生するワタアブラムシやモモアカアブラムシの天敵でもあります。すごい話!個人的に心踊ってずっと聞いていたい話です。

また、ソルゴーをトウモロコシに変えると、花粉を求めてタイリクヒメハナカメムシなどの捕食性のハナカメムシが寄ってきて、アブラムシ同様、ナスにとって害虫であるアザミウマやコナジラミの防除になります。ただしトウモロコシは害虫のヨトウムシも呼び寄せてしまうリスクがあります。他にもナスの株元にフレンチタイプのマリーゴールドを植えておくなど、さまざまな土着の天敵昆虫の活用方法が考えられます。

私は天敵昆虫の話を聞くことが大好きなのですが、毎回途中で虫を人間に置き換え、人間関係についてまで考えが及んでしまい、最後に少しだけ複雑な気分になります。

導入天敵との組み合わせ

天敵昆虫
写真提供:光畑雅宏(露地ナスの葉裏にいたヒメハナカメムシの仲間)
ただし自然界にいる天敵は、害虫が十分発生したあとにのこのこやってきます。それをのんびり待っていると、許容できる被害(減収など)を超えてしまうので、意図的に土着天敵を呼び寄せ、かつ導入天敵(製剤として販売されているもの)を活用する技術がナス栽培では進んでいるそうです。

露地で使用できる導入天敵は、移動性の低いカブリダニ類です。というのも、野外で使用するには周辺環境への影響も考慮しなくてはいけません。カブリダニには足がありますが、飛べません。また、人間が開墾した単純生態系の畑では生きていけますが、複雑で多様に富んだ環境である自然に出ると天敵も多く、繁殖が困難です。霜が降りると全滅することもあり、導入したカブリダニ類が環境に与える影響が少ないといわれています。開墾した時点で単純生態系…農業をしている時点で不自然ではあるので、どのラインであれば「環境への影響が許容できるレベルか」を技術開発側も生産者側も試行錯誤しているのだな。

果樹での利用

マルハナバチ
写真提供:光畑雅宏(梨園を飛び回るクロマルハナバチ)
ヨーロッパでは一般的な果樹での天敵昆虫利用も、少しずつ進んできているそうです。関東のナシ産地では、ハダニをミヤコカブリダニで防除する技術が普及しつつあります。天敵昆虫だけでなく、化学合成農薬と物理的にネットなどでカメムシやシンクイが侵入しないよう組み合わせています。まさにIPM(総合的病害虫・雑草管理)!また、受粉にもミツバチだけではなく、曇天でも働くマルハナバチも併用して活用する取り組みも始まっています。

ただし、たとえ在来種であろうと、人為的に増殖させているということは遺伝的な多様性が損なわれており、自然の個体群とは異なります。自由に外に出て地域個体群と交尾をして繁殖すると遺伝子を撹乱することになるため、日本では特に厳しく自主規制をしており、網目の細かいネット内で利用しています。

天敵昆虫の話を聞くと武者震いする

天敵昆虫の調査
写真提供:光畑雅宏(天敵昆虫の調査)
「ハダニに加害された葉を天敵で防除すると、緑色になって光合成が回復する」「マルハナバチは、花が咲いていないトマトの葉っぱに穴をあけて、受粉昆虫がいると伝えて開花を促す」などの現象が研究、報告されているそうです。

まだ仕組みがわかっていないことも多々ありますが、光畑さんの「まだまだ我々が知り得ない受粉する側とされる側の複雑な関係があって、それを証明したいと思っている」というお言葉が忘れられません。人間はいろいろなものごとを表面的かつ断片的にしか見ていないけれど、植物と昆虫の間には、私たちが知り得ない深い意味があると思うとロマンを感じてそわそわしませんか。私だけですか。

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紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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紀平 真理子
紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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