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天敵昆虫との出会い|おしゃれじゃないサステナブル日記No.9


【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。第9回は「天敵昆虫との出会い」 化学合成農薬の使用量を激減させる「農業に活用できる昆虫」とは?!

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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天敵昆虫

写真提供:maru communicate 紀平真理子
前回の「環境によい!?昆虫食が普通になるには(No.8)」では、昆虫食についてふれました。



今回は、昆虫は昆虫でも、「天敵昆虫」です。

「雑草・病害虫管理の理想は高く!現実は忘れず!(No.4)」公開後に、アリスタ ライフサイエンス株式会社の光畑雅宏さんよりご連絡をいただき、天敵昆虫、花粉媒介昆虫を使ったIPMのお話をうかがう機会をいただきました。ちなみに私は天敵昆虫の話を聞くことが好きで、使用している生産者の方から昆虫の力関係などを教えてもらうことを半ば趣味にしています。この魅力が少しでも伝われば…3回に分けて、いざ天敵昆虫の世界へ!


農業で使う昆虫

天敵昆虫
写真提供:maru communicate 紀平真理子(オランダで見かけた天敵昆虫)
まずは、「農業で活用できる昆虫」について簡単に説明しておきます。生産者の方は読み飛ばしてください。

天敵昆虫

天敵昆虫とは、農産物に被害を与える害虫を捕食または寄生して植物を守る昆虫です。天敵昆虫には、製品化されている「導入天敵(天敵製剤)」と、自然界にいる昆虫を天敵温存植物というおとりでおびき寄せて活用する「土着天敵」があります。日本で登録されている導入天敵は、14種類です。

花粉媒介昆虫

花粉媒介昆虫とは、その名の通り受粉を手助けする昆虫です。主に農業で使用されているのは、マルハナバチとミツバチです。


天敵昆虫との出会いはオランダ

天敵昆虫
出典:maru communicate  紀平真理子(IFTF2014)
私と天敵昆虫との出会いは、2014年にオランダで開催されたIFTF(国際花き展示会)です。オランダKoppert社、ベルギーbiobest社ブースへ訪問し、「え!虫vs虫の話をこんなに熱く語って、虫だけの話で1時間以上話している…」と度肝を抜かれました(ちなみに光畑さんとは2時間以上お話しました)。

その当時、Koppert社の担当者が「オランダでは施設園芸のほぼ100%で何らからの天敵昆虫やマルハナバチを使用しているが、日本では30〜40%だけだ!」と話していたことも記憶の片隅から引っ張り出してきましたが、それから6年を経て、今では日本でも施設栽培を中心に天敵昆虫の普及が進んでいます。現在は、静岡県や栃木県のいちご栽培では90%が何らかの昆虫を使用したIPMを実践しています。また、高知県や九州のナス、ピーマン栽培でも天敵昆虫が広く活用されています。

慣行農業でIPMが浸透

天敵昆虫
写真提供:maru communicate 紀平真理子(日本で撮影)
よく「IPM=有機や無農薬」だと勘違いされることがありますが、必ずしもそうではありません。
アリスタ ライフサイエンス株式会社が天敵昆虫のチリカブリダニ(ダニ類は正確には昆虫ではありませんが、天敵製剤として扱われているので、ここでは「天敵昆虫」とします)、オンシツツヤコバチの国内承認を取得した27、8年前は、化学合成農薬を使った防除が主体でした。そのため、同社は有機栽培や、化学合成農薬を使わず栽培している生産者に対してIPMを推進しようと試みましたが、ハマらなかったそうです。

というのも、たとえ化学合成農薬を使用していなくても、害虫を防除するために何らかの資材が使われていることが多く、さらに有機農業の場合は各農家が、「何を」「何のために」「何を基準」にして使用しているかわかりにくく、確固たる技術(軸)がないことも普及につながらなかった理由だそうです。植物性天然素材であっても、昆虫に影響を与える害虫忌避剤などが原因で天敵昆虫が定着しないという事態も起こりました。

一方で、化学合成農薬には登録制度があり「使用していいもの/悪いもの」や成分がはっきりわかります。また、使用している農薬の履歴があるため、使用する天敵昆虫と製品の相性から、使用できる農薬の種類やタイミングを指定できました。こうして天敵昆虫を組み合わせて、化学合成農薬の使用量が激減していきました。

イメージとは相反しますが、化学合成農薬を使用している生産者の方がむしろ天敵昆虫を活用して環境に配慮するIPMの普及が進んでいき、技術を確立していったのです。

ヨーロッパと日本でのIPMの違い

天敵昆虫
出典:maru communicate 紀平真理子(箱がマルハナバチ)
「ヨーロッパのIPMは化学合成農薬の使用がほぼゼロだから、日本も…」という話を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、栽培環境の違いも忘れてはいけません。

施設環境の違い

オランダの施設園芸は、ガラスハウスで環境制御がシステム化されています、というか建物もしくは家のような感じです。その中でイベントが開催されることもありますが、なかなか快適です。一方、日本の場合はビニールハウスで、外気温や太陽光に影響を受けるハウスも多くみられます。同じ地域で同じ作型であっても、内実がまったく異なることも多々あります。

気候と生物多様性の違い

生物多様性にも違いがあります。国土の半分以上が海面下で、海を埋め立てて国をつくったオランダでは、施設園芸においてコナジラミ、アザミウマ、アブラムシ、ハダニ、ハモグリバエなどの主要な害虫を防除するだけで十分です。余談ですが、オランダの家には網戸がなくても、たまに蚊が紛れ込んでくる程度でなんとかなります。

しかし、日本のように温暖で湿潤な国では、カビや菌関係が多いので、化学的防除がゼロというわけにはなかなかいきません。

また、日本は生物多様性が高い「生物多様性ホットスポット」です。光畑さんのお話では、高知県でIPMが浸透した時に、ピーマンには関係がなかった害虫カイガラムシが発生したそうでうす。それまで非選択性(ほとんどすべての昆虫類・ハダニ類などに効果を発揮する殺虫剤)の農薬で防除できていた「雑多で、マイナーで、繁殖力が低い害虫」が、天敵昆虫によって主要な害虫がいなくなったことにより繁殖できるようになってしまいます。そのため、日本のように生物多様性が高い国では、雑多な害虫に対して農薬も活用しながら、天敵昆虫と合わせて総合的に防除していくことが現実的です。

こんなことをいっていると、また農薬推進派だといわれてしまうのですが…、産地によっては実際に、現実的かつ前向きにIPMを導入し、かつては成分回数で150回程度散布していた農薬を、天敵昆虫の活用で、ほとんど必要ないまでに減少していることを知っている消費者はあまり多くないかもしれません。

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おしゃれじゃないサステナブル日記

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデューサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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