ICM(総合的作物管理)とは
IPMは、病害虫や雑草に総合的(物理的、化学的、生物的防除など)に働きかける管理方法です。ただ、IPMだけでは解決できない問題があることもわかってきました。例えば、栽培時期の調整のために夜冷処理などをした苗としていない苗では、病気が発生した時に害虫が増殖するスピードが異なるという話も聞きます。要は、人間も植物も「体力(免疫力とはなんとなくいいたくない)つけて元気でいないと、病気がなかなか治らないよ」ということです。そこで生まれたのが、ICM(総合的作物管理)という考え方で、病害虫や雑草に加えて植物が抱えるストレスにもアプローチしていこうというものです。植物だっていろんなストレスから逃れたい
人間は生きていればさまざまなストレスに晒されます。植物だって耐性を持っていないと一気にやられちゃいます。では、植物が抱えるストレスとは何でしょうか?病気、害虫、雑草などの生物的ストレスだけでなく、日差し、気温、風、成り疲れ(樹勢が落ちて収量が減る状態)などの非生物的ストレスにも影響を受けています。そこも含めてICMで総合的に複合的に管理していきましょうね、という流れです。人間よりははるかにストレスが少ないようですね…。ここで出てくる!バイオスティミュラント
ICMの非生物性ストレスを軽減させるために使用されるものとして、微生物製剤やバイオスティミュラントなどがあげられます。微生物製剤は二分されています。納豆菌の一種であるバチルス菌などを活用したボトキラーや、ボーベリア・バシアーナ(昆虫病原性糸状菌の一種)のように農薬登録され、効果をうたえる製品があります。
一方で、バイオスティミュラントと呼ばれるものは、いわゆる植物活性材ですが、農薬と肥料の間を埋める新しいポジションとして、はっきりとは効果をうたっていない製品です。そして、そのような製品は玉石混淆で、天然のものであっても、抽出成分の「何が」「どのように」植物に作用しているのかがわかっていないものも多々あります。
この現状に危惧したアメリカやヨーロッパでは、バイオスティミュラント協議会が設立され、バイオスティミュラント製品をきちんと管理し、体系化を図ることにしました。日本でも、2018年に日本バイオスティミュラント協議会が設立されました。
科学と未科学の間で揺れる気持ち
「科学的に証明されている」ことは、農業界ではとても大切で、私自身もこれを主軸に置いています。幸運なことに、科学的な視点でモノを見て、教えてくださる方々が周囲にいるので、最近ではそのように考えることができるようになりました。バイオスティミュラントについては、現段階では科学的に証明されているとは言いきれません。しかし現在、世界中でこれをいかに科学的に証明するか、また栽培体系化していくかという方向性で進んでいるように感じますので、“きちんとした”バイオスティミュラントについては今後も注目していきたいです。
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紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate