雑草・病害虫管理の理想は高く!現実は忘れず!|おしゃれじゃないサステナブル日記No.4

【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。第4回は「雑草・病害虫管理の理想は高く!現実は忘れず!」
環境にできるだけ負荷をかけずに、病気や害虫を効果的に防除するIPMは、1965年から提唱されている総合的病害虫管理。自然のはたらきや化学の力を組み合わせるその手法とは!?


IPM

出典:shutterstock
前回記事「栽培方法もグラデーション!|おしゃれじゃないサステナブル日記No.3」では、有機栽培と慣行栽培に対しての自分自身の思い込みについて、反省の意味を込めて振り返ってみました。

「農業と環境」について考えるとき、避けて通れないワードの一つは「IPM」です。今回は少し真面目にIPMについて考えてみます。

IPMって何?

循環型農業
写真提供:maru communicate 紀平真理子
IPMとは、Integrated Pest Management (総合的病害虫・雑草管理)の略です。これは1965年にFAO(国連食糧農業機関)によって提唱されたもので、比較的古くからある管理方法です。日本では、2000年代に入ってから本格的に普及促進されるようになりました。

IPMをかなり平たくいえば、「環境や人に配慮して、病害虫などの発生を抑える自然界の仕組みも活かすために、一つの解決策に頼るのではなく、さまざまな技術から適したものを選択して総合的に病害虫を管理していきましょうね」ということになります。

IPMは具体的にどんな対策をするの?

天敵昆虫
写真提供:maru communicate  紀平真理子
実際にIPMではどのようなことがされているかというと…。

まず、予防的措置として、病害虫の発生しにくい環境を整備します。具体的には、作期の移動や排水対策、輪作体系の導入、抵抗性品種の導入、種子消毒の実施などです…と簡単にいいますが、ハードルがわりと高いなという印象です。

次に、土壌分析、圃場の観察や、発生予測情報などで圃場の状況の診断し、防除が必要かどうか判断します。必要な場合は、そのタイミングも判断します。もし、ボヤ程度の病害虫の発生を確認できたら、大火事になる前に対処できますねという意味も含んでいます。

さらに、病害虫の防除も合理的に組み合わせます。農薬(化学的防除)もIPMの重要な手段の一つですが、それだけでなく、天敵昆虫などの生物的防除や、粘着板や網などの物理的防除も必要であれば組み合わせて使用します。天敵昆虫に関しては、特に施設園芸でよく活用されていますね。使用している方にお話を聞く機会があるのですが、とにかく奥が深い!個人的に天敵昆虫にはロマンを感じます。

いくら環境によくても、生産者に利益がないと広がらない

土壌分析
写真提供:maru communicate 紀平真理子
IPMのメリットの一つは自然環境に対する負荷の軽減ですが、いくらきれいごとを並べても、生産者にもメリットがなければ、なかなか広がりを見せません。

土壌分析により、生産者を悩ませることが多い病害虫の発生の有無や発生量がわかれば、適したIPM対策を取れます。また、圃場内のどの部分に菌密度が高いか判明すれば、防除に緩急をつけたり(農薬散布量の調整など)、トラクターなど機械に付着した土壌による感染を避けたりするため走らせる順番を変えられます…と簡単にいっても、忙しい生産者にはそれがなかなか難しいと思いますが。

生産者側のメリットとしては、防除コスト(農薬代など)の軽減や、収穫物の品質や収量アップなどといわれています。生産者はこれらのメリットと、土壌分析費用や労働コストを比較して導入するか決めることになるでしょう。

安定生産と環境配慮のバランス

自然との共存
出典:Pixabay
農業と環境について考える場合、消費者としてはついつい社会的にきれいなモノや美しいストーリーを農業に求めがちです。一方で、ホシイモノはだいたい手に入ります。近年の気候が不安定な中で、農業に比較的安定した生産量や質、価格での農産物の提供を求め、かつ環境にも配慮してくださいというのは少し求め過ぎではないかと思いめぐらせています。IPMは一つのアプローチですが、もちろん唯一ではありません。

同じ地球に生きている私たちは、どのアプローチで、どの程度まで環境に配慮し、それが生産者にとってどの程度負担になるかなど、さまざまなバランスを考えていきたいな。

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紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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