現在の田植えは機械化が進んだので、家畜を利用して田を耕し、人の手で田植えをしていた数十年前と比べて、随分楽になりました。そんな田植え機での移植作業を中心に、私が勤めている農家さんの田植え(主にはえぬき)の方法を、米作り初心者の方にもわかりやすいように紹介します。
田植えの主流は移植栽培
米栽培には、ビニールハウスで育苗する「移植栽培」と、種もみを直接田んぼにまく「直播栽培」という方法があります。現在の米作りは、移植栽培が主流になっています。この移植栽培の低コストや負担軽減のために、日々さまざまな技術研究が行われています。▼米作りの育苗のことならこちらをご覧ください。
移植栽培のメリット・デメリット
移植栽培のメリット・デメリットについて紹介します。移植栽培のメリット
1. 雑草を防ぐ米作りは雑草との戦い。いかに雑草を抑えるかが収量に影響します。移植栽培は田植え前に水が張ってあるので雑草の芽が出にくくなるため、直播栽培よりも雑草を防ぐことができます。
2. 害獣被害を防ぐ
直播栽培では、圃場にまいた種もみを鳥に食べられてしまう可能性がありますが、移植栽培では種もみではなく、苗を植え付けるため、鳥に食べられる心配がありません。
移植栽培のデメリット
田んぼの規模を拡大しようとすると、苗を育てるビニールハウスや育苗箱が新たに必要になるなど、移植栽培では資金面での負担が増えてしまうというデメリットがあります。コストと労働力の負担軽減には「密苗」
「密苗」とは、育苗箱に種もみを高密度に播種し育てた苗を、機械が(密苗対応)が小さくかきとって田んぼに植え付ける手法です。つまり、同じ面積の田植えに必要な育苗箱の数が、従来よりも少なく済みます。ということは、育苗するハウスの面積も、播種や苗の運搬時間も減らすことができます。密苗の省力・低コスト化
・育苗箱数1/3
・ハウス面積1/3
・育苗資材費1/2
・播種・苗運搬時間1/3
田植え前の準備とは
ここからは田植えの前に欠かせない準備について紹介します。▼田植えなど米作りの栽培スケジュールのことならこちらをご覧ください。
田んぼの準備
田植え機で植え付ける前に、田んぼの土や水の量を調整しましょう。時期
山形県では5月上旬~中旬ごろ土
柔らか過ぎると苗が倒れやすく、硬過ぎると植え付けができません。代(しろ)かきが終了したら、1~5日間ほど田面が落ち着くのを待ちます。代かきから田植えまでの日数の目安
【砂質】
1~2日程度
【粘土質】
4~5日程度(それ以上の日数がかかる場合もある)
水
田んぼの水は、ある程度落水して水深1cm程度の浅水に調整します。注意!
水の量が多過ぎると、田植え機のマーカーの跡が見づらくなってしまいます。
服装
服装はそのときの気候に合わせて半袖でも大丈夫です。苗の補充役の人は厚手のビニール手袋と腕カバーを使いましょう。肌荒れ注意!
苗箱には薬剤が散布されているので、直接肌に触れると肌が荒れてしまうことがあります。
長靴・足袋
普通の長靴で田んぼに入ると足が抜けなくなってしまうので、田植え専用の長靴や足袋がおすすめです。田植え機のの試運転
必ず使用前におかしな音がしないか、可動部に問題はないかなど動作の確認と、注油を行いましょう。▼トラクターなど農業機械での事故のことならこちらをご覧ください。
田植え機の準備
田んぼによって植え付けの深さも変わってくるので、田植えを始めてから再度田植え機の調整を行うこともあります。田植え機のレンタルはあり?
田植え機は各都道府県のJAなどで田植え機のレンタルも可能です。▼米作りで使用する農業器具・機械のことならこちらをご覧ください。
植え付けの深さ
植え付けの深さは3cm程度注意!
植え付けが深過ぎると分げつが抑えられ、反対に浅過ぎると欠株が増えてしまいます。
※分げつとは、主茎から新しい茎が出てくること。
植え付け本数
苗1株あたりの植え付け本数は、4本程度と少なめが最適です。注意!
多過ぎると過剰分げつになり、米の粒も小さくなってしまう可能性があります。
作業人数
2haほどの田植え作業は作業効率や負担軽減を考慮して、田植え機のオペレーター(運転手)と苗の補充役の計二人で行います。苗の用意
ビニールハウスで育てた苗を軽トラックなどに積んで田んぼへ運びます。苗の取り違いに注意!
見た目だけで品種の違いを見分けるのはほぼ不可能なので、複数の品種を育てている場合は苗の取り違いに注意します。事前にビニールテープなどで、ここからここまでは「はえぬき」というように目印を付けておきましょう。
苗を田植え機へ
運んできた苗は、農道の端や畦畔に並べておきます。苗を田植え機に載せるときは「苗取りボード」で根を切って育苗箱から取り外します。
6条植えの田植え機なら後方に12枚、前方に予備の苗を6枚載せましょう。
注意!
田植え機後方の台に載せるときは、苗と苗の間に隙間ができないように。隙間ができると欠株につながる恐れがあります。
除草剤
田植えと同時に除草剤を散布する場合は、苗とともに田植え機にセットします。除草剤も苗と同じように補充しながら田植えを進めましょう。
田植えの手順
私が勤めている農家さんが行っている農業機械を使用した田植えの手順と、作業のチェックポイントを紹介します。田植え機のスタート地点
田植え機で畦畔から入って、スタート地点(上図参照)から植え始めます。※田んぼの形や状況によって効率的な田植えの手順が変わってきます。
作業のチェックポイント!
除草剤が落ちているか、欠株がないか、マーカーがきちんと落ちているかをこまめに確認しましょう。オペレーターが気付かないこともあるため、苗の補充役の人もよく見ておくことが大切です。
田植え機のマーカーって?
田植え機の両サイドについているマーカーの片方を落とすことで、次に田植え機が走る場所の目安が付けられます。作業のチェックポイント!
風が強い場合は、風下から植えることがポイントです。田植え機が走ると水面はにごりますが、風上から植えてしまうと、にごった水が風下に流れてしまうので、マーカーの跡が見えづらくなります。
田んぼの中側は往復植え
何度も苗を補充しながら中を往復して植えます。作業のチェックポイント!
欠株に気付いたら田植え機の爪を確認しましょう。途中で爪に石が挟まって爪先が広がったままだと、欠株は解消されません。爪先が広がっている場合は、新しい爪と交換してから再開しましょう。
最後に周り
中側が終わったら、畦畔の枕地を植え付けます。畦畔側の枕地(6と7)が終わったら田んぼの端(8)を植え付け、そして反対側の枕地(9と10)を植え付けます。最後に残っている田んぼの端(11)を植え付けて、ゴール地点の畦畔を登れば作業は完了です。作業のチェックポイント!
最後は植え付け作業をしながら畦畔を登るのでスピードは控えめに。
田植え後にやること
田植えが終わったからといってまだ安心はできません。入水や補植といった作業が残っています。入水
田植え後は、低温や風から苗を守るために3~4cm位のやや深水管理にします。苗が活着したら
2~3cmの浅水にします。▼入水後の水田用の除草剤のことならこちらをご覧ください。
補植
田んぼの形によって、どうしても田植え機で植え付けができなかったり、欠株になってしまったりした箇所がある場合は補植することがあります。注意!
補植用の苗を田んぼに置いたままにすると病害虫の発生源になります。終わったら早めに処分することをお忘れなく。
補植はする?しない?
欠株になった部分は草が生えやすく、また田んぼの見栄えをよくするために補植することがありますが、全体の収量にはほとんど影響を与えなといわれています。そのため、補植をするかどうかは生産者が個々に判断します。ちなみに、私の勤めている農家さんでは収量に影響はないと判断しているため補植はしていません。
田植え機を洗車
最初はポンプを使って水路の水で大まかに泥を落とします。その後に洗浄機などを使って洗うと効率的に汚れが落とせます。洗車が終わったら、可動部に注油やグリス塗布をして来年に備えましょう。
注意!
水洗いする際は電装部品に直接水がかからないように注意しましょう。直接水をかけてしまうと故障の原因になります。
田植えと同時に除草剤を散布している場合は、散布口に除草剤が固まっていることもあります。よく確認して掃除をすることがポイントです。