しかし、そうは言っても初めての苗作りは不安が多いものです。機材や施設の使い方をはじめ温度管理や日々の手入れなど、やらなければならないことはたくさんあります。一つひとつの過程はさほど難しくないかもしれませんが、どれも大切なことなのでしっかりと行いましょう。
育苗の方法は地域差や品種によって違いますが、ここでは富山県のコシヒカリを基準に、稲作の最初のステップである種もみの準備から芽出しまでの「播種編」について説明します。
▼種もみの生育をサポートする浸種用機能水器「苗清水(TM)」についてはこちらをご覧ください。
目指すのは管理が簡単で倒伏しづらい苗作り
育苗は「苗半作」といわれるほど重要な工程です。苗の出来不出来によって収穫まで影響が及ぶので、苗作りが重要視されています。目指す苗ってどんな苗?
目指すのは茎が太くて節が短い、葉の立った苗です。節が長いと倒伏しやすい稲になるので要注意です。育苗の管理のコツは温度とタイミング
温度管理とタイミングの見極めが特に大切なのは2回。1. 播種のときに種もみが「ハト胸状」になる温度とタイミング
2. 芽出し直後のビニールハウスに出すタイミング
これを間違えると根が伸び過ぎて作業に悪影響が出るので気を付けましょう。
見極めを間違えると?
芽出し後ビニールハウスに出すのが遅くなったため、根が伸び過ぎて下段箱の種もみと絡まっています。慣れないうちは少しの変化も見逃さないように注意深く観察しましょう。
播種の前の準備
種もみのままでは休眠状態なので、手順に従って休眠を打破しなければなりません。発芽率の向上や生育ムラの軽減につながるために、入念な準備が必須です。種もみ
品質特性の劣化や、混種や変種が起こることがあるため、種もみは自家採種ではなく毎年更新するのが好ましいとされています。1箱当たりにまく種もみの量は、乾籾計算で120~150gが目安です。10aの田植えに必要な苗箱数は20箱とされていますが、余裕をもって22箱ほど準備しましょう。150g×22箱で3.3kgとなりますが、塩水選で2割ほど減るので、準備する種もみは10aに約4kg必要です。
塩水選
未熟な種もみを取り除き、より健康な種を選ぶ方法です。20リットルあたり5kgの食塩か硫安を溶かした水に種もみを入れて、浮いたものを取り除きます。塩水の濃度の目安は生卵が浮く程度です。
塩水選の後は、発芽障害が起きないように必ず水洗いしましょう。
農薬
育苗期間で怖いのが病気の蔓延です。特に屋内作業の段階で発生すると、瞬く間に全滅してしまう可能性もあります。そのため消毒が必要です。種子消毒のほかにも、播種時や田植え時に用いる苗箱剤を混ぜて省力化をする場合もあります。種子消毒
発芽率を高めるために必要な作業です。最初から消毒済みの種もみを用意する、または浸種の段階で薬剤を使う場合、播種時やハウスに出したときに使うなど、農薬の種類によって使用時期が違います。農薬を使わない!?温湯消毒
近年では乾燥した種もみを60℃に10分間、または58℃で15分お湯に浸け、処理後は直ちに冷水で種もみを冷却する「温湯消毒」が普及してきています。
専用器具が必要になるので初期投資が必要ですが、薬品代がかからないために長期的にはコスト削減につながります。
機材の殺菌消毒
育苗箱や播種機などの機材も殺菌剤を使って消毒しておきます。ビニールハウス
播種後に育苗箱を管理するビニールハウスを準備します。クワなどをつかって地面をなるべく水平にしておくと、後々の管理が楽になるのでしっかり行いましょう。
▼ビニールハウスのことならこちらをご覧ください。
育苗箱
最近では木箱を使っている人は少ないとは思いますが、プラスチック製の育苗箱に変えた方が、軽くて病気にもなりにくいです。土
土を使わない育苗マットでの栽培は軽量で根張りも良好ですが、単価が高い、収納場所がかさばるなどのデメットも。ここでは水稲用培土を紹介します。水稲用培土の種類
大きく分けて3種類あります。1. 砂状培土:一般的な培土
2. 粒状培土:粒状に加工されていて根張りが良い
3. 軽量培土:籾殻やピートモスなど、ほかの資材が混ざっている。保水性が高い、根張りが良いなど
作業性を考慮に入れた土の選び方
軽量培土を床土に粒状を覆土としての使用がおすすめです。使う培土の種類によって入れる厚さが違いますが、専用の「ナラシ板」が設定されていますので販売店に確認してください。
浸種から発芽までの手順と管理
種もみの浸種から播種直後の育苗前半の管理についての流れを説明します。浸種
種もみをネットに入れて浸種(種を水に浸ける)を行います。▼種もみの生育をサポートする浸種用機能水器「苗清水(TM)」についてはこちらをご覧ください。
設定温度
温度は10℃以上、25℃未満になるようにします。浸種は直射日光を避け、温度変化の少ない場所で行います。温度差が生じるので、時々上下を入れ替えましょう。
温度計があれば水温の把握に便利です。
積算水温
積算水温が100℃になるように調整します。積算水温とは1日の平均水温を足し算した数字です。例えば、日中の水温が20℃で夜間が10℃の場合は1日の平均水温が15℃となります。この15℃が7日間続くと積算水温105℃となります。このとき10℃以下の日はカウントに入れません。
この温度管理によって、田植えまでの日程が決定するので慎重に行いましょう。
光合成を高める
液体肥料のペンタキープ5000倍希釈液を浸種時に入れておくことで、葉緑素が活性化され光合成効率が高まり、緑化期間短縮の効果も期待できます。きれいな水
水の色が変わったり、異臭がしたりした場合は、水の入れ替えが必要です。エアーポンプで酸素を補給すると水換えの回数が減ります。催芽(さいが)
浸漬を終えた種もみをスチーム発芽機に入れ、播種しやすい「ハト胸状」の発芽を促します。設定温度
30℃に設定します。時間
12~18時間位が目安です。目標は2mm程度
わずかに2mm程度に伸びるまで行います。個体差があるのでムラが出ますが、伸び過ぎると播種機に引っ掛かってしまって、均一にまけないことがあります。乾燥
濡れたままの状態では種もみが播種機に張り付き、まきムラができてしまうので乾燥させます。直射日光を避けた暗所で、風や外気にさらして自然乾燥させます。ポイントは完全に乾燥させないことです。軽く握って手に付かない程度に留めましょう。
播種
準備した苗箱に播種機を使って発芽した種もみをまきます。灌水(かんすい)して床土を落ち着かせてから、種もみを敷いて覆土を被せる仕組みです。種もみは乾物重で120gが標準ですので、播種機の設定をしっかり確認しましょう。
※灌水とは水を注ぐこと、植物に水を与えること。
さらに良い苗にするために!
種もみにゼオライト(砂状)を混ぜ合わせて播種すると、固くて太く肥持ちの良い苗になります。▼ゼオライトのことならこちらをご覧ください。
播種のポイント
水は溢れない程度、種もみは重ならないように。覆土は種もみが隠れる(5~7mm)くらいが目安です。芽出し
いよいよ「育苗〜播種編」最後の芽出しの作業です。設定温度
30℃に設定します。時間
55~60時間ほど芽出し器に入れます。目標は1cm程度
芽が1cmほどになるまで芽出し器に入れておきましょう。しっかり管理でムラのない芽出し
播種編は以上です。ここまでしっかり作業ができていれば、ムラなく発芽しているはずです。しかし、どうしても個体差や温度差などがあるので、生育スピードに多少の違いがあるのは仕方がないことです。大切なのは生育の段階をそろえることなので、全体的に発芽が確認できれば問題ありません。室内で集中して行う作業になるので、細かな変化を見逃さないように気を付けて管理してください。ハウス管理編はビニールシートハウスでの管理についてです。管理する範囲が広くなるので、播種編とは違った注意点がありますが、コツをおさえれば大丈夫です!