千葉大学園芸学部非常勤講師。千葉県立農業大学校非常勤講師。東京農業大学グリーンアカデミー非常勤講師。テクノ・ホルティ園芸専門学校非常勤講師。日本ガーデンデザイン専門学校非常勤講師
草間祐輔主な経歴: ・長野県松本市生まれ ・千葉大学園芸学部卒業 ・米国ロサンゼルス郊外のナーセリー&ガーデンセンター(観賞植物生産・小売業)に勤務後、家庭園芸農薬肥料メーカーの住友化学園芸株式会社に在職。 〜植物の病害虫防除や肥料ついて研鑽(けんさん)を積み、講習会などで広く実践的な指導を行っている。 〜業界では農薬の安全・適正使用の普及や指導を行う(公社)緑の安全推進協会認定・緑の安全管理士、及び同協会講師としても活動する。 〜趣味は植物の病気、害虫の写真撮影。身近に出くわす被害症状にこだわり、20年来、撮影している。 主な著書: 「だれでもわかる 病害虫防除対策」(万来舎) 「野菜・果樹の病害虫防除」(誠文堂新光社) 「症状と原因が写真でわかる 野菜の病害虫ハンドブック」(家の光協会) 「症状と原因が写真でわかる 庭木・花木・果樹の病害虫ハンドブック」(家の光協会) 「写真で見つける病害虫対策ブック」(NHK出版) 「人にもやさしい病害虫防除」(講談社) 「植物の病気と害虫 防ぎ方・なおし方」(主婦の友社)など多数。 現在、NHK「趣味の園芸」テキストで「今月気をつけたい病気と害虫」を連載中。初心者にも分かりやすい写真と解説に定評がある。…続きを読む
カイガラムシ類は、硬い殻やロウ質物に覆われているため防除が難しい害虫です。そんなカイガラムシ類への効果的な防除方法や使用する薬剤について、栽培初心者の方にもわかりやすく説明します。
本記事は教育機関で講師を勤められ、数多くの病害虫についての書籍を執筆されている草間先生に監修いただきました。
カイガラムシ類とは
カイガラムシ類は、アブラムシやセミなどと同じカメムシ目に属しており、日本では名前が付いているものだけでも約400種類、実際には少なくとも700~800種以上が存在するといわれています。カイガラムシ類の生態
カイガラムシ類の成虫は、オスとメスで全く異なる姿をしています。中にはメスのみで繁殖する種類もいます。カイガラムシ類のメス
メスは成虫になると、脚が退化してしまい一生同じ場所に固着するもの、脚があって動き回るものなど、種類によりさまざまです。翅(はね)は持たずあまり積極的には動かない種類が多いため、オスが飛来してメスを見つけて交尾します。メスは産卵するものもいますが、卵を体に持ったまま死亡し、そこから幼虫が這い出て来る種類もいます。野菜や草花よりも観葉植物や花木、庭木、果樹などを好みます。幹や枝葉、果実に口針と呼ばれる糸のような尖った口を植物に深く突き刺して汁液を吸うため、多発すると樹木が衰弱し枯れてしまうこともあります。
排泄物を出すカイガラムシ類では、すす病などの病気が発生することもあります。
カイガラムシ類のオス
一方オスは、成虫になると触角・脚・翅をそなえ、移動する能力をもちます。口は退化しており、羽化した後は食べ物も水も取らないため短命です。人間の生活に欠かせないカイガラムシ
カイガラムシ類の中には、古くから人間の生活と密接に関わり、役立つものを提供してくれる種類もいます。コチニール色素
イチゴジュースやハム、蒲鉾など赤い食品や、繊維の染色、口紅に使われている「コチニール色素」は、サボテン科のベニコイチジクなどに寄生する、「コチニールカイガラムシ」が原料です。シェラック
塗料やガムやチョコレートの光沢に使用されている天然プラスチック「シェラック」は、ラックカイガラムシが体外に分泌した樹脂状物質です。いぼた蝋
古くから日本でロウの原料や日本刀の手入れに使用されていた「いぼた蝋」は「イボタカイガラムシ」が分泌するロウを精製したものです。主なカイガラムシ類の種類
カイガラムシ類は「殻を付けている(マルカイガラムシ科)」「ロウ質物に覆われた・裸で殻がない(カタカイガラムシ科)」「白い粉状のロウ質物で覆われた(コナカイガラムシ科)」「殻がなく綿をふいて産卵(ワタフキカイガラムシ科)」のほか、フクロカイガラムシ科、ハカマカイガラムシ科、フサカイガラムシ科など多くの科やその中に多くの属があり、それらは研究の途中で今後多くの種類が増えると予想されています。殻を付けている:マルカイガラムシ科
丸い偏平な殻を持つカイガラムシ類です。メスは成虫になったときに脚が退化して、葉や枝の同じ場所に一生固着します。マルカイガラムシ科の虫は排泄物を全部体を覆う殻に変えてしまうので、ほかのカイガラムシ類と違い排泄物を出しません。
ヤノネカイガラムシ
・体長と特徴
メスの成虫は約3mmで濃紫褐色のやじり状の殻を持ち、オスの2齢幼虫は約1.5mmの細長い白色綿状で、メスの近くに集団で定着しています。
・被害状況
カンキツ類の枝葉、幹、果実に寄生して枝の枯死や果実の着色遅れなど、商品性を低下させます。
・発生
年2~3回発生し繁殖力は旺盛です。
これらの天敵寄生蜂は、主に夏季にヤノネカイガラムシのメスの成虫に産卵します。メスの幼虫に対しては、体液摂取を行って生育を阻害します。この時期にヤノネカイガラムシが多発していなければ、天敵保護のため農薬防除を控えましょう。
ナシマルカイガラムシ
・体長と特徴
メス成虫は1.5〜2mmの円形です。
・被害状況
多くの果樹に寄生します。特にナシの被害が大きく、葉、枝、果実にまで及び、多発すると枝や木は衰弱し、果実に寄生した場合は外観を損ない奇形、亀裂を生じることもあります。
・発生
1齢幼虫で越冬し、年3回発生します。
白い粉状のロウ質物:コナカイガラムシ科
コナカイガラムシ科はカイガラムシ類の中でも多くの種類があり、一般的にメス成虫は長さ数ミリ程度の楕円形(わらじ型)で裏返すと脚が見え、殻がなく、体表が白い粉状や綿状のロウ質物に覆われています。コナカイガラムシ科をつぶすと赤、またはオレンジ色の液体が出てきます。葉の込み合っている場所など見えにくい場所に群生して潜み、大量に発生するとすす病が発生します。
カイガラムシ類の中では脚が発達しており移動速度が速い種類ですが、一部脚が退化しているものもあります。
ミカンヒメコナカイガラムシ
・体長と特徴
メス成虫は体長3mm、体からトゲのような白い突起が17対出ています。
・被害状況
カンキツ類などを加害します。若い葉や幼果などに集中して寄生して吸汁し、果実は生長するにつれて被害部分が隆起して奇形果になります。
・発生
年3〜4回発生します。
フジコナカイガラムシ
・体長と特徴
メス成虫は3~4mmです。
・被害状況
カンキツ類やカキ、ブドウ、フジ、ナシ、イチジクなどを加害します。カンキツ類では、成虫や幼虫が新梢や果梗(かこう)部に寄生し、すす病を生じて果実が汚れます。また、幼果期に被害を受けると寄生部位が盛り上がって黄化し、着色期になるとその部分が赤くなって奇形果になります。
・発生
年3回の発生で、幼虫が樹皮の割れ目や粗皮の下で越冬します。
天敵寄生蜂の「フジコナカイガラクロバチ」やタマバエ類など有力な補食性の天敵が存在するので、これらの天敵類に影響を与えない農薬を選択すると防除効果が高くなります。
ミカンコナカイガラムシ
・体長と特徴
メス成虫は体長3〜4mmで背中に橙黄色の縦線が見えます。
・被害状況
カンキツ類、温室の観葉植物や花き類など多くの植物に寄生し加害します。果実は吸汁されることにより、着色が悪くなり、日持ちが短くなるなどの被害が発生します。
・発生
発生回数は多く、温室内では1年中発生します。
ロウ質物に覆われた・裸で殻がない:カタカイガラムシ科
コナカイガラムシ科とともに、多くの種類が存在するカイガラムシ類です。カタカイガラムシ科の多くの種類は、ある一定の時期をのぞいてほとんど移動しません。カタカイガラムシ科の幼虫は、背面からロウ質物を分泌しながら成長し、排泄物によるすす病が発生します。
そのほか「ヒラタカタカイガラムシ」「タマカタカイガラムシ」「ツバキワタカイカラムシ」「クロカタカイガラムシ」などが、カタカイガラムシ科の害虫として知られています。
ツノロウムシ
・体長と特徴
体長は約6~8mmです。
・被害状況
カキやカンキツ類、ゲッケイジュ、サザンカ、ヤナギなどの庭木、花木を加害します。枝の吸汁により樹勢が低下します。葉や果実にすす病を生じます。
・発生
年1回の発生でメス成虫が枝や幹で越冬します。
また、多くの天敵寄生蜂がいるので保護するために、薬剤防除には注意が必要です。
カメノコロウムシ
・体長と特徴
ツノロウムシよりやや小型で、メス成虫は体長約4~5mmです。
・被害状況
カンキツ類、カキ、クチナシ、ゲッケイジュ、サザンカ、などの庭木、花木を加害します。枝の吸汁により樹勢が低下します。
・発生
年1回の発生でメス成虫で越冬します。
ルビーロウムシ
・体長と特徴
体長は3~4mm程度で、あずき色のロウ質物に覆われた半円球の虫です。
・被害状況
カンキツ類、カキ、ツバキ、サザンカ、ヒサカキなどで被害が大きく出ます。
・発生
年1回の発生でメス成虫で越冬します。
ルビーロウムシには、「ルビーアカヤドリコバチ」という天敵寄生蜂がおり、これに寄生されると殻が黒色になります。この蜂に寄生されたルビーロウムシを園内に導入して、天敵を増やす方法もあります。
殻がなく綿をふいて産卵:ワタフキカイガラムシ科
有名なのは「イセリヤカイガラムシ」ですが、そのほかにも「キイロワタフキカイガラムシ」「オオワラジカイガラムシ」などがいます。同じワタフキカイガラムシ科でも生態や形態が大きく異なります。イセリヤカイガラムシ
・体長と特徴
メス成虫の体長は約5mmです。オスはほとんど発生しません。
・被害状況
イネ科以外の多くの植物を加害しますが、中でもカンキツ類に多発します。葉や枝、幹に定着して吸汁するので樹勢が低下します。
・発生
年2〜3回発生し、メス成虫または幼虫で越冬します。
カイガラムシ類が原因で発症する病気
カイガラムシ類は植物の汁を吸うだけでなく、病気を発症させる原因になります。糸状菌(カビ)による病気
カタカイガラムシ科やコナカイガラムシ科などのカイガラムシ類は「甘露」とよばれる排泄物を出し、これが葉や幹に付着すると、黒いすす状のカビで植物が覆われる「すす病」や、べったりと薬を塗ったようなカビが生じる「こうやく病」などが発生します。症状が激しくなると植物の葉全体がカビで覆われてしまい、光合成ができなくなって生育が弱まります。
▼すす病のことならこちらをご覧ください。
カイガラムシ類に有効な3つの対策
カイガラムシ類の成虫は、体の表面が殻やロウ質物で覆われているので農薬での防除が困難な害虫です。カイガラムシ類を発生させない管理方法
被害が拡大する前に、カイガラムシ類を早期に発見することが重要です。アリがいるところにカイガラムシあり!
アリはカイガラムシの排泄する甘露を好みます。カイガラムシは激発するまで発見するのが難しいですが、アリが歩いているあとを辿れば、植物に潜んでいるカイガラムシを早期に発見することができます。
1. 剪定
カイガラムシ類は風通しが悪い場所に発生しやすいため、余分な枝は切除するなどして、風通しの良い環境にすることを心がけます。▼剪定についてはこちらもご覧ください。
2. こすり落とす
カイガラムシ類を見つけたら、竹べらやたわしなどでこすり落とします。狭い場所では歯ブラシを使い、葉など広い面積にいるカイガラムシ類は、短く切った筆や刷毛などで払い落とすようにします。葉や枝などを傷付けないように気をつけましょう。3. 粗皮削り(果樹)
コナカイガラムシ科などの樹皮の隙間で越冬する害虫の防除のために、カキやブドウなどの果樹では古くなった樹皮(粗皮)を削る防除技術があります。粗皮削りは、専用の刃物やバークストリッパー(高水圧剥皮機)を使って行います。
カイガラムシ類の防除に効果的な「農薬」
カイガラムシ類の成虫は、殻やロウ状質物で覆われているため殺虫剤を弾いてしまいます。農薬での防除のタイミングは、殻やロウが完成していない孵化まもない幼虫の時期と、冬季に密度を下げる目的で散布しましょう。
また、適切な剪定を行い、あらかじめ枝葉を減らしておくことで農薬の散布効率も上がります。
※農薬使用の際は必ず作物登録、使用方法をラベルで確認してください。地域の防除指導機関やJAなどの使用基準を守り施用してください。
▼殺虫剤のことならこちらをご覧下さい。
幼虫防除は5〜7月
年1回発生するカタカイガラムシ科のロウムシ類も、年に数回発生するコナカイガラムシ科のカイガラムシ類も5~7月にかけて幼虫があらわれるため、この時期を狙って薬剤防除します。月2~3回程度の割合で、カイガラムシ類の姿が見えなくてもていねいに散布しましょう。
成虫には冬季にマシン油
カイガラムシ類の発生している果樹園では、果樹休眠期にマシン油を散布し、物理的に成虫を窒息させます。粗皮削りをする場合は、粗皮削りをした後に散布します。散布は厳寒期を避けて、12〜2月末の発芽前までに温暖で風のないときに行いましょう。
※ 樹勢の弱った樹ではマシン油乳剤の散布によって枝の枯れ込みが多くなるので注意してください。
※ マシン油乳剤と石灰硫黄合剤の近接散布は薬害を生じるおそれがあります。
粗皮削りのタイミングで
カキやブドウの粗皮削りのタイミングで樹皮に塗布すると、コナカイガラムシ科の発生を抑制する効果があります。天敵昆虫の導入
アブラムシの天敵昆虫のイメージが強いテントウムシですが「ヒメアカホシテントウ」「アカボシテントウ」は、カイガラムシを好んで捕食するカイガラムシ類の天敵昆虫です。▼天敵のことならこちらをご覧ください。
カイガラムシ類から果樹や庭木を守るために
果樹や庭木を食害するカイガラムシ類は、特殊な殻やロウ質物に覆われているため、薬剤防除が難しい害虫です。薬剤防除の適期を逃さないように注意するとともに、農薬散布の時期については、寄生蜂や捕食性のテントウムシなど、カイガラムシ類の天敵昆虫の定着を妨げない配慮を心がけましょう。日頃から適切な剪定を行い、庭木や果樹の風通しを良くして、カイガラムシ類が定着しにくい環境をつくりましょう。