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営業しないで農業経営を成功させる!?タケイファームの情報発信術


【連載】タケイファームから学ぶ時短と収益UPを目指すヒント|第8回は営業しないで農業経営を成功させる!?タケイファームの情報発信術 1人都市型農業の成功事例として注目を浴びるタケイファームが、新規就農者や現状を打破したいと考える方へ、営業をしないで農業経営を成功させるために効果的な情報発信のノウハウを語ります。

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YumiYamashita

作家・コラムニスト 身体と社会との関わりに関心を持ち、五感、食、日本文化、ヒット商品などをテーマに取材。新聞、月刊誌、週刊誌、大手ニュースサイトにて時事問題からテレビドラマまで幅広く執筆。…続きを読む

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タケイファーム、情報発信

出典:写真AC

前回(連載第7回)は「顧客との信頼関係を築くことが安定した経営を可能にする」ということを、タケイファームとレストランのシェフの関係性を通してお伝えしました。 今回は、営業することなくレストランなどの販売先を獲得してきた、タケイファームの「情報発信術」について紹介します。 ▼前回のタケイファームの記事はこちらをご覧ください。

情報発信がなぜ必要なのか?

タケイファーム、情報発信

出典:Pixabay

「新規就農者が農業経営を成功させる近道は、情報発信に意識を向けることです」とタケイファーム・武井敏信さんは言います。 農家にとって「畑に種をまくことと同じくらい情報発信の持つ意味は大きい」というのです。 しかし、農業を始めたばかりの新規就農者には、栽培や出荷作業に手がかかり、情報発信まで意識が回らず、とても時間をかけられないと感じている人が多いかもしれません。せっかく情報発信としてSNSを始めても、更新が滞ったり、中途半端になるケースを見かけます。 何となく始めても、情報発信がどれほど重要なことなのか理解していなければ長くは続きません。 改めて農家の仕事として、情報発信が欠かせないものなのか考えてみましょう。

情報発信は農家の重要な仕事!

いったいどこまでの範囲が「農家の仕事」と言えるのか。情報発信は息抜きや趣味なのでしょうか、それとも仕事の中にきっちりと位置付けるべきでしょうか。

農家の情報発信は顧客の開拓

タケイファームが出荷する野菜の95%はレストラン卸ですが、その取引が始まるきっかけは以下の3つです。

 

・人づてにタケイファームの野菜について評判を聞いた。 ・レストランで食べた料理が、タケイファームの野菜だった。 ・ネットなどで情報を調べて、タケイファームの野菜にたどり着いた。 いかに情報発信が、売り先を広げる農家の重要な仕事であるということがわかります。

情報発信は野菜の価値を伝えるツール

タケイファームの野菜は、味や鮮度だけでなく「新しい食べ方」や「ストーリー性」といった複数の価値を含んでいます。取引を始める前の段階でこういった価値を情報発信しているからこそ、取引後も納得できる(労働時間、利益、ブランド力などに見合った)価格で顧客に購入してもらえるのです。 ▼タケイファームのブランディングのことならこちらをご覧ください。

可能性を広げるための情報発信

タケイファーム、情報発信

出典:Pixabay

タケイファームの情報発信のスタートは、2006年から始めたブログです。それから「ブログ中心」の情報発信が8年間ほど続きました。 次第にツイッターやインスタグラムなど使いやすいSNSツールが一般化し、現在は「Facebook中心」の情報発信にシフトしています。 ▼タケイファームFacebookページ 「心を動かす野菜 タケイファーム

タケイファームの情報発信のスタート

2006年に武井さんがブログを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

「何か情報発信は必要だと思いつつも、ブログはまだ一般的ではなく、やり方もよくわからなかったので、なかなか踏み切れずにいました。 その当時はYahoo!オークションで野菜セットを売っていたのですが、お客さまから『ブログを始めました』という連絡が入り、『武井さんもやってみたら』とすすめてくれたことがきっかけです。 本当にまったくの手探りで、とにかく開設してみようという思いだけでした。」

お客さまのすすめで一念発起して、ブログを始めることにした武井さんは、最初はブログの入門書を買って読むところから着手したそうです。ひたすら「タケイファームの存在を広く知ってもらいたい」というシンプルな目的でブログを書き始めたという武井さんでしたが、「タイトル」だけは慎重に考えたそうです。

「当時、タケイファームの知名度なんて限りなくゼロに近かったわけですから、検索してブログに来てくれる人はいないもの、と想定せざるを得ませんでした。 そこで、たまたまネット検索した人が、タケイファームのブログを見つけてくれるチャンスをできるだけ広げるにはどうしたらいいのか、タイトルを工夫するとアクセスにつながるのではないか、と考えたのです。」

ネットで野菜について検索する人は、どんな人だろうか。どんなワードを使って調べるのだろうか。 武井さんの頭に浮かんだのは、「新鮮な野菜を家族に食べさせたい」「子どもが生まれたから安心して食べられる野菜が欲しい」「本当においしい野菜はどこで買えるのか」ということに関心を持つ人でした。 タケイファーム、ブログ

出典:タケイファームブログ

「そうした推理のもと、その人たちが検索しそうなワードを考えていくと、<新鮮><おいしい><健康>の言葉が見えてきたので、そのワードを意識してタイトルを作りました。」

そうした考察からブログのタイトルは「おいしく健康!新鮮野菜を極める!!」に決定したそうです。 ▼タケイファームブログ 「おいしく健康!新鮮野菜を極める!!

コストをかけない情報発信で農家の可能性を広げる!

ブログを続けていくうちに、読者は誰なのか、どんなリアクションがあるのか、といったことが見えてきました。情報ツールを活用するために、戦術を一層考えるようになりました。そして、タケイファームのブログは開始から8年間毎日欠かさず更新し、今までのアクセス数は約140万件(2019年8月)に上りました。 このタケイファームのブログのアクセス数が証明しているように、農家がネット上で情報発信することは、コストをかけずに多くの人の目に触れ、知名度を上げる可能性があります。 ▼農家がブログやSNSを運営する効果や始め方はこちらをご覧ください。

誰に何を?どのように情報発信するのか

タケイファーム、ホームページ

出典:タケイファームHP

ブログのタイトルは検索キーワードを盛り込み、効果的に名付けましたが、肝心の中身については方向性を決めかねていました。いったいどんなことを書けば多くの人に読んでもらえるのでしょうか。 農家だから「農作業の日記を書く」というのは、ごく自然な発想かもしれません。情報発信の滑り出しを書きやすいところから始めるのは一つの方法です。 武井さん自身も最初は農作業を中心に書き始めたと言います。 知り合いの農家仲間であれば、「なるほど武井さんはこんな風に栽培しているのか」「こういうやり方もあるのか」とそれなりに興味を持って見てくれます。しかし、農業をよく知らない、農業に興味のない人は、その内容だけでは読もうと思わないでしょう。もちろんアクセス数も伸びません。 タケイファームの場合も、ブログを開始したからといって急にお客さまが増えたというわけではありませんでした。

誰に向かって発信するのか?

「当時はまだYahoo!オークションで野菜セットを販売していたので、まずYahoo!オークションのお客さまを読者に想定してみようと考えました。農作業日記から始まったブログ内容を、徐々に家庭菜園での野菜の育て方、レシピ、珍しい野菜の品種紹介や解説へとシフトしていくことで、農業をよく知らない一般消費者へ向けた情報として、ブログ内容の客観性を高めていったのです。」

情報発信において大切なことは「誰に向けて書いているのか」を意識することです。絶えず情報の受け取り手を想像しながら書く内容を考え、必要に応じて変化させていくことが大切なポイントです。

キャラクター設定の重要性

SNSを見ていると、やたらと気さくな言葉遣いをしているかと思ったら、急に口調が敬語に変わる人がいます。 「友達言葉と丁寧な言葉とが混在するのは、できれば避けた方が良いと思います」と武井さん。 です・ます調でいくのか、くだけた口調にするのか。文体や言葉遣いは、情報発信する側のキャラクターを設定する上で、実はとても重要なことなのです。 ネット上では、相手を知らないからこそ、自身をどんな人間として語るのか「キャラクター」そのものが大切です。ブレのないキャラクター設定をすることが信頼感にもつながり、物事もスムーズに伝えやすくなります。 そして、誤解も回避することができる、と武井さんは言います。 キャラクターが一貫していないと、この人はいったいどんな人なのかと、情報を受け取る側は混乱してしまいます。 では、武井さんはどんなキャラクターとして自らを設定しているのでしょうか?

「僕の基本的な考え方は『野菜にギャグはいらない』ということです。軽率で偏った語り口では、野菜がおいしそうに見えないと思うので、自分としては客観的で誠実、ニュートラルな言葉遣いを心がけています。 また、どんな人にも広く受け入れてもらうことが大切だと思うので、ブログでの主語は『私』にしました。年齢的にも若かったので、意識的に言葉遣いで偉そうな口調に見えないように心がけました。」

イメージを保つビジュアル

タケイファーム、武井さん

写真提供:タケイファーム

言葉遣いだけではなく、自分自身のビジュアルにも一貫性を持たせようと意識しているそうです。

「イメージはできるだけ固定した方がいいと思います。なぜなら相手が写真を見た瞬間『あっ武井敏信だ』と認識しやすいためです。 だからメディアに出たり、畑で人に会うときは、黒いTシャツにカーゴパンツを着用しています。」

キャラクターの演出

タケイファーム、武井さん

撮影:Yumi Yamashita

「キャラクターが崩れるような情報は、極力出さないように心がけているので、取材の依頼でも『できないことはできない』とはっきり事前にNGを出すようにしています。」

つまり、どんなアイコンとして相手に受け取られるのかを常に考えて情報を発信をしているのです。 言ってみれば、SNSとは一人放送局のようなもの。脚本、主演、演出、すべてを自分自身でやる。だからこそ、どんな演出にするのか、客観的に自分を見つめて、外を意識しながら発信していくことが大事になってきます。

写真は必須!情報伝達効率が高いからこそ考えて選ぶ

アーティチョーク

写真提供:タケイファーム

何が映っているのか一目でわかる。 写真は効率的に情報を伝達するという意味で、SNS時代の最強ツールです。 「だからこそ慎重に写真を選択します」と武井さんは言います。 武井さん自身、カメラマンとして撮影する意気込みで、質の高い写真を厳選してアップすることを心がけているそうです。 今のスマホはカメラ機能も高く、工夫次第で十分にクオリティを追求できます。

撮影のノウハウ

タケイファーム、レストラン、料理

写真提供:タケイファーム

「一つの野菜もさまざまなアングルで20カットほど撮影し、一番いいものを選択するようにしています。 背景に余計なものが映り込んでいると、何を伝えたいのかわかりにくくなるので、映したいものが際立つように引き算します。 トリミングやぼかしなどの機能も使って、主題をしっかり伝えるようにします。 また、料理の写真を撮る際には、野菜の色合いがキレイに際立つように配慮します。僕は、撮影専用のお皿を合羽橋に出向いてそろえています。」

写真1枚でも撮影の手は抜かず、その写真でどんな情報を伝えるのか考えながら、より効果的に使うことが重要ということでしょう。

出さなくていい情報は出さない

もう一つ、写真について武井さんからのアドバイスは「イメージカットを上手に使うこと」です。

「新規就農者は野菜セットを販売する機会が多いと思いますが、出荷する野菜を正確に写真で伝える必要はありません。 予定通りに収穫できないこともあるし、お客さまが嫌いな野菜が映っていたらマイナスのイメージになってしまい、オーダーにつながらない可能性も出てきます。 『季節の野菜をお詰めします』といった抽象的な文面にとどめ、イメージカットを上手に使うことをおすすめします。 同じことは告知についても言えます。マルシェでの販売を告知するときには、並んでいる野菜は撮影しても、プライスカードは映さないように気をつけています。」

値段だけが1人歩きすると残念な結果になることも多々あるからだそうです。 イメージカットを使って雰囲気を伝えれば写真の役割は十分、というケースも多いのです。 出さなくていい情報は出さない。これも、情報発信の技術の一つです。

アクセス数を伸ばす工夫とは?

タケイファーム、情報発信

出典:Pixabay

ネット上で情報発信をする際の大きなハードル。それは「いかにアクセス数を伸ばすか」です。 大企業のようにコストをかけた大々的な宣伝など、個人経営の農家にはできません。多くの人が四苦八苦している難しい課題です。 しかし「お金をかけなくてもアクセス数を増やす方法はある」と武井さんは言います。 実際に武井さんのブログにはアクセス数が多いときで1日に平均800、最高で2,000に達し、大きな情報発信源となった実績があります。 いったいどうすればアクセス数を大きく伸ばすことができるのか秘訣を聞きました。

アクセス数を伸ばす秘訣

「ブログをやるからには毎日更新することを自らに課して、8年間休まず更新し続けました。やるなら徹底してやる、ということです。頻繁に更新するということは、ネットにおけるアクセス数を延ばす秘訣の一つと言えると思います。」

アクセス数を伸ばすために、武井さんが取り組んだもう一つの戦術があります。

マスメディアの力を利用

テレビの放送予定を事前に確認して、自身のブログの内容と連動させることです。

「例えば、キャベツの特番がゴールデンタイムにオンエアされるとわかったら、その前に自分のブログでキャベツについて書いておくのです。すると、テレビを見た視聴者がネットでキャベツを検索する際に、僕のブログへと来てもらうことが可能になります。」

マスメディアの力を上手に利用して、自らのページまで連れてくる工夫を凝らせば、コストをかけることなくアクセス数を伸ばすことができるのです。

情報発信のリスクマネジメント

リスクコントロール

出典:Pixabay

ブログやSNSは、情報発信をするうえでとても便利なツールです。しかし、悪い情報を発信する危険性も併せ持っていることを忘れてはいけません。 ネットに情報を上げること全てにおいて、リスクがあると自覚すべきでしょう。

丁寧な確認と最終ジャッジ

アップする前に必ず武井さんが実行していることがあります。非公開の形で記事を見て、必要に応じて文字校正、加筆などを丁寧に行うことです。客観的な目でチェックした後に、公開するという段取りを必ず踏まえているそうです。

「どんなに確認しても、思ったように伝わらなかったり、ネガティブな反応があったり、誤解が生じることもゼロとは言えません。でも、大切なのは、その情報を発信するメリットがあると思えるのなら発信する、ということ。目的は何なのかはっきりさせて、その目的にかなうのであればアップする。そうやって一つひとつ、判断を下しています。反対に書きたいけれどリスキーかな、と迷ったときはアップしない、というルールも自分で設定しています。」

宣伝は他人がしてくれるから営業はしなくていい

タケイファームの情報発信は「おすすめ野菜をご購入ください」といった直接的な宣伝ではない、ということも効果的な情報発信の重要なポイントです。 「えっ?売るための情報発信ではないんですか」とびっくりする人もいるでしょう。

宣伝は自分でするものではなく、他人がしてくれるもの

タケイファーム、武井さん

撮影:Yumi Yamashita

「自分で生産したものを『おいしい野菜ですよ』とおすすめするより、別の人がほめてくれた方が説得力があるでしょう?例えば、僕の卸先であるレストランには、不特定多数のお客さまがやってきます。そして、そのお客さまがタケイファームの野菜をおいしいと感じて、SNSで情報発信した場合、僕自身が野菜を宣伝するより説得力もあって効率もいいし、情報が届く範囲もぐっと広がります。」

宣伝は自分でするものではなく、他人がしてくれるもの。 だから、武井さんは自分からの情報発信は、宣伝を前面に出さずに、できるだけ控えめな表現になるように意識しているそうです。

間接的な宣伝は農家の信頼感を高める

雑誌やテレビ、ラジオによる取材も大切な間接的宣伝になります。報道機関という第三者が伝えてくれるので、信頼感もぐっと高まります。武井さんはできる限り取材を受け入れるだけでなく、過去の取材記録を一覧で見えるようにブログの脇のスペースに並べて掲示しています。

「一度取材されたらそれで終わり、という人も多いかもしれませんが、それではもったいないと思います。取材実績は最高の宣伝になるだけでなく、農家の立派な経歴になります。そこからまた別の取材のきっかけになることもあるので、できる限り積極的に受けましょう。」

▼ハフポスト日本版でも武井さんの取材記事が掲載中! 「実家が「農家」なのが嫌だった。そんな僕が34歳で農業をはじめ、コンプレックスを乗り越えるまで

農家にとって情報発信はきわめて重要!

畑に種をまくことと同じくらい、農家にとって情報発信の持つ意味は大きいと考える武井さん。たどり着いた情報発信の極意には、今すぐ取り入れたい要素がいくつもありました。 次回はタケイファームが農業を通して得ている、金銭だけではない報酬「対価」について紹介します。

「タケイファームから学ぶ時短と収益UPを目指すヒント」バックナンバーはこちらから。

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