このシリーズでは、筆者が野菜を育てる中で発見した、野菜たちがもつ人間的な性格をご紹介します。
孤独が苦手な社交家、逆境に負けないタフな精神の持ち主、決して自分の主張を曲げないこだわり屋と、まるで人間の世界を見ているよう。そんな野菜の個性は、育てるヒントにもつながっています。食べるときも野菜の個性を感じて楽しくなるかもしれませんよ。
第2回目はイタリア野菜のズッキーニさんに注目しました。
前回の主人公はマメ科さん。
ズッキーニなあの人
同じ小学校に通っていたある男の子、授業でも全力で手を挙げて「はい!はい!はい!」と注目を集める一方、いざ答えるとなると大きな声で「わかりません!!」と、満面の笑みを浮かべる明るい変わり者でした。お祭りや体育祭となるとひょうきんなダンスや変わった走り方で誰よりも目立っていましたが、はしゃぎまわった挙句、どこかでケガをして両親に叱られながら大泣きして帰っていくことも…。先生や周りの大人もずいぶん手を焼いていたようです。ズッキーニさんはおしゃれ野菜というイメージがあるようですが、実は畑ではその子のようなお調子者なのです。
ズッキーニの本当の姿
スーパーで整然と並んだ姿からは想像できない、ズッキーニさんの本当の姿をご紹介します。巨大な葉っぱのドーム
こちらの写真は5月ごろのズッキーニ畑の様子です。何本もの蓮の葉に似た大きな葉っぱのドームが連なっています。一株は大きな雨傘を広げたくらいの大きさ。しかし、この葉っぱを支える枝は、中が空洞になっているので折れやすいうえ、その枝を支える主軸も太くありません。このむやみに大きな葉っぱを風に大きく揺らされると、見事に枝ごと折れます。そしてこのように元気をなくし、最悪枯れ死んでしまうことも…。
常に上向き、驚異の成長速度
大きな葉っぱを支える主軸からニョキニョキと下から上に向かって生えてくるズッキーニさん。実は、スーパーで売られている方向とは逆さまに生えているのです。写真のズッキーニはなり始めのころ。2日後には3倍の大きさに、一週間後には下の写真のように人の足よりも大きくなります。キュウリやゴーヤもかなわない成長速度です。私の畑の記録では1本で4kgというお化けズッキーニを収穫したことがあるほどです。そして、折れる
ズッキーニさんは、その主軸に見合わないほど大きな葉っぱを持つだけでなく、何本も巨大な実をつけます。まるで首の座らない子どもが大きなうちわと鉄のこん棒を振り回しているようなものです。案の定、巨大な実に耐え切れず主軸ごと折れます…。元気なことはいいことですが、育てる者としては気が気でなりません。風が吹くたび葉が折れていないか様子を見に行き、大きな実を発見しては急いで収穫します。
お化けかぼちゃの末裔説も
ズッキーニさんはウリ科カボチャ族に分類されるカボチャの一種です。諸説ありますが、その祖先はメキシコで誕生した巨大カボチャだったそうです。その子孫がヨーロッパへ広まり、今のカタチになったそう。畑でハイテンションな生き方をするのも納得です。ズッキーニさんとうまく付き合う
お調子者のズッキーニさんを育てるポイントは、風のあおりや実の肥大を抑え、とにかくテンションを抑えてあげること。具体的には、苗の時期は防風対策として、防風キャップや防虫ネットで囲ってやり、実がなり始めたら小まめに収穫します。ズッキーニの支柱栽培もおすすめです。写真のようにズッキーニの太い枝を支柱にくくりつけて、風からのあおりを受けないようにしてやります。主軸が折れることなく80cmくらいの高さまで栽培ができます。
しっかり支柱にくくられたズッキーニさんの姿は、両親に両手を握られ帰っていくやんちゃ過ぎたあの男の子の悲しい背中にどこか似ている気がします。
パーティーの盛り上げ役
畑ではやんちゃ坊主のようなズッキーニさんですが、スーパーではおしゃれ野菜としてやや小ぶりなものがすまして並んでいます。実は、市販のものより少し大きめのサイズの方が味がのっていておすすめです。直売所には5~6月になると、少し武骨で大き目のズッキーニさんが並んでいるのでぜひ食べ比べてみてください。トマトやチーズを使ったイタリア料理、ひき肉詰め…ズッキーニさんのいる一皿は、どこかおしゃれでハイテンション。友達の集まるパーティーにはもってこいです。ズッキーニさんが空へ向かって上へ上へ伸びるように、集まった人の気持ちも自然と上へ上へとあがっていくのかもしれません。ただ、やんちゃ過ぎるズッキーニさんの二の舞にならないよう、はしゃぎ過ぎには気を付けたいですね。
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