このシリーズでは、筆者が野菜を育てる中で発見した、野菜たちがもつ人間的な性格をご紹介します。
孤独が苦手な社交家、逆境に負けないタフな精神の持ち主、決して自分の主張を曲げないこだわり屋と、まるで人間の世界を見ているよう。そんな野菜の個性は、育てるヒントにもつながっています。食べるときも野菜の個性を感じて楽しくなるかもしれませんよ。
第1回目はみんなが大好きなマメ科さんに注目しました。
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マメ科なあの人
先週、ある友人が都内の飲み会に誘ってくれました。私のような田舎者にも声をかけ、宴会の幹事はお手の物、終了後は欠席した人にもメッセージを送る徹底ぶり…。聞けば、その友人は他人とルームシェアをして暮らしているそう。常に人に囲まれ、一人でいる姿が想像もつかない…そんな人、あなたの周りにもいないでしょうか?ちょうどこの時期、畑にもそんな人にそっくりな野菜が育っています。社交的なマメ科さんです。
根に出る性格
夏のビールのお供、枝豆。就農当時は実の入りがいまいちで、苦悩した野菜の一つでした。不愉快なのは、実入りの少ない枝豆をよそに隣の雑草は不思議なほど青々として、ぐんぐん丈を伸ばしていたことです。その年の秋口、収穫を終えた枝豆の樹を引っこ抜いてみると、根の形が不作の原因を物語っていました。通常、野菜の根っこは一本の主根を軸にして側根が生えているのですが、枝豆には主根らしい主根がまったく見られないのです。その形はまるでSNSの拡散マップのようなネットワーク状。しかも根にはマメ科特有の丸いコブがびっしり。このコブは根粒と呼ばれ、根粒菌という菌が住みついています。根っこのシェアハウスといったところでしょうか。
枝豆不作の原因を説明する前に、このマメ科さんと根粒菌が根っこのシェアハウスで共同生活についてお話しましょう。
根っこのシェアハウス
私たちが日々生活していくにはお金が必要ですが、植物にとっては必須栄養素のチッ素が必要です。植物は根っこからその日必要なチッ素分を吸い集めますが、マメ科さんは根粒菌から生活費にあたるチッ素分をもらっています。根粒菌は植物が使えない形で存在する空気中のチッ素を使える形に変換できる特殊な能力を持っています。マメ科さんはネットワーク状の根っこを活かして根粒菌とコミニケーションをとり、根に住まわせることでチッ素をもらい生活しています。これではまるで根粒菌はヒモのようですが、実は見返りとしてマメ科さんから光合成産物をもらっています。光合成産物は根粒菌にとってごはんのようなもの。ヒモに手作りごはんといったところでしょうか。
こうしてマメ科さんに胃袋をつかまれた根粒菌はほかを探す気もなくなり、根っこの部屋に住みついた…。マメ科さんと根粒菌の共生関係は私たちの日常でも起こりそうなストーリーから始まったのでしょう。
いい人にも悪い人にも絡まれやすいお人好し
マメ科さんの根っこの形がネットワーク状なのは、便利な根粒菌とのつながりが直接、栄養源になるからということがおわかりいただけたかと思います。ここで不作の原因に話を戻しましょう。マメ科さんはお人好しでシェアや共生が大好き。一方、雑草にはほかの植物から栄養を横取りする力があります。失敗した年に見たネットワーク状に広がったマメ科さんの根は、雑草に養分を譲っているかのように雑草の根に無抵抗に絡まれ、実を太らせる養分まで奪われてしまっていたのです。
実を太らせるにはマルチや中耕をして、素行の悪い雑草に絡まれないようにお人好しのマメ科さんを守ってやらないといけなかったのですね。
他人にすがって生きる
マメ科さんのもう一つの特徴は根っこに主根がないせいか、地上部の茎にもそれらしい主軸がなく真っ直ぐ立つのが下手なこと。特にスナップエンドウはキュウリのようにツルを伸ばし、ネットに巻き付いて育つ自立しない野菜です。高さ2m近くになるスナップエンドウのツルがびっしり絡まったネットは、帆のように風を受けて支柱ごとなぎ倒されることも…。倒れて枯れゆくスナップエンドウをよく見ていたら、それでもつるを伸ばして隣に生える細いぺんぺん草に巻き付こうとしていたりします。散り際にあっても他人にすがる軸はぶれないのかと呆れ半分で感心してしまいました。
マメ科さんとうまく付き合う
このように野菜のなかでもちょっと変わり者のまめ科さんをうまく育てるためのコツは2つ。害のある交友関係を広げないようにしてやることと、自立できるよう支えてやること。例えば雑草に絡まれないようマルチを張り、中耕する。倒れないように支柱建てや土寄せをしっかりしてやる。より良い菌との出会いを増やしてやるために、緑肥やたい肥を入れて土をつくることも大切です(ソラマメはやせ地好きなので不要)。
マメ科さんの性格を理解すると上手な育て方もすぐ見当がつくようになります。
人をツナグ野菜
人が集まる宴会の席、ビールと共に鎮座するのはやっぱり枝豆。万人受けする甘さとうま味、一皿あればみんなでシェアできるので自然と会話も弾みます。土の中で菌と共生していた枝豆、居酒屋さんの皿の上でも人と人をつなげて、人の共生関係にも一役買っているようです。ちょっと話しづらかったあの人との飲み会には枝豆をお供にどうぞ。いつのまにか打ち解けられるかもしれませんよ。