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今回は、和歌山県有田郡有田町で、ミニトマトや果樹、花きなどを栽培している國中秀樹さんにお話を伺いました。
農園名/所在地 | いろどりふぁーむ/和歌山県有田郡有田町 |
栽培面積 | 約123a |
栽培品目 | ミニトマト、ナス、ニンニク、アスパラガス、デコポン・ハッサク、花き(ヒサカキ)など |
販路 | 農業総合研究所(産直の流通事業者)、よってって(産直の販売事業者) |
家族構成 | 妻、子ども2人 |
従業員数 | 4人、ほかにボランティア2人 |
就農時の年齢 | 43歳 |
就農前|スーパー銭湯店長の仕事が農業を目指すきっかけに
農家の客が多いスーパー銭湯の店長
國中さんは和歌山県有田市の出身。就農する前は、不動産業やスーパー銭湯の店長をしていました。國中さんが働いていたスーパー銭湯は和歌山県内の中堅クラス。大手のスーパー銭湯に対抗するには、お客さんとコミュニケーションをとりながら運営していくのがいいと考えていました。國中秀樹さん
お客さんには農家の人が多くいました。それなら、店舗で産直販売ができるのではないかと思って話してみたのですが、「なぜスーパー銭湯に出荷しなければいけないんだ」とか「手数料はどのくらいとるのか?売ってくれるのか?」などと怒られました。
農家に断られても、店舗での野菜販売に挑戦したいという気持ちが高まっていきました。ほかにも、スーパー銭湯の敷地内に畑を作り、貸農園や体験農園を作るというアイデアも出したもののうまくいかず、会社を辞める決断をしました。
銭湯運営会社を経営しながら、農業をスタート
退職後、國中さんは仲間と銭湯運営会社の経営を始めます。公衆浴場などの運営を受託しながら、そこで提供する食事に使う野菜の生産を始めました。同時に農業の知識を身につける必要性を感じ、アグリイノベーション大学校に入学しました。國中秀樹さん
アグリイノベーション大学校を選んだ理由は、和歌山県で新規就農した七色畑ファームの河西伸哉さんが講師を務めておられてお話を聞きたかったことと、週末だけの開講というのが、当時の私のライフスタイルに合っていたからです。
農業大学校に比べると授業料はかかりますが、「授業料は将来取り返す」という意識を持っていた國中さん。入学当初は「反収」という言葉も、作物がいつ作られるかも知りませんでした。最初は質問するのも恥ずかしいと思っていましたが、そのうち、聞かないと損だと思うようになり、積極的に先生から知識や技術を吸収していきました。
アグリイノベーション大学校について詳しくはこちら
農地と補助金の獲得方法
アグリイノベーション大学校を卒業した國中さんは、軌道に乗った銭湯運営会社の経営を仲間に任せて、農業に専念することにしました。それまで借りていた農地が自宅から遠かったこともあり、地元に戻って改めて土地探しからのスタートです。ある人物との出会いが大きな転機に
國中さんの住む有田市はみかんの産地のため、みかん以外に使える農地を探すのは難しいものがありました。隣町の有田川町では野菜生産者を応援してくれましたが、使われていない農地はたくさん見かけるのに、役場の窓口では農地の情報が得られませんでした。JAに行って紹介してもらったり、親戚の農業委員に紹介してもらったりして農地を借りることができました。大きな転機となったのは、かつてバラを栽培していた地主さんが持っていた農地を借りられたことでした。ハウスごと無償で借りることができたうえに、地主さんが「師匠」となり、ボランティアとして手伝ってくれることになったのです。
補助金については自分でよく調べた
國中さんは、青年就農給付金(現:農業次世代人材投資資金)、経営継続補助金、公益財団法人プラス農業育成財団新規就農助成金などを受給しています。卒業後、アグリイノベーション大学校のからの紹介で農業生産法人 株式会社GRA 代表取締役CEOの岩佐大輝氏と出会ったときに、「使える助成金は何でも使った方がいい」とアドバイスを受けてから、時間があれば助成金を探していたといいます。また、行政の窓口やJAに足を運んだときには、必ず使える助成金はないか聞くことにしています。國中秀樹さん
青年就農給付金を受給すると、半年に一度行政に報告に行くことになります。そのタイミングで助成金について聞いたりしていました。
就農2年目の國中さんの事例が紹介された本はこちら
自動灌水で農作業を効率化
アグリイノベーション大学校で栽培を学んだナス、地域でJA部会があるニンニク、養液栽培の施設を借りられたため直感で選んだミニトマトに栽培品目を定め、本格的な農業を始めた國中さん。最初に知っておけばよかったこととして、「灌水方法を便利にしておくこと」を挙げます。國中秀樹さん
農業は、売る作業、売る準備、土作りなどいろいろなことをしなければならないのですが、その中でも水やりに取られる時間というのは1日のうちのかなりの時間になります。今は自動灌水にしているので、確認するだけになり、水やりの時間はありません。
ナスの水やりには、朝・昼・晩、それぞれ約30分かかりました。國中さんの借りている畑は点在しているため、移動時間も含めると1日に3時間程度の時間が水やりのために必要だったのです。土地を貸してくれた「師匠」のアドバイスで、数万円をかけて自動灌水の設備を導入することで、水やりの時間をゼロにして作業時間を大幅に短縮することができました。
就農5年目で法人化を果たす
ミニトマトの生産が軌道に乗り、就農2年目から収益が安定。アグリイノベーション大学校で学んだ「売上が2,000万円を超えたら法人化」という目標達成に近づいてきたころ、法人化に踏み切るきっかけが訪れます。國中秀樹さん
農地と作業が増えていく中で、従業員を雇用することにしました。従業員を採用するための助成金があるのですが、受給には、社会保険などへの加入という条件がありました。保険への加入は従業員のためにもなるので、法人化しようと決意しました。
「農福連携」で従業員を雇用
アグリイノベーション大学校で「農福連携」についても学んでいた國中さんは、収穫量が増えたときに、袋詰めだけでも福祉作業所の人に頼めないかと地元の福祉担当者と話していました。その縁で、障害のある人に何回か手伝いに来てもらったところ、一人の女性がいろどりふぁーむで働きたいと申し出てくれたのだそうです。女性の仕事ぶりに将来性を感じて採用したことが、法人化につながることになりました。法人化のメリットは信用性の向上
法人化をして感じる一番のメリットは、信用性が増したことだと國中さんはいいます。國中秀樹さん
個人農家だと横一線に思われがちですが、法人化をしたことで売上が上がっているというイメージを持たれるようになりました。農業総合研究所が新しい出荷先を開拓したときに、いち早く声をかけてもらえています。
早く声をかけてもらえるとその売り場を独占できることもあり、出荷先の数とともに確実に売れる個数が増えていきました。法人化が経営の安定の一助になっています。
農業の法人化についてはこちらをチェック
農業法人を設立するにはハウスを2つ新設!規模拡大に向けて
攻めの経営
國中さんは、就農4年目で一棟、6年目でもう一棟ハウスを新設しました。最初のハウスは「師匠」から無償で借りられたため、その分投資が早くできたことはありますが、農業経営については、もともとの経営者としての感覚を農業に当てはめているといいます。國中秀樹さん
助成金を受給した場合、収益については常にチェックし、上限を超える分については次の投資につながる経費に回して、助成金を受けながら収益を上げ続ける方法を模索しています。これからは税理士さんにも相談していくことになると思います。
栽培方法についても、常に新しい知識を学ぶことを欠かさないようにしています。
國中秀樹さん
私も「師匠」も野菜栽培については詳しくありません。家に帰ってから、YouTubeなどでいろいろな情報を集めて、次の日の朝打ち合わせをしながらすり合わせをします。「師匠」からは貴重なアドバイスを毎日のように受けています。
農業の魅力|植物が見せる一つひとつ違う顔
さまざまな人と出会い、その縁を重ねながら順調に農業経営を進めてきた國中さんは、農業の魅力をどのように感じているのでしょうか?國中秀樹さん
作物を見るのは本当に楽しいです。植物はしゃべらないけれど、1個1個顔が違うんですよ。それを見ているとほっとします。水やりをするとまた違う顔を見せたり、毎年違ったり、とにかく面白いですね。
会社員時代には、人を信用することや人から信用されることの難しさを感じることがありましたが、植物には裏切られないと國中さん。茎の太さや葉の大きさ、皮の柔らかさなど一つひとつの違いに、どうしてこうなるのか?と考えながら植物に向き合っています。
また、自分でかじ取りができるのも、農業の魅力だといいます。
國中秀樹さん
以前は店長という微妙な立場でできないこともありましたが、今は何でも自分で決めることができますし、時間が自由になるのも大きいです。私は何をやっても結局はどっぷりはまるのですが、それでも農業に転身したことは、間違っていなかったと思っています。
恩返しをしながら、次の世代につないでいく
國中さんは、農業経営をしていく上で、「従業員を含めて、すべての人に感謝の気持ちでいること」を大切にしています。そのように感じるきっかけになったのは、「師匠」の存在が大きかったといいます。國中秀樹さん
「師匠」は土地とハウスと機械を無償で貸してくれて、ボランティアで作業をしてくれています。なぜそんなことをしてくれるんだろうと思うのですが、「師匠」は30年自分で走り続けてきて、恩返しをしなくてはと思っているみたいなのです。私はとてもありがたいのですが、「師匠」から受けた恩を次につなげるためにも、そろそろ次につなぐ10年にしていかなくてはならないと思っています。
「次の人」というのは、いろどりふぁーむに関わるすべての人。その中には、今の従業員も、これから出会う人も含まれています。最近では地域の高齢化が進み、農地を使ってほしいという話を持ち掛けられることもあります。想定以上に規模が拡大していますが、仲間を集めて1つの組織にするのは、効率や生産性が上がって良いことだと國中さんは考えています。経営者として常に10年先までの計画を立てており、今後は後継者をしっかり育てて引き継ぎ、かじ取りができる人をたくさん増やしたいそうです。農業機械や販路など、仲間で共有できるものはたくさんあります。