2022年度に抜本的に見直される新規就農の支援策のうち、特に大きく変更予定の「経営開始型」について変更のポイントや注意点などを説明します。農林水産省 就農・女性課の山本さんに、見直しに至った経緯についての話も聞きました。
新規就農者が知っておくべき新規就農支援の変更点
農業次世代人材投資資金(経営開始型)の変更点の詳細やポイントを説明します。現行の農業次世代人材投資資金(経営開始型)では、認定新規就農者が独立してから1〜3年は年間150万円、4〜5年は年間120万円の合計で690万円が交付されてきました。見直し後には、どのような点が変更になるのでしょうか。
主な変更点
・5年間で合計最大690万円から最大1,000万円までに増額
・使途が機械・施設への投資へ
・交付から無利子融資へ
就農5年間で最大690万円の交付から最大1,000万円の無利子での融資
2022年度より、これまで新規就農後最大で690万円だった給付額が増額され、最大で1,000万円まで日本政策金融公庫から無利子で融資が受けられるよう見直されます。1,000万円の無利子融資は、国や地方自治体などによって償還されるため、新規就農者の負担がない形が取られます。対象者は?
対象者は、見直し前後で変わらず青年等就農計画に沿って農業経営を行なっている認定新規就農者です。親元就農の場合も、一定条件を満たせば対象となります。認定新規就農者についてはこちら
使い道は?
見直し前は交付金の使途に指定はありませんでしたが、見直し後は施設や機械投資が対象になります。ただし、前年の世帯所得が原則600万円未満の人に限っては、1,000万円のうちの一部を毎月の定額助成として最大で1カ月あたり13万円を最長で3年間まで受け取ることも可能で、使い道は限定されません。
対象者の提出書類は?
対象者の提出書類は以下の通りで、変更はありません。・青年等就農計画に農業次世代人材投資資金申請追加資料を添付したもの
・半年ごとに交付申請
・就農状況報告(毎年7月末および1月末)
ただし、青年等就農計画は農業経営を開始して5年後までに農業(農業生産のほか、農産物加工、直接販売、農家レストラン、農家民宿等関連事業を含む)で生計が成り立つ計画で、計画の達成が実現可能であると見込まれる要件に適合する必要があります。
離農時期によっては交付金の返還義務も
農業次世代人材投資資金は交付停止になる場合や、受けとった資金を返還しなければいけない場合もあることを知っておきましょう。これは見直し前後で変更はありません。離農だけでなく、休止や年間で150日かつ1,200時間以上の農作業などをしていない場合や、交付した市町村などから改善指導を受けながらも取り組まない場合も同様に返還の対象になります。営農状況の確認は市町村が主体になっています。市町村ごとに確認方法は異なりますが、基本的には生産者からの申請に基づいて営農状況の判断をし、必要に応じて現地確認が実施されています。
資金が交付されたあとで休止や離農し、対象期間中の場合には、残りの対象期間の月数分の資金を月単位で返還しないといけません。たとえば経営開始型の交付金や融資を5年間営農を続け、交付金や受け取ったあとにすぐ離農(5年1カ月)で離農した場合、4年11カ月÷5年×受け取った金額の総額を返還しないといけません。交付や融資を受ける前に知っておくべき大切なポイントです。
【農水省担当者に聞く】経営開始型の補助金の見直しに至った経緯
2022年度より、認定新規就農者の経営開始資金として独立就農開始3年目までに施設や機械への投資に対して、日本政策金融公庫から1,000万円を上限に無利子で融資が受けられるようになります。これを国や地方自治体が償還する予定です。この見直しに至った経緯を、農林水産省の就農・女性課で新規就農の支援策の担当者である山本さんに話を聞きました。新規就農者の育成が十分とはいえない
2012年度から使途を限定しない給付(旧:青年就農給付金、現:農業次世代人材投資資金)を続けてきましたが、給付が終了する6年目の新規就農者の多くが、収入が十分に確保できていないことがわかったそうです。さらに離農してしまう人も多く、山本さんは現状では新規就農者を十分育成できているとはいえない状況だと言います。新規就農者の現状
・育成が不十分
・現交付金が終了する就農5年目の半数以上が生計が成り立っていない
・離農者も多い
同調査で、新規就農者の経営開始時の大きな課題は、「農地の確保」「資金の確保」「営農技術の習得」ということもわかりました。
新規就農者が定着している地域の成功事例にならう
新規就農者の定着率が高く収入も確保できている地域の事例も調査し、そのなかで以下のような共通点が見えてきたそうです。成功事例のカギは
・市町村や県などの地方自治体やJAが研修機関として新規就農者をサポートしている地域では、定着率もよく、ある程度の収入も確保できている
・給付ばかりではなく地域に溶け込みしっかりと初期投資ができるよう支援をすることが大事
今回の抜本的な見直しは、これらの成功事例にならって、給付ばかりではなく地域に溶け込みしっかりと初期投資ができるよう支援をするために実施されました。
給付から融資に変更した理由
これまでの交付ではなく無利子での融資に変更したのはなぜでしょうか。融資に変更した理由は
・交付金の増額のみを行うと、新規就農者が経営の実態に合わない不要な機械・設備投資をしてしまう
・メーカーが積極的に売り込んだ機械や設備を、新規就農者が経営の実態にそぐわなくても購入してしまう懸念も
新規就農者には、日本政策金融公庫が新規就農者に融資している無利子・無保証人融資の青年等就農資金も検討してもらいたいと言います。そのうえで、農業次世代人材投資資金(経営開始型)を利用する場合には、日本政策金融公庫のよって新規就農者の経営面積や品目をふまえて審査し、新規就農者には経営戦略に合った適切な投資をしてもらうことが狙いです。
青年等就農資金はこちら
2023年までに40代以下の農業従事者を40万人へ
2023年までに49歳以下の農業従事者数を40万人に拡充するという目標が「農林水産業・地域の活力創造プラン」で掲げられています。しかし2020年の農業センサスでは、49歳以下の農業従事者数は22.7万人で、新規就農者は53,740人で前年に比べ3.8%減少しました。そのうち49歳以下は18,380人で0.9%減少しました。この目標達成はとても大きな挑戦だと山本さんは言いますが、同時に「新規就農者への支援の見直しと共に、資金面だけでなく経営や技術を地域でサポートしてもらうための支援も考えており、辞めない新規就農者たちを増やしていきたい」と話します。
資金の交付終了後も経営できるための機械投資や工夫を
農業次世代人材投資資金をはじめとした新規就農者への支援策は、機械や施設などの初期投資が必要な農業という産業において、あくまでも経営が軌道にのるまでの間に一時的に、一部の資金を支援するためのものです。農業次世代人材投資資金の見直し後も、現行制度と同様に新規就農後に最大で5年間の資金の融資を受けられます。しかし、新規就農者向けの支援が終わっても経営が成り立つように栽培技術を磨き、経営課題を解決し続けながら適切な時期に適切なスペックの機械や設備に投資をすることも検討しましょう。
大きな投資をしなくても、工夫ができるところは自分で工夫をすることも大切です。融資や助成金などの資金の使い方や投資への考え方については、地方自治体やJAなどの地域の機関や、先輩生産者の意見や考え方を聞いてみることでヒントが見つかるかもしれません。
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参考:農林水産省「農業人材力強化総合支援事業のうち農業次世代人材投資事業」
農林水産省「農業次世代人材投資事業」
農林水産省「農業人材力強化総合支援事業実施要綱」
農林水産省「農業を担う人材の育成・確保に向けて」
一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センター「新規就農者の就農実態に関する調査結果」