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今回は、アグリイノベーション大学校の横浜農場を訪れ、実際に授業の様子を見学させてもらうとともに、株式会社マイファームの平田尚晃さんにお話を伺いました。
アグリイノベーション大学校 概要
所在地:関東校/横浜農場(横浜市泉区下飯田町1787-2)、千葉農場(千葉県白井市復329-1)、埼玉農場(埼玉県さいたま市西区飯田新田547)
関西校/京都農場(京都府城陽市寺田南堤下20)、大阪農場(大阪府富田林市須賀2丁目2-21)
設立年:2011年
コース:アグリビジネスコース、アグリスタンダードコース、アグリチャレンジコース、オンライン技術・経営コース、オンライン技術コース、オンライン経営コース
学生数:現役受講生165名、卒業生:1,630名(2021年11月現在)
WEBページ:https://agri-innovation.jp/
株式会社マイファームが運営する農業スクールは「つくる人」を育てる
アグリイノベーション大学校を運営している株式会社マイファームは、「農業の担い手」を育てて増やすことが最も重要なテーマだと考えています。教えてくれたのは
株式会社マイファームの平田尚晃さん。各農場を巡って受講生のサポートをしています。平田尚晃さんプロフィール
大阪府生まれ。
富田林高校卒業。山口大学農学部にて栽培学研究室配属。
青年海外協力隊の食用作物・稲作栽培隊員としてナミビア共和国に派遣。
帰国後、マイファームに入社し現在に至る。
どのような理念で開校された学校ですか?
平田尚晃さん
今、農業は注目されていますが、「つくる人」がいなくては、成り立ちません。農業を学びたいと思っても、農業大学校などは全日制の学校が多いですし、農家の研修に行く場合でも、社会人は今の仕事を辞めなくてはならなくなります。自分が農業にあっているのかわからなかったり、就農するかどうかが定まっていないときに、仕事を辞めるというリスクを背負うのはハードルが高いのではないかという観点から、社会人向けの週末農業学校としてアグリイノベーション大学校は開校しました。
農業の知識や経験を得る機会は未だ限られている中、農業に関心をもった社会人が、誰でも自由に、自分のタイミングで学べる機会が「アグリイノベーション大学校」にはあります。
アグリイノベーション大学校のコース・カリキュラム・学費など
通学3コースとオンライン通信1コース
アグリイノベーション大学校のコースは、大きく「農学部基礎課程コース」と「オンライン通信コース」に分かれています。「アグリビジネスコース」は、技術と経営を総合的に学び、さらに高みを目指す少人数制のコース。「アグリスタンダードコース」は技術と経営を総合的に学ぶアグリイノベーション大学校のメインプログラムのコース。「アグリチャレンジコース」は農業技術と実習のみの少しライトなコース。「オンラインコース」は技術と経営の座学プログラムをオンラインで学びます。コース | 主な内容 | 入学時期など | 費用/受講期間 |
アグリビジネスコース | 農業技術・経営の座学/農場実習/オンラインサロン/ゼミナール | 春季3月、秋季10月開講 | 受講料 888,800円/春開講は1年・秋開講は17カ月 入学金 33,000円 テキスト購入費 3,630円 |
アグリスタンダードコース | 農業技術・経営の座学/農場実習/オンラインサロン | 春季3月、秋季10月開講 | 受講料 723,800円/春開講は1年・秋開講は17カ月 入学金 33,000円 テキスト購入費 3,630円 |
アグリチャレンジコース | 農業技術の座学/農場実習 | 春季3月、秋季10月開講 | 受講料 451,000円/1年 入学金 33,000円 テキスト購入費 3,630円 |
オンライン技術・経営コース | 農業技術と農業経営の座学講義 | 随時募集 | 受講料 376,200円 入学金 33,000円 テキスト購入費 3,630円 |
平田尚晃さん
それぞれのコースにニーズがあります。例えば、主に農業技術を学ぶアグリチャレンジコースには、自身のそれまでのキャリアで農業経営についての知識のある人や、家庭菜園をする予定なので、農業技術は学びたいけれど農業経営は必要ないという人がいらっしゃいます。
オンラインサロンやゼミナールの魅力
「アグリビジネスコース」と「アグリスタンダードコース」には、オンラインサロンがあります。事務局が選んだ卒業生と現役生が交流し、実際に就農したときの方法や困ったことなどの生の声を聞きながら、直接アドバイスをもらえるというものです。また、「アグリビジネスコース」には、全7回のゼミナールがあります。
平田尚晃さん
ゼミナールは、少人数制で行うアウトプットを中心とした学びの場です。事業計画をつくり、講師から具体的に足りない点を指摘されながら、自身で計画を磨いていきます。少人数制なので、ゼミを受講している仲間同士の絆はより一層強くなり、それぞれ卒業した後も交流があります。ゼミナール出身者は卒業後にうまくビジネスを軌道に乗せている方が多いです。
多彩な講師陣
農業実習には、各農場担当の講師がいます。受講生のどんな質問にもプロの視点から答えてくれる頼もしい存在です。また、専門性の高い講師陣がそろっているのもアグリイノベーション大学校の魅力の一つ。農業界の第一線で活躍する農家や経営者、専門家のほか、東京農業大学とも連携し、毎年カリキュラムを見直しています。平田尚晃さん
技術座学や、農業経営のマーケティング、ブランディング、流通などは外部の講師をお招きしています。毎年のカリキュラム会議で、日々変わっていく内容も取り入れていきます。
横浜農場の技術実習を見学!現場レポート
AGRI PICK編集部は、2021年11月の日曜日に行われた横浜農場の技術実習を見学させてもらいました。横浜農場は相鉄線「ゆめが丘」駅から徒歩14分の場所にあります。農場のそばには駐車スペースもあり、車で来ている受講生もいます。広々として空が近くに感じられ、気持ちがいいところです。年間約40品目の野菜を栽培
アグリイノベーション大学校の農場では、年間約40品目の野菜を栽培します。それぞれの農場で、畑の特徴にあう野菜や、地域性のある野菜などを育てています。平田尚晃さん
例えば、横浜農場の田んぼだったところを畑にしているエリアには、水分を好む里芋や生姜を植えています。京都農場では京野菜を育てていたり、千葉農場では講師が西洋野菜の栽培を手掛けているので、フェンネル、トレビスなどの珍しい野菜を育てています。
先生がていねいにポイントを解説
最初に訪れた畑には、ケール、カーボロネロ、芽キャベツ、春菊、なばな、スティックブロッコリー、のらぼう菜などたくさんの野菜が植えてありました。教えていたのは、自身も新規就農をした千葉康伸先生。携帯用のマイクをつけて、ひとつひとつの作物の栽培のポイントを解説していきます。収穫の仕方や葉かきの方法、植物の生理、生育状態から見た畝づくりの問題点など、内容も盛りだくさん。説明も例えば芽キャベツの葉かきの方法では、「ここを上から押します」「1週間に1周ぐらい外葉を落とします」など、とても具体的。一言も聞き逃せないため、聞いている受講生のまなざしも真剣そのものでした。プロの仕事を間近で体験
移動して、タマネギを栽培している畑へ。赤・白・黄3種類のタマネギを直播したものがありました。生育の様子が弱いと感じた先生は、「タマネギは鶏糞などに入っているリン酸を欲しがります。窒素とリン酸が入っている肥料をすぐに与えましょう。今日の午後、計算から一緒にやりましょう」と呼びかけました。授業は午前中で終わりますが、希望者は残って作業に参加することができます。実際の生育状態と土壌の状況から、必要な肥料を計算して与えるという、まさにプロの仕事を間近で体験できるのです。知識と技術を同時に身につけられる
次に行われたのが生姜の貯蔵についての説明。畑の一部に大きな穴が掘られていました。この穴に、来年植え付けるための生姜を貯蔵しておくというものです。生姜を貯蔵するために必要な温度や湿度の環境、出荷するときと貯蔵するときの切り方の違いやその理由など、先生の自然な語り口の中にも、必要な知識と技術が盛り込まれています。先生が切った生姜を、受講生が手に取って回し見て確認します。高知県で行われている栽培方法について説明もありました。講義は熱く、雰囲気は和やか
伝えられることは全て伝えようという想いが感じられる、とてもエネルギッシュな千葉先生の講義。受講生は年齢も性別もさまざまですが、先生とのやりとりの中でときどき笑いがおきるなど、雰囲気は終始和やかでした。最後はハクサイとキャベツの収穫。収穫の仕方についても、とても具体的な説明があり、受講生は持ち帰るものをそれぞれ収穫していました。受講生をサポートするシステム「manaba」「アグリノート」
週末開講のアグリイノベーション大学校では、ITツールを活用して受講生の学びをサポートしています。講義の情報を一元管理
使用しているのは「manaba」という教務ツール。受講生はインターネット上で、講義やイベントの情報などを見ることができ、学校からの情報を確実に得ることができます。受講生が農場に行かない平日の様子がわかる
もう一つ導入されているのが、農場の様子や作業内容がわかるという「アグリノート」というアプリ。週末開講のため、平日は畑の作業をマイファームのスタッフが行っていますが、上空からの畑の様子を映像で見られるほか、カレンダー上でその日の作業内容を知ることができます。平田尚晃さん
畝のひとつひとつで何を栽培しているのかがわかります。また除草や耕運など、誰が何時間作業したのかが記録されています。
平日に行われている作業は、受講生がすでに実習で行った作業が中心です。いつ、どのような作業がされたかが一目瞭然なのは、とても役に立ちます。週末のみの開講ですが、このようなシステムが日常的に学校と受講生の接点をつくっています。
自主学習も大切
講義は週末だけなので、講師は少ない講義時間の中にエッセンスを凝縮させます。そのため、講義内容を深く理解するためには、自分自身で学ぶことも大切だと平田さんは言います。平田尚晃さん
講義では、学習内容を1コマ2時間に凝縮させてしまうので、復習をしていただく必要があります。また、技術の座学では事前課題というのを求めています。講義内容について、受講生に一旦自分で考えてもらうことを目的としています。凝縮された講義でも、一旦自分で考えたものだとしっかりと身につけることができます。また、講師は受講生の事前課題の様子から、講義の内容や難易度を考えます。
加えて、受講生には講義内容に合わせた石原北斗学長のおすすめ図書が紹介されています。関連する本を読むことにより、自分で学びを深めることができるのです。
多彩な進路と卒業後のネットワーク
卒業後の進路はどのようなものが多いですか?卒業後、学校とのつながりは続きますか?
平田尚晃さん
家庭菜園をより深く楽しむ人から、就農する人、アグリビジネスを起業される人など、多種多様な進路をそれぞれが選択されています。卒業後はオープンDAYという制度で、いつでも農場に来ることができます。また、農地探しや農業法人の求人紹介など、いくつかのサポート制度がありますので、農に関わることであれば、卒業後もずっとサポートさせてもらっています。
卒業生の中には、社内起業をして障がい者雇用をしながらハウスの中で花と野菜を育てる事業している人や、受講生同士で起業し、自動潅水システムを作り出した人もいます。中には、アグリイノベーション大学校の講義に登壇する人も。Facebookには卒業生同士をつなぐグループがあり、さまざまな会話が生まれています。
平田尚晃さん
アグリイノベーション大学校にとっては、それぞれの卒業生の活躍が理想の形ですね。
必要なのは農への興味と学ぶ意欲。説明会で入学を検討しよう!
入学するには
入学に何か条件はありますか?定員以上の応募があった場合の対応は?
平田尚晃さん
条件はありません。農に興味があり、学ぶ意欲のある人であれば応募可能です。定員以上の応募があった場合、選択農場の移動をお願いする場合がありますが、柔軟に対応しています。
アグリイノベーション大学校のカリキュラムでは野菜の栽培を基本としています。植物生理や土壌学、病気については原理原則を教えていますが、果樹や稲作、畜産などでの就農を希望される人には、農業大学校など別の道を紹介することもあります。
人々の農業への関心の高まりを受けて、最近は問い合わせが増えています。実習場所は選べますが、定員以上になった場合には別の農場での参加となる場合があります。
入学者は就農経験がない人が約半分
アグリイノベーション大学校が受講生に行ったアンケートによると、入学前の農業経験について、約半数が全くないと回答しています。株式会社マイファーム代表の西辻一真氏がさまざまなところで行っている講演や「体験農園マイファーム」、農産物の通信販売「やっちゃば倶楽部」などの別事業から理念に共感したり、アグリイノベーション大学校を知ったりして、入学を希望するケースもあると言います。年代も10代から60代までさまざまで、親子で受講している人もいます。アグリイノベーション大学校及び農業を目指す人に一言お願いします。
平田尚晃さん
アグリイノベーション大学校の中で学びながら、ご自身の「農」への関わり方を仲間と共に見つける、そのような一年にしていただけると幸いです。
アグリイノベーション大学校では、各農場で説明会を実施しています。
アグリイノベーション大学校「説明会・イベント・セミナー」
株式会社マイファームが運営する「丹波市立農の学校」についてはこちら
「農」というキーワードで集う仲間
アグリイノベーション大学校の授業を見学して一番驚いたことは、講義で与えられる情報量の多さでした。たくさんの栽培品目の特徴や栽培方法、病害虫の防除、収穫方法、貯蔵の仕方、実際にプロの農家がしていることなど。その中には、防虫ネットを外すタイミングや土地の傾斜や日当たりなどの条件から考えるべきことなど、実際に畑でなければわからないような繊細な事柄も多くありました。受講生の年齢層も幅広く、10代から70代の人たちがいます。先生の話を聞きながら、感想を言ったり、一緒に笑ったりする様子は一体感があり、真剣ながら、とても楽しそうな様子でした。
今回お話を伺った株式会社マイファームの平田さんは、アグリイノベーション大学校にいる人達のことを、「『農』という一つのキーワードに集まった仲間」と表現します。想いはそれぞれでも、農業界の中で助け合い、刺激し合えて、生涯のお付き合いになる関係。新しい世界に飛び込むときに、そのような仲間の存在ほど心強いことはありません。農業の知識や技術とともに、仲間を求めている人は、アグリイノベーション大学校に足を運んでみてはいかがですか?
農業を学べる学校については、こちらの記事もご覧ください。