今回は、いただいたコメントの紹介です。「土だけを解決すればいいわけじゃない?生物多様性と農業(No.19)」で「本当の自然とは、まったく人の手が介入していないことが前提です。でも、人が手を入れることで守られる自然があることもまたこれなりということで、突き詰めれば『農業を営む時点で、程度の差はあれど不自然である』ということで合点が行きました。」と書きましたが、それに対して、いただいたコメントが的確かつ示唆に富んでいたので、今回はそのコメントを私の言葉に翻訳しながら紹介したいと思います。
人の手が加わることと、自然を対置しない
専門家の方からいただいた解説です。私は大きな勘違いをしていたかもしれません。生物多様性を考えるときに、農業などの「人の手を加えること」と、「自然」とを対照的な位置に置くとややこしくなります。これは、まったく人の手が加えられていない自然より、人為的なある意味かき回された状態の里地や里山の方が生物多様性が高い場合があります。例えば、ため池は人が管理して池干しすることがありますが、そのときに捕食者である大きな魚がいったんいなくなるので、小さい種も生き延びられます。人の手が入らなくなると、生物間の競争関係が強く影響し、捕食者が優位になりがちです。農業だと稲作は、水が供給され、稲が使い切れない分もあるので、生物多様性に貢献しやすいです。
たしかに、自然な状態で、縛りも介入もまったくなく多くの人が走り回っている場合、強い人が優位に立って、弱い人は隅で小さくなっているか、その場から逃げ出しそうです。介入があるから、多様性が損なわれている気がしていましたが、自然に対する何らかの働きかけがあるからこそ、維持される多様性もあるような気もしてきました。何の話なのかわからなくなってきたので戻ります。
一方で、生物多様性の高低と、栽培環境としての機能の善し悪しはまた別です。環境保全や栽培環境など一つではなく、いろいろな評価の軸でみた時に、及第点がとれるような妥協点が最適なこたえかもしれません。
むちゃくちゃ勉強になるコメントでした!
糸状菌とバクテリアと甘酒の話
菌の専門家の方からいただいたコメントも興味深いので紹介します。植物病原性微生物は、土壌中1gには、1,000個以上、その種類は6,000とも50,000とも(結構幅が広い!)。植物病原性微生物は、バクテリアと糸状菌が大半です。糸状菌は解明している10万くらいの種類のうち3割が植物に寄生しているといわれており、病原性微生物の中では圧倒的に多いようです。バクテリアは数百種類程度のようですが、まだまだわからないことだらけだとか。このあたりの特徴がわかってくると、今までの常識が覆るかも!?
先日このコメントをくださった方とウェブお茶会をしたのですが、菌の話がおもしろくて、ずっと聞いていたかった!Kさんが開発に携わった糀屋三左衛門さんのあま酒がとーってもおいしいので、菌の働きに思いをはせながらぜひ皆さんもお試しください。河合果樹園さんとのコラボの初恋レモンの甘酒は、ヨーグルトソースにしてもおいしいそうです。
農地は遷移をリセット
生産者の方からもおもしろいコメントをいただきました!「農地」は生態学では「耕地生態系」と呼ばれています。自然の草地生態系や森林生態系の場合は、コケや湿性植物から始まり、ススキ、松などの陽樹(生育に最低限必要な光合成量が比較的多い)、陰樹(光に対する要求性が比較的低い)と遷移し、「極相」というこれ以上変化しない状態になります。
一方で、農業は、有機栽培・慣行栽培に関係なく、絶えずこの遷移を止めます(諸説あり!)。野菜栽培の場合は、年に何回も遷移をリセットします。
栽培の視点だと、土壌微生物が多様な方がバッファー機能が高く、栽培には好都合な場合も。例えば、ダイコンのネグサレセンチュウ管理をする場合に、土壌中のすべてのセンチュウ密度を下げる殺センチュウ剤を毎年処理して防除するより、マリーゴールドを作付けてネグサレセンチュウの密度を下げた方が、ほかの肉食草食それぞれのセンチュウを温存するので、ネグサレセンチュウの密度を何年にもわたって低く維持できる場合があります。農業者は土壌の生態系維持に役立っているように見えるかもしれませんが、あくまでも農業生産のためで、殊勝なことをしているわけではありません。
「バッファー機能が高い」という言葉がとても気に入って、バッファーのある人生を送りたいなと強く思いました。
ほかにも興味深いコメントをたくさんいただきました。自身のコラムより、そこに寄せられるコメントやメッセージから学ぶことが多く、勝手に楽しんでいます。皆さんにもたまに共有しますね。バッファーのある人生を!
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毎週水曜日更新おしゃれじゃないサステナブル日記
紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate